プ-ドル・スプリングス物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 1-19)
- 早川書房 (1997年1月15日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150756697
感想・レビュー・書評
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チャンドラーが書いたフィリップ・マーロウシリーズは『プレイバック』が最終巻であるが、その後もチャンドラーは創作意欲を示していたようで、本書は第4章まで書かれた未完の長編をロバート・B・パーカーが書き継いで完成させた。
かなり賛否両論に分かれている(というよりも否の声の方が多いようだが)作品だが、個人的には愉しめた。
何よりもまず驚くのがいきなりあのマーロウの結婚生活から物語が始まるという設定だろう。
結婚相手は『長いお別れ』で知り合ったリンダ・ローリング。しかしチャンドラーが書いた4章で既にこの結婚が破綻しそうな予感を孕んでいる。 そしてチャンドラーが書き残した4章までには事件らしい事件は起こらず、わずかにリップシュルツなる怪しげな男の影を匂わすだけに留まっている。つまり本書のプロットはパーカーによる物なのだ。
リップシュルツなる男からレス・ヴァレンタインなる男の捜索を依頼されたマーロウはその最中に行く先々で謎と死体に行き当たるというマーロウ一連の作品を定型を守った内容だ。
本書の最たる特長はやはりマーロウの結婚生活にあるだろう。探偵稼業という時間が不定期な仕事と結婚生活の両立が上手く行かない事は自明の理であり、パーカーもそれを受け継いで物語を紡いでいる。
この2人の関係にパーカーのスペンサーシリーズの影が見えると云われているが幸いにして私はスペンサーシリーズを読んだ事ないので、かえってパーカーよくぞ書いたと思ったくらいだ。
マーロウの信奉者には卑しき街を行く騎士が結婚生活をしちゃあかんだろうと、夢を覚まさせるような感想が多いが、しかしこれはチャンドラーが残した設定なのだ。
私はいつもにも増して男の女の関係性という側面が盛り込まれ、そこで苦悩するマーロウが人間くさく感じられてよかった。
考えるに今までは介入者として依頼人から受けた依頼を完遂するために他人の家庭に踏み込み、そこに秘められた歪んだ愛情や不幸を見てきたマーロウに実際に家庭を持たすことで家庭内の問題の当事者にしてみようと考えたのがチャンドラーの狙いだったのではないだろうか。しかし理想の男として描いたマーロウはやはり家庭が似合わない男だったことに気づくのではないか?それがチャンドラーの筆を鈍らせていたのではないだろうか。
そういう風に考えると、本作の結末は恐らくチャンドラーが想定していたものとは違うのかもしれない。しかし私はこの結末は好きだ。最後の「永遠に」と呟く2人のセリフは私の中で永遠に残るだろう。
素直にパーカーの仕事に賛辞を贈りたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
レイモンド・チャンドラーが遺した最初の4章に、ロバート・B・パーカーが想像力を駆使して物語を完成させた作品。資産家の娘であるリンダと結婚したフィリップ・マーロウは、スプリングスで暮らし始める。自分自身であるために私立探偵の仕事を続けるマーロウに、仕事が舞い込んだ。カジノで10万ドルを借りて行方の分からない男を探して欲しいという。
舞台設定はチャンドラーだが、ミステリーとしてはパーカーの創作になる。気になるのはマーロウと妻リンダの関係。これまで全く違う世界で生きて来た二人は、一緒に暮らしていけるのだろうか。チャンドラーがどのような結末を用意してたのかは分からないが、パーカーの描き方にも納得はできる。 -
『長いお別れ』に続編があっただけでもうれしいが、パーカーがまったく違和感なくマーロウを描いているのに感激。
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久しぶりにフィリップ・マーローを堪能。
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マーロウが男性誇示的だったり、一人称が「おれ」だったりするのが気になるが、他はなかなかの出来。
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巨匠レイモンド・チャンドラーの未完の遺作を
遺族の承諾を得た上で書き継いだもの。
時代背景などは、どちらも読破している作家なので
なんの違和感もなく、また面白く読めた。
どちらの著者のファンにも受け入れられると思う。 -
レイモンドチャンドラーの遺作。
マーロウ大好き。 -
チャンドラーを題材に博士号まで持つ、自信もスペンサーシリーズを手がけるハードボイルド作家、ロバート・B・パーカーの手によって補完された、『長いお別れ』の続編。<BR>
リンダ・ローリングと結婚したマーロウが、それでも頑なに私立探偵を続けるという設定で、パーカーの書いた部分が浮いているという印象はほぼない。尤も、私が読んだのは和訳なので、役者による手腕が大きいと思うが。<BR>
何というか、ロスにいないマーロウは、マーロウじゃないよな。 -
軽々にはものをいたくないけれど。でも何かが違う。レイモンドチャンドラーが書いたものとは。それでも、マーロウを復活させてくれた事はありがたいと思っている。