侍女の物語 (ハヤカワepi文庫 ア 1-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (573ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200113

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  • 米国のキリスト教原理主義者のクーデターによって樹立したギレアデ共和国を舞台としたディストピア小説。環境汚染などによって出生率が劇的に低下し、そのための対策としてギレアデ共和国では出産能力が確認された(=一人でも子どもを産んだことのある)女性は「侍女」として、子のいない上流階級の家庭に派遣される。派遣先の家で「侍女」は名前を奪われ、その家の家長の所有物であることを意味する新たな名前がつけられる。「侍女」は家長と「愛」を徹底的に排除した性交をし、その夫婦の子どもを産むことが求められる。この物語は、主人公である「侍女」の独白によって展開される。どうしてギレアデ共和国ができたのか、その外側では何が起こっているのかは多少は語られるものの、はっきりとは分からない。それはこの物語を語っている彼女が「侍女」であり外部の情報から遮断されているだけでなく、この国ではそもそも女性の読み書きすら禁じられているからだろう。
    決して読後感がよいとは言えないものの、性や生殖・所有権(この物語ではクーデター後に女性の銀行口座は停止され夫のものになっている)など、現実世界の、ある意味では今日でも続いている性差別が盛り込まれたディストピアっぷりが気になり、なぜか最後まで読まされてしまった。

  • 未来ディストピア小説。
    あらすじはアメリカが舞台で、キリスト教原理主義の過激派がクーデターを起こし、聖書を言葉通りに実践する宗教独裁国家を作り上げる。彼らは白人の人口減少に危機感を抱いていた。そこで、すべての女性から財産と仕事を没収する。老女と妊娠できない女性はコロニーに送られる(具体的な描写はないが、おそらく強制収容所のような場所でそこで危険な労働をさせられる)。そして妊娠可能な女性だけを「侍女」として育成保護し、エリート層の男性宅や司令官のもとへ派遣する。妊娠させ子を産ませる。そんな侍女の一人・オブフレッドの目を通して全体主義国家を描いたSFストーリー。

    最初は荒唐無稽なSFと高を括って読み進めていたが、これが現代的な内容でリアルさがあり読後は寒々とした気分になった。
    スパイや反逆者を公開処刑する描写や処刑した者を見せしめのために壁に吊るす社会という設定はいささか陳腐で手垢に塗れた背景描写だ。だが細部にまで張り巡らした設定が巧くリアルである。
    特に侍女の名前。どの侍女も所有格の「オブ」から始まる。オブのあとに自分が派遣された男性のファーストネームを強制的に付けられる。つまりこれで女性は本名を奪われていると同時に男性の支配下に置かれることを暗示している。自由を奪われた事実。尊厳を踏みにじる社会の現実。人の名前を書き換える。これら細部を描くことで彼女たちが生きる暗い未来世界を表現しているところに作家の卓抜な創造性を感じる。


    司令官と侍女とのセックスなどは色気も官能もなく無機質な生殖行為として描写しているところも上手い。衣装や化粧がもつ根源的な魅力と誘惑に惹かれる女性の性や権力の問題やそもそも妊娠とは?などの今日的なテーマも散りばめられているので、物語としても最後まで興味深く読める。

    ただ、物語の長さはこれだけ必要なのかということは問われていいと思う。
    ストーリー構成はオブフレッドの生い立ちや自由だった頃の遠い過去の記憶と、侍女になるためにセンターで教育され自由を奪われたときの近い過去と、司令官宅へ派遣された現在の三構成だ。(と付録として独裁体制が終わった後の世界での講演会記録)。これらをメリハリなく物語に混ぜ込んでいるのでただただ長く感じ、終盤にやや読んでいるとダレる。ストーリー設定の奇抜さで最後まで読めるが、構成の妙を効かせて欲しかった。

    読みながらイスラム国(IS)が思い浮かんだ。コーランの言葉を自分たちの支配のために利用する独善性と狂信さはこの小説に登場する国と重なる。ISが現在も行っている女性に対するレイプや集団拉致、強制結婚は小説ではなく現実だ。
    「侍女の物語」は1985年に発表された。随分古い本だ。でも書かれていることが、妙にリアルに迫ってくる。未来ディストピア小説から「ディストピア」が取れて小説ですらなくなり、現実がSFを凌駕している事実にもっと戦慄すべきなのかもしれない。

  • 驚くべきおもしろさ。

    『侍女の物語』読んだ。
    徹底して主人公オブフレッドの視点で描かれるので、国がどうなっているのかとか、他国は、世界はどうなっているのかということがまるでわからない。というか家の外のことがもうわからない。読者も主人公と同じ情報しか持っていないので、読んでいて極めて不自由で息苦しい家に閉じ込められた感覚になる。だからこそそんな生活の中でそれでもいくつかの微かな光をつかみそうになる描写がめちゃめちゃスリリングに感じる。
    去年続編が出たということでそっちも読みたいんだが、その前に読みたい課題図書がいくつかあるので続編はいずれまた。

    巻末の落合恵子の解説が野暮すぎて、あれさえなければと思った。

  •  放射能汚染と感染症で出生率が極端に低下した近未来。アメリカ合衆国でクーデターが起こり、キリスト教原理主義国家のギレアデ共和国が建国される。高級官僚「司令官」の家に赴任してきた主人公の「侍女」オブフレッドの一人称で語られるのは、処刑と監視と密告が横行し、女性から名称と財産を取り上げ身分に分けて行動を極端に制限する、中世ヨーロッパにナチスとISを足したような強烈なディストピア世界である。読者はオブフレッドの語りを通してギレアデ共和国のおぞましさを追体験する。
     それはほぼ恐怖体験で、かつてない程息苦しくページの進まない、辛い読書時間だった。その分本書が発しているメッセージは強靭で、発表から40年経った現在でも世界中で「女性の心身の決定権は女性本人にある」という当たり前のことがあらゆる形で阻害されているのを鑑みれば、決して色褪せることのない名作である。

  • マーガレット・アトウッドの代表作であり、アトウッドの名を知らしめたディストピアSFの傑作。
    つい先日、オーウェルの『1984』を再読したばかりで、『1984』とのリンクも多く興味深かった。更に本作が書かれたのが1984年のベルリンだったというのだから面白い。発表当時、作品の評価は高かったが、こんな社会はありえないという見方が多かったようだ。
    だがHulu製作で『ハンド・メイズ・テイル 侍女の物語』が製作されたり、トランプが大統領に就任してからのアメリカ社会の動き、また世界的なme tooムーブメントを含むフェミニズムの流行などから再評価される動きになったらしい。

    自分はまさか1980年代の作品だと思っていなかったので、その背景を知って驚いた。
    そして日本にいても、他人事には感じない時代性のある作品だと感じた。
    どこかの議員が女性のことを「産む機械」発言をしたり、女性の賃金が男性と比べて低かったり、女性の社会進出を応援しますという企業広告に男性ばかり載っていたりと、『侍女の物語』に記されているような過酷な状況ではないにしても、未だに生きにくい女性の状況を考えると、『侍女の物語』は日本の延長線上にある社会にあるようにしか見えない。

    「自分はこれまでの歴史上や現実社会に存在しなかったものは一つも書いたことがない」とマーガレット・アトウッドは語っている。
    『侍女の物語』はまさに今現在、日本で世界で起きている状況を語っていると読んでいて思ってしまった。

  • 長い間積んだり読んだりしたので、ちゃんと読めてないかもしれないけど…

    女性が産む機械として成立している国での近未来ディストピア。そこにずっと漂う閉塞感、誰を信じればいいのか、誰も信じてはいけないのかわからない恐怖。最後は結局どうなったんだろう?
    巻末の章のうすら寒さに心が凍りつくようだった。この人たちにはなーんも関係ない話なんだもんな。

  • 近未来、出生率の著しい低下のため、妊娠可能な女性は「侍女」として司令官宅に赴任する。夫・娘との生活の記憶、相互監視、死の儀式。

    人類に子供が生まれなくなる、という未来の話だけれど、女性と子供については聖書にもあるくらい昔からの話でもある。

  • ディストピア小説好きは必読

  • ひゃーむちゃくちゃ面白かったー…
    NHKの100分de名著の特別版、フェミニズム特集で取り上げられていて面白そうだと思った一冊。
    買った時はその分厚さに途中で脱落する系の本だ、これ絶対…と思ったけど、最後はその厚さがどんどんと残り少なくなっていくのに肝心なところに辿り着いていないような気がして大丈夫なの、ねえこれちゃんとわかるところまでいくの?とページをめくる手が止まらなかった。
    そして結局、この本は辿り着かなかった。なに一つ、分からなかった。なんなのだろう、この本の中で私が出会った感情は、どれも身に覚えがあるような気がするのに、私は彼女たちとは違う立場にいる。
    こんなひどくないと思いたいけど、じゃあ結局なにがいちばんいいというのだろう。

  • 性役割や婚姻、出産、娯楽までもが全て国家と宗教に統治されることの恐怖を描きながら、それらを、文字を奪われ語ることを禁じられた侍女によって綴させる秀逸さに脱帽。文学には伝える力、残す力、そして逃避の力など無数の可能性を持ち合わせていることを証明している。

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著者プロフィール

マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood):1939年カナダ生まれ、トロント大学卒業。66年にデビュー作『サークル・ゲーム』(詩集)でカナダ総督文学賞受賞ののち、69年に『食べられる女』(小説)を発表。87年に『侍女の物語』でアーサー・C・クラーク賞及び再度カナダ総督文学賞、96年に『またの名をグレイス』でギラー賞、2000年に『昏き目の暗殺者』でブッカー賞及びハメット賞、19年に『誓願』で再度ブッカー賞を受賞。ほか著作・受賞歴多数。

「2022年 『青ひげの卵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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