プ-ドル・スプリングス物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 1-19)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150756697

感想・レビュー・書評

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  • チャンドラーが書いたフィリップ・マーロウシリーズは『プレイバック』が最終巻であるが、その後もチャンドラーは創作意欲を示していたようで、本書は第4章まで書かれた未完の長編をロバート・B・パーカーが書き継いで完成させた。
    かなり賛否両論に分かれている(というよりも否の声の方が多いようだが)作品だが、個人的には愉しめた。

    何よりもまず驚くのがいきなりあのマーロウの結婚生活から物語が始まるという設定だろう。
    結婚相手は『長いお別れ』で知り合ったリンダ・ローリング。しかしチャンドラーが書いた4章で既にこの結婚が破綻しそうな予感を孕んでいる。 そしてチャンドラーが書き残した4章までには事件らしい事件は起こらず、わずかにリップシュルツなる怪しげな男の影を匂わすだけに留まっている。つまり本書のプロットはパーカーによる物なのだ。
    リップシュルツなる男からレス・ヴァレンタインなる男の捜索を依頼されたマーロウはその最中に行く先々で謎と死体に行き当たるというマーロウ一連の作品を定型を守った内容だ。

    本書の最たる特長はやはりマーロウの結婚生活にあるだろう。探偵稼業という時間が不定期な仕事と結婚生活の両立が上手く行かない事は自明の理であり、パーカーもそれを受け継いで物語を紡いでいる。
    この2人の関係にパーカーのスペンサーシリーズの影が見えると云われているが幸いにして私はスペンサーシリーズを読んだ事ないので、かえってパーカーよくぞ書いたと思ったくらいだ。

    マーロウの信奉者には卑しき街を行く騎士が結婚生活をしちゃあかんだろうと、夢を覚まさせるような感想が多いが、しかしこれはチャンドラーが残した設定なのだ。
    私はいつもにも増して男の女の関係性という側面が盛り込まれ、そこで苦悩するマーロウが人間くさく感じられてよかった。
    考えるに今までは介入者として依頼人から受けた依頼を完遂するために他人の家庭に踏み込み、そこに秘められた歪んだ愛情や不幸を見てきたマーロウに実際に家庭を持たすことで家庭内の問題の当事者にしてみようと考えたのがチャンドラーの狙いだったのではないだろうか。しかし理想の男として描いたマーロウはやはり家庭が似合わない男だったことに気づくのではないか?それがチャンドラーの筆を鈍らせていたのではないだろうか。
    そういう風に考えると、本作の結末は恐らくチャンドラーが想定していたものとは違うのかもしれない。しかし私はこの結末は好きだ。最後の「永遠に」と呟く2人のセリフは私の中で永遠に残るだろう。
    素直にパーカーの仕事に賛辞を贈りたい。

  • レイモンド・チャンドラーが遺した最初の4章に、ロバート・B・パーカーが想像力を駆使して物語を完成させた作品。資産家の娘であるリンダと結婚したフィリップ・マーロウは、スプリングスで暮らし始める。自分自身であるために私立探偵の仕事を続けるマーロウに、仕事が舞い込んだ。カジノで10万ドルを借りて行方の分からない男を探して欲しいという。

    舞台設定はチャンドラーだが、ミステリーとしてはパーカーの創作になる。気になるのはマーロウと妻リンダの関係。これまで全く違う世界で生きて来た二人は、一緒に暮らしていけるのだろうか。チャンドラーがどのような結末を用意してたのかは分からないが、パーカーの描き方にも納得はできる。

  • 『長いお別れ』に続編があっただけでもうれしいが、パーカーがまったく違和感なくマーロウを描いているのに感激。

  • 久しぶりにフィリップ・マーローを堪能。

  • マーロウが男性誇示的だったり、一人称が「おれ」だったりするのが気になるが、他はなかなかの出来。

  • 巨匠レイモンド・チャンドラーの未完の遺作を
    遺族の承諾を得た上で書き継いだもの。

    時代背景などは、どちらも読破している作家なので
    なんの違和感もなく、また面白く読めた。

    どちらの著者のファンにも受け入れられると思う。

  • レイモンドチャンドラーの遺作。
    マーロウ大好き。

  • チャンドラーを題材に博士号まで持つ、自信もスペンサーシリーズを手がけるハードボイルド作家、ロバート・B・パーカーの手によって補完された、『長いお別れ』の続編。<BR>
    リンダ・ローリングと結婚したマーロウが、それでも頑なに私立探偵を続けるという設定で、パーカーの書いた部分が浮いているという印象はほぼない。尤も、私が読んだのは和訳なので、役者による手腕が大きいと思うが。<BR>
    何というか、ロスにいないマーロウは、マーロウじゃないよな。

  • 軽々にはものをいたくないけれど。でも何かが違う。レイモンドチャンドラーが書いたものとは。それでも、マーロウを復活させてくれた事はありがたいと思っている。

  • プードル・スプリングス物語

    著者:レイモンド・チャンドラー
    ロバート・B・パーカー
    訳者:菊池 光
    発行:1990年5月15日
    早川書房

    先日、ローレンス・オズボーンというイギリス人作家が書いた72歳のフィリップ・マーロウもの「ただの眠りを」を読んで、再びレイモンド・チャンドラーを読みたくなった。「ただの眠りを」はチャンドラーの遺作ではなく、全くの創作だったけど、この「プードル・スプリングス物語」は全41章中、最初の4章のみをチャンドラーが書いていて、残りを、チャンドラーの代表的研究者で人気ハードボイルド作家だったロバート・B・パーカー(2010年没)が引き継いで書いた作品。1989年の作で、発売当初に読んだはずだが、読み返してみるとほとんど記憶がなかった。その分、新鮮だった。

    フィリップ・マーロウシリーズとして有名な1作「長いお別れ」で、マーロウは富豪の娘と結婚をしたが、プードル・スプリングスという金持ちばかりが住む街で2人の生活を始めるところから物語は始まったが、すぐにやっかいな依頼が舞い込んでくる。お金に困らない妻が止めるのにもかかわらず、彼はみすぼらしい事務所で私立探偵を続けるつもりだったのだ。

    事件は、やはり富豪の娘と結婚したカメラマンを探し出すという依頼でスタートする。借金して姿を消した逆玉男。それに対し、マーロウは「妻は金持ちだが自分は貧乏だ」と言い続け、義父からのビジネスの誘いも断る。彼はすぐに逆玉男を見つけ出し、彼の情けなさや罪深さを知るが、人を殺せるような人間でないこともすぐに見抜く。実は、周囲の金持ち連中の方がよほど残酷であることが描かれていく。

    若い頃にあれだけ読んだチャンドラー、本もほとんど残っていないし、話の中身もほとんど記憶にない。とりあえず、次はこの物語で結婚生活を始めることになった「長いお別れ」を読み返してみるべきかもしれない。そして、今回の物語を含めて、忘れないうちに粗筋を書き留めておこうか。何の意味があるのかよく分からないけど。

    ***ここは読まないでください(読んでも構いませんが)****

    自分のためのメモ(ストーリー)

    長いお別れで出会った大富豪の娘リンダと結婚したマーロウは、高級リゾートタウンのプードル・スプリングスに新居を構えたが、町外れに私立探偵事務所を開いた。「金持ちなのは妻で、俺は貧乏」と彼は主張し、仕事をし続ける必要を訴える。
    早々にカジノ経営者のリピイからの依頼。賭けの謝金を払わずに逃亡したカメラマンを探し出すこと。でないと、リピイはボスの金持ちから命を奪われるとのこと。ボスとは、クレイトン・ブラックストーンであり、その娘はミュリエル・ヴァレンタイン(マフィ・ブラックトゥン)、そして、逃げているレス・ヴァレンタインは彼女の夫だった。

    レスは本名がラリイ・ヴィクターといい、ロサンゼルスでカメラマンをしていて、なんとミシェルという妻がいる。つまり重婚者。
    彼はトップモデルのソンドラ・リーはじめ、無名時代にポルノ写真を撮って、それで有名になってからお金をせびっていた。マーロウはすぐにレスを探し当てるが、彼がローラ・フェイスフルという女から1枚の写真で脅されていることを知る。

    そのローラが殺された、そして、リピイも殺された。ローラは、プードル・スプリングスの妻であるミュリエルのポルノ写真を入手して彼を脅していたのだった。その写真も彼の撮影したもの。

    依頼者のリピイ亡き後、今度はクレイトンからの依頼でレス(ラリイ)を探し出すことになったが、ローラとリピイ殺しを疑われて警察から追われている彼を逃がしたのは実はマーロウだった。マーロウは本当は彼が犯人ではないかと疑い始めたりもするが、最後、殺人犯はミュリエルであることを突き止める。そして、ミュリエルは父親を殺し、ミュリエルは父親のボディーガードに殺される。

    マーロウは妻と早々に離婚することになり、以前にオフィスを構えたところに舞い戻って住み始めたが、元妻とは恋愛は続行することになった。

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著者プロフィール

Raymond Chandler
1888年シカゴ生まれの小説家・脚本家。
12歳で英国に渡り帰化。24歳で米国に戻る。作品は多彩なスラングが特徴の一つであるが、彼自身はアメリカン・イングリッシュを外国語のように学んだ、スラングなどを作品に使う場合慎重に吟味なければならなかった、と語っている。なお、米国籍に戻ったのは本作『ザ・ロング・グッドバイ』を発表した後のこと。
1933年にパルプ・マガジン『ブラック・マスク』に「脅迫者は撃たない」を寄稿して作家デビュー。1939年には長編『大いなる眠り』を発表し、私立探偵フィリップ・マーロウを生み出す。翌年には『さらば愛しき女よ』、1942年に『高い窓』、1943年に『湖中の女』、1949年に『かわいい女』、そして、1953年に『ザ・ロング・グッドバイ』を発表する。1958 年刊行の『プレイバック』を含め、長編は全て日本で翻訳されている。1959年、死去。

「2024年 『プレイバック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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