ヒューマン・ファクター―グレアム・グリーン・セレクション (ハヤカワepi文庫)
- 早川書房 (2006年10月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (495ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151200380
作品紹介・あらすじ
イギリス情報部の極秘事項がソ連に漏洩した。スキャンダルを恐れた上層部は、秘密裏に二重スパイの特定を進める。古株の部員カッスルはかろうじて嫌疑を免れた。だが、彼が仲良くしていた同僚のデイヴィスは派手な生活に目を付けられ、疑惑の中心に。上層部はデイヴィスを漏洩の事実ともども闇に葬り去ろうと暗躍するが…。自ら諜報機関の一員だったグリーンが、追う者と追われる者の心理を鋭く抉る、スパイ小説の金字塔。
感想・レビュー・書評
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なんだか久しぶりにしっかりとした小説を
読んだ気分。
いつもの「東西ミステリベスト100」の
1986年版では63位、
2013年版では、あれ!177位!
(たいへんなダウンだね)
スパイ小説の金字塔、だそうですぞ。
イギリス情報部の極秘事項が
漏えいしていると言う情報が流れ、
ある部署にいると思われる二重スパイを見つける為、
上層部は探りを入れるが…
情報部って言うとなんかかっこいい雰囲気あるけど、
スパイなんて結局は人をだます仕事だから、
常に心は晴れないだろうね。
(実際、この作品でもそんなこんなで
何人も辞めたがっているもんね)
一生懸命やっていたって、
疑われたら最後、組織を守るために
自然死にみせかけて殺されちゃうんだから
割にあわないや!
でも、人の命を思いのままに操ることを
楽しんでいる人も中にはチラホラいるね~。
あの人とかあの人…
淡々と物語は進むけれど、おりおりにハラハラ。
ある人への恩義から、
また、ある人々を守るため、
でもその経緯と結果がこれ、と言うのは
なんだか生憎と言う感じだね。
なかなか、「二重スパイにならざるをえない」
状況に、私がなることはなさそうだけれど
自分とは全く別世界のようで、
なんだかとても普遍的でもある作品。
ところで、グレアム・グリーンについて、
どうしても許せないことがありまして。
その作家の人柄とか言動とか
すべてをごちゃまぜにして作品を評価する、
と言う性質で不評な私が、
なぜかグレアム・グリーンだけは、
そのことは分けて、読むよね。
それで今まで読んだもの、全部面白いんだよね。
でも、作品を褒めると「その部分」を許したみたいで
嫌なんだけれどね。
そんなんで、グリーンを読む、と言う時は
私なりにいつも葛藤しております。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「ヒューマン・ファクター…人間や組織・機械・設備等で構成されるシステムが、安全かつ経済的に動作・運用できるために考慮しなければならない人間側の要因のこと」(Wikipedia)
舞台は第二次大戦後冷戦時代のイギリス諜報部。
アフリカ情報担当である諜報部員カッスルは、すでに定年を過ぎても仕事を続けているが、その理由は自分でも解らず、常に「引退」を考えていた。
そこへ、所属する部署に内部調査が入る。
誰かによる情報漏洩の疑いを明らかにするため……。
イギリス諜報部というと「スパイ大作戦」「007」など派手なイメージがあるが、まったくそんな描写はなく、淡々と日常を描きながら疑心暗鬼が高まっていく様子が中心。
それは、主人公カッスルの好物である、J&Bスコッチの喉を通る甘く芳醇な香り、それで
いてキリキリと内臓を締め付ける刺激にも似ている……。
「我々はみんな“箱”の中にいる」
「あなたは言う、私は自由ではないと。
しかし私は思いどおりに手を上げて、おろしている。」
終盤に差し掛かった時にカッスルが引退を告げる。
物語は、ここからいよいよクライマックスへ向かっていく。
そして、わたしはこの結末が大好きだ。
どう好きなのかは、未読の人のために言わないでおく。 -
静かな話なんだけど、最後まで一気に読み進めた。
007みたいな華やかさはないけれど、はらはらしました。 -
今まで読んでなかったのが悔やまれる。
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スパイ小説らしからぬスパイ小説
ある愛の物語 -
これは翻訳の妙でもあるのだろうけど、文章の隅々まで英国っぽさが溢れる小説。人物の性格造形から気候や街の雰囲気、ウイスキーや料理、菓子等の小道具に至るまで、芯が一本ビシッと通っていて、知らずしらずのうちに世界に引き込まれた。
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岩波文庫編集長のおすすめビジネス書として紹介されていた。
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スパイ小説ですが、007みたいな感じではなく文学作品という感じ。ヒューマンファクターのタイトル通り、登場人物のもつ異なる性格や背景がストーリーを動かしていきます。
好きなフレーズ
“我が国の人たち(my people)なんて話をしないで。わたしにもう同胞はいない。あなたが我が民(my people)なの” -
スパイは、いつ何時なってしまうかわからない。愛する家族の為なら、一歩踏み出してしまうのだろう。でも、悲惨の中でも、そこはかと出てくるユーモア。さすが、グリーン。読者を飽きさせずに、一気に読み進ませてしまう。