怒りの葡萄〔新訳版〕(上) (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房
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本棚登録 : 322
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200809

作品紹介・あらすじ

ノーベル賞作家の代表作が、25年ぶりの新訳によって蘇る! ピュリッツァー賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • まるで映画を見るような迫力です。胸に迫るようなリアリズムに驚き、次へ次へと読ませるストーリーテリングは絶妙! 当時の農民がおかれた過酷な状況に対する怒りの書でありながら、作者ジョン・スタインベック(1902~1968・アメリカ・ノーベル賞)の深い情愛をそこここに漂わせた、泣ける作品でもあります。

    オクラホマの小作農ジョード一家は、日照りと砂嵐(ダストボール)によって土地を追われます。新天地のカリフォルニアをめざしてルート66を旅するのですが……過酷な運命に翻弄される人々、資本家と労働者のあいだに横たわる深淵、家族の絆とは? 真の豊かさとは? 次々に読み手に問いかけてくる力強さ。黒原敏行さんの翻訳もそれに応えてさすがですね♪

    不適切な農業法と干ばつのために不作が続き、銀行は農民の借金を情け容赦なく取り立てます。農地を強制的に取り上げ、トラクターで引きつぶし、資本家による機械化農業へと駆り立てます。テキサス、オクラホマ、サウスダコダから貧窮する農民が溢れかえり、甘い言葉を信じた彼らは新天地をめざします。もちろん開拓物語ではありません。自分たちの土地を奪われ、社会にも政治にも見放され、さながら農奴と化した農民たちの生き残りをかけた壮絶な大移動、まるで「出エジプト記」の民のようです。

    「……ところがこのトラクターは二つのことをする――土地を耕すことと、わたしたちを土地から追い出すことだ。このトラクターと戦車のあいだにはわずかな違いしかない。トラクターも戦車も人々を追い出し、威嚇し、傷つける」

    ジョード一家が必至の想いでたどりついたカリフォルニア。目の前には美しい果樹園や綿畑が広がっています。しかしひどい低賃金、食うや食わずの農民たちを前に、濡れ手に粟の資本は、利益調整のためにあこぎなことをします。

    「……人々は川のジャガイモを網ですくおうとやってくるが、警備員に制止される。オレンジを拾おうとやってくるが、オレンジには灯油がかけられている。人々はジャガイモが流れ去るのを見、溝の中で殺されて石灰石をかけられる豚の悲鳴を聞き、オレンジの山がぐじゅぐじゅの腐敗物に変わっていくのを見る。……飢えた人々の目に怒りが育っていく、人々の魂の中で怒りの葡萄がふくれあがり、重く実り、収穫の時を待つ」

    本作は世界恐慌後の1930年代アメリカにおこったことを社会背景としているのですが、でもこれ、当時のアメリカのことだけではなさそうです。労働力の使い捨て、非正規雇用の拡大、研修という名の廉価な外国人労働の受け入れ、銀行の貸しはがし、金融界のマネーゲーム、種子法廃止などの農業の資本化・機械化、先日からの豚コレラではワクチン接種もされないまま大量の殺処分を招き被害拡大させている政治に首を傾げ、農家の人々の苦労やあまりにも軽い命の扱いに慨嘆します。
    こうして考えてみると、当時アメリカで生まれたこの作品の歴史的意義もさることながら、まさに今だからこそ時空を超えて読み甲斐のある作品だと感じます。

    表題も魅力的です。 ヨハネ『黙示録』は、最後の審判のときに罪深い人間たちに対してぶちまけられる神の怒りを描いています。さながら神は大鎌を持ち、天使たちはこれを収穫して酒ぶねに入れ、神は怒りの葡萄を貯えた酒ぶねをふみつけます。

    そんな『怒りの葡萄』という作物を読んで思うのは、確かに鋭い悲憤を描いた手厳しい小説です。でも作者スタインベックの生きとし生けるものへの慈しみ、哀しみ、苦難にも過酷な運命にもめげることなくしたたかに「生」に向けて突き進む人間、民衆への礼讃の書のように思えます。
    一気に読ませます、素晴らしい(^^♪  

  • 土地を追いやられる人々。追いやられるのは土地だけでない。人間性そのものだ。家族、コミュニティが切り裂かれていく。元説教師のこれからの言葉はどうなるのだろう。

  • スタインベックの作品を初めて読んでみました。
    登場人物のセリフがとても心に残り、ながい映画を観ているようでした。

    まだ見ぬ地を目指してある家族がルート66に乗りカリフォルニアを目指す話なのですが、大きな家族の中には前進することに不安を持つメンバーもいて、そんな大所帯を説得しながら前に向かう長男やお母さんに深く共感できました。

    上巻の半分以上を使って家族が故郷を離れるまでのエピソードが描かれているのですが、遠い昔の話と思えないほどリアルに感じられました。

    なかなか決断を下せないのはどの時代も同じだな。。。

    それでも前を向いて進んでいく一家の話からは多くの勇気をもらいました。

  • 世界文学の名作は様々な読み方ができるもので、本作もいろんな思いが去来するが、資本主義の下で人間がゴミのように扱われる様は時代を超えた迫力をもって迫る。ジョード一家のように何の救いもない状況に陥った人々もいただろうし、絶望的な状況を逞しく生き抜いた人々もいただろう。敬意と哀悼を感じる。
    ふと感じたのは、現代の我々がもしこうした状況に追い込まれたとき怒りの葡萄を心に持つことはできるだろうかということ。平和ボケの軟弱な精神を持つ我々現代人は、分かりやすい異分子や弱者を捌け口として怒りをぶつける悪癖を共有しているが、強大なシステムが我々を押しつぶそうとしたときに、正しい怒りというか、その理不尽さに怒り闘うことができるだろうか?安易に迎合してシステムの下層に組み込まれることを拒否できるだろうか?
    そのように自問した作品であった。

  •  世界文学の名作で敬遠していたが、今荒れるアメリカのものに何となく惹かれて読んでみた。図書館で借りた河出書房の世界文学全集、訳は石一郎でわかりやすい日本語で良いが、登場人物らんを読むとあら筋がわかってしまう難点あり。しかもトラックに乗る人物しか説明ないので不要(必要な場合も世界の名作ではありがちだが)。
     東側のオクラホマの耕作地を追われてカリフォルニアへ仕事と生活を求めて家族でトラックでの大移動。この作品を聖書に匹敵する内容と語る人もいるが、確かに土地と人間の結びつき、苦境にたったときの振る舞い、持たざる者同士の協力、苦しい道からの逃避、など人間の生き方を語っていると思う。それまでの暮らし方を捨てて次々変わる状況にたくましく対応する人、できない人、1ドルも稼げない状況なのに酒代に2ドル使って泥酔する人、旅の途中で突然放棄する人…一つの家族に老人から子供までいて、それぞれの大移動の受け止め方、来し方、振るまいが書き分けられていて社会の縮図を感じる。「百年の孤独」に通じるところあり。
     タイトルからカリフォルニアで葡萄を育てる話かと思っていたが違った。解説で読んだが怒りの気持ちが葡萄のように人間の中で育っていく、という聖書関係の文言から。舞台も1930年代というからさほどの昔でもない。持てるものが奪われないように新参者を苛める、持たざる外国人が搾取される話は現在にもつながる話だ。
     作者が実際に移民のキャンプに参加して書いているのでリアルなのが魅力になっている。作者はこの作品の映画化でできるお金を難民に配布する意向を持つほど難民に同情心を保っていたが、自分や作品に政治色がつくのを避けたとのこと。

  • 葡萄を求めて本書を手に取ったが今のところ憧れの目的地の象徴程だろうか? ハヤカワepi文庫版の訳を選んでみたが読みやすかった。かなり昔の小説だが色褪せない。視点の切り替えや描写中の視線誘導、キャラ立てが上手くてとても面白い。上巻はカリフォルニアへの旅の話で、土地を追われた悲しみと行く先への不安が、カリフォルニアへ近付くにつれて重くのしかかってくる。キリスト教のモチーフも多々出てきており下巻が楽しみ。

  • 銀行に農場を差押えられた小作人一家が新天地カリフォルニアを目指して旅をするロードムービー的な話。日本でも昔は集団就職で東京に来た若者が多くいたのですが、アメリカではカリフォルニアが東京のような場所だったんだろうと思いました。後半になるにつれて共産主義思想が出てくるため、本書が発禁になったのもその辺りに理由がありそうだ。アメリカは建国当初から資本主義を国是としているため、アメリカでは受けが悪いのかも。今でもアメリカ中西部よりカリフォルニアの方が生活満足度が高いのはこんな歴史があったからかもしれない。

  • 資本家と労働者、資本主義と共産主義、改革と現状、大家族を通じてさまざまな見地から描く。
    古き良きアメリカ以前の世界恐慌を描く。

  • 文学

  • 2018.09.08読売書評。新訳で読みたい。

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