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本 ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784150773045
感想・レビュー・書評
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ハメットらしい硬質の文体で無駄がなく楽しい。
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1931年の小説だけど、今読んでもけっこう新鮮。そうかこういう話だったんだ。
話の軸は二つで、チンピラたちのなわばり争いと上院議員の息子の死。
チンピラたちの親分ポール・マドヴィッグが上院議員の娘と結婚しようとするところから二つの軸が重なっていきます。
主人公はポールの右腕で賭博師のネド・ボーモン。
で、この人意外と……弱いんですよね。
深く考えずに動いて窮地に陥ったり、なぐられてへこんじゃったりと、
想像していたハードボイルドのヒーロー像とはだいぶ違う。
だからこそかえってリアルで、身近に感じてしまう。
この小説の特徴はなんといっても心理描写を排した客観描写。
行動と会話のみで成り立っているのでスピーディーにスラスラ読める。
ちょっと映画みたいな感じもしました。
ハメットにおける映画からの(あるいは映画への)影響というのはとっくに論じ尽くされているんだろうけど。
結末や題名の由来を見ると、非情なようでわりあいセンチメンタル。
んー、これはひとことではまとめられない小説です。
「古典はいつでも新しい」というのはたしかに真理。読んでみるもんだ。
杉江松恋『読み出したら止まらない! 海外ミステリーマストリード100』とその連動企画であるこの記事
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20140501/1398901056
に背中を押され、読んでみました。
しかし畠山さんと加藤さんの記事を先に読んでしまったせいで、
ネドとポールの仲がBLに見えてしまって困る!
そういう先入観で読むとこの物語もネドとポールと上院議員の娘の三角関係を描いているように見えてきちゃって……ううむ。
いや、まあ、これがホモソーシャルってやつなんでしょうね。よく知らないけど。
ガイドブックでは光文社新訳文庫がテキストでしたが、小鷹信光ブランドにひかれハヤカワミステリ文庫で読んでみました。
小鷹さんの訳はきびきびしていてクール(なんだと思う。正直なところ私には翻訳のよしあしはよくわからない)。
末尾の小鷹さんの文章は「『ガラスの鍵』についての七つのメモ」という題通り、解説というよりほとんどメモ。そっけないけどそそられる。このメモ自体がハメット的なのかも? -
いろいろな意味で私にとって凄く良かった一作。
この人の話は、ミステリーを主軸に読むとがっかりしてしまうと思う。登場人物の姿や行動を見ているのが一番。喧嘩の場面が好き。時折考え込む主人公の姿が好き。
心理描写を小説でしないとは、なんとメインの武器を使わずに戦うようなものだと思うけど、それでも味があるなんて!
それこそ映像や絵で表現するほうが合っているのかと思いきや、文字だけでも、巧みな表現が!!
訳者の小鷹氏の解説も秀逸。
私はこの作家が好きなのかもしれない。
大久保康雄訳のもぜひ読みたい! -
ハードボイルドの祖ダシール・ハメットの代表作は『マルタの鷹』か『赤い収穫』なのでしょうが、私のハードボイルドの読み方が年齢を重ねて変わってきたのかもしれない。今回読んだ『ガラスの鍵』が断然面白い。
賭博師のネド・ボーモンは会社経営者の親友マドウィックから地元の上院議員の後ろ盾になって影の実権を握る計画を聞かされる。しかし上院議員の息子が殺され、関係者のもとにマドウィックが犯人だという匿名の手紙が届き始める。ボーモンは親友の無罪を晴らそうとするがマドウィックは自分がやったと自白する。しかし、それでも…ボーモンは事件の闇に飛び込んでいく。
ハードボイルドとしての主役はボーモンである。当然ながら上院議員の息子を殺したのは誰?ということなのだが、謎解きはない。ボーモン中心に話は進むが、大事なのはボーモンの生き方だ。
何でもありだった1900年代はじめのアメリカで、おのれのルールに従い、怖じけず、へこたれず、親友を信じるボーモン。マドウィックは上院議員の娘ジャネットを愛しているが、ジャネットはボーモンに気がある。ボーモンはその気持を知ってわざと距離を置く。しかし、事件が解決した後、全盛期のフィリップ・マーロウならやせ我慢してしまうようなストイックさを捨ててマドウィックと決別する。そして伝えて街を去る。「ジャネット・ヘンリーが、ネド・ボーモンに目をやった。彼はドアを凝視していた。」いいラストだ。
ハードボイルド文体の特徴は「〜思った」というような考えや気持を一切書かず、「〜した」という行動や視覚的変化だけで描写される。感情が推測できる表現もほぼない。それゆえ登場人物の特徴は捉えにくいが、そこは翻訳者の腕の見せどころ。図書館で早川ミステリ文庫の小鷹信光版は上手です。
著者プロフィール
ダシール・ハメットの作品





