わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房
3.88
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本棚登録 : 10798
レビュー : 1408
  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200519

作品紹介・あらすじ

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく-全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。

感想・レビュー・書評

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  • 「日の名残り」がとても気に入ったため
    こちらも読んでみることに

    当時映画の予告編を見て、行こうか迷っていたため気になっていたのだ
    だがこちらの映画化は2010年今から10年前!
    それでも忘れられず印象に残っていたのである(この頃、イシグロカズオ氏を知らなかったため、本と映画は結びついておらず…)
    それもあり、なんとなく内容は把握していたのだが…
    自分の甘っちょろい想像以上の内容であった


    現在から過去の出来事をゆっくりと紐解いて展開する
    (遡ること10歳くらいから、現在30代の主人公へ…)
    10代前半の彼らはヘールシャムの施設で保護官の元暮らしている
    キラキラ眩しくうるさいほどの無邪気な子供時代
    一見普通の子供達なのだが、少しずつ影と違和感が見え隠れし、次々の疑問が湧く
    何故か堂々と聞くことができない暗黙のなにか…
    何故、私達は絵や詩など展示館向けの作品を製作させられるのか?
    外の世界と自分たちはなにが違うのか?
    子供じみたいくつかの描写と対照的な謎めいたいくつかの暗い影(見事に引き込まれる)

    彼らは成長し、施設を出て、保護官のいないコテージで共同生活を共にする
    満ち潮のようにゆっくり迫る不穏な予感
    だが少しずつしか明かされないため、主人公たちと同じように読み手側も同じ気持ちにさせられる
    (この共感効果もなかなかである)
    自分に似た「ポシブル」の存在って?
    女性の主人公がアダルト雑誌ばかり見るのはなぜ?何を探しているのか?
    真実が揺らめきとともにわかりかけてくる頃、目を背けた方が楽しく生きられる!
    そんな確信があるからこそ、知りたいのに口にできないいくつかのことが徐々にわかってくるのだ
    その瞬間にもっと強く逃げずに向かい合っていたら…
    そんなことの繰り返しだ
    なぜなら、心のどこかでこの先を感じていたから
    それは提供者のことだけじゃなく、彼らの心もだ
    このちょっとした繊細なズレや綻びが積もっていき、悲しみに移行してしまう
    誰にもどうすることのできない悲しい残酷な運命を背負った彼ら
    それを各々が徐々に知り、受け入れ始める
    そう彼らはあらゆる出来事を受け入れるしかないのだ!彼らの方法で
    裏切りに近い友情でさえ受け入れ、友情を育んでいく
    激しく心が揺さぶられる内容でさえ、川のせせらぎのようだ
    じわじわ締め付けられる悲しみで表現され、信じがたい酷いことさえ、いつも静かで美しい世界なのだ
    覚悟をしていた悲しみがじわりと広がる
    彼らと同じように受け入れたのだ…

    イシグロ氏の本を読むといつもイギリスの田舎の湖畔の風景に自分が染められ、暑くも寒くもなく、かんかん照りでも雨でもなく、そよそよたまに風が吹く
    悲しみ溢れる作品のはずなのだが、穏やかで落ち着く世界観がとても居心地が良い
    読ませ方の構成や、読者の心を掴み続ける展開はさすがである
    だが決して行き過ぎたテクニカルでイヤミな感じが全くなく上品なのだ
    同じ内容の作品がイシグロ氏以外であったら、恐らく受け付けない内容だろうなぁ…
    (失礼ながらもう少し陳腐な作品か、こてこてのテクニックとお涙頂戴系の苦手なタイプになりそうである)
    しかし恐ろしいが、こんな時代がくるのかもしれない
    そういった意味でも問題提起があり、考えさせられる内容であった




    • トミーさん
      レビューを
      ありがとうございます。この作品「カズオイシグロ」頓挫してますので
      また挑戦したいです。「読みたくなりました」
      レビューを
      ありがとうございます。この作品「カズオイシグロ」頓挫してますので
      また挑戦したいです。「読みたくなりました」
      2020/07/01
    • ハイジさん
      トミーさん
      コメントありがとうございます!
      ぜひぜひ最後まで読んでくださいませ。
      後半から展開にスピード感出ますので読み切れると思いますよ♪...
      トミーさん
      コメントありがとうございます!
      ぜひぜひ最後まで読んでくださいませ。
      後半から展開にスピード感出ますので読み切れると思いますよ♪
      レビュー楽しみにしていますね!
      2020/07/01
  • 遅まきながらノーベル文学賞受賞おめでとうございます!
    日本人3人目ということで、これまで読む機会がありませんでしたが、カズオ・イシグロの本を読む良い機会になりました!

    独特の世界観の下、物語の詳細な背景や理由はついぞ明らかにされないものの、現実には哀しく辛いテーマであり社会的にも重たいテーマであるにもかかわらず、終始一貫した作者の温かい眼差しのおかげで、何とも言えない深い余韻のうちに物語を読み終えることができました。

    主人公で語り部であるキャシーが介護人をしながら回想する「寄宿学校」ヘールシャムでの思い出は、時系列にではなく、縦横無尽に時間を往来します。しかし、それによって物語の筋は大きく崩れるわけではなく、むしろ読者であるわれわれの物語への深度が強まるのは、作者の卓越した文章力のためであるでしょう。
    当初は普通に幼少年期の思い出を辿っているのかと思いきや、合い間合い間に次第に登場する違和感のある単語たち。
    日常の物語に紛れその違和感を何となくスルーしてはみるものの、用法が明らかにおかしい言葉が増すにつれて、だんだんと尋常ならざる世界が見えてきます。
    普通でない世界で展開される主人公を取り巻く学校生活の描写は、それなりに面白く、ぐいぐいと引き込まれていきます。
    そんな中、主人公のキャシーと友人のルース、そしてみんなからバカにされながらも感性が豊かな男の子トミーの三者の関係が提示され、物語の輪郭が徐々に見えてきます。
    最初から全てを説明せず、ゆっくりと浸み込ませるように輪郭を明らかにしていく手法はさすがに上手いと思いました。

    その後、輪郭が明らかになった後も以前として引っかかるもどかしさを抱えながら、舞台はコテージに移り、そしてさらにノーフォークへ。
    主人公のキャシーとトミーが連れだって、『私を離さないで』の曲を見つけ出す場面などは、映画のワンシーンのようでとても楽しかったです。ヘールシャム時代、まだ幼かったキャシーが『私を離さないで』の曲とともに踊っていたシーンも印象的でした。
    舞台がコテージに移ってからは、ルースとトミーのカップルと主人公のキャシーの関わり方、これに先輩カップルが加わって関係が一層絡まっていきますが、セックスの話が増えだして、これは終盤に向けての「生」への前振りかなとも思ったのですが、これには見事に作者に裏をかかれてしまいました。

    コテージを後にしたキャシーが介護人になってしばらくしてからのルースやトミーとの再会は、むしろ辛さが先に立ちますが、相変わらず柔らかい視点での描写が程良いオブラートになっていて、彼女らの最後の勝負に向けての勢いも増していくので、物語への興味が失われることはありません。
    しかし、最後に明らかになったことは、結局、エミリー先生とマダムがしてきたことは、例えていうと、養殖の高級魚にキャビアとかトリュフを与えて世話をしているようなもの?あるいは豚や牛や鶏にフォアグラを与えて世話しているようなもの?さらにはそのアヒルを広い庭の中で自由で快適に暮らさせているようなもの?とも思え、まさに放逐されたルーシー先生が読者の葛藤を代弁していたんですね。
    改善を努力してきたというエミリー先生とマダムって・・・。何とも言えない感覚になりました。
    そしてここに至り最後は「運命」に諾々と従うキャシーとトミーの2人。
    諦観とやるせなさと大切な「時間」とお互いを思いやる気持ちが複雑に入り混じり、深い余韻のままに物語が終わります。

    この作品では絵とかカセットテープとかの小道具から、「寄宿学校」やコテージ、船などといった大物まで、印象的な造形物が巧みにシーンの中に「柔らかさ」として使われていて、さらに生徒同士、先生や仲間との会話に繊細さと迫真さがこめられながらも全体として抑制が効いていて、物語の構成上の「優しさ」が滲み出ていた作品でした。
    インパクトとしては半減したかもしれませんが、心に刻み込まれた分、事あるごとに印象として再現してくるのかもしれません。

    さあ、果たして日本人4人目は・・・?

  • すごかった。びっくりした。
    涙が出るってよりは、胸が締め付けられて苦しいって感じ。
    激しく心を揺さぶられて上手い感想が思いつきません。

    とにかく圧倒的な描写力。
    書かれているのは日常生活にある本当に些細な出来事なのに、
    色や匂いを伴うくらいに鮮明に頭に描けます。
    SFってことに全く気付かなかったくらい。

    そして、このお話のある秘密。
    何となくな予感を促すポイントがあちこちに散っていて、
    せっかちな私は先に急ぎたくなるんだけど、
    絶妙なタイミングで躊躇いもなく明かされます。
    もう操られてるんじゃないかって思っちゃう。

    使命を終えるまでの短く儚いスケジュール。
    淡々と運命を受け入れて暮らす登場人物たち。
    そのリミットのない私たちは生きている間に
    何をし、何を考えるのか。静かに残酷に問う作品でした。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「静かに残酷に問う作品でした。」
      人間の心って、根っこのところでは変わらないと思っていたのですが、本当は違うのかも知れない。
      そう思えてしま...
      「静かに残酷に問う作品でした。」
      人間の心って、根っこのところでは変わらないと思っていたのですが、本当は違うのかも知れない。
      そう思えてしまうのが恐かった、、、
      2013/05/16
  • 物語に力がある小説というのは、よくも悪くも余韻がある。
    読み終えた後に、何度も何度も物語の意味を考えたり、登場人物の書かれていない行間に潜めいた感情を思ったり、物語の中に取り残される。
    この話にはそんな力があると思います。
    読んで数日、私はこの物語のことばかりを考えてしまいました。
    幸か不幸かはこの物語は大して重要じゃない。
    読み終えた後、もやもやする方も、意味が分からないと匙を投げたくなる方も、切なさや悲しみを覚える方も、結局の所この物語が持つ引力に引き込まれたのでは。
    そんなよくも悪くも「嵌って」しまう魅力がある一冊です。

    多くの情報を入れずにこの話を読むことをお勧めしますが、
    個人的には、「ノーフォーク」という場所のエピソードが胸に刺さりました。
    ノーフォーク、遺失物保管所。
    亡くしたものが必ず見つかる場所。
    彼らが失ったものは一体なんだったのか、見つけたものは何だったのか。
    見つけたものは思い出のテープだけなんかじゃなかったし、彼らがノーフォークで本当に取り戻したかったものはそんなものでもなかった。

    日本の小説とは違い、細部まで抑制の利いた語りすぎない物語です。
    個人的にはいつも海外物で気になってしまう訳し方も気にならず、素敵な文章でした。
    映画とセットで見るのもいいと思います。
    映画を見てから小説にたどりつくのも悪くない。
    この映画の風景を取り出しているすばらしい映画だったと思います。

    ぜひとも自分なりの出会い方で出会ってほしい一冊。

  • わたしを離さないで カズオ・イシグロ氏

    1.購読動機
    日の名残り。そのあと、巻末、アマゾンレビューを参考に二冊として購読しました。

    2.衝撃
    購読完了してから、一か月が経過しました。
    通常は、感想を即日書く人間です。
    この、わたしを離さないで は、何をどのように解釈したらよいのか?の惑いがありましたため、感想を整理できないでいました。

    3.戸惑いとその理由
    この物語は、社会的に一つのミッションをもつ人間、それも成人前から成人に至るまでの機微な感情、喜怒哀楽を織り交ぜながら展開します。

    私の戸惑いの理由は、このミッションでした。
    物語が進むにつれて、このミッションの内容を正確に知ることになります。
    その時、わたしのようにページを進める勇気を躊躇した読者の方もいることでしょう。

    なぜならば、そのミッションは、自身の臓器を他者に提供することなのですから、、、。

    4.本書を読み終えて
    介護そして医療の日常に、最近では技術進歩著しく人工臓器の話題も見かける現代となりました。
    著者のカズオ・イシグロ氏は、わたしを離さないでの主人公を通して、何かの主張をしているようには思えません。
    読者のわれわれに解釈を委ねているようにも思えます。
    だからこそ、わたしは、また、カズオ・イシグロ氏の本を手にとるのかもしれません。

    #読書好きなひとと繋がりたい

  • 2年ほど前に一度中座してからの再読。そして一気読み。イシグロ氏の作品を読むといつもそんな感じになってしまう。なんでかと思っていたけど、哀しい記憶を慈しむように静かに語り続ける主人公の姿と、密接に絡まる「死」に、胸が締め付けられて、一度に全てを消化できないことを感じ取ってしまうからかもしれない。

    長年「介護人」を務めた31歳のキャシー。
    彼女は語る。
    彼女が生まれて以来、外に出ることなく過ごした寄宿学校「ヘールシャム」のこと。そこで仲の良かったトミーやルースをはじめとした友人たちのこと。「保護官」と呼ばれた教師たちのこと。
    ヘールシャムを卒業後に過ごした「コテージ」でのこと。
    介護人となり、「提供者」と呼ばれる人々に寄り添うこととなったこと。実は彼女も、ルースたち友人達も、提供者になることを義務付けられた逃れられない運命を背負っていること…。

    キャシーたちが生まれる前から背負わされた運命はあまりにも残酷で、胸が締め付けられる。
    抗うすべも、逃れるすべもなく、ただただ、搾取されるしかない生。
    彼女たちも間違いなく個別の人格を持ち、長年の環境ゆえに諦めながらも、閉じられた世界で彼らなりにそれぞれの夢も希望も、恋も、諍いも…若者らしい感情の揺らぎや体験は確かにあったのに。

    物語の最後でかつての保護官たちによって明かされる、とある真実が、これまた哀しく、胸を打つ。当時の保護官たちは、却って辛くなったりはしなかったのだろうか。

    そして、実はものすごくリアルな面も本作は持つ。
    本作は、おそらく、1980年代中頃のパラレルワールドを舞台としている。
    現実の1980年代には、科学技術の進歩具合から、このようなことはまだあり得ないことだったと思う。
    ただし、2020年を目前とした現代以降、人々の倫理観がもう少し欠けて、なによりも、願望と欲望に忠実になったとしたら、キャシーたちのような人々が実際に生まれ、「使われる」ようになるかもしれない、という恐怖に身をつまされた。
    現在の科学技術の進歩具合からすると、夢物語ではなく、ほとんど手が届くくらい、可能になってしまっている。
    多分、それを止めているのは、人間たちのなけなしの良心からくる人道主義というだけで。

    とても哀しくて、そして、個人的には苦しく、怖くすらなった作品。

  • 介護人キャシーの回顧録。
    彼女が幼い頃を過ごした施設ヘールシャムは他の人から身構えられる程謎めいた場所。彼女の記憶を辿る内にその実態が明るみになっていく。
    静かで淡々とした文章には不思議な説得力があり、もしかしてその施設は実在するのでは…と錯覚してしまう。
    極めて異質な設定。なのに彼女達の日常は我々と少しも違わずそこがちょっと怖い。

    「わたしを離さないで」タイトルにもなっている彼女の悲痛な叫びが、何時までも心に残り切ない。
    ラストのワンシーンで、悲しみのあまり涙は流すけれど、自制し決して泣きじゃくることのなかった彼女の強さ潔さがとても好き。

    これがカズオ・イシグロ初体験。
    更にイシグロの世界観を追ってみたくなった。

  • ノーベル賞を受賞し、有名になってからしたり顔で読み出す自分はミーハー野郎であると自覚はしているのですが、想像以上に感動してしまい、強く心を動かされてしまいました…広島旅行中にもかかわらず、何も頭に入ってこないレベルにです。笑

    ご存知の通り本作は、将来的に臓器を提供することを目的に生まれ育てられた若きクローン達を巡る物語。内容からしてSFのジャンルに含まれることが多いけど、SF的な要素は割と少なくて、行き過ぎた科学に対する批判とか、生命の尊厳といった道徳的な問題にまで言及することは特にないんですね。

    これはNHKの文学白熱教室でカズオイシグロ氏が語っていた、「描きたいテーマがあり、それを表現するために舞台を選んでいるのであって、舞台設定そのものは特に重要ではない」という内容をよく表しているなと思いました。(実際、カズオイシグロ氏は、日本を描いた初期作品では日本という特殊性ばかりが注目されるのを嫌がり、初期作品のテーマはそのままに舞台を英国に移した「日の名残り」を完成させ、自分が描いているテーマは普遍的であることの証明に成功した…とのこと)

    話を戻すと、本作ではSFチックな前提を敷いているものの、そこに焦点はあてられていない。そうではなくて、その前提があることで「命に限りがある若者たち」を生み出すことが出来ていて、その群像劇が儚さや別れの悲しさをうまく描いているのかなと思いました。

    実は同じ様な感動を覚えた作品として、「レナードの朝」という映画がありまして。この映画は実話をベースにしているのですが、「眠り病」という不治の病により長年植物状態にあった患者たちが、ある医者の努力により一時的に目覚めるものの、最後はまた元に戻ってしまうという物語です(「アルジャーノンに花束を」に結構近いですね)。この映画も別れの悲しさを描いているのですが、悲しい話のはずなのに不思議な温かさがある、というところが本作とよく似ている点でしょうか。

    本作では「記憶」という側面がフォーカスされていて、カバー表紙にも描かれているカセットテープがその象徴となっているように思います。どれだけ悲しい別れがあっても、記憶があれば前を向いていける。本作には、悲しいだけではなく、そういう優しさがあるからこそ、こんなにも自分の心を動かしたのかなと思っています。素晴らしい作品でした。

  • この物語は、主人公キャシー・Hの回想という形をとって書かれています。
    彼女の育った施設であるヘールシャムでのことと、ヘールシャムを出てからの日々のこと、「介護人」として「提供者」を看る日々の事が実に細やかに、そして淡々と語られていきます。
    のっけから「提供者」「介護人」といった謎の言葉が出てきて、なんの説明もなく不可解なまま読み進めることになるのですが、キャシー・Hの様々な体験談を読んでいくうちに、謎が明かされていきます。
    キャシーを始めヘールシャムや他の施設で育った人々は「臓器の提供者」であること。
    そして「提供者」はクローンとして生まれたのであり、人間たちの病気を治すため臓器を提供することだけが使命であること。

    このように書くとホントーにベタなSFのようにも思えてしまうのですが、この作品の厚みと深みは、決して既視感のあるものではなかったです。

    キャシーの言葉で語られる、ルースとトミーという二人の親友との日々。時に傷ついたり、傷つけたり、微妙に変化していく友情関係。
    3人は「提供者」としてその運命をまず予感し、そして確信し、やがて痛切に不安を抱いていきます。
    そんな「気持ちの揺れ」が友情のそこここに影を落とすさま、そしてまた人間らしい温もりで乗り越えていくさまが、丁寧に描かれています。

    読み手はキャシーに寄り添うことで、「傲慢な人間とクローン人間」という対置の構図ではなく、あくまで当事者の「内面の世界」を辿っていくことになります。

    提供者を育てていったヘールシャム側の人間はどうだったのか?
    それはラストで明らかになりますが、ヘールシャムを支えてきた人間であるマダムがキャシーとトミーに対して言った
    「かわいそうな子たち」
    という言葉が印象的でした。「かわいそうな子」という言葉自体が自分勝手です。しかし、できる限りの手をつくすことで、精一杯だった、と。

    このシーンではとてももどかしい気持ちになりました。

    読み終えた後は、とてもじゃないが救われない気持ちになりました。
    こんな救われない感は、ポランスキーの映画「チャイナ・タウン」を10年前に観た時以来です。

  • カズオイシグロの小説は初めて読んだけど、世界観に引き込まれた。
    この物語通りの世界になったらと想像したらゾッとする。クローン人間であっても私と同じく心を持ってる。なのに提供者は人間ではない、と一線を引いて、他人事のように捉えているのが怖いと思った。その臓器提供で何人もの人間の命を救ってるというのに、、、。
    タイトルの「私を離さないで」というのがキャシーの悲痛な心の叫びに思えて虚しくなった。家族もいなければ、親しい友人も亡くなっていく、、、キャシーが孤独に思えてならなかった。それでもキャシーは自分の使命を小さい時からなんとなく分かってるからこそ、何かに刃向かう訳でもなく、使命を全うしようとしてる姿が逆に私の胸を痛くさせた。

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