昨日 (ハヤカワepi文庫 ク 2-4)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200359

感想・レビュー・書評

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  • 貧しい家庭で育ったトビアスが、理想の女性リーヌを求めて人生をさ迷う話。トビアスは非常にぶっ飛んだことをしでかすのだが、『悪童日記』三部作のように事象が淡々と綴られているため、読み手の心には不思議と重たさは残らない。また、文体にも特徴があるからだろうか、やはり不思議な雰囲気を纏った物語である。個人的には、可もなく不可もなくといった作品。この本に関しては、ほかに述べる印象は特にない。

  • 暗く冷たい厚い雲に常に覆われているような毎日と絶望することさえない諦観したような主人公の、現実の「私」と「私」が書いたと思しき幻想が交互に語られていくTHE虚無感な世界。でも不思議と重くはないし悲しくもない。でもなぜか印象は強く残って惹き込まれる。
    出だしのエピグラム的な言葉が美しい。

  • 続けて、Audibleで聞き続けていたけど、寝かしつけのときに疲れ果ててるときだったのでなんとなくココロの中には落ち着かず。

    またまたこちらもくらい感じで書かれているけど、前三部作とは違って勢いはあんまりなかったなぁ。

    再読したい、またあと5年後くらいに。

  • 引き続き、アゴタ・クリストフの第四作『昨日』を聴き始める。

    貧しい娼婦の母親と、母のもとに通う自己中の小学校教師のあいだに生まれた私生児トビアスは、自らの手で両親を刺し殺し、戦争のどさくさに紛れて国境を越え、姓名を偽って新たな人生を歩み始めるが、どこに待っていたのは、先の見えない灰色の人生だった。

    目の前の現実を直視できずに夢の中に逃げ込む姿は、リュカを、クラウスを、そして自分の世話をするために戻ってきたクラウスを受け入れず、そこにいないリュカにすべてを託す双子の母親を思わせる。過酷すぎる現実を前にしたとき、それを拒み、過去や自分が生み出した妄想にしがみつくことでかろうじて精神のバランスを保ってる人に対して、「現実を見よ」「いまをおろそかにするな」というだけでは、おそらくなんの助けにもならない。だけど、いつかはそれを受け入れないと、本人も前を向けない。

    現時点ではトビアスがこの先どうなるかは予測できないが、少なくとも著者のアゴタ・クリストフにとっては、書くことが癒しになっていたはずだと思いたい。そうでなければ、救われない。

    オーディブルはアゴタ・クリストフ『昨日』の続き。

    異国の地で工場労働者として希望のない日々を過ごしてきたトビアス(サンドールと名乗る)の心の支えだったリーヌは、自分が殺した(と信じていた)父親サンドールの娘カロリーヌその人だった。夫の研究に付き添って彼の地にやってきたリーヌと再会したトビアスは、異母妹だと知りながら恋心を燃やしてしまう。

    腹違いの兄妹の禁断の恋は「第三の嘘」でも語られたテーマで、過酷な子ども時代を送った著者にとって兄の存在がいかに大きかったかを思わせるが、それは倫理的にも社会規範的にも生物学的にも越えてはいけない一線で、だからこそ、その実らぬ恋はトビアスをさらに駆り立てる。双子のぼくらなら間違いなく何かが起きる前兆なのだけど、トビアスの場合はどうか。それともCのほうのクラウスが最終的にサラを遠ざけたように、トビアスにも理性的な判断力が残されているのか。

    オーディブルはアゴタ・クリストフ『昨日』が早くも今日でおしまい。

    トビアスとリーヌはやはり一線を越えられなかった。正義の鉄鎚を下す高揚感に包まれたトビアスは、しかし、実の父親の殺害にもリーヌを苦しめる夫の殺害にも失敗したのであって、西魏の味方にも悪人にもなりきれない残念で中途半端な男として、その先の人生を送ることになる。

    だが、よく考えてみると、あれだけの物語を紡いだリュカとクラウスだって、現実(と私たちが思わされてる)世界では、実に冴えない人生を送っていたにすぎない。そうした冷めた諦観があるからこそ、空想の世界では波瀾万丈な生き方を切望してやまなかったともいえる。

    実現するあてのない願望にすがって生きることを諦め、目の前の現実を受け入れて生きることを決めた瞬間から、トビアスはようやく、帰りたい祖国を持たない流浪の民であることをやめ、地に足のついた生活を始めることができた。その相手が、空想の中の想い人であるリーヌではなく、ヨランダだったのは必然だろう。

  • 『悪童日記』で衝撃を受けたクリストフ。そのシリーズ3部作のあとに出版されたもの。テーマは似ている。作者の深層にあるテーマなのだろうか。

  • う-ん、全三作と同じような流れの部分があるかつ勢いがなくてどうでもいいやって感じがでてる。文体の雰囲気が好きなので最後までサクサク読めましたが、内容は微妙かなあ。

  • 悪童シリーズに次ぐアゴタ・クリストフの4作目。ストーリーに前作群と酷似している要素が多く、面白みに欠けた。だが僕はこの著者の語る世界の雰囲気が好きだ。

  • 解説にて引用されている"祖国とは国語だ"の言葉が重い。母語を奪われるのは、思考の土台を奪われることだ。トビアスが、言葉を綴ることで、幼い日に失ったものや自己を取り戻そうとするのが読んでいて苦しい。

    上京して地元の方言使えんだけで、こんだけしんだいんやけん、アゴタクリストフほんまに辛かったと思うわ。

  • 初読

    私にはアゴタ・クリストフのほんとうのところ、
    面白い所は読み取れないかもしれないなぁ
    でもどこかずっと気になるんだよねぇ…

    この小説も沈痛で、読みやすくて。
    かさかさと音を立てる枯葉のような感触、痛み。
    結局、何だったのだろうなと思うけどそれはわからない。

  • 面白かった。静かで感情が抑制されたような文章が好き。

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著者プロフィール

1935年オーストリアとの国境に近い、ハンガリーの村に生まれる。1956年ハンガリー動乱の折、乳飲み子を抱いて夫と共に祖国を脱出、難民としてスイスに亡命する。スイスのヌーシャテル州(フランス語圏)に定住し、時計工場で働きながらフランス語を習得する。みずから持ち込んだ原稿がパリの大手出版社スイユで歓迎され、1986年『悪童日記』でデビュー。意外性のある独創的な傑作だと一躍脚光を浴び、40以上の言語に訳されて世界的大ベストセラーとなった。つづく『ふたりの証拠』『第三の嘘』で三部作を完結させる。作品は他に『昨日』、戯曲集『怪物』『伝染病』『どちらでもいい』など。2011年没。

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