スーラ―トニ・モリスン・セレクション (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200557

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  • 黒人が白人と寝ることが罪で、それにより友情がおわる

  •  トニ・モリスンは非常に読みにくい。主語と述語がかみ合っていなかったり、目的語がなかったりで意味がとれないところも少なくない。ストーリーも追いづらい。それなのに、読む者の胸に何かを残すことができる。一流の作家だと思う。読後感はジブリ映画を見た後に近いものがある。

     スーラは常人の社会規範とはズレた感覚の持ち主である。友人を守るため、自分の指を切り落とすことも辞さない一方、友人の夫を寝取ることも厭わない。スーラが老いた祖母を追い出し、奔放に振舞うのを見ると、町の住人は急に自分の不道徳を顧みて良識を持つようになる。自分はスーラ的ではないと証明するように。

     スーラは自分の思い通りに振舞っているようで、そこに本人の強い意思は感じられない。町の人々から蛇蝎のように嫌われ蔑まれているが、あくまで客体なのである。スーラ本人も何を求めているのか分からない。正邪を気にも留めずない彼女は人々が何かを投影する存在なのだと思う。

     スーラが死ぬと、町はそわそわした怒りっぽい雰囲気に包まれる。皆が共通して怒りや侮蔑を向けられるものを失ったからだ。スーラをスーラとして受け入れてきた少女時代の唯一の友人ネルはスーラが死んでから何年も後に失ったものに気付く。

     解釈の余地がかなりあり、難しい(モリスンの作の中では本書は読みやすい方らしい)が、ネルは共同体の化身で、スーラは逸脱の化身なのかなと思った。共同体は社会通念とその陰たる逸脱を内包している。陰があるから陽もあったわけだが、陰が消えたため陽もなくなってしまった。黒人社会は悪をありのままに受け入れ、穏やかに安定してしていたのにそうではなくなってきた一瞬を描いていると読めた。意味や解釈が重層的で深みのある作品だった。

    読書会とかで取り上げたら面白いのではと思った。

  • オハイオ州の小さな町、メダリオンが舞台の物語、二部構成、主人公のスーラピース、ネルライトの友情を描く。第一部はネルが結婚する1927年まで、第二部はスーラがメダリオンに戻ってくる1937年から始まる。社会常識的な生き方をするネルと、自由奔放に生きるスーラの対照的な性格のもととなる母、祖母の背景を含め話は展開される。ネルの夫を寝取って、棄ててしまうことからスーラと疎遠になってしまうが、スーラが亡くなる間際ネルは最期に会いに行くが、お互いが理解し合えないまま家を出る。スーラの埋葬式の後、仲のよい友達だったことに気づき号泣する。登場人物が何をもたらしてるのか、また一読するだけでは解読できない深い後味を残す作品です。

  • 土埃舞う黒人の少女たちの友情。
    大人になることでのそれぞれの歩みと生まれる軋轢。

    力強くも最後に感じる寂しさと人間の優しさ。

    フォークナーの香り。

  • トニ・モリスンを読むといつも凄い、と圧倒されるんだけれど、どうしてもしっくりこない。
    内容がではなくて、書き方が。
    「ビラヴド」「青い眼がほしい」も読んだのだけど、そのときもそう思ってしまった。
    アメリカ黒人の社会、歴史人間をこれほど描ける人は他にいないと思うのだが、感心はするが夢中にはなれない。
    相性が悪いのかな。

  • 1919~1965年 オハイオ州
    ボトムで育った黒人の少女、奔放なスーラとおとなしいネルの友情を描く、ノーベル賞作家の初期傑作。

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著者プロフィール

1931-2019。アメリカ合衆国の作家。小説に、『青い眼がほしい』(1970)、『スーラ』(1973)、『ビラヴド』(1987)、『ジャズ』(1992)、『ホーム』(2012)など。彼女の長編小説はすべて日本語に翻訳されている。絵本に、スレイド・モリスンとの共著『子どもたちに自由を!』(1999、長田弘訳、みすず書房、2002)『どっちの勝ち?』(2007、鵜殿えりか・小泉泉訳、みすず書房、2020)、『いじわるな人たちの本』(2002)、『ピーナッツバター・ファッジ』(2009)、『小さい雲と風の女神』(2010)、『カメかウサギか』(2010)、『ほんをひらいて』(2014、さくまゆみこ訳、ほるぷ出版、2014)など。写真絵本『忘れないで――学校統合への道』(2004)はモリスンの単著。ノーベル文学賞(1993)のほかに、全米批評家協会賞、ピュリツァー賞、大統領自由勲章など数々の賞を受賞。プリンストン大学などで教鞭をとった。

「2020年 『どっちの勝ち?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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