見えない日本の紳士たち (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (440ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200731

作品紹介・あらすじ

当代一流の翻訳者が新訳を手がけた傑作短篇集。本邦初訳の話題の2篇を含む16篇を収録

感想・レビュー・書評

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  • 英国文学を代表する巨匠、グレアム・グリーンの日本オリジナル短編集。人間や日常の中に潜む哀感を、「直接的に描く」というよりも「じんわりと浮かび上がらせる」ことで、読者の心にも徐々にしみいるように描いている印象です。それでいてシニカルだったり、ブラックだったりのユーモアセンスも抜群。

    最初に収録されている短編は「ご主人を拝借」
    新婚夫婦と、その夫婦と同じ宿に泊まった中年の作家。新婚の夫を狙う宿の宿泊客のままならない関係を描いた作品。
    新婚の奥さんのことを最も考えていた作家が最後にふと気づく現実が、人生の哀しさと皮肉さを表すように感じます。

    「ビューティ」はオチの一文のシニカルさと毒がたまらない。夫人の飼い犬が逃げたという話から、人間に対する醒めた視点に話を持っていく、その構成と視点が印象的。

    「旅行カバン」は奇妙な味系の短編。カバンに死体を詰めているという男と、その周りの人たちのズレた会話が不思議な可笑しさを演出する。

    「過去からの声」10年間付き合った女性と別れ、新しい女性と結婚した男。しかし二人の家には、前の女性からの「親切な」手紙が何通も届き……
    ホラーっぽい雰囲気かと思ったら、現奥さんが鈍いタイプの女性なのか、どこかユーモア的な雰囲気もまとっている。それでいて愛のすれ違いが描かれていくのが、また巧い。

    「八月は安上がり」結婚しているものの、どこか鬱屈とした感情が晴れない女性と、老齢となった男性の関係を描いた作品。女性側の心理描写や揺れる感情、自尊心、男性側の孤独といずれも丁寧に描かれていて、切ないものになるのかな、と思いきやラスト一行でストンと落とす。
    作品全体の文学的な雰囲気から、思わぬ方向にオチが待っていて、そのシニカルな姿勢と技巧がこれ以上ないくらい光った作品だと思います。

    「ショッキングな事故」はお笑いのコントのような入りから、読み終えてみると心が温かくなる短編。これまでがシニカルな笑いの多い作品の多かったので、そこからの転調も見事に決まった作品。これは収録順の構成の妙も光っている。

    「考えるとぞっとする」傍から見るとただ男性が赤ちゃんをあやすだけの話なのですが、読んでいると劇団ひとりとか、バカリズムの一人コントを見ているような気持ちになってきます。赤ちゃんに対する独特の視点が、ツボにはまりました。

    「医師クロンビー」は語り手が子供のころ出会った、クロンビーという医者のことを思い出す話。このクロンビー博士の冗談か本気か今一つ分からない持論もなかなか強烈だったけど、なぜ語り手が今この話を思い出したのかがミソ。そこの理由が苦いのだけど、しみじみとした穏やかさも漂っていて、語り口とオチの付け方が絶妙。

    「諸悪の根源」
    酒の席を仲間外れにされた男が起こした騒動が、意外な展開に発展していきます。
    これもところどころシュールな場面があったり、奇想天外な展開に流れていって面白かった。「考えるとぞっとする」が一人コントなら、これは東京03とかザ・プラン9あたりの劇団系のコント的な面白さかな。

    「慎み深い二人」ベンチに座っている二人の男女の会話を描いた短編。
    ありえたかもしれない別の人生に想いを馳せ、元の生活にもどっていく二人の姿。運命の皮肉さ、人生の一瞬の縁の哀しさを映し出します。この中に書かれている一文も、哀感があってよかった。この年代の男女の愛に走り切れない現実と、それでも焦がれる思いをこれ以上ないくらい表しているように思えます

    『若い頃には臆病とされるものも、中年にとっては分別に他ならないが、それでも人は分別をはじることがある』

    「拝啓ファルケンハイム博士」は手記の形式。
    これは展開とオチでぶっ飛んだ(笑)なんというブラックな発想……

    「庭の下」病を宣告された男性が、子供のころの夢か現実か判別としない思い出をたどる作品。
    語り手と奇妙な老人の会話が強烈。幼い頃への郷愁と、寂しさだけでは終わらない捻りが効いた短編。

    人間や人生に対する冷徹な視点や、哀感を描きながら、時にシニカル、時に不謹慎な笑い、さらにとぼけた味わいのもの、奇妙な展開など、話のバリエーションが非常に豊かで、いずれも構成や、語り口、場面の切り取り方が絶妙。
    そして何よりラスト数行で、物語の輪郭を一気にはっきりとさせる作品が多くて、円熟した小説家ならではの技巧が光ります。

    渋さと巧さが光る、まさにいぶし銀の短編集。グレアム・グリーンは名前だけ知っていて、今回が初読でしたが、巨匠と呼ばれるのも納得の一冊でした。

  • グリーンの言うところのエンタメの方の小説。ちょっと下世話で。途中で断念

  • 著者:Graham Greene (1904-1991)
    翻訳:高橋和久 ほか
    ISBN:9784151200731
    定価:本体1100円+税
    シリーズ:ハヤカワepi文庫
    サブシリーズ:グレアム・グリーン・セレクション

    レストランで偶然聞こえてきた若い娘とその婚約者との何気ない会話を描く、短くも鮮烈な表題作。南フランスにある海辺の保養地をおとずれた新婚夫婦の仲が、あるいきさつから危機に直面する様子を中年の作家がほろ苦くつづった「ご主人を拝借」――本邦初紹介となる「祝福」と「戦う教会」を含む、多彩な味わいの十六短篇を収録。ひそやかなユーモアと胸を打つ哀感をあわせもつ、イギリス文学の巨匠の傑作短篇集、第一弾
    https://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000011040


    【収録作】
    「ご主人を拝借」――桃尾美佳訳
    「ビューティ」――桃尾美佳訳
    「悔恨の三断章」――永富友海訳
    「旅行カバン」――木村政則訳
    「過去からの声」――古屋美登里訳
    「八月は安上がり」――永富友海訳
    「ショッキングな事故」――加賀山卓朗訳
    「見えない日本の紳士たち」――高橋和久訳
    「考えるとぞっとする」――越前敏弥訳
    「医師クロンビー」――越前敏弥訳
    「諸悪の根源」――加賀山卓朗訳
    「慎み深いふたり」――鴻巣友季子訳
    「祝福」――高橋和久訳
    「戦う教会」――田口俊樹訳
    「拝啓ファルケンハイム博士」――若島正訳
    「庭の下」――木村政則訳

  • 軽い感じでセンスよく、悲哀ユーモアといった感じの短編集。この軽妙で軽快な、人間ってやつぁーってな感じは、落語のような味わいとおもった。落語は咄家が小咄として、気持ちよく帰ってもらえるように、楽しく温まるような展開にしてると思うが。

    しかし自分も作者も何だか「人間のめんどくささ」に遭遇した時には、人間っていいもんだよな、と素直に受け止められない、へそ曲がりな部分がある人種だと思う。作家はそこをうまく作品にしてるわけだが。何か熱いと読むのが精一杯で感想書く頃には忘れてんだよ実は。

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  • グレアム・グリーンの人間観察眼は乾いている。

    アイロニカルだとよく言われる。
    皮肉だけでは鼻持ちならないが、そうは感じさせない筆致が彼の魅力である気がする。

    湿っぽくはならないけど、人間味がある。

    観察対象と一定の距離を置こうとするその態度は、ある意味紳士的で礼儀正しい。

    好きなのは「祝福」「慎しみ深いふたり」「八月は安上がり」あたり。

    「慎しみ深い〜」と「八月は〜」は人生の黄昏を迎えた男女の諦念や孤独が胸にぐっと来る美しい小品。

  • グリーンの短編集。未発表というわけではないけれど、それぞれにグリーンらしくて良いなあ~。

    表題になっている短編は、日本の紳士が主人公ではありません。

  • 日本向けの短編集だから
    こういうタイトルにしたのだろうけど
    男女、情事についての内容も比較的多く印象的なので
    「ご主人を拝借」か「八月は安上がり」でもいいのではないか。
    とはいえ「ショッキングな事故」「考えるとぞっとする」
    「庭の下」も捨てがたい。
    「過去からの声」は、これをモチーフに
    サイコスリラーを映画を作れるかもしれない。

    しかし、やはり内容というよりドラマとして
    「慎み深いふたり」に落ち着きそうだ。

  • books a to z にて紹介あり

  • グリーンのオリジナル短編集とは! 知的でシニカルなのに優しい視点。無駄なき描写。ホッとする。表題作もいいけど「慎み深いふたり」がいいな。最後の「庭の下」は、まさかの南米マジカル文学風で意表を突いた。

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著者プロフィール

Henry Graham Greene (2 October 1904 – 3 April 1991)

「2012年 『なぜ書くか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

グレアム・グリーンの作品

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