心臓抜き (ハヤカワepi文庫 ウ 1-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200052

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに再読。赤い小川の流れる村にやってきた精神科医ジャックモールは、崖の上の家でクレマンチーヌが三つ子を出産するのを助けたことから、その家に居候することになる。

    しかし自分に妊娠と出産の苦しみを与えた夫アンジェルを憎み、拒み(アンジェルはやがて出奔)、三つ子の育児も放棄しがちだったクレマンチーヌが、終盤どんどん狂気の母性愛を発揮しだすくだりがとても怖い。

    可愛らしい三つ子の、ジョエル、ノエル、シトロエンという名前は、彼らの父アンジェルも含めて、クリスマスに生まれたクローンの子豚たちの名前(ノエル、エンジェル、スター、ジョイ、メリー)を彷彿させられて、ファンタスティックなのになんだか切ない。青いなめくじを食べて空を飛ぶようになった三つ子の無邪気さも、やがて母の狂気によって摘み取られていく。

    村の人々も残虐で、老人売買と、動物・子供への虐待は当たり前、死体は川に投げ込んで、すべての村人の「恥」を受け入れる役目のラ・グロイールという男がその死体を歯でくわえて引き揚げなくてはならない。ラ・グロイールがもとは余所者だったこと、少しでも良心を残しているものがその役目をひきつがなくてはならないこと、彼が登場してそれを話した瞬間から、読者はジャックモールの行きつく先を予見してしまう。

    何故彼は逃げなかったのだろう。余所者である彼は、立ち去るだけで良かったはずなのに。最初は嫌悪していた村の風習に次第に感化されていきながらも、染まりきれなかった彼の良心を読者は褒め称えるべきなのか、憐れむべきなのか。
     
    解説:堀江敏幸

  • お取り寄せ220円也。

  • 気味が悪くて嫌悪感を覚える村。
    でも描写される自然は時に美しい。

    空っぽの精神科医は、精神分析と称し、他人の欲望や願望で空虚を埋めようとする。その行為は、どこか小説を読むことにも似てる気がした。

    子供たちの創造性にとても刺激された。残酷な結末。空を奪われても、彼らはノミにだってなれるのだと思いたい。

  • "奇妙な小説。奇妙な世界に生きる奇妙な人々の生活。
    (今の自分の視点からの感想)
    タイトルと表紙で購入した本。
    虐げられる子どもたち。
    虐げられる女性たち。
    虐げられる老人たち。
    これらが日常であり、淡々と描かれる。
    不思議な小説。時代考察を調べてみたくなる。1953年にフランスで出版されたらしい。作家に興味を持った。
    奇妙な世界を覗き見したくなる、人間の不思議な心理に踊らされている気がするが・・・"

  • 全てのセリフ回しがカッコいい。そして登場人物全員が完全に狂っているのに、さらに加速していく狂気はほとんどの読者を置いてきぼりにすることでしょう。僕もほとんどついていけてないわけですが、そこがまたカッコいい。

  • 不条理で不愉快な小説世界。これがなんとも言えない。中身は滅茶苦茶なようで妙に腑に落ちるというかある気分は確かに抱くわけで。それがうまい具合に何かを言い得ているというか。結晶化していく狂気と液状化していく狂気とそこかしこにある狂気といえる本質。嫌な気分になれること必定。でも面白いという。文学ならでは。

  • 「北京の秋」と並行読みしていたのに、追い抜いて読了。
    (前者は読み終わりたくなくてグズグスしているので当然かも)
    登場人物が2人、重なっているのでまずいかもと思ったけど、後日談という雰囲気ではなく。かする程度のスピンオフかなあ。

    何故か三つ子の描写が、やたらにマロセーヌシリーズを髣髴させる。ボリス・ヴィアン、おもしろいのに作品が少ない。

  • やっぱり良く分からん。ところどころできらめくが、俺の中では全くつながらない。

  • うーん、あんまり意味なし系の小説だとは思っていたけれど、そうなるとあとは雰囲気がハマるか否かという問題になって、結局のところハマらなかった。「うたかたの日々」みたいな優雅さとしゃれおつユーモアの世界じゃアないんだな。

    丘の上の一軒家にやってきた生まれたてほやほやの精神科医。彼は生まれたてなので人の欲望や願望を精神分析によって自分のものとしたいと企みます。でもって村人たちはこの人をバカだと思います。

    後半は母親が三つ子を守ろうと偏執狂的に囲っておこうとする、そういうお話に。三つ子のお遊びにヴィアンの良心(?)というか、子供心を垣間見たくらいかな。

  • 「うたかたの日々」に心臓抜きという道具が登場しますが、この小説はその道具とは関係ないです。
    とにかく不思議な小説です。
    精神科医の主人公ジャックモールがたどり着いた空虚な場所。そここで出会う人々。物語はあってないようなもので、不思議な情景描写や、出来事がなんとも味わい深いものになっています。かなり病んだ内容で、現代にも通じる部分はあると思うんだけど、ちょっとグロテスクなテイストが思いきって入り込めませんでした。
    「うたかたの日々」とはまた違った感じがしましたが、文章に漂う幻想的な感じは通じる部分があると思います。

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著者プロフィール

(Boris Vian) 1920年、パリ郊外に生まれる。エンジニア、小説家、詩人、劇作家、翻訳家、作詞・作曲家、ジャズ・トランペッター、歌手、俳優、ジャズ評論家など、さまざまな分野で特異な才能を発揮した稀代のマルチ・アーチスト。第二次大戦直後、「実存主義的穴倉酒場」の流行とともに一躍パリの知的・文化的中心地となったサン=ジェルマン=デ=プレにおいて、「戦後」を体現する「華やかな同時代人」として人々の注目を集め、「サン=ジェルマン=デ=プレのプリンス」 とも称される。1946年に翻訳作品を装って発表した小説『墓に唾をかけろ』が「良俗を害する」として告発され、それ以後、正当な作家としての評価を得られぬまま、1959年6月23日、心臓発作により39歳でこの世を去る。生前に親交のあったサルトルやボーヴォワール、コクトー、クノーといった作家たちの支持もあり、死後数年してようやくその著作が再評価されはじめ、1960年代後半には若者たちの間で爆発的なヴィアン・ブームが起こる。

「2005年 『サン=ジェルマン=デ=プレ入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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