日の名残り (ハヤカワepi文庫 イ 1-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200038

感想・レビュー・書評

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  • 様々な階級の人々の違いを違和感なく感じさせてくれる訳が見事。

    解説の中で、丸谷才一氏はスティーブンスを鈍感と判じているように読み取れるが、果たしてそうなのだろうか?

    屋敷の主人やそこを訪れる一人一人の細かな要望に応えてきた彼が、旅先のバーで酒を飲む農夫の一団の様子をつぶさに察知したり宿屋の主人の気分を害したのではと翌朝考える彼が、果たして鈍感といえるのだろうか?

    個人的には、答えは否であると思う。
    スティーブンスは、全て分かっていたのではないだろうか?
    分かっていながら、受け入れるのに時間がかかった父の老いのように(彼は気付かないふりも上手なのだ)
    分かっていながら、戸惑い、ときにうろたえ思い悩み、そして、
    それまであり続けてきた自分を、歴史の波に翻弄されながらも、変わらず全うすることを自ら選択したのではないだろうか。

    黄金時代が過ぎ、戦後多くの執事が仕事を失ったらしいことが行間から読み取れる。
    そんな中で、自分の熱意が足りなかったのではと自省し、気持ちも新たに今の主人を喜ばせることを考えるスティーブンスは、減りゆく本物の執事の貴重な生き残りであり、本人もそれに気づいているはずである。
    彼の選択は、失ったものもありながら、満足のいくものだったのではないだろうか?

    これは不器用な一人の男の生き様の物語とも言えると思う。

  • なんの予備知識も無いまま、プロローグを我慢して読み進めると、「一日目、夜」からは先が気になって一気に読み進みました。なんと素晴らしいラストの情景、そして切なさ。でも前向きになって良かった。単純な感想だけど、好きな小説の1冊になりました。

  • 前半、なじみのない執事の話で長く感じていたが、後半に登場人物の人生があらわになり非常におもしろかった。
    タイトルの日の名残りはいいタイトルだと思いました。

  • 自分で考えて選択を重ねていく必要性。

    その時々は最善だと理性的に選んだつもりでも、長い目で見ると本来の自分から遠く離れた結果へと人生がずれて行ってしまう事に、人生の後半に気付きてしまう喪失感。

    全ての人生の行動は自分自身の意志からくるものでないと、後々後悔する事になる。

  • 最高!!!
    また読みたいので洋書で買ってみたが倒置の多いイギリス文学に独特な言い回しに慣れず。
    日本語で再読予定。
    表現不可。とにかく素晴らしい。

  • 国が変わる中で、伝統を重んじつつ苦悩する執事がカッコ良い。
    アンソニーホプキンスが主演の映画も良いだろうな、観なければ。

  • 最近のマイブームがイシグロさんの作品です。こちらも主人公の独白で語られていきます。ネタバレになりますが、お父様が給仕の途中で段差に引っかかって転倒されたシーンで、映画のワンシーンを鮮明に思い出しました。
    古き良き時代?の貴族が貴族然としていた時代のお話で、イギリス文化がまったく分からない私にも執事というものがどういう職業なのかが染み込むように理解できました。
    主人公は頂いたお休みを利用して、過去に結婚して辞めていった女中頭との邂逅を果たすため旅にでます。読み進むにつれ、本人が執事道を少しも身誤らす真っ直ぐ進む中にも、独白の中で彼の心情が見られ、彼の人となりがしっかりと私の心に染み込みます。途中は鼻持ちならない奴だなどとも感じましたが、ひとえにこれは執事である事、品格を持つということ、主人にお仕えする身であることからきているのだと最後の方では思えました。
    なんといってもクライマックスは最後にやってきます。章の日付が女中頭さんと会う直前、そして次の章は2日後になっています。この間の出来事、そしてその後の夕暮れのシーンがとてもとても素敵なんです。
    あーやっぱりイシグロさん好き。

    図書館にて。

  • 元Amazon CEOのおすすめ文学とあって読んでみた。

    「後悔」について非常に考えさせられる作品であり、
    この本の主人公がまるで反面教師のように見えた。

    中身についての明言はここでは避けるが、
    この本で主人公がすることになる旅についても、遅い「恋」についても、自分の信じてきた「正しさ」についても、言い訳ばかりで「後悔」するような行動ばかりしていた。

    また、読んでいて面白いなと思ったのは、天邪鬼な主人公の自己対話を除くとこの300ページ以上ある本が半分くらいで済むのではないかと思ったところだ。
    まるで、行動せずに歳だけ重ねた主人公をこの本自体が体現しているかのように思えるのは私だけだろうか。

    巷に多くの行動力についての本はあれど、多くは経営者の自慢話かのような内容のものが多く少し反発を覚える。
    しかし、この本は主人公の失敗を追体験しながら自分は後悔しない選択をしたいなと読んでいる私自身から思わせてくれるような作品であった。

  • イギリスの由緒あるお屋敷に長年勤めてきた執事の話。

    執事や女中が何をするのが普通で、どんな態度が優秀なのかもよく分からないまま読み進め、最初はよく分かんないなぁと思っていたけど、だんだんスティーブンスの面倒臭さが面白くなってきて楽しく読めました。

    結構な高齢だろうに、まだ新しい主人のためにジョークを身につけようと努力するところがいじらしいw
    真面目過ぎて、もう全然むいてないよ!と言ってあげたくなる。

    またミス・ケントンとのやり取りも、スティーブンスの話では急にミス・ケントンが怒ってたり、直接話しかけてくるなと言ってきたりしてきたような感じだったけど、きっとそれまで散々イラつかせることを言ったりやったりしてきて、かつ気付いてないんだろうなぁ〜と思うと笑ってしまった。
    結婚を申し込まれていると話しても、リアクションして貰えないミス・ケントンもかわいそうでした…
    スティーブンスも自分の気持ちに気付かないフリをしてたのかもしれないけどさ。

    ダーリントン卿が国のためにと外交活動していて、どうしてヒトラーとイギリス首相に会わせるべきと思ったかは分からないけど、何かしら国益に繋がる流れになると思っての行動だったんだろうな、とは思いました。
    でも作中にも一般市民が政治や貿易に詳しい訳が無いと言ってように、そういった勉強などしていないので、どうすればいいのかなんて分からないなぁと納得してしまいました。
    スティーブンスのように、尊敬に値すると思える人の力になれれば、それだけで私も満足出来そうです。

    話がそれたり脱線したりするので読みにくいなぁとは思ったけど、スティーブンスのせいだと思うのでwまた別の作品も読んでみたいと思いました。

  • セリフメモ

    ・行けるうちに行っとくののが、利口ってもんでさ(p34)

    ・率直こそ最善の方策であると信じています。(p145)

    ・私にはその混乱を整理していける無限の時間があるよな気がしておりました。(p255)

    ・新しい挑戦を受けて立つには、古い方法を ーたとえ、どんなに愛されてきた方法でもだー 投げ捨てねばならん。(p285)

    ・いろいろな問題に強い意見をもっているからどうかで、人間の品格の有無が決定されるということでした(p300)

    ・自分の意志で過ちをおかしたとさえ言えません。そんな私のどこに品格などがございましょうか(p350)

    感想
    人生における、多くの教訓を示唆してくれる作品。
    強い信念は諸刃の剣である。
    他人に人生を預け捧げることは、美徳なようで怠惰なだけなのかもしれない。おそらくスティーブンスも気づいていた事だろうが、気づかぬ振りをしたのだろう。その方が楽だから。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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