敵手 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-35 競馬シリーズ)

  • 早川書房
3.54
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (479ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150707354

作品紹介・あらすじ

馬の脚が切断されるという残忍な事件が続発した。元ジョッキイの調査員シッドは、飼い馬を傷つけられた白血病の少女に犯人探しを依頼される。やがて容疑者として浮かんだのは、ジョッキイ時代の好敵手で今は国民的タレントの親友エリスだった。シッドはやむなく彼を告発するが、逆にエリスを擁護するマスコミから執拗な攻撃を!不屈のヒーロー、シッド・ハレー三たび登場。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 大穴、利腕と読んできたが、この作品も素晴らしく良かった。今回は早々にシッド・ハレーの敵が分かっている。かつて共に騎手として戦った親友が、おぞましい犯罪を犯している。だが決定的な証拠はなく、親友が国民的アイドルだったせいでシッドは窮地に陥る。相変わらず崖っぷちまで追い込まれ散々な目にあい、内面ではきちんと苦悩する。どんなに他人からタフに見えようと、自らの弱さや悩みを自分で認めた上で、苦しみながらも乗り越えようとする主人公の姿に胸を打たれる。しかも今回は悪役がただの悪党ではなく、残虐な犯罪者でありながらひとかけらの良心が残っているという設定で、より物語に深みを持たせる。とても良い作品だ。

  • 「大穴」「利腕」に続き、シッド・ハレーが何と3度目の登場。今作ではデジタル携帯電話やコンピュータ通信なども扱い、時代の流れを感じさせる。
    もっとも、作品内では「利腕」の1年後ということになっており、老いさらばえた主人公に幻滅する恐れはない。

    ハードボイルド・ミステリに区分されるディック・フランシス作品だが、主人公が戦うのは、犯罪組織や汚職警官やプロの殺し屋ばかりではない。
    シッド・ハレーは己のコンプレックスと戦い、恐怖心と戦い、辛うじて打ち勝ってきた。そして今回びの敵は、「わかってくれない世間」と「親友の理解できぬ凶行」である。
    対して彼が用いる最大の武器は、機知に富んだ策略や力強い味方の支援などではない。自分自身の不屈の意志で、難局に立ち向かうのだ。

    逆に言えば、鮮やかなどんでん返しやトリック解明などを今作に求めても、その願いは叶えられない。探偵小説ではあっても、推理小説ではないのだ。
    それでも読む価値のあるシリーズであることは間違いない。何度も言うが、競馬の知識は必要ない。未読の方は、是非「興奮」「大穴」辺りから読んでみていただきたい。

  • 堂々シッド・ハレーもの。
    初期の作品に比べると、この頃はかなり書き込みが多くなっていますね。

  • 競馬シリーズの中の、シッド・ハレーを主人公とする連作の3作目。

    冒険小説としてのフランシス作品の大きな特色であり魅力である部分は、ヒーローの心の弱点に注目し、心の弱さを乗り越えるドラマが大きな比重を占めるところにある。そういったフランシス作品の特色を最も大きく具体化しているのが、このハレーを主人公とする作品群である。

    前作の流れを汲んで、ハレーの内心の葛藤がこれでもかと言うほど描かれる。そういうと読むのがつらくなりそうなんだけど、登場人物がみな魅力的で生き生きとしており、そういった人物の交流の中に、何か心が温まるようなものがたくさん含まれていて、読んでいてなんだかしあわせな気持ちになってくるのが不思議だ。犯人でさえ同様であるところがすばらしい。

    これも前作と同じなのだが、教養小説としての一面もあり、馬の話はもちろんなのだが、布地の織り方の話など、うまく物語の中に組み込まれていて興味深い。また、今となっては随分時代遅れの話だけど、当時は先端だった携帯電話やネットなども組み込まれているのも面白く、登場人物に流れる時間と、執筆時期とのギャップがちょっと楽しい。

    ミステリとしてのストーリー展開はどちらかと言えば単純なんだけど、小さな手がかりを元に犯人を追い詰めていく不屈な行動力には説得力があり、前述した心の中の敵と、犯人という敵との組み合わせがあるだけに、感情移入しながら、一気に最後まで読んでしまう。

    フランシスらしい傑作。ただし、シッド・ハレーものの前2作を先に読んだ方が10倍楽しめる。

  • もちろん読むでしょ!シッド・ハレー!

  • シッド・ハレー(ジョン・シドニイ・ハレー)
    元騎手
    調査員

  • 作品毎に設定は変えつつも、ディック・フランシスの描くヒーロー像は共通している。己の信条に忠実で、誇り高く、不屈である。それは「偉大なるマンネリズム」ともいえる程で、何らかの形で競馬に関わるプロットに趣向を凝らしてはいるのだが、逆境に立たされた只中で主人公がとる思考と行動は、ほぼパターン化されているといっていい。それこそが、安定した人気を保持し続けた大きな要因であり、読者が求めたものなのだろう。

    本作は、主人公をサディスティックなまでに追い詰め、逆境を如何にして乗り越えていくのかに主眼を置いた「競馬シリーズ」の中でも、最も過酷な状況へと追い込まれていく男、元騎手で調査員のシッド・ハレー登場の第三作。狡猾で惨忍な敵に立ち向かうという点では、他の作品とたいした差はないが、ハレーの隻腕というハンディキャップがエピソードに生かされ、物語にスリルと深みを与えている。常にもう一つの腕を失うかもしれないという恐怖心に打ち勝つまでの闘い。つまりは、己自身の弱さの克服こそがハレーシリーズのメインテーマともいえる。

    馬の脚が切断されるという連続事件、白血病の少女とのふれあいなど、裏返せばハレー自身の障害に繋がっており、その共鳴が理不尽な悪への怒りとなって増幅されていく。障害は「弱さ」であると自覚する「強さ」こそが原動力となり、血となり肉になっていく。

  • ディック・フランシス競馬シリーズ34作目(全44作)の主人公は、唯一3度目登場のシッド・ハレー。
    馬の脚が切断される残忍な事件が相次ぎ、容疑者として浮かび上がったのは、なんと騎手時代の好敵手で親友でもあるエリス・クイントだった…。

    冒頭というかカバー背表紙で既に読者には犯人が判明しているのだが、それでも事件発生から真相に迫るまでの過程が面白く、全然飽きない。
    今作でもやはりハレーはどん底に突き落とされるのだが、これまでの作品とはまた異なる地獄である。

    犯人に気付いたハレーは苦悩と葛藤の末エリスを告発するのだが、エリスは今や国民的タレントであるので、逆に世間から執拗になじられるのだった。親しかった知人までもがエリスの擁護に回り、気付けば味方は義父チャールズのみ。
    最低週一回は新聞で誹謗中傷されるのだが、この連日のハレーいじめが本当にひどい。
    貧しかった両親のこと、スラム生まれであること、義手である左手のこと、ジェニイとの離婚、その他諸々悪意のままにあることないこと書き立てられ、挙句には、かつて自分がいた国民的スターの地位を得たエリスに嫉妬し破滅させようとしている小男だと罵られるのである。
    ある意味、肉体的な攻撃より耐え難いかもしれない。

    シッド・ハレーシリーズを読んでいて印象的なのは、「恐れ知らずで強情不屈のタングステン」だと思われている寡黙な男の弱さを作中人物たちは知らないが、読者だけは著者フランシスの筆を通してはっきりと知っている点である。
    それゆえ、読者はハレーと秘密を共有しているような錯覚を覚え、ますます彼に惹かれてゆくのだろうと思う。

    そうして、かつてレースでの真剣勝負を通して骨の髄まで理解し合った二人の哀しい対決の行方は、意外な結末へ向かう。
    ネタバレになるので内容は控えるが、終盤二人が相対する場面では心が震えた。

    一つ面白かったのが、ハレー自身は登場作「大穴」から数年しか経ていない設定だが、1965年発表の「大穴」ではタイプライターや電話交換手が出てくるのに対して1995年発表の本作では携帯電話・インターネットやDNA鑑定を用いて捜査を進めている点である。時代はドアの錠破りからハッキングへ。
    当時75歳だったフランシスの最新技術探究心と若々しい筆致には、ただ驚嘆するばかりだ。

    また、作中で世界有数の競馬場やレースと並んで"府中" "ジャパンカップ"の名が出てきて嬉しくなった。
    日本の競馬がまだまだ弱かった「大穴」の頃では考えられなかったことだろう。

    個人的には、陽気な相棒チコが出てこなかったのが寂しいが、元妻ジェニイとの確執がやっとなくなり、ほろ苦さは残るもののお互い素直になれて良かった。この辺りの微妙な感情を、フランシスは直接的にではなく間接的に描写するのが本当に巧いと思う。

    ということで、本作も素晴らしい読書体験であった。

  • おもしろい内容だとは思うけど・・・とにかく訳が・・・・・・。

  • 忘れてしまったけれど、なんだか面白かったような気がします。
    ハードボイルドな感じなんだぜ。

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