- 早川書房 (2009年9月10日発売)
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感想 : 26件
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Amazon.co.jp ・本 (688ページ) / ISBN・EAN: 9784151200564
感想・レビュー・書評
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著者の作品は、映画の脚本としては触れてきたが、小説は初めて読んだ。
暗喩や挿話が多く、読み進めるのに体力が必要な文章。
3度にわたる越境がビリーに大きな喪失をもたらすことになるが、成長や教訓のようなポジティブな要素を安易に提供してはくれない。
アメリカと異なり、野生的な世界を感じさせるビリーから見たメキシコは観念的で、神話の世界のようでもある。
3部作の1作目を読まずに本作を手に取ったが、全く問題なし。ただ、3作目は1作目の主人公とビリーが共演するようなので、1作目から読んでみたくなった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
舞台は1940年代のアメリカ・メキシコ国境地帯。主人公の少年は、三度び国境を越え、馬に乗ってメキシコの地を延々と放浪する。
一度目は捉えた雌狼を生まれた地に送り届けに、二度目は盗まれた馬を取り戻すために、三度目は生き別れた弟を探しに。
主人公は孤独な旅を逞しく続けるが、その過程であらゆるものを抗いがたい暴力によって喪失していく。
壮大で厳格な喪失の物語である。
文庫本で600ページを超える大作だが、最初の1、2ページを読んだところで、あまりの読みにくさに挫折しそうになった。
独特な言葉遣いと長いセンテンス、詩的な情景描写、短い言葉を交わすだけのダイアログ、場面の切り替わりのわかりづらさ。
心理描写は極力排除され、ただひたすら事物だけが描かれていく。
特に、主人公が放浪の過程で出会う人物によって語られる挿話が長くて哲学的・宗教的で難解で、心が折れそうになるが、そこを乗り越えたときに頭で理解するのとは異なる、深淵な何かが確かに生じるのだ。
主人公の旅に付き合うことで、時間感覚や地理感覚が拡張されていく感じ。
先般(2023年6月)亡くなったコーマック・マッカーシーの「国境三部作」の2作目とされる。
1作目の『すべての美しい馬』より先に読んでしまった。
三部作すべてを読んでみたい気はするが、相当なスタミナが要求されそうだな… -
国境三部作の第二作目。
オオカミを故郷へ帰そうというくだりは本当にすばらしかったが、その後が少し冗長。
「すべての美しい馬」を先に読んでいたので、同じような展開に感じてしまい、あまり入り込めなかった。
ただときどき入る逸話はとても興味深かったです。
もう少し集中して読めば、この小説の神話的な真価が感じ取れるのかしら。 -
コーマック・マッカーシー著作初読。
感情をほとんど排除した、乾いた、粛々と綴られる文体は、
アメリカ南部、メキシコの荒涼とした風景の写像そのものだ。
文体が光景を生み、光景が文体を生み出す。
そこには広大で荒涼とした光景がある。
馬の蹄の音、風、雨等の自然音のみが反響する。
17歳の青年は馬に跨り、冷然と過酷な旅路を行く。
大人への階段、運命の旅。
まるでアッバス・キアロスタミの映画を観ているようだ。
素晴らしい作品。 -
2010年下半期分をまとめて登録
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読後しばらくしてから、じわじわと話が心に沁みてきた。
細部を咀嚼し切れていないので、あくまで感覚的なものだけれど、無性に胸が詰まる。
この作品(「すべての美しい馬」もそうだけれど)における「メキシコ」とは、“どこか別の場所”ってことなんだろう。自分が生まれ育った世界(=アメリカ)ではない、異世界。
希望も絶望も、夢も血も暴力も、何もかもが混沌とした場所。
ビリーは運命に流されて三回の越境をしているように見えるけど、ただ流されているのではなくて、そこには彼の意思があっての選択だったのだと思う。 -
国境三部作の2作目。
本作もアメリカ西部に住む少年が、メキシコへと越境し、数々の苦難の冒険を経験するという粗筋である。
が、こちらは『すべての美しい馬』以上に強烈な喪失の物語である。
主人公ビリーの3度にわたる越境が描かれるが、そのたびに近しいものを失っていく。失われていくものを何とか取り戻そうとしても、全ては逆効果、予めそう決まっていたかのように失っていく。
主人公の喪失の物語の合間に3つの挿話があるが、それも全て主人公の運命を示唆し、主人公の孤独を強調するかために配置されているのは明白である。
しかし、何故か陰鬱な雰囲気、悲しげな雰囲気はない。全ては淡々と進んでいく。
西部のカウボーイという、失われし時代、失われていった人種、失われた社会を象徴しているのかな、とも思うが、もっと宗教的なテーマなのかもしれない。 -
過日亡くなった米国文壇の巨星による深遠で荘厳な放浪青春譚。手負いの牝狼を故郷に帰すべく主人公が国境を越える第一章の話は動物文学としても秀逸。何かと軽薄が持て囃される時代に抗う哲学的重厚さが心を揺さぶる。格調高き訳文も良い
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アメリカとメキシコを行ったり来たりしつつ、悲劇に見舞われながら生きる主人公と対話する人々との哲学的な挿話で構成されている。様々な暗喩が込められて語られる会話がほぼ全体を支配してるので、相変わらず読みにくいが、分かり易い物語や伏線回収云々な小説よりずっと心に残るし、何度も再読出来る小説だと思う。
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文学ラジオ空飛び猫たち第100回紹介本 https://spotifyanchor-web.app.link/e/KxSicJV3hwb すごい小説。初めて読んだときのインパクトは今でも残っている。今の自分が生きている社会とは違った倫理、ルールで生きているような世界観で、それは残酷で厳しくて、かなり暗くはあるけど、美しさも感じる。この何ともいえない、美しさがいい。 読むのは大変だけど、マッカーシーの世界観にはまったら、自分の世界観も影響を受けるかもしれないので、惹かれたら読んでみてほしい。
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三部に分かれるだろう。狼を連れてメキシコへ越境、盗まれた馬を探しにメキシコへ越境、弟を探しにメキシコへ越境の三部である。狼の部分はそれだけでも充分、独立した小説となるが、作者は物語を進めていく。
すべての美しい馬は読んでいたが、その作品と比べると登場人物が語る『物語』が多いのがこの小説の特長のようだ。神もこの小説では大きな声でテーマだ。キリスト教でない私は浅くしか響かないが。 -
は!コーマックマッカーシーの「越境」をだいぶ前に読み終わったのに読んだを書いていない。さらに前に読んだ「すべての美しい馬」も。読書中にかなり消耗したし読後は気持ちが昂っているから寝かそうとしているうちに時間が経っちゃった。でも今でもあんまり書けないな。好きな作家なんだな
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オオカミを失い、
家族を失い最後は弟を失う。
越境するたびに何かを失う話。
陰鬱なはずの描写もあるが、
他作品と同じくまるで風景のよう。 -
物語は一気に読むものという認識を強くさせられた。読むのに時間をかけすぎた。タイミングが悪かったことにして、いつか再読の必要があるだろう。
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1994年発表 、コーマック・ マッカーシー著。少年ビリーは家畜を襲っていた狼を捕らえた。狼を故郷の山に帰すためにメキシコへ一度目の越境するが次々に悲劇に見舞われる。そして弟のボイドとともに二度目の越境、更に三度目の越境と連なり、ビリーは全てを失ってしまう。読点を極力省いた息の長い文章、鉤括弧を使わない独特な文体。
マッカシーらしい荒野を馬で旅するロードノベルといった小説だったが、かなり哲学描写に振り切っているため全体的に神話を読んでいるような印象があった。純粋に話として面白く美しいのは前半の狼を帰す一度目の越境だろう。狼の存在が気高くて生々しく、読んでいると泣きそうになってくる。しかし中盤以降に登場する「崩れかけの教会に住み神に議論を挑む男」「目玉を吸われ盲目になった元革命軍兵士」「墜落した飛行機を運ぶジプシー」の挿話も捨て難い魅力がある。三つとも一見シュールな状況なのだが語られる哲学的考察はあまりにシリアスで、それだけで一つの小説として成り立ちそうな密度がある。二度目・三度目の越境自体はやや冗長な気もするが(特に馬を取り返そうとするシーンは「すべての美しい馬」とかぶっている)、これらの挿話を挟むためには必要だったのだろう。
それにしてもマッカーシーの小説を読んでいて感じるのは、獣・人間が荒野に均等に配列されているという印象だ(そして荒野の上空には「神」や「運命」がある)。おそらく心情描写を徹底的に排除しているせいなのだろう。本小説における狼の親近感はここに起因しているに違いない。つまり、人間特有の心情描写を切り取ってしまえば狼と人間の区別はつかなくなる、ということだ。 -
【ガンバとカワウソの冒険】みたいな話かと思いきや、中盤手前でえええええという展開に。黙して語らない巨大な暗黒の世界に問いを投げ続ける、ハードな哲学小説になっていく。
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以前、「すべての美しい馬」を読んだあと、この本と「平原の町」も読みたかったけど中古でしか入手できなくて、まあいつか読めたらねぐらいに思っていたら2010年に再発されちゃって、で、買ってから1年ほど寝かして読みました。
登場人物が皆ストイックでタフ、余計なことはしない言わない、でも事件は起きる。簡潔な文体でぐいぐいスピード感をもって話は進んでいく。でもなんか最初から悲しい、寂しいの。西部開拓時代の残像、蝋燭が燃え尽きて芯になってくすぶっていく感じ。
白眉なのが、山の中を幾日も狼を追っていくところ。ロバート・レッドフォードの「アウトローの道を行く」という本があるんだけれど、そこで紹介されていたアウトローたちの棲家としていた壁の穴、まさにそれの光景が想像されてすごく面白かった。それから講談社学術文庫の「パイオニア・ウーマン 女たちの西部開拓史」という本もイメージを広げるのに役に立ったかも。というか、そんな滅びゆく文化・風俗の物語ではあるんだけど、底に流れるのは若者の普遍的な感情であり、人のもつ悲しみであるような気がしました。
著者プロフィール
コーマック・マッカーシーの作品
