怒りの葡萄〔新訳版〕(上) (ハヤカワepi文庫 ス 1-5)

  • 早川書房
4.39
  • (37)
  • (23)
  • (8)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 650
感想 : 25
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (447ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200809

作品紹介・あらすじ

ノーベル賞作家の代表作が、25年ぶりの新訳によって蘇る! ピュリッツァー賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • まるで映画を見るような迫力です。胸に迫るようなリアリズムに驚き、次へ次へと読ませるストーリーテリングは絶妙! 当時の農民がおかれた過酷な状況に対する怒りの書でありながら、作者ジョン・スタインベック(米国1902~1968)の詩情を漂わせた、泣ける作品でもあります。

    オクラホマの小作農ジョード一家は、日照りと砂嵐(ダストボール)によって土地を追われます。新天地のカリフォルニアをめざしてルート66を旅するのですが……過酷な運命に翻弄される人々、資本家と労働者のあいだに横たわる深淵、家族の絆とは? 真の豊かさとは? 次々に読み手に問いかけてくる力強さ。黒原敏行さんの翻訳もそれに応えてさすがですね♪

    不適切な農業法と干ばつのために不作が続き、銀行は農民の借金を情け容赦なく取り立てます。農地を強制的に取り上げ、トラクターで引きつぶし、資本家による機械化農業へと駆り立てます。テキサス、オクラホマ、サウスダコダから貧窮する農民が溢れかえり、甘い言葉を信じた彼らは新天地をめざします。もちろん開拓物語ではありません。自分たちの土地を奪われ、社会にも政治にも見放された農民たちの生き残りをかけた壮絶な大移動、まるで聖書の出エジプト記の民のようです。

    「……ところがこのトラクターは二つのことをする――土地を耕すことと、わたしたちを土地から追い出すことだ。このトラクターと戦車のあいだにはわずかな違いしかない。トラクターも戦車も人々を追い出し、威嚇し、傷つける」

    ジョード一家が必至の想いでたどりついたカリフォルニア。目の前には美しい果樹園や綿畑が広がっています。しかしひどい低賃金、食うや食わずの農民たちを前に、濡れ手に粟の資本は、利益調整のためにあこぎなことをします。

    「……人々は川のジャガイモを網ですくおうとやってくるが、警備員に制止される。オレンジを拾おうとやってくるが、オレンジには灯油がかけられている。人々はジャガイモが流れ去るのを見、溝の中で殺されて石灰石をかけられる豚の悲鳴を聞き、オレンジの山がぐじゅぐじゅの腐敗物に変わっていくのを見る。……飢えた人々の目に怒りが育っていく、人々の魂の中で怒りの葡萄がふくれあがり、重く実り、収穫の時を待つ」

    この作品は、世界恐慌後の1930年代アメリカにおこったことを社会背景としているのですが、でもこれ、当時のアメリカのことだけではなさそう。
    労働力の使い捨て、非正規雇用の拡大、研修という名の廉価な外国人労働者、銀行の貸しはがし、金融界のマネーゲーム、種子法廃止の農業の資本化。
    くしくも先日から長い間、広範囲で豚コレラが蔓延しています。政府はワクチン接種もせず放置(今後の輸出や国際的メンツやらを顧慮する?)。その結果、考えられないほどの大量の殺処分がなされていて呆然とします。農家の苦労や、あまりにも軽すぎる命と食べ物の扱いに怒りをおぼえます。フードロスうんぬんどころではありません。1930年代のこの作品で、溝の中で殺され石灰石をかけられる豚の悲鳴と一体どこかちがうのだろう?

    こうして考えてみると、当時アメリカで生まれたこの作品の歴史的意義もさることながら、まさに今だからこそ時空を超えて読み甲斐のある作品だと感じます。
    表題もすさまじい。 ヨハネ『黙示録』は、最後の審判のときに罪深い人間たちに対してぶちまけられる神の怒りを描いています。さながら神は大鎌を持ち、天使たちはこれを収穫して酒ぶねに入れ、神は怒りの葡萄を貯えた酒ぶねをふみつけます。

    そんな『怒りの葡萄』という作物を読んで思うのは、たしかに鋭い悲憤を描いた手厳しい小説です。でも作者スタインベックの生けるものへの慈しみや哀しみはまことに深い。苦難や過酷な運命にもめげることなく「生」に向けて突き進む人々、そして貧窮した民衆に向けた礼讃の書です。
    一気に読ませます! 素晴らしいですよ(^^♪  

  • 土地を追いやられる人々。追いやられるのは土地だけでない。人間性そのものだ。家族、コミュニティが切り裂かれていく。元説教師のこれからの言葉はどうなるのだろう。

  • 人間は…自分の創り出すものを超えて成長し、自分の考えの階段を踏みのぼり、自分のなしとげたもののかなたに立ちあらわれる。▼圧制は被圧制者の力を強め、結合させるのみである。▼飢えた人々の目の中には、次第にわき上がる激怒の色がある。人々の魂の中には「怒りの葡萄」が次第に満ちて夥(おびただ)しく実っていく。スタインベック『怒りの葡萄』1939

  • 銀行に農場を差押えられた小作人一家が新天地カリフォルニアを目指して旅をするロードムービー的な話。日本でも昔は集団就職で東京に来た若者が多くいたのですが、アメリカではカリフォルニアが東京のような場所だったんだろうと思いました。後半になるにつれて共産主義思想が出てくるため、本書が発禁になったのもその辺りに理由がありそうだ。アメリカは建国当初から資本主義を国是としているため、アメリカでは受けが悪いのかも。今でもアメリカ中西部よりカリフォルニアの方が生活満足度が高いのはこんな歴史があったからかもしれない。

  • 葡萄を求めて本書を手に取ったが今のところ憧れの目的地の象徴程だろうか? ハヤカワepi文庫版の訳を選んでみたが読みやすかった。かなり昔の小説だが色褪せない。視点の切り替えや描写中の視線誘導、キャラ立てが上手くてとても面白い。上巻はカリフォルニアへの旅の話で、土地を追われた悲しみと行く先への不安が、カリフォルニアへ近付くにつれて重くのしかかってくる。キリスト教のモチーフも多々出てきており下巻が楽しみ。

  • スタインベックの作品を初めて読んでみました。
    登場人物のセリフがとても心に残り、ながい映画を観ているようでした。

    まだ見ぬ地を目指してある家族がルート66に乗りカリフォルニアを目指す話なのですが、大きな家族の中には前進することに不安を持つメンバーもいて、そんな大所帯を説得しながら前に向かう長男やお母さんに深く共感できました。

    上巻の半分以上を使って家族が故郷を離れるまでのエピソードが描かれているのですが、遠い昔の話と思えないほどリアルに感じられました。

    なかなか決断を下せないのはどの時代も同じだな。。。

    それでも前を向いて進んでいく一家の話からは多くの勇気をもらいました。

  • 名作には名作と呼ばれるだけの確たる理由がある、というのを名作を読むたびに感じる。共産主義者になりたいわけでもないが、これを読んでいるとつくづく資本主義というものが嫌になってしまう。富める者は更に富み、貧しい者は更に貧しくなっていく。どうにもならなくなった人達を集めて、考えられない程の低賃金で働かせる。幸せを夢見て移住してきた人間が増えすぎると、オーキーと呼んで蔑み、差別する。大恐慌で先が見えない中で、誰もが未来に不安を覚えていた時代。土地に直接触れ、作物を育てることもせずに書類上だけで全てが進んでいく。先祖代々の土地を取り立てに来る者に怒りをぶつけても、そいつはいや、社長や経営者が悪い、と言う。社長や経営者に直談判しに行っても、今度は銀行が悪い、と言う。誰もが資本主義を盾に非情なことを平気でしてしまう、あの心理や描写は、今になっても、この時代と何ら変わる所が無い気がしてしまう。カリフォルニアを夢見て移動を続けるジョード一家は祖父と祖母を喪い、バラバラになりかけている。チラシの文句に踊らされる母ちゃんを見て、どうしてあんなものに騙されるんだ、と私は言いたくなってしまったが、ジョード一家にはそもそも選択肢が無い。元々の土地に居ても強制的にトラクターが家を壊し、西に行っても低賃金でこき使われる。選択肢がない、差別されていることも知らない、それが問題なのだ。誰かが違う道もあるよ、と教えてくれなければ、幸せなのかもしれない。どうなのだろう。知らなくても、知っていても地獄。どちらが幸せなのか決めるのは、自分だとしても、やはり複雑な気持ちになってしまう。あまりまとまっている気がしないが、この本を読んで心が大いに揺さぶられているのは事実。下巻で少しでも希望があると良いけれど、どうなんだろうなぁ。

  • ルート66を走破する前に読みました。旅が一層感慨深いものになりました。

  • 感想は下巻で。

  • 4.36/389
    内容(「BOOK」データベースより)
    『一九三〇年代、アメリカ中西部の広大な農地は厳しい日照りと砂嵐に見舞われた。作物は甚大な被害を受け、折からの大恐慌に疲弊していた多くの農民たちが、土地を失い貧しい流浪の民となった。オクラホマの小作農ジョード一家もまた、新天地カリフォルニアをめざし改造トラックに家財をつめこんで旅の途につく―苛烈な運命を逞しく生きぬく人びとの姿を描き米文学史上に力強く輝く、ノーベル賞作家の代表作、完全新訳版。』


    冒頭
    『オクラホマの赤い土地と、灰色の土地の一部に、最後の雨がやさしく降った。雨は傷だらけの大地に新たな切り傷をつけなかった。水が細く流れた跡のある畑を、犂(すき)が何度も横切った。』

    原書名:『The Grapes of Wrath』
    著者 : ジョン・スタインベック (John Steinbeck)
    訳者 : 黒原 敏行
    出版社 ‏: ‎早川書房
    新書 ‏: ‎447ページ(上巻)
    受賞:ピュリッツァー賞、全米図書賞
    ISBN‏ : ‎9784151200809


    メモ:
    ・20世紀の小説ベスト100(Modern Library )「100 Best Novels - Modern Library」
    ・20世紀の100冊(Le Monde)「Le Monde's 100 Books of the Century」
    ・英語で書かれた小説ベスト100(The Guardian)「the 100 best novels written in english」
    ・死ぬまでに読むべき小説1000冊(The Guardian)「Guardian's 1000 novels everyone must read」
    ・オールタイムベスト100英語小説(Time Magazine)「Time Magazine's All-Time 100 Novels」

    ー抜粋ー
    『 六六号線は逃げてくる人たちの通り道だ。人々は砂埃に荒らされた土地から逃げてくる。轟音を立てるトラクターに土地を追われて逃げてくる。南から北へゆっくりと侵略してくる砂漠から、テキサスから吠えたけりながら吹いてくるつむじ風から、土地を富ませず逆になけなしの財産を奪っていく洪水から、逃げてくる。それらすべてから人々は逃げだし、枝道から、幌馬車時代の旧街道から、わだちのついた田舎道から、六六号線に乗ってくる。六六号線は母なる道、逃亡の道だ。(上巻216ページ)』

    『 この小説は何よりもまず、移住農民が置かれた過酷な状況に対する激烈な怒りの書だ。タイトルの”怒りの葡萄”(The Grapes of Wrath)は、南北戦争時の北軍の行進曲で、その後も愛国歌として歌い継がれている『共和国賛歌』(略)からとられている。

    わたしの目は神の栄光に満ちた到来を見た
    神は怒りの葡萄を貯えた酒槽(さかぶね)を踏みつける

    この”怒りの葡萄を貯えた酒槽”という表現は、新約聖書『ヨハネの黙示録』十四章十九~二十節に由来し、最後の審判のときに罪深い人間たちに対してぶちまけられる神の怒りを表わしている。(「訳者あとがき」より 下巻426ページ)』

全25件中 1 - 10件を表示

ジョン・スタインベックの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×