日の名残り (ハヤカワepi文庫)

制作 : Kazuo Ishiguro  土屋 政雄 
  • 早川書房
4.08
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本棚登録 : 4972
レビュー : 685
  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200038

感想・レビュー・書評

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  • 昔大学の講義で習った、信頼できない語り手(しんらいできないかたりて、英語: Unreliable narrator)、という言葉を思い出しました。
    20イギリスの執事の回顧録。いかに自分が品格があり、理性的で、主人の仕事に盲目的に従っているかを蕩々と語っているが、その文章の節々から女中頭へ慕情、怒濤の時代の変遷を読者はうかがうことが出来る。
    執事の語られていないところで多くの事象が動いている(ex:女中頭の恋、政治経済の動向、父親の心境)のにも関わらず、それを一切排除し、私見に寄った語りを進めるので、重いと感じる人もいると思うし、逆に執事になりきって没頭出来る人もいると思う。

  • ある一人の執事が往年雇い主に仕えた日々を、女中頭への淡い恋心とともに振り返るという、特にストーリー的にも盛り上がることなく終わる物語なのだが、
    イギリス貴族の重厚な雰囲気と洗練された文章が読んでいて実に心地良い。
    訳文は、下手な受験生の関係代名詞の直訳のような意味の分かりづらい日本語なのだが、それがまたオールドキングスイングリッシュの古めかしい匂いがプンプンして、より一層戦前の大英帝国の雰囲気を醸し出してくれていた。
    2016/09

  • 物語の舞台は、英国、オックスフォードシャー。ダーリントン・ホールと呼ばれるお屋敷。

    多くの読者は(本レビューで)、終幕の海辺でのスティーブンスの「涙」と、見知らぬ老人の慰めの言葉に胸を打たれ、執事の回顧と哀しみに救いを感じたようである。
    だけど私は、あの場面に甘いセンチメンタルな味わいこそ感じたものの、共感を抱くことは出来なかった。
    スティーブンスは大切な人と一緒に生きる幸せを知ることはなかった。そして主体的に世界と切り結んだ自負も抱けぬまま、老境を迎えた。それは虚しく、愚かであると私は思うのだ。私はそんな生き方はしたくない。スティーブンスに与えられた慰めは、偽りの救いでしかない。私はそう感じた。私自身、いま老いの入口に差し掛かりつつある。それ故に、逆に、人生を回顧することに関して、シビアな心情を抱くのかもしれない。

    さて、この小説は、ある種の“読解力”を必要とするように感じた。本作でカズオ・イシグロは、メッセージやテーマを直接に彫琢するのでなく、間接的なやりかたで表現しているのである。
    比較的わかり易いところでは、ミス・ケントンのほのかな想い。彼女の“恋心”は、最後まで具体的な言葉で語られることはない。そしてスティーブンスの心情もまた然り。終幕、黄昏の海岸で、彼はハンカチを手にする。表現はそこまでに留められる。
    これらは比較的わかり易いものだし、文学的表現としては、そのほうが洗練されているので、それはよしとする。 だが、内容に一歩踏み込んで、以下の主題に関してはどうだろう。私は正直、うまく読みとれなかった。作者が伝えようとした本質を捉えそこねた気がしている。

    スティーブンスは、ダーリントン卿に多年にわたり執事として尽くした。だが、次第に、卿が取り組んだ仕事には誤ちも多かったとする他者の批判・批評が織り込まれてゆく。それでもスティーブンスは、“卿の生き方に間違いは無く、それを支え続けた自分の半生にも誤りはない、彼に付き従った人生に悔いは無い”と語る。
    終盤終幕の最終頁まで、この“悔い無し”の立場を貫き通すのだ。

    ところが、巻末の解説によると、ダーリントン卿が追求した事業には誤りがあり、執事として支えたスティーブンス自身もまた、それに盲目的に従ったことは愚かであった、とされる。(卿は、二次大戦の前後、お屋敷を舞台に外交活動に奔走したのだが、ナチスドイツに利用され、結果的に対独協力者の役割を担ってしまったのだ。)
    つまり、スティーブンスの執事としての矜持、職業的な忠誠心は、時代遅れであった。のみならず、ある階級に盲目的に従う面で、時代や社会への弊害もあったのだ。そうした悲哀もまた、本作のテーマであるという。
    上記の、執事という生き方への批判ということに関しては、うまく読みとることは出来なかった。

    スティーブンスは、同僚ミス・ケントンの想いを受け止めることなく、あるいは気づくことなく、執事の美学を禁欲的に貫いて老いを迎える。随分と哀しい生き方であることよ、と感じた。

    カズオ・イシグロという作家に関しては、私は、先に「解説」を読んでから( 作家の作法、フレームを知ってから)本編に臨むべき、かもしれない。

  • 英国の貴族の物語
    ノーベル文学賞受賞作家の代表作

  • 2018年11月3日開始
    12月6日読了

  • 20181030 読後感はあまり良く無い。いつ盛り上がるのかずっと期待していたが最後まで自分には分からなかった。シネマパラダイスで映像が燃えて溶ける場面。そんな終わり方も自分の好みでは無い。乾いた静かな空間で時を忘れて読書するような場面には合うのかもしれない。

  • このところ多忙につき、読感を書いている時間がない。
    とりあえず、読みましたということで、読了日と評価のみ記載。

  • アメリカ人のお屋敷の執事が短い旅に出る。思い浮ぶのは、品格ある執事とは何か、過去長く仕えたダーリントン卿、執事の鑑だった亡父、女中頭と女中たち、邸内で催された重要な外交会議…英国の過去の栄光とともにあった執事の来歴。

    丸谷才一の解説によるまとめ方が秀逸。真ん中くらいまで読み進んだところで解説を読んだのですが、その前後で見え方が一変してしまいました。

  • 戦前の旧き良きイギリスを描いた作品、と一言で言えばそうではある。ある意味、清廉潔白で美しすぎる作品。それがイギリス紳士なるものなのかもしれないけど、何というか、もう少し人間らしい側面からも登場人物たちを描いてほしかった、と思うのは浅い読み方だろうか。読み手によっては、違う読み方もあるかもしれない。そういう点では、幅広いファンがいそうな一作。

  • ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの代表作、読みました。
    執事が仕えた政界の名士への敬慕と女中頭への淡い想いの想い出を描く、伝統的な英国らしい話でした。

著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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