侍女の物語 (ハヤカワepi文庫)

制作 : 斎藤 英治 
  • 早川書房
4.05
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本棚登録 : 514
レビュー : 64
  • Amazon.co.jp ・本 (573ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200113

作品紹介・あらすじ

侍女のオブフレッドは、司令官の子供を産むために支給された道具にすぎなかった。彼女は監視と処刑の恐怖に怯えながらも、禁じられた読み書きや化粧など、女性らしい習慣を捨てきれない。反体制派や再会した親友の存在に勇気づけられ、かつて生き別れた娘に会うため順従を装いながら恋人とともに逃亡の機会をうかがうが…男性優位の近未来社会で虐げられ生と自由を求めてもがく女性を描いた、カナダ総督文学賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • me too運動と相俟って新たにドラマ化され、
    再度脚光を浴びたと思しい、
    1985年発表(原著)の、
    当時から見た近未来ディストピアSF長編小説。

    性の乱れや人口減を憂えたキリスト教原理主義勢力が
    アメリカ大統領を暗殺し、政権を掌握、
    女性の仕事と財産を奪い(銀行預金は父または夫の名義に変更)、
    出産可能な女性を教育施設に送って「侍女」に仕立て上げ、
    権力者の家に住まわせて、その子供を産むように仕向ける。
    「侍女」は書物を読むことも書きものも禁じられ、
    情報は遮断されている。

    物語の語り手は、夫とも幼い娘とも引き離され、
    本来の名前を奪われて「フレッドに仕える女」の意味で
    「オブフレッド(of Fred)」と呼ばれている。
    彼女は生き延びるため、
    従順な「侍女」を装って自らを環境に順応させようとするが、
    夜、一人きりになると夫や娘や母や友人に想いを馳せ、
    かつての生活を回想する。

    この、読んでいて気分が悪くなるような小説が
    現代において再評価されることの意味を考えたい。
    執筆当時に著者が憂慮した事態は過去の問題ではなく、
    これから先の世界にぽっかり口を開けて
    待ち構えているかもしれない。
    だが、「生む機械」だとか「生産性」があるだのないだの、
    政治家などに言われる筋合いはないのだ。

    一連の事件をわかりやすく整理した最終章
    「歴史的背景に関する注釈」が、
    あまりにクールでショッキング(笑)。
    現在の我々の営みも、未来人に回顧されれば、
    ちっぽけで他愛ない話として片付けられるのだろうか……
    と考えると、二重に怖くなる作品である。

  • 未来ディストピア小説。
    あらすじはアメリカが舞台で、キリスト教原理主義の過激派がクーデターを起こし、聖書を言葉通りに実践する宗教独裁国家を作り上げる。彼らは白人の人口減少に危機感を抱いていた。そこで、すべての女性から財産と仕事を没収する。老女と妊娠できない女性はコロニーに送られる(具体的な描写はないが、おそらく強制収容所のような場所でそこで危険な労働をさせられる)。そして妊娠可能な女性だけを「侍女」として育成保護し、エリート層の男性宅や司令官のもとへ派遣する。妊娠させ子を産ませる。そんな侍女の一人・オブフレッドの目を通して全体主義国家を描いたSFストーリー。

    最初は荒唐無稽なSFと高を括って読み進めていたが、これが現代的な内容でリアルさがあり読後は寒々とした気分になった。
    スパイや反逆者を公開処刑する描写や処刑した者を見せしめのために壁に吊るす社会という設定はいささか陳腐で手垢に塗れた背景描写だ。だが細部にまで張り巡らした設定が巧くリアルである。
    特に侍女の名前。どの侍女も所有格の「オブ」から始まる。オブのあとに自分が派遣された男性のファーストネームを強制的に付けられる。つまりこれで女性は本名を奪われていると同時に男性の支配下に置かれることを暗示している。自由を奪われた事実。尊厳を踏みにじる社会の現実。人の名前を書き換える。これら細部を描くことで彼女たちが生きる暗い未来世界を表現しているところに作家の卓抜な創造性を感じる。


    司令官と侍女とのセックスなどは色気も官能もなく無機質な生殖行為として描写しているところも上手い。衣装や化粧がもつ根源的な魅力と誘惑に惹かれる女性の性や権力の問題やそもそも妊娠とは?などの今日的なテーマも散りばめられているので、物語としても最後まで興味深く読める。

    ただ、物語の長さはこれだけ必要なのかということは問われていいと思う。
    ストーリー構成はオブフレッドの生い立ちや自由だった頃の遠い過去の記憶と、侍女になるためにセンターで教育され自由を奪われたときの近い過去と、司令官宅へ派遣された現在の三構成だ。(と付録として独裁体制が終わった後の世界での講演会記録)。これらをメリハリなく物語に混ぜ込んでいるのでただただ長く感じ、終盤にやや読んでいるとダレる。ストーリー設定の奇抜さで最後まで読めるが、構成の妙を効かせて欲しかった。

    読みながらイスラム国(IS)が思い浮かんだ。コーランの言葉を自分たちの支配のために利用する独善性と狂信さはこの小説に登場する国と重なる。ISが現在も行っている女性に対するレイプや集団拉致、強制結婚は小説ではなく現実だ。
    「侍女の物語」は1985年に発表された。随分古い本だ。でも書かれていることが、妙にリアルに迫ってくる。未来ディストピア小説から「ディストピア」が取れて小説ですらなくなり、現実がSFを凌駕している事実にもっと戦慄すべきなのかもしれない。

  • アメリカがキリスト教原理主義勢力のクーデターにより全体主義的統治をされるようになった近未来を描くディストピア小説.主人公は「オブフレッド= of Fred」という名前で呼ばれる女性.この時代,汚染や環境破壊によって出生率が低下しているため,出産可能な女性は権力者の妾,いや,もっといえば出産機として,自由に行動すること,話すことすらもが全く禁止された暮らしを強いられている.
    こんな時代だから必読.

  • オリックスとクレイクを読んだので。

  • テーマと主人公の感じが好みじゃないにも関わらず最後まで読ませる描写力です。訳者あとがきで著者のアトウッドが述べている事として、カナダ小説の特徴として
    ①主人公が運命に対して受身である
    ②彼らにとって「生き残ること」が至上命題である
    ことを上げていて、本書の特徴でもあると説明されているが、多分僕は主人公が壁や挫折を乗り越えて成長して欲しいのです。

    あともう一つ。聖書原理主義的な世界なのですけれど、監視社会への恐怖が主に感じられて、神への怖れをどこからも感じない。もちろん集まって教会のような聖書の言葉が語られるシーンもあるのですけれど。その、建前は聖書原理なのに気にしているのは周りの人間と社会制度であることがまた、リアルと言えばリアルです。

    ・オブグレンは何も答えない。沈黙の時間が過ぎる。でも、何も言わないことも、何かを言うことと同じくらい危険なときがある。
    「ええ、わたしたちはすごく幸福です」と、わたしは小声でつぶやく。何か言わなければならない。だとしたら、他に何と言えるだろう?

    ・80年代のことだが、畜舎の中でぶくぶく太ってしまった豚のためにピッグ・ボールというのが発明された。それは鮮やかな色のボールで、豚はそれを鼻で突いて転がして遊ぶのだった。豚を扱う商人たちは、この発明のおかげで豚の肉が引き締まったと言った。豚は好奇心が強いので、何か考える種があると喜ぶのだった。
    わたしはその話を『心理学入門』で読んだ。また、折に閉じこめられた鼠の話も読んだ。彼らは檻の中で何もしないでいるよりは、自らすすんで電気ショックを受けようとするのだった。
    …わたしもピッグ・ボールがほしい。

    ・わたしはエッグスタンドの位置をちょっとずらし、窓から差し込んでお盆の上に当たっている光の中に入れる。光はお盆の上で明るくなったり、翳ったり、また明るくなったりしている。卵の殻はなめらかだけど、ざらついてもいる。日光が当たり、カルシウムの細かい粒子が月のクレーターのように浮かび上がる。不毛の土地を思わせる光景、でも完璧だ。かつて聖人たちが贅沢によって心を乱されないようにと入っていった砂漠のようだ。神はこのような卵の形をしているのではないかとわたしは思う。月の生物も、表面ではなく内側にいるのかもしれない。

  • ある日突然女性が口座を凍結されカードを使えなくされ、何者かに支配されてモノ扱いされという設定のディストピア小説(舞台はアメリカ)。何のためにそのようなことが行われたのか、どのような思想によってというのが気になりつつ、主人公の動向や侍女たちの運命も気にしつつ読み進めていくうちになんと奇妙なことに今私たちがいる「現代」のような核が見えてきてしまった。
    原発事故や環境汚染によって極端に出生率が下がった白人の人口を回復させるために権力者の元に出産能力のある女を「侍女」としてあてがい、出産させ、それが終わるとまた別の司令官(権力者)の家庭に配属され、の繰り返し。もともと出産能力を有さない女は収容所のようなとことに連れて行かれて原発事故の後処理や運が良ければ農業に従事させられ、死ぬまでこき使われる。
    はっとさせられる箇所は数えきれないほどある。でも一番印象的だったのは、口座がとめられカードが止められ、夫にすべてを譲渡されたその日から夫婦の力関係が変わってしまったこと。別に夫が金でもって妻に横暴な態度をとるとかそういうことはなくむしろ優しく「何があっても君は僕を養うし守る」ということを言ってくれるんだけど、妻(主人公)は自分が守られて養われる存在になったことにショックを受ける。(ちなみに会社も軍に制圧されて解散、子供は取り上げられる。今まで築き上げてきたすべてが奪われる)
    で、あのエピローグ。
    私は『アララトの聖母』という映画が大好きなんだけど、あの映画の唯一ダメなところはラストの字幕。あの主張は本当にいらなかった。虐殺あったなかったっていうことを直接主張するんじゃなくて説得するための物語(映画)だったのでは?と疑問を感じた。
    しかし『侍女の物語』はその辺の後世の人間が持つであろう疑問や曖昧さをしっかりと汲み取っている。素晴らしい。

  • 21世紀の物語らしい。
    この本の物語は本物になりつつあると思われる。

  • ディストピア小説。キリスト教的な宗教がアメリカを統治している。奇形児の出産が増え、国家的に出産をコントロールするため、宗教的に代理母制度が発展した世界。この世界では、女性を保護すると謳いながら女性は虐げられている。
    厳格な教義があり人々はそれを厳守しているかに見えて、守らない。隙間がないと思われた升から水が滲み出るように、人は欲望を抑えられないから、人の目から隠れて規則を破り、夢想する。

  • 女性が出産の使役として扱われる社会。
    帯に「トランプの社会の未来がここにある」と書かれていたけど、日本は少子化なので、むしろ日本の方がこの世界とより近いのでは?と思った。

    読み終わるのに二ヶ月かかった。

    挫折しても良かったけど、絶対面白いという期待がそうさせた。
    読み終わって、ようやく世界観の外形が構築できたので、時間をあけて再読したい。

  • SF

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著者プロフィール

Margaret Atwood 1939年カナダのオタワに生まれる。オンタリオ北部やケベックで少女時代の大半を過ごし、トロント大学に入学、ノースロップ・フライのもとで英文学を学ぶ。その後、ケンブリッジ、ラドクリフ大学で英文学修士号を取得。さらにハーバード大学大学院で学んだ後に、カナダ各地の大学で教鞭を執る。処女詩集『サークル・ゲーム』でカナダ総督文学賞を受賞。詩、長編、短篇小説から評論、児童書まで幅広く活動する。詩集『スザナ・ムーディーの日記から』(1970)、小説『食べられる女』(1969)、『浮かびあがる』(1972)、『侍女の物語』(1985)『Alias Grace』(1996)などで世界各国の文学賞に輝く。最新作『The Blind Assassin』(2000)でブッカー賞を受賞。評論集『サバイバル』(1972)ではカナダ文学とは何かを正面から問いかけた。邦訳書に『キャッツ・アイ』(マーガレット アトウッド 著、松田雅子、松田寿一、柴田千秋訳、開文社出版、2016年)、『負債と報い――豊かさの影』(マーガレット・アトウッド著、佐藤アヤ子訳、岩波書店、2012年)『死者との交渉―作家と著作』(マーガレット アトウッド著、中島恵子訳、英光社、2011年)『オリクスとクレイク』(マーガレット・アトウッド著、畔柳和代訳、早川書房、2010年)『またの名をグレイス 上・下』(マーガレット・アトウッド著、佐藤アヤ子訳、岩波書店、2008年)『ペネロピアド(THE MYTHS)』(マーガレット・アトウッド著、鴻巣友季子訳、角川書店、2005年)『良い骨たち+簡單な殺人』(マーガレット・アトウッド著、中島恵子訳、北星堂書店、2005年)『カンバセーション アトウッドの文学作法』(マーガレット・アトウッド著、加藤裕佳子訳、松籟社、2005年)『ほんとうの物語』(マーガレット・アトウッド著、内田能嗣 訳、多湖正紀・山本紀美子 共著、大阪教育図書、2005年)『昏き目の暗殺者』(マーガレット・アトウッド著、鴻巣友季子訳、早川書房、2002年)『闇の殺人ゲーム』(マーガレット・アトウッド著、中島恵子訳、北星堂書店、2002年)『寝盗る女 上・下』(マーガレット・アトウッド著、佐藤アヤ子・中島裕美 共訳、彩流社、2001年)『マーガレット・アトウッド短編集』(マーガレット・アトウッド著、Alan Turney編、久慈美貴 注釈、ロングマン・ジャパン、1998年)『食べられる女』(マーガレット・アトウッド著、大浦暁生訳、新潮社、1996年)『サバィバル』(マーガレット・アトウッド 著、加藤裕佳子訳、御茶の水書房、1995年)『Sudden fiction (2)』(「ハッピー・エンド」 Happy Endings 収録。ロバート・シャパード 著、ジェームズ・トーマス 訳、柴田元幸 著、文芸春秋(文春文庫)、1994)『ファミリー・ポートレイト—記憶の扉をひらく一枚の写真』(「偉大なる叔母たち」 Great Aunts収録。キャロリン アンソニー (Carolyn Anthony)編、松岡和子・前沢浩子訳、早川書房、1994年)『浮かびあがる』(マーガレット・アトウッド 著、大島かおり訳、新水社、1993年) 『青ひげの卵』(マーガレット・アトウッド 著、小川芳範訳、筑摩書房、1993年)『スザナ・ムーディーの日記』(マーガレット・アトウッド著、平林美都子 他訳、国文社、1992年)『侍女の物語』(マーガレット・アトウッド著、斎藤英治訳、新潮社、1990年→ハヤカワepi文庫(早川書房)2001年)『ダンシング・ガールズ マーガレット・アトウッド短編集』(マーガレット・アトウッド著、岸本佐知子訳、白水社、1989年)『描かれた女性たち 現代女性作家の短篇小説集(SWITCH LIBRARY)』(「急流を下る」 The Whirlpool Rapids収録。マーガレット・アトウッド・アリス マンロー・アン ビーティ 他著、岸本佐知子 他訳、Switch編集部編、スイッチ・コーポレーション書籍、1989年)などがある。

「2001年 『寝盗る女 (下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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