失投 (ハヤカワ・ミステリ文庫 110-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (277ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150756512

感想・レビュー・書評

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  • ミステリの名作「スペンサー・シリーズ」の第3作目にあたります。
    私は1冊目と勘違いして読んでしまいました。
    シリーズの初読は「初秋」という名品でしたが、
    それ以降はこのシリーズに手を伸ばさず、何年ぶりかで
    このシリーズを読み通してみたくなり、手に取りました。

    スペンサーは、強面の私立探偵。
    男性なら皆さん憧れるような、大人で、強い男です。

    球界屈指の名ピッチャーが八百長に関わっているらしいので
    無実を証明して欲しいと依頼を受けます。

    調査を始めてみると、ピッチャーの彼は
    後暗いところのない善良な男で、高潔な選手であることや
    妻と子供を愛する、良き家庭人でもあることが解ってきます。

    ところが彼の妻には、悲しい過去があるよう。
    調査の依頼とどう関わりがあるのか…。

    スペンサーは彼女を疑うことはせず,できるだけ傷つく人が
    出ないように、事件の解決にあたろうとします。

    そこがこのシリーズが出現する前の
    ハードボイルドシリーズとは違うところなのだと思います。

    普通なら、謎の真相を握る女性を揺さぶって、
    責めてしまいそうですが、彼はそうはしません。

    彼女がした、ある決断を、静かに支えるだけです。

    事件の解決の、最後の最後に、彼は怒りを爆発させて
    悪党相手に、力に訴えます。
    スペンサーが抑止力として行使した力は、
    醜悪なものではなくて、必要だった力の行使です。

    でも、彼はそのことを深く悔いて、自分が楽になるために
    正当化するようなことは一切しません。

    いい戦いも悪い戦いもない。

    「誰かが傷つくような力を揮う。
    それは簡単に認めてはいけないんだ。」

    そう言っているように、葛藤するのです。
    これが私には、大変胸に響きました。

    報酬や、マッチョな喜びのためにでなくて
    信義や幸福を守るために働く姿が、とても素敵でした。
    それを押し付けないで、すっと行動してしまうところが
    やはりヒーローなのでしょうね。

    スペンサーは、強面ですが、女性を軽蔑しないし
    生活の細々としたディテールを愛しています。
    すっきりとした服装は、やりすぎではないし
    食事も楽しみます。お酒も強いみたいですね。

    大変な読書家であることが作中でも分かりますし
    教養やウィットにも富んでいます。

    冗談は言いますが、馬鹿げたチャラチャラした感じが
    ないのもとても魅力的で、スペンサーの頭の回転の速さや
    人間味をよく表しているのではないでしょうか。

    登場する女性たちも、ヘナへナしていたり、お馬鹿さんだったり
    していなくて、言いたいことを嫌味なくきちんと述べるのも
    彼と好対照をなしています。

    「初秋」も良かったですけれど、この「失投」も
    とてもいい作品でした。

    そして、申し添えたいのは、翻訳家の菊池光さんの名訳。
    出版されて、この本は随分年月が経っていると思いますが
    このシリーズの雰囲気を決定づけているのは、菊池さんの
    訳によるところが大きいと思います。

    私自身は4Fミステリと言われるジャンルからミステリに
    はまり、もちろん女性探偵たちの活躍も愛読していますが
    菊池さんの名訳によって、ミステリや冒険小説の名作に
    触れたことが、このジャンルをずっと楽しんでいる要因の
    一つを形作っていると信じています。

    食わず嫌いして、もし狭い範囲でしかミステリ
    読まなかったらもったいない!ことになってました(笑)

    面白いものは、男女どちらが主人公で、どなたがお読みになっても
    愛読されるものですから、あの時いい出会いをしたのは幸福です。

    菊池さんのお仕事で、ぱっと思いつくものと言ったら…
    うーん。たくさんありますけれども。

    ジャック・ヒギンズの「鷲は舞い降りた」
    ギャビン・ライアルの「深夜プラス1」
    ディック・フランシスの「競馬シリーズ」
    トレヴェニアンの「シブミ」
    ジョン・ル・カレの「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」

    新しいところなら、「羊たちの沈黙」を訳されたとご紹介した
    ほうが、わかりやすいかもしれません。

    ここのあげた作品は、どれも夢中になって読みました。

    独特の乾いた文体にそっと垣間見える優しさや品があって
    あまりこういうのは読まないとおっしゃる方がいらしたら
    是非読んで頂きたいです。

    私自身もスペンサー・シリーズを1冊目から読もうって
    心に決めましたしね。

    やっぱり人気シリーズは、素晴らしいところがあって
    作品と、翻訳者の方と、読者が一緒になって大事にしてるから
    いつになっても愛されるんだと思います。

  • 名前覚えるの大変
    最後暴力すぎてめっちゃアメリカ

  • スペンサーシリーズの2冊目。
    プロ野球投手が賭博に関わっているのではないかとの疑惑を確かめるためにスペンサーが雇われる。
    しかし意外な真実がわかる。
    面白かった!

  • 私立探偵<スペンサー・シリーズ>初読み。シリーズ三作目にあたる作品だが、今作が初邦訳。ハードボイルド御三家の作品は数冊読んだが、所謂<ネオ・ハードボイルド>世代の作家は馴染みがなかったので、二人のガールフレンド(二股?)に仕事内容を明け透けに語るスペンサーのキャラクターはある意味で新鮮だった。探偵の職務範囲を逸脱する終盤の行動には流石に面食らうが、解説の通り、このシリーズが<ヒーロー小説>にカテゴライズされるのなら、過剰に偏執的な自尊心こそが彼の行動原理だと納得せざるを得ない。続きを追うべきか目下思案中。

  • スペンサー・シリーズの3作目。

    野球、いや、ベースボールを愛し、愛されている男と、
    美しく賢い妻のお話。

    「あんな人柄の良い若い者はまずいない」と言われるそのピッチャーが、
    八百長をしているらしいので調べてほしいと依頼される。
    作家として球団に入り込み、あれこれ聞きまわるが
    幸せそうなピッチャーとその妻に噓をつき、
    追い込んでいくのは嫌な感じだった。

    妻の過去のことで脅迫されていた二人に、
    なんとか解決すると言っておきながら、
    その方法が、結果として脅迫者のうち二人を殺すこと、
    だったのはがっかり。
    過去を新聞に発表することになってしまったし。

    次の作品では新しいオフィスに移っているのだろうか。

  • スペンサーシリーズ第3作。最初の2作に比べると、サクサク読めた感じがせず、後半、暴力シーンが目につく。探偵小説というより、冒険またはヒーローもののようだ、という、あとがき解説にうなづく。

  • 再読。スペンサーが若い。コーヒー、ドーナツ、マフィンといった食事の描写も好き。ずいぶん前になりますが初見のときこのシリーズで「エッグベネディクト」の存在を知り作ってみたことがあります。軽口を叩きながらも自身を鍛え、自尊心に従って仕事をする。料理もできてお洒落。若い女性は振り返って彼を見なくても魅力は充分。このころはまだスーザン以外ともデートしていてすこしびっくり。「俺はこういう事で、二度と口をつぐむような事はしない」@クワーク。お察しいたします。

  • ハヤカワ以外の出版社から単行本が出ていて、ハヤカワ・ミステリ文庫から復刊したのではなかったか。かなり初期の作品だったハズ。

  • 「私立探偵を主人公にした小説が最後の騎士道物語である」という解説の一文が、この作品の有り様の大部分を語っており、また納得もできる。過去のスペンサーものより暴力が前面に押し出されていたり、恋人のスーザンへ執着したりとターニングポイントにある作品らしい(「らしい」というのは、スペンサーシリーズ初見のためほとんど受け売りということです)。

    以下気に入ったフレーズなり何なり。
    22章・水族館の描写。「小さな子供が窓から覗き込むために私の前へ割り込んできた。見ると、ベルトが長すぎて体を一回り半し、余った部分が背中でベルトに押し込んである」(199)。
    「犬がいれば散歩に連れて行ける。犬を連れたつもりで散歩すればいい」(254-5)。

  • ゴットウルフとレイチェルウォレスを読んだが、この失投が1番楽しめた。レッドソックスのエースの八百長について調査するスペンサーが、過去に苦しむエースと妻のために奮闘する。事件に絡む謎は早々に簡単に分かるのだが、スペンサーはさらに一歩事件に踏み込み、自らの手を汚してまでエース夫婦を助ける。そして自分の行動について悶々としてスーザンに慰められたりする。謎を解くだけの探偵という立場を逸脱していて面白かった。

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