わたしたちが孤児だったころ (ハヤカワepi文庫 イ 1-3)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (537ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200342

感想・レビュー・書評

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  • カズオイシグロに限らずどんな作品であれ、面白さがイマイチわからない場合は、書かれていないことに思いを馳せたり、自分の感度の鋭さ、想像性、ベースとしている考え方にフォーカスし点検して、世界は、人は多様なのだという考えを意識して当たってみると新たな発見があると思う。



    自分の考えを述べると同調か嫌悪で終わってしまい、議論してよりよくしていこうという人間がかなり少なくなったと思う。



    読んでいて
    「フォーカスすればするほど、それはよく理解できるけど、その周囲は見えなくなる。大事だと思うものや必要だと思うものをすくったとする。でも、すくった指の間から零れ落ちたものの方にこそ価値があることが多い。」
    という養老孟司の見方を思いだした。

  • もしも母と父が生きていたら、ではなく母も父も生きている、という他人からしたら幻想にしか思えない奇妙な思い込みとも言えるようなものに生かされている男の話に感じた。クリストファーにあったさびしさはサラにもあって、二人の共通点は孤児であることをはじめ少なくないものの、サラの方がしかと現実を見据えていたからこそ、生活のさまざまな場面で辛くさみしい思いをすることになっていそうだった。泣いたのは一度だけだ、みたいな描写もあったけど、クリストファーがそういう意味で辛くなったのは、少年の頃に居なくなったと分かった後の少しの間だけで、あとはもう生きていると少年の頃のままに確信をして、両親の不在に立ち向かう、彼の生きる目標と言っても過言ではない強烈な願望で物語が進んでいった。しかしこれを後々の地に足をつけたクリストファーが書いているというのが、客観性や多少の読みやすさを加えている部分だった。

  • 『クララとお日さま』読んだ後、カズオ・イシグロの積読あったよなと取り出して読んだ一冊。イシグロの祖父が上海で働いていて、その縁もあって上海を舞台の小説を書いているよって教えられて買ったもの。
    ホントは、純粋にミステリー小説としても読めるんだろうけど、話に出てくる上海の租界の様子を想像しながら読み進めた。そうなんだよね。日中戦争の時、上海の市街も戦場になったんだよね。
    途中で出てくるキャセイホテルは今の和平飯店。ここも聖地巡礼しておかないと。
    最後、親子愛が隠れたテーマなんだなと気づき、ちょっとほろっとした。

  • 主人公も、その周りの人も身勝手だなあと思う場面が多かった。遠回しに「今は時間がないので話しかけないで」って言ってるのに、また遠回しに「いやこれは重要なことなんですから」と柔和な言い回しで反論しながら話し続けたり、重傷の親友を自分の目的の為に引っ張り回したり…。話の本筋ではないけど、遠回しな言い方そのものや、遠回しに柔和に言えば相手の都合を考えなくていいって思っていそうな傲慢さにイライラしてしまった…。もっとお互いはっきり言えばいいのにと思ったけど、それは私が子供すぎるのか、文化の違いなのか。同作家の「充されざる者」を思い出した。

  • ロンドンで探偵業を営み、今売り出し中の若者クリストファー・バンクスは、かつて上海の租界で少年時代を楽しく過ごしたが、両親が突然失踪して孤児になってしまい、親戚を頼ってイギリスに帰郷した孤児だった。その後上海には行っていないが、心はかつての上海の街に囚われていた。

    探偵を職業に選んだのも、いずれ自分の手で両親を見つけ、救いだすためだった。当時、クリストファーの父親は阿片を取り扱うイギリス商社で働き、母親は阿片で稼ぐイギリス商社の破廉恥な行いを糾弾する運動に勤しんでいた。そんな中で両親は、阿片取引や国民党・共産党の内戦に絡んだ事件に巻き込まれ、上海の街のどこかに拉致監禁されたものと思われた。

    探偵として名声を勝ち得たクリストファーは、満を持して上海に乗り込み、両親を救いだそうと捜査を開始する。ところが、日中戦争が本格化し、響い戦闘も行われて混乱を極める上海の街での捜査は難航し…。

    ちょっと待て。20年以上前に失踪した両親が、未だに上海の街中で監禁されていると思い込むってどういうこと?? そもそもクリストファーは両親の失踪事件を捜査しているだけなのに一人で世界の難問に立ち向かっているかのような強い自負を抱いているし、戦闘中の兵士に強引に道案内させてしまうし(笑)。クリストファーの言動や行動は大仰というか、まるでおままごとのような感じと言ったらいいすぎかな。

    同じく孤児でロンドンの社交界を自由奔放に渡り歩くサラ・ヘミングズもかなりとんがったキャラだったな。クリストファーとの関係も微妙というか。

    クリストファーの回顧調の独白で進む物語は、いろんな矛盾を孕んでいて、そのため現実感が薄い。でも展開が気になってグイグイ引き込まれていく。セピア色に霞んだノスタルジックな夢物語。独特の味のある作品だったな。

  • 今回も無常感漂う話だった。後半は映画的なドラマチックさがあった

  • 子どもの頃思ってた事。母親がかけっこで自分を追い越してちょっと不機嫌になるところとか、どうしてこんな風に綺麗に思い出せるんだろう。イシグロの繊細で、今感じたばかりのような感情の描写が好きだ。

    非常にヘビーな内容。命懸けで戦地を彷徨うシーンは、後ろから闇が追いかけてくるのに走っても走っても進まない悪夢のよう。時空がぐにゃりと曲がった表現が上手いなぁと改めて思う。

  • 読めなかった!
    途中までは読んだけど、その先が気になると思えず、挫折した。

  • 後半ぐだぐだだったが終盤で盛り返し一気にクライマックスな1冊だった。

  • タイトルは魅力的なのに、裏表紙のあらすじ紹介がイマイチ気に食わなくて手に取らずに来たものの、食わず嫌いもよろしくないと思い手に取った一冊。
    あらすじ紹介より面白いです。
    「冒険譚」なんて紹介されているけれど、どちらかというと主人公が不条理さに巻き込まれていきながら、最後は何とか抜け出して戻ってくる、というほうがよいかと。
    とにもかくにも、予想より面白かった一冊です。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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