充たされざる者 (ハヤカワepi文庫)

制作 : 古賀林 幸 
  • 早川書房
3.62
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本棚登録 : 562
レビュー : 54
  • Amazon.co.jp ・本 (948ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200410

感想・レビュー・書評

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  • 語り手ライダーは世界的なピアニストとして、ある小さな街のコンサートに招かれた。
    町の人々は彼の音楽が閉塞感ただようこの街に新たな風を呼び込んでくれると大きな期待を寄せているが、物事は予定通りに進まず、ライダーは混乱の中本番を迎えてしまい……というお話。


    余白の多い独特な語り口で、はじめは困惑させられる作品ですが、物語中盤あたりからこのお話の方向性が掴めてきます。
    そうするともう、読者はこの世界から離れられない。
    私たち誰もが抱える充たされない苦悩を、装飾的な分析を一切せずにここまで真正面から描いた作品は初めてです。


    カズオ・イシグロという作家を理解するのに最も重要な作品であると感じました。

  •  世界的ピアニスト、ライダーはコンサートのためにヨーロッパのとある町にやってきた。
     町の住人は、それぞれに問題をかかえ、その解決をライダーに求める。

     ごついです。
     1000P近くあります。ま、これを上下巻とかに分けなかったハヤカワ文庫は、グットジョブだと思いますよ。

     ライダーは、ホテルのボーダーや支配人に始まって、とにかくありとあらゆる人から相談を持ちかけられたり、依頼をされたりするんだけど、どれも彼を尊敬しているといいながら、とにかく利己的なのだ。多分、本人も気づいていない欺瞞であったり、偽善なんだろう。
     そして、そういうのを延々と読まされるわけだ。

     ライダーじゃないけど、いい加減にしてくれといいたくなるのである。
     
     このどうしもようない不条理な感じが、カフカっぽいといわれてるらしいが、カフカの主人公には確固たる自我があるのに対して、ライダーには自我がない。
     その自我の変容は、まるでコンピューターグラフィックで人の顔が微妙に変っていく様子をみている感覚に近い。
     確かに、他人は自分を映す鏡ではあるけど、本来そこにあるべきゆるぎなさが、ない。

     ピアニストでコンサートのためにやってきたというのに、ライダーがピアノを弾くシーンはとても少ない。
     そのことが、彼のゆらぎの要因なのだろう。
     
     で、読み終わって「タイトル通りだな」と思った次第である。
     充たされない者は、なにがどうあっても、何を手にしても、結局は充たされることはないのだ。その充たされてない所以は、結局自身のせいであると気づかない限り、悪循環は続く。

     …そうか、そういう悪循環の話だったのかと、思う。

  • ついに読み終わった。
    文庫本で935ページ、厚さ3.5センチ。
    その量はともかく、登場人物は緻密でありながら、時間感覚だけが
    奇妙に歪んで話が進行、主人公がどんどん薄らいでいくような
    不思議な感覚・・・。
    「カフカ的」とよく評されている。たしかに出来事の不条理だけは
    たしかにそうかもしれないけれど、自分はほとんどカフカ的とは
    感じなかった。現実の世界なんて、むしろ「これぐらい歪んでいる
    んじゃないか?」そうではないと思い込みたいだけで・・・

    カズオイシグロの最高傑作は、今のところこれではないか?


    2017.10.5追記
    ノーベル文学賞!おめでとうございます!

  • チェコ旅行の行き帰りの飛行機で読んで正解。カフカを彷彿させる作品。

  • 誰もが生きている中で次第に溜まっていく鬱屈さを持っていて、多かれ少なかれ、それを解決するのに誰かに手伝ってもらいたいと思っている。でもその大部分は、明快な解決は難しいのだろう。
    ストーリーの展開は遅く、内容がシュール。
    最後の描写が鮮やかだった。

  • これでイシグロ作品、コンプリート...かな?

  • 小説に「構造美」を求める人にとって、これほど緻密に整った作品はお目にかかれないだろう。
    装丁で見られるように、読者は薄暗い一本道をひたすら歩かされる。カフカが迷宮であるなら、これは暗い街道だ。そもそも、カズオイシグロの作品には「語られざるもの」が主題であり、常に「語られる」ものから周りを見渡さなくてはいけない。一本道を歩きながら、ひたすら真っ暗な風景に向かって景色を投影しつつ歩いていくことになる。
    作品の一番大きな仕掛けは、あとがきに書かれている。この仕掛けに気づけた読者にとって、900ページを超える道のりはさして遠いものではない。

  •  読んでも読んでも終わらず、さながらカフカのようで、自分にとってちょっとした地獄のようになってきたのでもう止めた。

  • 主人公ライダーの前にはドアへと続く、絶え間ないステップがある。彼はドアに辿り着こうとするが、段差が様々でなかなか進むことができない。幾分ドアに近づいていると想像するがそれは彼自身想像の中でのことだ。そもそも彼は自身の足元を確認せず(できず)、階段の形しか目にはいらない。
    私は何を求めているのか。何を求めていたのか。いつまで求め続けるのか。まずどこに向かうべきかと省みることはない。もちろん正しい答えはないけれど・・・・。

  • だいぶデビッドリンチ

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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