霧の殺人鬼 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房 (1986年8月23日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784150760519

感想・レビュー・書評

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  •  正典の名脇役・レストレイド警部が主役となり、子ども向けの詩になぞらえたかたちで起こされる連続殺人事件に挑む物語。
     ワトスン博士の筆(の中のホームズの言葉)ではなかなかに厳しい評価を受けているレストレイド警部も、この作品の中では仕事一筋、それゆえに気苦労や苛立ちも多い渋い人物として描かれています。そして何故か作中に出てくる女性にモテる。正典の中でこき下ろされている警部に対して作者が持たせた花なのでしょうか。

     ドイツの子ども向けに描かれた絵本『ストルーウェルピーター』の内容に見立てるかたちで事件が次々と起っていく展開はある意味でまとまりがよく読みやすい反面、描写そのものは凄惨な部類に入ると思います。
     元の本では「悪いことをするとこういうひどい目に遭いますよ」という教訓を含んだ内容のようですが、この物語の犯人はその「ひどい目」を拡大解釈する形で殺人を実行し、被害者たちはそれぞれ様々に悲惨な最期を迎えさせられます。どの事件の死体描写も割と生々しいので想像力の豊かな人は該当部分はさらっと流してしまってもいいかも。
     作中の連続殺人事件の発生年は「切り裂きジャック」による一連の娼婦殺害事件より三年後に設定されており、それ絡みの展開も若干あります。ただしあくまでも主題は見立て殺人の方なのでジャック要素はオマケ程度です。

     レストレイド警部が主役として活躍する反面、ほぼほぼ狂人然としたホームズやあまり利口そうには見えないワトスンの描写は好みが分かれるところ。ただし様々なパスティーシュで「本当は○○だった」的に描かれることの多い彼らなので個人的にはそこまで摩擦は無かったです。

     結果として10人が犠牲になる事件ということもあって種明かしパートに関しては一件一件の密度が低く、そもそも種明かしになっているのかちょっとよく分からないのでミステリ好きの人には物足りないかもしれないなあとは思いますが、犯人の口から怒濤の如く真相が語られる場面には勢いがあって私は好きでした。
     後味はあまり良くない系統の話だと思います。とはいえレストレイド警部が主役のパスティーシュというのもそこまで数が多くないと思うので、個人的には面白い変化球作品として読めました。

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