怒りの葡萄〔新訳版〕(上) (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房
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本棚登録 : 466
感想 : 20
  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200809

作品紹介・あらすじ

ノーベル賞作家の代表作が、25年ぶりの新訳によって蘇る! ピュリッツァー賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • まるで映画を見るような迫力です。胸に迫るようなリアリズムに驚き、次へ次へと読ませるストーリーテリングは絶妙! 当時の農民がおかれた過酷な状況に対する怒りの書でありながら、作者ジョン・スタインベック(1902~1968・アメリカ・ノーベル賞)の深い情愛をそこここに漂わせた、泣ける作品でもあります。

    オクラホマの小作農ジョード一家は、日照りと砂嵐(ダストボール)によって土地を追われます。新天地のカリフォルニアをめざしてルート66を旅するのですが……過酷な運命に翻弄される人々、資本家と労働者のあいだに横たわる深淵、家族の絆とは? 真の豊かさとは? 次々に読み手に問いかけてくる力強さ。黒原敏行さんの翻訳もそれに応えてさすがですね♪

    不適切な農業法と干ばつのために不作が続き、銀行は農民の借金を情け容赦なく取り立てます。農地を強制的に取り上げ、トラクターで引きつぶし、資本家による機械化農業へと駆り立てます。テキサス、オクラホマ、サウスダコダから貧窮する農民が溢れかえり、甘い言葉を信じた彼らは新天地をめざします。もちろん開拓物語ではありません。自分たちの土地を奪われ、社会にも政治にも見放された農民たちの生き残りをかけた壮絶な大移動、まるで「出エジプト記」の民のようです。

    「……ところがこのトラクターは二つのことをする――土地を耕すことと、わたしたちを土地から追い出すことだ。このトラクターと戦車のあいだにはわずかな違いしかない。トラクターも戦車も人々を追い出し、威嚇し、傷つける」

    ジョード一家が必至の想いでたどりついたカリフォルニア。目の前には美しい果樹園や綿畑が広がっています。しかしひどい低賃金、食うや食わずの農民たちを前に、濡れ手に粟の資本は、利益調整のためにあこぎなことをします。

    「……人々は川のジャガイモを網ですくおうとやってくるが、警備員に制止される。オレンジを拾おうとやってくるが、オレンジには灯油がかけられている。人々はジャガイモが流れ去るのを見、溝の中で殺されて石灰石をかけられる豚の悲鳴を聞き、オレンジの山がぐじゅぐじゅの腐敗物に変わっていくのを見る。……飢えた人々の目に怒りが育っていく、人々の魂の中で怒りの葡萄がふくれあがり、重く実り、収穫の時を待つ」

    この作品は、世界恐慌後の1930年代アメリカにおこったことを社会背景としているのですが、でもこれ、当時のアメリカのことだけではなさそう。
    労働力の使い捨て、非正規雇用の拡大、研修という名の廉価な外国人労働の採用、銀行の貸しはがし、金融界のマネーゲーム、種子法廃止の農業の資本化、先日から長期間、広範囲の豚コレラの蔓延では、ワクチン接種もされないまま放置されています(今後の輸出を顧慮する?)。その結果、考えられないほどの大量の豚の殺処分となっていて呆然とします。農家の苦労やあまりにも軽すぎる命と食べ物の扱いに怒りをおぼえます。フードロスうんぬん……どころではありません。1930年代のこの作品で溝の中で殺されて石灰石をかけられる豚の悲鳴と、一体どこかちがうのだろう?

    こうして考えてみると、当時アメリカで生まれたこの作品の歴史的意義もさることながら、まさに今だからこそ時空を超えて読み甲斐のある作品だと感じます。

    表題もすごい、 ヨハネ『黙示録』は、最後の審判のときに罪深い人間たちに対してぶちまけられる神の怒りを描いています。さながら神は大鎌を持ち、天使たちはこれを収穫して酒ぶねに入れ、神は怒りの葡萄を貯えた酒ぶねをふみつけます。

    そんな『怒りの葡萄』という作物を読んで思うのは、確かに鋭い悲憤を描いた手厳しい小説です。でも作者スタインベックの生けるものへの慈しみ、哀しみ、そして苦難にも過酷な運命にもめげることなくしたたかに「生」に向けて突き進む人々、貧窮した民衆への礼讃の書のように思えます。
    一気に読ませます! 素晴らしいですよ(^^♪  

  • 土地を追いやられる人々。追いやられるのは土地だけでない。人間性そのものだ。家族、コミュニティが切り裂かれていく。元説教師のこれからの言葉はどうなるのだろう。

  • ようやく、読み終えました。本当に長かった…。

    まだ上ですが、お腹いっぱいになります。まぁ、しかしさすがノーベル文学賞作家の代表作だなという感じ。ありありと情景が目に浮かぶし、怒りがダイレクトに伝わってきて、胸がいっぱいになりました。

    人殺しの刑期を終えて、ようやく故郷に戻ってきたトムを待っていたのは、もぬけの殻と化した地域一帯と我が家。

    一体なにが起きたのかと問うトムに、説教士は農業改革によって、小作人の仕事が奪われ、さらに土地も追い出されたのだと答える。

    トムは慌てて家族を追いかけて合流し、仕事を探して西へ西へと旅に出る。さあ、トムとその家族の旅は成功するのか、旅の終着点とは。


    土地も仕事も奪われた小作人たち。
    飢えに苦しむ子供と痩せ細る妻、そして追い詰められる男たち。

    西へと大流入してきた移民たちに仕事を奪われるのではないかと恐れる住民たち。
    移民を抑圧する保安官たち。
    移民の反乱を恐れ弾圧する地主たち。

    ありとあらゆる人の恐怖と怒りが詰まっているのに、読後には力が湧いてくる不思議な本でした。

    旅の途中では、最愛の家族を失ったり、別れたり、持つ者と戦ったりと様々な苦難がトムたちを襲います。しかも、カリフォルニアに着いてもなお絶望は続くのがまた辛い。読んでいて思わず、涙が出るシーンが多いので、ちゃんと心構えしてから読んだ方がいいでしょう。

    あと、表現の仕方が凝っていて、飽きずに面白かったです。鉤括弧が一切ない章があったり、一般論に昇華したり、別の家族の話をしたり、全く関係ない人の視点も多かったり。

    本当に疲れるが、頑張って下も読みたいと思います。

  • 銀行に農場を差押えられた小作人一家が新天地カリフォルニアを目指して旅をするロードムービー的な話。日本でも昔は集団就職で東京に来た若者が多くいたのですが、アメリカではカリフォルニアが東京のような場所だったんだろうと思いました。後半になるにつれて共産主義思想が出てくるため、本書が発禁になったのもその辺りに理由がありそうだ。アメリカは建国当初から資本主義を国是としているため、アメリカでは受けが悪いのかも。今でもアメリカ中西部よりカリフォルニアの方が生活満足度が高いのはこんな歴史があったからかもしれない。

  • スタインベックの作品を初めて読んでみました。
    登場人物のセリフがとても心に残り、ながい映画を観ているようでした。

    まだ見ぬ地を目指してある家族がルート66に乗りカリフォルニアを目指す話なのですが、大きな家族の中には前進することに不安を持つメンバーもいて、そんな大所帯を説得しながら前に向かう長男やお母さんに深く共感できました。

    上巻の半分以上を使って家族が故郷を離れるまでのエピソードが描かれているのですが、遠い昔の話と思えないほどリアルに感じられました。

    なかなか決断を下せないのはどの時代も同じだな。。。

    それでも前を向いて進んでいく一家の話からは多くの勇気をもらいました。

  • 4.36/389
    内容(「BOOK」データベースより)
    『一九三〇年代、アメリカ中西部の広大な農地は厳しい日照りと砂嵐に見舞われた。作物は甚大な被害を受け、折からの大恐慌に疲弊していた多くの農民たちが、土地を失い貧しい流浪の民となった。オクラホマの小作農ジョード一家もまた、新天地カリフォルニアをめざし改造トラックに家財をつめこんで旅の途につく―苛烈な運命を逞しく生きぬく人びとの姿を描き米文学史上に力強く輝く、ノーベル賞作家の代表作、完全新訳版。』


    冒頭
    『オクラホマの赤い土地と、灰色の土地の一部に、最後の雨がやさしく降った。雨は傷だらけの大地に新たな切り傷をつけなかった。水が細く流れた跡のある畑を、犂(すき)が何度も横切った。』

    原書名:『The Grapes of Wrath』
    著者 : ジョン・スタインベック (John Steinbeck)
    訳者 : 黒原 敏行
    出版社 ‏: ‎早川書房
    新書 ‏: ‎447ページ(上巻)
    受賞:ピュリッツァー賞、全米図書賞
    ISBN‏ : ‎9784151200809


    メモ:
    ・20世紀の小説ベスト100(Modern Library )「100 Best Novels - Modern Library」
    ・20世紀の100冊(Le Monde)「Le Monde's 100 Books of the Century」
    ・英語で書かれた小説ベスト100(The Guardian)「the 100 best novels written in english」
    ・死ぬまでに読むべき小説1000冊(The Guardian)「Guardian's 1000 novels everyone must read」


    ー抜粋ー
    『 六六号線は逃げてくる人たちの通り道だ。人々は砂埃に荒らされた土地から逃げてくる。轟音を立てるトラクターに土地を追われて逃げてくる。南から北へゆっくりと侵略してくる砂漠から、テキサスから吠えたけりながら吹いてくるつむじ風から、土地を富ませず逆になけなしの財産を奪っていく洪水から、逃げてくる。それらすべてから人々は逃げだし、枝道から、幌馬車時代の旧街道から、わだちのついた田舎道から、六六号線に乗ってくる。六六号線は母なる道、逃亡の道だ。(上巻216ページ)』

    『 この小説は何よりもまず、移住農民が置かれた過酷な状況に対する激烈な怒りの書だ。タイトルの”怒りの葡萄”(The Grapes of Wrath)は、南北戦争時の北軍の行進曲で、その後も愛国歌として歌い継がれている『共和国賛歌』(略)からとられている。

    わたしの目は神の栄光に満ちた到来を見た
    神は怒りの葡萄を貯えた酒槽(さかぶね)を踏みつける

    この”怒りの葡萄を貯えた酒槽”という表現は、新約聖書『ヨハネの黙示録』十四章十九~二十節に由来し、最後の審判のときに罪深い人間たちに対してぶちまけられる神の怒りを表わしている。(「訳者あとがき」より 下巻426ページ)』

  • 傑作。21世紀になっても同時代性を失わないというか、預言書になっているところがすごい。

  • 生まれた土地を追いやられ、たった一枚のチラシに夢を託し、遠い遠いカリフォルニアの地を目指す小作農が主人公の物語。
    貧富の差の拡大により、富める者はますます富み、飢える者はますます飢えていく、現代社会にも通じる問題が今以上にリアルに感じられる。
    人生のどん詰まりにうって、それでも生き続けなければならない彼らが、やっとの想いで辿り着いた西の大地は確かに美しく、またそれ以上に残酷な現実を突きつけていく…。
    登場人物たちの息遣いとその苦しみまで聞こえてきそうな迫力ある描写に、一気に引きこまれる。
    彼らの怒りが向かう先は果たして…

  • 世界文学の名作は様々な読み方ができるもので、本作もいろんな思いが去来するが、資本主義の下で人間がゴミのように扱われる様は時代を超えた迫力をもって迫る。ジョード一家のように何の救いもない状況に陥った人々もいただろうし、絶望的な状況を逞しく生き抜いた人々もいただろう。敬意と哀悼を感じる。
    ふと感じたのは、現代の我々がもしこうした状況に追い込まれたとき怒りの葡萄を心に持つことはできるだろうかということ。平和ボケの軟弱な精神を持つ我々現代人は、分かりやすい異分子や弱者を捌け口として怒りをぶつける悪癖を共有しているが、強大なシステムが我々を押しつぶそうとしたときに、正しい怒りというか、その理不尽さに怒り闘うことができるだろうか?安易に迎合してシステムの下層に組み込まれることを拒否できるだろうか?
    そのように自問した作品であった。

  •  世界文学の名作で敬遠していたが、今荒れるアメリカのものに何となく惹かれて読んでみた。図書館で借りた河出書房の世界文学全集、訳は石一郎でわかりやすい日本語で良いが、登場人物らんを読むとあら筋がわかってしまう難点あり。しかもトラックに乗る人物しか説明ないので不要(必要な場合も世界の名作ではありがちだが)。
     東側のオクラホマの耕作地を追われてカリフォルニアへ仕事と生活を求めて家族でトラックでの大移動。この作品を聖書に匹敵する内容と語る人もいるが、確かに土地と人間の結びつき、苦境にたったときの振る舞い、持たざる者同士の協力、苦しい道からの逃避、など人間の生き方を語っていると思う。それまでの暮らし方を捨てて次々変わる状況にたくましく対応する人、できない人、1ドルも稼げない状況なのに酒代に2ドル使って泥酔する人、旅の途中で突然放棄する人…一つの家族に老人から子供までいて、それぞれの大移動の受け止め方、来し方、振るまいが書き分けられていて社会の縮図を感じる。「百年の孤独」に通じるところあり。
     タイトルからカリフォルニアで葡萄を育てる話かと思っていたが違った。解説で読んだが怒りの気持ちが葡萄のように人間の中で育っていく、という聖書関係の文言から。舞台も1930年代というからさほどの昔でもない。持てるものが奪われないように新参者を苛める、持たざる外国人が搾取される話は現在にもつながる話だ。
     作者が実際に移民のキャンプに参加して書いているのでリアルなのが魅力になっている。作者はこの作品の映画化でできるお金を難民に配布する意向を持つほど難民に同情心を保っていたが、自分や作品に政治色がつくのを避けたとのこと。

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