1985年アメリカ探偵作家クラブ最優秀処女長編賞受賞
原題は『Strike Three, You're Dead』
投手が頭を狙って投げてくるのは、打者の調子がよいときだ。
中堅手ハーヴェイ・ブリスバーグは突如、ボストン・レッドソックスからアメリカンリーグ東地区の新設チーム、プロヴィデンス・ジューエルズにドラフトされた。
現在、ハーヴェイは30歳にしてかつてない好成績、3割9厘という打率を上げていた。
歴史学の博士号をとったのに、野球を選択したことに対する母の嫌味も最近では気にならなくなった。
早朝、バッティングの特訓をするため球場に行ったハーヴェイは、ロッカールームの風呂場で28歳のリリーフ・ピッチャー、ルディ・ファースが死んでいるのを見つける。
ルディは、遠征先でハーヴェイのルームメイトだった。
ルディの愛猫をひきとりに行ったハーヴェイは、クローゼットのなかに女性の下着を見つける。
ジューエルズの監督フェリックス・シャロウブの13歳年下の妻フランセスは、試合中ダグアウトで監督の采配に口を出していると評判だった。
彼女は、アメリカン・リーグ有数の右腕投手ボビー・ワグナーはシーズン終了後フリー・エージェント権を得るが、チームにひきとめなければならないと語っていた。
ルディの死因は風呂で溺れたことによる窒息とバッドによる殴打だった。
警察はルディの家にタイプライターが3台あり、死体から3000ドルが見つかったことから、犯罪との関わりを疑った。
「犯人はチームのメンバーかもしれない」というハーヴェイの発言が新聞に出た日、彼のロッカーにはネズミの死骸がぶらさがっていた。
遠征先のホテルでフランセスの部屋に呼ばれたハーヴェイは、彼女のナイトガウンがルディの部屋にあった下着と同じブティックの製品であると気付く。
さらに、ニューヨーク・ヤンキースとの試合中に、ハーヴェイのグローブの中に脅迫状が入れられていた。
フランセスの元共同経営者は彼女を<東の意地悪な魔女>と称し、仕事をとるためなら手段を選ばなかったと語った。
自分の会社を売ってジューエルズの一部を所有し、夫を監督にしたのだ。
<解決篇>
タイプライターは孤児であるルディが孤児院に寄付するために買ったことが判明した。
ハーヴェイはルディとフランセスが不動産投資の話をしていたと聞き、彼のロッカーにあった不動産投資の本から当座預金口座の明細書を見つけた。
ここ3ヵ月間に、3千ドルずつ4回預金していた。
ハーヴェイは、記録マニアの兄から、先発ピッチャーが後半リードしながら降板させられ敗戦投手になる試合が17回もあったことを知らされる。
リリーフピッチャーは先発ピッチャーが勝つのを邪魔することができると考えたハーヴェイは深夜、クラブハウスにシーズン記録を確かめに行く。
いずれもボビー・ワグナーの試合にエディがリリーフして負けた数日後に3000ドルが預金されていた。
そこにワグナーが現れ、「あんたも気づいたってわけだ」と言った。
ワグナーを失うことに耐えられなかったフランセスは、ワグナーが不調のままシーズンを終えれば、値打ちが下がって、ジューエルズでも契約できると考えた。
そこでワグナーを敗戦投手にするために、フランセスに惚れていたルディを買収した。
そしてフェリックスに働きかけ、ルディにワグナーを救援させるように仕向けたのだ。
ワグナーは「ロッカーのネズミの死骸がストライク・ワン、ヤンキースタジアムでの警告がストライク・ツー、今度がストライク・スリー、バッターアウト!」とバットを振りかぶって、ハーヴェイに襲いかかった。
ハーヴェイは地下道を抜け、ダグアウトに逃げたが、ワグナーはハーヴェイめがけて剛速球を投げる。
逃げ場を失ったとき、スプリンクラーが作動し、グランドキーパーが現れたため、ワグナーは立ち去る。
ルディに支払った現金の出どころから、フランセスの企みが立証され、彼女は逮捕される。
登板予定のシーズン最終戦にワグナーは現れた。
フェリックスはワグナーに投げさせてやってくれと警察に頼む。
試合は、センターフライをハーヴェイがキャッチしてゲームセット!
ジューエルズは1-0でヤンキースに勝利した。
無失点で投げ切ったワグナーは警官に護衛されて、球場を出て行った。
<<グロルシュ・ビール>>
ルディが殺害される数日前に、ハーヴェイはルディの家でグロルシュ・ビールを飲んで酔いつぶれた。