白い殺意 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 早川書房 (1995年1月19日発売)
3.07
  • (0)
  • (2)
  • (11)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 43
感想 : 4
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784150797515

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • クレイグ・ホールデンの「この世の果て」を読んだが、メモも本もデータファイルのどこかに紛れ込んでしまってがっかりしていたところ、これも北の同じ美しい風景が舞台だというので読んでみようと思った。


    アラスカ湾沿岸の国立公園が舞台だか、どうも架空の地らしい。
    それでも白い冬、深い雪の中の暮らしや、先住民の捜査官ケイト・シュガックも魅力的で、面白かった。
    第4作まであるそうだかその第1作。



    重傷を負い、事件を引きずって退職したケイトは、故郷のアラスカの地で隠遁生活を始めていた。雪の深い冬、国立公園の開発のために来ていた公園レインジャーが行方不明になり、その調査に派遣された検事局の捜査官も行方がつかめなくなる。

    そこでケイトに捜索依頼がくる。

    在職時代の恋人に説得され、しかたなく危険な捜査を始めるが、手がかりがない。

    公園の山では以前密かに採掘されていた鉱物資源の再採掘問題など、狭い入植地をめぐっての争いや、先住民と入植者の権利をめぐる争いがある。
    調べているうちにケイトは銃で狙われる。

    極寒のアラスカ湾沿岸から入った奥地を、スノーモービルで駆け回るケイト、そこでは先住民の彼女は幅の広い一族の人たちに囲まれ守られている。

    アンカレッジ検事局時代の恋人、上院議員の父をかさにきて強気に開発を追い進めるレインジャーなど、興味深い設定。

    主人公ケイトの堅物振りも微笑ましいし、ストーリーにあまり起伏はないが、文章は風景に馴染んで美しく躍動感もある。

    ついでに、言葉を話すような表情が豊かな、ペットの大型犬のファンになりそうだし。

    一読の価値のある一冊。
    アメリカ探偵作家クラブ賞受賞

    でも、題名がちょっと安直でありきたりでつまらない。



    忘れられない透明な青に染まりそうな世界。この部分だけが過去の資料に残っていた。
    クレイグ・ホールデンの「この世の果て」

    美しい風景や文章は思い出すたびに心を癒される気がする。


    ジユノーの街は、すぐ左をバウンダリー山脈の山々に、西側は細く深い水路のガスティーノ海峡で挟まれた岩棚に作られている。(略) ジュノー平原は街の真東にあたる山脈部分の最初の尾根を越えたところにあり、その広さはおよそ1万平方キロメートル。南極以外では世界最大の永久氷原のひとつだ。(略) なにもかも青かった。リーアンが近くで見た巨大な氷塊は驚くほど濃い色で、サファイアのように深い青色をしていた。十トンのサファイアがあちこちに転がっているのを見つけたと想像すればいい。家に持ち帰るためにひとつかふたつ自分で切り取るのだ。 「氷の密度が高いんだ」パイロットは言った。彼の本職はツアーガイドで豊富な情報を持っていた。 「反射と屈折に関係がある。氷河の氷は信じられないほど密度が高くてね。普通の氷よりずっと緻密なんだ。その密度の高さが青以外の光の波を閉じ込めてしまう。青だけは反射されるが、密度がさまざまだから、氷は異なった色調を放つことになる。」  色合いはそれぞれ違うのだろうが、リーアンには青一色の世界に見える。すばらしい景色だった。

  • アラスカを舞台にしたミステリー。
    話は重い。
    寒いところが舞台だと、重くなるのか。

  • 1993年アメリカ探偵作家クラブ賞受賞
    原題は『A COLD DAY FOR MURDER』(殺人のための寒い日)

    ケイト・シュガックはアンカレッジ地方検事局で有罪獲得率の州内新記録を樹立した辣腕捜査官だったが、調査中に重傷を負い辞職し、故郷であるアラスカ奥地のアリュート人入植地に住んでいる。

    かつての上司で恋人だったジャック・モーガンから、国立公園管理局のレンジャー、マーク・ミラーの捜索を依頼される。
    ミラーは下院議員の息子で、FBIの要請で派遣された捜査官ケネス・ダールも行方不明だった。

    8歳で両親を亡くした後、祖母とニニルトナで暮らすことを拒絶したケイトはアベル・ベイカーに引き取られ、奥地で生きる術を教わった。
    アベルはロスト・ワイフ鉱山の廃坑でミラーを見かけたという。

    ケイトの祖母は部族の実権を握っていて、国立公園を取り仕切っていた。
    祖母はいとこのジーニアがミラーと付き合っていたという。
    そして、ジーニアがアンカレッジに行くのをひきとめてほしいと言った。
    ケイトは「無理やりこの村にひきとめたら彼女の将来を潰してしまう」と断るが、祖母は「村を出れば、自分の生命の源である文化を捨ててしまうことになる」と主張する。

    行方不明になった日、公聴会でミラーは「国立公園を厳重な指導のもとで開発すべきだ」と主張した。
    ミラーはジーニアと結婚してこの村で暮らそうとしていた。
    公聴会後、<ロードハウス>でジーニアの兄のマーティンと殴り合いになり、真夜中すぎにジープで出て行ったが、翌日の正午、ジープは再び<ロードハウス>の前に停まっていた。


    <解決篇>

    ジーニアは祖母の家に帰る途中、マーティンがトラックの荷台の荷物を川に投げ捨てたのを見たと語った。
    また、ミラーはボビーの無線を使って、父親に「マック・デヴリンがナベスナ鉱山の採掘権を申請しているが、許可すべきでない」と告げていた。
    しかし、デヴリンにはアリバイがあり、さらにマーティンが川に投げ捨てたのは保護動物のムースだったことが判明した。

    翌朝、アベルの鉱山に行くと、ライフルの銃声が響き渡った。
    ケイトは坑道のなかに転がり込み、そのままリフトの踏み板の上に滑り落ちた。
    巻き上げ用のロープがほつれ、ケイトを乗せたリフトは落下し始めた。
    ジャックは高所恐怖症のため縦抗の深さに耐えられず吐きながらも、安全綱を引っ張り上げ、ケイトはよじ登り助かる。

    ケイトは二人の死体は縦抗の底だと確信し、アベルの家に向かった。
    ミラーは<ロードハウス>を出たあと、アベルの家を訪ねたのだった。
    アベルは、いつものようにコーヒーポットを持ったまま話していたら、ミラーはそれで殴りかかろうとしていると勘違いして後ずさり、よろけてオーブンの扉の角に頭をぶつけて死んでしまったと語った。
    翌朝、ミラーの死体を鉱山で始末した後、<ロードハウス>に行き、ジープを駐車場に残して、店が開くのを待ったという。

    ダールは、鉱山の縦抗を捜索すると言い張ったので射殺したという。
    ケイトがアベルを訪ねたとき、ダールの死体は貯蔵庫で凍っていたのだ。

    「レインジャーをのさばらせておいたら、連中の言うなりに調査されて、あっという間に奴らに占領されてしまう。アラスカの先住民は先住民請求権解決法のおかげで土地も金も手に入れ、医療費も無料で恵まれている」と言うアベルに、ケイトは「学費ローンの申請書には連帯保証人として白人のサインが必要だと言われたり、さまざまな差別にうけている」と反論する。
    アベルは「80年かかって築き上げた自分の家を守るのは男としての当然の務めだ」と銃口をケイトに向ける。
    ケイトはアベルに殺されそうになった記憶を抱えて生きていくなら殺されたほうがいいと思い、そのまま立ち去る。
    そのとき、銃声が轟いた。

    ケイトは祖母にアベルが自殺したことを知らせに行く。
    彼女は「よそ者にはわれわれの問題に嘴を突っ込む権利はない。みんな死んだ。いまさら騒いでどうなる?」と言う。

    1カ月後、ジャックがケイトを訪ねる。
    ケイトは「祖母の言ったとおり、関係のあった人間はみんな死んだ、ことの顛末をニュースにしても意味はない」と語る。
    「復職しないか」という誘いを、「アンカレッジで暮らすつもりはない」と断ったケイトに、ジャックは「これからはできるだけ市から逃げ出してここに来る」と告げた。

全3件中 1 - 3件を表示

デイナ・スタベノウの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×