ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

制作 : 黒原敏行 
  • 早川書房
3.94
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  • 本棚登録 :604
  • レビュー :80
  • Amazon.co.jp ・本 (351ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200601

作品紹介・あらすじ

空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとして-。世界は本当に終わってしまったのか?現代文学の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長篇。ピュリッツァー賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 核戦争か何かでの文明崩壊後、分厚い雲に覆われた世界は寒冷化が進行して冬を越せそうにない。
    父親と息子は生きるために、ひたすら南を目指す。

    道中では人間性を失った人工物の数々、奪い合うために殺し合った痕跡、酷いものばかりしか目に映らない。

    「私たちは善い人だ」
    そう諭して、息子が目にしたことのない世界の話をして、先へと進む。


    "私たちは火を運んでいる"という比喩が度々使われる。
    火とはは何かの解釈が解説でも検証されているが、俺はそれを"人間性"だと考える。

    幼い子供は世界を知らない。ゆえに純真無垢な存在だ。しかし、物語の世界では稀有な存在だ。
    人間性を無くした悪ばかりの世界で、善たる子供は人間性という火を運ぶ。
    フッと息を吹きかければ簡単に消えてしまうそれを、喪うことのないよう父親は息子に託す。

    果たして父親は善なのか。息子を守るために他人が死につながる行動をすることもある。
    父親が火を灯し続けていられたのは、息子に自らの火を移すため。
    なれば、ラストシーンで父親はやりきったことになる。

    ひたすらに陰鬱な描写が連続し、ひたすら二人が歩き続けるだけの小説だ。
    緻密に嫌になるほどに文明崩壊後の世界を細かく書くことで、人間性とは何かを問いかける。

  • "本の雑誌40年の40冊”から。これは素晴らしい。のっけからただひたすら、淡々と父子2人の道中が描かれているだけだし、会話分も全部地続きだし、舞台も荒涼たる新世界だし、ともすれば地味なだけに陥ってしまうかもしれないところ。そこを表現の緻密さとかで緊張感に変換して、かつそれを終始維持することに成功している。漫画や映画と親和性の高い世界観だから、殺伐としているとはいえ、自分の中で映像化しやすいのかも。特に後半とか、結末が気になって仕方なく、途中で止められませんでした。コーマックの他作品たちにも是非触れてみたいです。

  • カートを押す父と息子がひたすら道を歩く。日々の食料を求め。南へ。海へ。
    憩える場所は容易く襲われてしまうから、カートに載せられるだけの荷物に絞りつつ。

    核だか彗星だかの災厄ののち、世界は灰に覆われ。
    荒涼。寒気。木も死に。動物もいない。そこここに炭化した死体。夜は真の闇。
    滅びゆく、というか、すでに滅んだ星で、残された少数の人間は、互いに係らず、助け合わず。互いに脅えあっているのだ。
    人を食べるか食べないか。略奪するかしないか。レイプ。殺人。(を怖れて妻は……。)(マッドマックス。北斗の拳。子連れ狼。バイオレンスジャック。ブラックライダー。)

    ふたりで生き延びるには人を助けてはいられないと父は断言する。
    息子はそれをわかっていてもしかし、それでも助けてあげられないかと問う。
    カタストロフィの後に生まれた子を護るために、父は鬼にもなる。このトーンに変動はない。
    繰り返される「ここで待っていろ。いなくなりはしない」。不安な子供。
    強盗を警戒し、残弾を気にしながら拳銃で倒す。
    しかし時折り心が折れそうになり、もう生きていたくないとも思う。(が、息子に漏らしたりはしない。)
    とはいえ、息子は父がいなければ生きていけない、父は息子がいなければ生きる意味がない。

    筋に大きな劇はない。
    淡々と移動。場所の調査。食べ物の確保。他人への警戒。「善い人々」との出会いを期待しつつ。
    繰り返しの中で一貫するのは、親子の語る「火を運ぶこと」。
    善意。尊厳。善さ。尊さ。人間らしさ。あたたかさ。輝き。その反面、世界を滅ぼした文明でもある。つまりはプロメテウス。

    ロードムービー→ロードノベル→アメリカならではのフロンティアスピリット→ウェスタン。
    カギカッコのない会話・読点が排除された文体から醸されるのは、詩的、象徴的、寓意的、原初的、神話的な描写水準。
    細かいところは描写されるが、全体はまったく靄に包まれたまま。
    だからこそサバイバルという極めてミクロな視点を保ちながらも、抽象的で幻想的な話にも見える。ここにポエジーが生じる。

    最後まで、父は絶対に息子に絶望を語らなかった。
    だからこそ保たれた少年の「善さ」。世界の実相を見てしまった上での。
    父は息子の肉体だけでなく魂をも守ろうとした。
    本当に少年の無垢が世界を救うのかもしれない。

    母を思わせる女性に抱き留められる少年の姿は、作者が描かざるを得なかった救い。
    安直でどうかと考えることもできるが、最低限親として、放りっぱなしにはできなかったのでは。

  • 灰ともやに包まれた死に行く世界を旅する親子の物語。

    「この灰ともやに包まれている」という構造は物語自体のものでもある。
    手元ははっきり見える。
    しかし、遠くを見ようとすると途端にはっきりしなくなる。

    たとえば、船からコンロを取り外そうとするシーンがある。
    その行為は非常に細かく描写される。
    しかし、この世界に何が起こったのか、それからどれだけの時間が
    経過したのか、ここはどこなのかについての描写はほとんどない。

    そのため、物語全体を見通すことができない。
    常に目の前のことしかわからない。
    親子も、小説を読んでいる私たちも。

    そして、そこに作者独特の文章構造が加わる。
    いわゆる地の文にそのまま会話文を入れるのだ。
    少し抜粋すると

    足を止めて少年を振り返った。少年は立ち止まって待った。
    もう死ぬと思ってるだろう。
    わかんない。
    死にはしないよ。
    わかった。

    みたいな感じ。

    読んでいると非常に不思議な感覚にとらわれる。
    物語に溶け込んでいく感覚?
    取り込まれていく感覚?
    そして、あの世界はもしかしたら、私たちの世界とそれほど離れた場所に
    あるのではなく、実はすぐそばにあるのではないかと感じさせられる。
    なにしろ、何があったかはわからないのだ。
    「彼」もそのときまでは普通の生活を送っていたはずだ。
    なにかが起こり、彼はあの世界に放り込まれた。
    私たちに同じ事が起きないと言い切れるだろうか。

    具体的に様々な事を描きながら、同時に非常に抽象性の高い幻想的な
    物語になっていると思う。
    面白かったです。

  • 何かが起こって終わりの寸前まで行ってしまった地球上、父と息子が銃を手に山や道路をただひたすらに歩いて生き延びようとする物語。

    私が苦手とする緊急時ならではのヒステリックな愛の要素はなく、驚くほどたんたんと、父として平常を一度も経験したことのない息子をどのように育てるのかという苦労や温かい親子の言葉のやりとりが綴られている。

    「火を運ぶもの」=人間としての大切なもの、を意味していて、それは善意だとか尊厳だとかそういうものだと思うんだけど、こんな緊急時にあんなに良い息子に育ててお父さんあっぱれです。息子がずっと火を手放さないことを祈る。

  • 天災地変か戦争か、全てが失われて
    奪われていく死に絶えた灰色の世界、
    息子にヒトとしての良心、理性や、
    消え行く神の理想や、善き者の側にとどまろうという
    希望を重ね、育み、生きていく父親。
    なによりも、生きていくという希望を棄てず。
    「渚にて」とは違った形で淡々と重ねられる会話で
    歩んで来た道のり、時間とともに少年の成長が感じられる。

    もしかすると新しいものは人以外生み出すことがない世界で
    息子は父の姿を追い、善き者として生きていくことができるのか
    父の希望や理想は、人の理性は生き延びられるのか。
    火を運び続けることができるのだろうか。
    火とは何なのだろう。人間性?希望?理性?
    私にとって、貴方にとって、それは違うものなのかもしれない。

    映画も見てみたい。

  • 核戦争か何かが起きた世界、灰で覆われ、無政府状態。秩序がなく、食糧や生きるための道具を奪い合う世界。こんな中父と子どもが二人でカートを引きながら、ひたすら歩き続ける物語。こんな状態になったら自分は絶望するだろうか、それとも何か希望を見つけられるだろうか。

  • 「バーナード嬢」で気になっていて、店頭で見つけた際に購入。
    句点がない文体が読みにくかった。
    世界がどの程度崩壊しているのか、どこかにまともな人間のコミュニティがあるのかどうか、最後までわからないまま。一応、最後にまともそうな人間に出会ったところで終わるが、息子があとどれくらい生き延びられるのかはわからないままで、ラストをどう受け止めていいものかわからず。
    父親がギリギリまで息子のために命を削り続けた姿に静かな感動がある。
    ひたすら廃墟の中を進む情景と、破滅途中の断片的なエピソードが、神話的な雰囲気で、終末ものとしてとても良かった。

  • 機会がなければ読了することはなかったかもしれない。しかし、物語を読み終えた時、読んでよかったと思った。破滅を迎えた世界を父と子が旅する物語。大岡昇平「野火」のシチュエーションやドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」の三男などが読んでいてよぎった。描かれているのは新しい芽生えを否定された希望のない世界。自然が完全に人にそっぽを向いた世界。もはや何も与えるものがない世界というのは大岡昇平の「野火」よりヒドイ感じがした。丁寧に描かれる世界にある限られたもの。色々な事を考えさせられた。又、色々なことを考えられる場面、世界をこの読書を通してひとつ得た気がする。

  • 2017/08/18/Fri.(ブックオフにて中古で購入)

    2017/08/20/Sun.〜09/07/Thu.

    施川ユウキ『バーナード嬢曰く。』の第2巻を読んだ時に興味をもち、ずっと読んでみたいと思ってた一冊。

    暗くて寒い世界。灰と泥にまみれた世界。人を食べるやつもいる。
    なのに、物語には不思議と品格を感じる。
    この読後感を上手に書き表すことはできないけど、他の小説では味わえない余韻に浸れる。

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