キャッチ=22 新版 (上) (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房 (2016年3月9日発売)
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本 ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784151200830

作品紹介・あらすじ

強烈なブラック・ユーモアと不条理で戦争を描いたアメリカ文学の傑作!解説/松田青子

感想・レビュー・書評

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  • <翻訳文学試食会>で名前が出ていたので読んでみた。かなりの難物でした(^_^;)


    第二次世界大戦中に、イタリアの近くのピアノーサ島に駐屯するアメリカ空軍部隊がある。
    主人公はアッシリア系アメリカ人で爆撃助手のヨッサリアン。彼は「生き残る」ことを第一としていた。そのためには手段を選ばない!そもそも空軍を希望したのだって、長い長い訓練期間のうちに戦争が終わるだろうと思ったから。だって神様は俺達の味方らしいし、戦争はすぐに終わるんだろ。
    でもヨッサリアンが前線に送られても戦争は続いている。

    どんな物語か掴めず苦労した…(+_+;)
    まず文章が回りくどい。
    「彼のことを知っているのは、彼のことを知らない人以外の人々だった」みたいな感じ。

    軍規や上官下官関係も、絡み合って矛盾し合っている。そして所属する兵士たちも気が変になってるので隊での会話も堂々巡りです。
      「だれもおまえを殺そうとしていないだろ」「じゃあなぜおれを撃つんだ」「やつらはあらゆる人間を撃つだけだ」「やつらとは誰だ」「やつら全員だ」「それならなぜやつらがおれを殺さないと言えるんだ」みたいな感じです。

    時系列もかなり乱れています。章立ては細かいのですが、その章の中でも時間は行ったり着たり、そして一つの事柄があとになってまた語られ、その後また語られ…。ちゃんと読めば事の真相が多角的に見えてくるはずですが、上に書いた通りにかなり分かりづらい文章なので、私には理解できないことばかり…(-_-;)

    題名の「キャッチ=22」とは?
    ヨッサリアンが所属する空軍部隊には「責任出撃回数」が決まっていた。ヨッサリアンだって最初は真面目に出撃していた。でも軍には絶対の軍規「キャッチ(落とし穴)=22」があるのだ!
    「隊員が責任出撃回数を達成したって?それなら倍に増やそう☆」となるのがこのキャッチ=22。
    隊員たちが「命懸けで何度も出撃して頭がおかしくなった」と戦闘任務免除願いを出す。すると狂人の彼は出撃を免除され…ないんですよ。「免除願いを出すということは、危険を認識しているということなので、彼はまともだ!」として、またまた出撃しなければならない。するとまた頭がおかしくなるので免除願いを出し、するとまた「正気だ」と判断され…、るのがキャッチ=22。

    こんな部隊にいるので隊員たちもすっかりおかしくなっている。
    ●ハングリー・ジョーは、責任出撃回数を達成するためにかなり頑張って出撃していたのだが責任出撃回数増やされてゆくので、毎晩悪夢に雄叫びを上げながらも、自分が危険でないと安心できない精神状態になってしまった。
    ●グレヴィンジャーは、行進で躓いたら「隊列を乱し、無分別な行動をし、挑発的な大逆罪だ」として軍法会議にかけられてしまった。
    ●マイローは卵やソーセージ調達で特権を得ている。
    ●ドプスは何度も何度も責任出撃回数が挙げられることに怒り「キャスカート大佐をブッ殺そうぜ!」と息巻く。
    ●オアは「リンゴほっぺになりたいんだ」とリンゴを頬張っている。彼が乗った機が海に不時着した時は積み込んである救急用品を使いまくって、釣りをしたり、同乗者にはお茶まで振る舞っていた。(これはおかしいヤツというより、楽しいヤツ?)
    ●スナーク伍長はマッシュポテトに石鹸を潰して入れた、が、みんなもイカれてるので気が付かなかった!?
    ●ブラック大尉は、なんか色んな相手に嫌がらせしている?
    ●キャスカート大佐は、隊員が責任出撃回数に達するたびに数を増やす。 
    ●メイジャー少佐は、父親に変な名前をつけられたことで陰気な性格になり、軍では箸にも棒にも引っかからないためにかえって昇格した。みんなが自分を避けるので、彼もみんなを避けるようになった、ので、部下たちは作戦の報告もできない。
    ●ー・ド・カヴァリー少佐は、一見威風堂々とした老人だが、才能を見せたのは将校らに貸し出すアパートメント、要するに娼館…。
    ●シャイスコプフ中尉は兵士に行進ばっかりさせる。
    ●ダニーカ軍医は、兵士たちの飛行回数免除のための書類を書けるはずだけど、それをやると自分が処罰されるので「キャッチ=22」で見て見ぬふり。

    このなかでも一番イカれたことをするのがヨッサリアンだった。
    ●「俺のテントに死人がいるぞ!」と騒ぐ。(ヨッサリアンが来る前に戦死した兵士)
    ●慢性的に肝臓がおかしいと入院した。(同室の一人が、人当たりのよいムカつく奴なので出てきた)
    ●他にもしょっちゅう入院する。(だって病院のなかのほうが病院の外より病人が少ないし、落ち着いて理由があった死を迎えられるんだ)
    ●「通信機がおかしい!」と騒いで基地に引き返す。(結果として懸命な判断だった)
    ●他の兵士や上官のテントに突撃して騒ぐ。(気持ちはわかる…)
    ●全裸で整列する。(搭乗者の死体を浴びたので軍服を着ないと決めたらしい)

    このイカれたような行為はすべてヨッサリアンが生きて帰るための本能だった。
    <ヨッサリアンは永久に生きようと、あるいはせめて生きる努力の過程において死のうと決心していた。だから空に飛び上がるたびに彼が自分に課した唯一の任務は、ただもう生きて地上に降り立つということだけだった。P55>
    そのため銃撃機に乗るときも無茶苦茶な飛行をするんだが、ドイツ軍戦闘機も狙うけれどもうっかり撃てない状態?になるので、ヨッサリアンと同じ隊の飛行兵たちは(無茶苦茶なんだけど)ヨッサリアンの機に率いられて飛ぶことは好んでいた。

    <それは卑しくきたならしい戦争であり、ヨッサリアンはそれがなくても生きていけた。(…略…)歴史はヨッサリアンの若死にを要求してはいないし、正義はそれなくして満たされるはずだし、進歩はそれを条件にしてはいないし、勝利もそれに依存してはいなかった。人間が死ぬのは必然のことであるとしても、どの人間が死ぬかは周囲の状況によって定まることであり、ヨッサリアンは状況の犠牲にだけはなりたくなかった。P128>

    でもアメリカって戦争していない頃から無茶苦茶だったよね?ということも見える。
    ●ハルフォート酋長の先住民族の土地は石油が出るので白人に追い立てられ、新たな土地にも石油が出たのでまた追い立てられ、次の土地でも石油が出たので…、でもこの話は嘘か本当か分からん。
    ●それぞれ、性的にも相当乱れている…

    これだけ無茶苦茶なこの世界、自分がまともでないとわかってるほうがまともだよね?
    イカれた行為を繰り返すヨッサリアンは「あいつはそれほど狂っちゃいませんぜ」「あのきちがい野郎は、いま残されている唯一の正気な人間かもしれんぞ」(P210あたり)と言われてる。

    無茶苦茶な戦場、無茶苦茶な日常が繰り広げられるうちに上巻終了しちゃったんだけど(^_^;)

  • ガタガタガタ……のっけからしばらく乱気流に揺られ、どうにも混乱しながら飛び続け、うぅ~天をあおいでいっそのこと放り投げてしまうか、と思ったその矢先、ふと厚い雲が切れて青空が! そのあとはあまりの可笑しさに笑いが止まらなくなり一気に飛翔したという感じの作品でした。
    登場人物にスポットをあてながら、短い断章で綴っていく、ジョーゼフ・ヘラー(1923~1999年 アメリカ)の痛快作。

    ***
    第二次世界大戦のさなか、空軍予備士官を経て、イタリアのローマにほど近いピアノ―サ島の空軍基地に配属されたヨッサリアン。敵の砲撃網をかいくぐり、爆撃手として命からがら出撃ノルマを果たした彼は、すぐさま本国に帰れるものと信じていたのですが……はたして不条理のキャッチから逃れることができるのか?

    「信じられない語り手」といった様相ただよう、少々あぶないヨッサリアンを視点にした物語。出撃命令から逃げ回り、たびたび病院へ駆け込み、素っ裸でふらふら、決して英雄なんかじゃない、怖いものは怖い、めそめそうじうじ感傷的にもなる26歳の男……でも周りをふと見渡せば、本当に彼は狂人なのかしらん?

    リアリズム小説なのかと思いきや、幻想的な場面やコメディタッチもあり、なんといっても風刺とユーモアで織りなす笑いとペーソスは最高です!! まるでヴォネガット作品のようでもあり、でもどこか抒情性を排した悲哀にしんみりしちゃうオブライエン? いやいや時空なんてどこ吹く風のベケットぉ? いっそのことみんな放り込んでミキサーにかけたような美味くって可笑しな作品。読み終えた後も素直にページを閉じることができず、お気に入りの章に戻ってみてはくすくすと笑い直し、しんみりさめざめと泣いたのでした。

    1961年に発行されるとイギリスでも人気となり、アメリカでは1000万部も売り上げたとか。現在まで堅調に人気を博しているのも納得ですね。
    ちなみにジョーゼフ・ヘラーと『スローターハウス5』で有名なカート・ヴォネガットは、ともに先の大戦を米軍兵としてくぐり抜けた同世代の友。よくぞ生き抜いて素晴らしい作品を世におくりだしてくれたものとひたすら感激します。

    『「敵というのはな」とヨッサリアンは自分の言い分の正確さを充分に量りながら言った。「どっちの側にいようと、とにかくおまえを死ぬような羽目に陥れる人間すべてを言うんで、それにはキャスカート大佐も含まれているんだ。そのことをおまえ忘れるなよ。長く憶えていればいるほど、それだけおまえは長く生きられるんだから」』

    記憶、回想、意識の流れ、夢、妄想、フラッシュバック……時間軸は激しく飛んで、およそ時系列どおりにはいきません。でも作者を信じて読み進めてみてください。本作はそもそも時間軸なんてない「神話」のように、次々に繰り出される(小説中の)事実の「束」が大きな舞台を立ち上げ、物語を推し進める原動力になっています。それを見越してか、作者ヘラーはなんども同じような場面を、違う視点から眺め、適所で繰り返しながら読者を拾い上げてくれます。

    でもこれをうがって見れば、繰り返される記憶や回想がヨッサリアンの混乱ぶりを、あるいは戦争の度し難い不条理性を、はたまた決して忘れることのできない衝撃的な彼のトラウマとなって錯綜しているのかもしれません。とはいえ、ご心配にはおよびません。力のある物語の作者は決して読者を暗雲の中に置き去りにはしません。早晩、雲間から全体が見わたせるようになれば、そこにそびえるある種の真実が痛快な笑いと感動を与えてくれるでしょう。
    それでは、スリリングで楽しいフライトを満喫してくださいね(^^♪

  • ジョーゼフ・ヘラー『キャッチ=22〔新版〕(上)』ハヤカワ文庫。

    早川書房創立70周年を記念し、企画されたハヤカワ文庫補完計画、全70点の1冊。かなり長い間、寝かせていた古いアメリカ文学作品。

    長らく寝かせた割りには全く熟成していなかった。ネイティブ・アメリカンからアメリカ大陸を奪った挙げ句に勘違いの正義を振りかざし、世界の警察を名乗る戦争国家アメリカの自業自得を小説の形で暗に批判したところで何になるといった感じ。

    本体価格1,180円
    ★★★

  • 第二次世界大戦中、地中海の小島にあるアメリカ軍の基地から爆撃に向かう航空兵士たち。
    主人公のヨッサリアンは規定の飛行回数を過ぎたにも関わらず、上官の気分で規定の飛行回数が増やされる。その状況に、このままではいつか死んでしまうと思い生き延びようと、狂ったフリをする。
    しかし、そのヨッサリアンの前に軍規であるキャッチ=22が立ちはだかる。
    キャッチ=22は、本当に狂った人間は狂ってることを証明しようとしないで出撃するはずである。出撃を拒否することはつまり正気である、という不条理で実態のない軍規であった。

    不条理な状況に晒されるヨッサリアンを可哀想だと思うのだが、多くの軍人たちとのやり取りもめちゃくちゃで笑える話である。
    読んでいると途中であれ? と思う箇所がでてくるのだが、それもそのはずで時間構成がズラされているらしい。それもあって時間構成の正しさを巡って論争になることもあるんだとか。
    時間軸にズレがあることは前提知識として読んでいたほうがいいかもしれない。
    基本的に群像劇のような作劇なので、自分はそういうものかっていう納得もあったが。
    ただそういうストーリーを追うタイプの物語ではないので、ぼんやりと把握していれば楽しめると思う。
    自分は上巻の時点で笑えるほど面白かった。

  • 何度か読み返した作品。スノードンのくだりは最初読んだとき衝撃だった。推しキャラはシャイスコプフ。戦地での、悪い冗談の連続みたいな細切れのエピソードが延々続いたあと、ひとつの結末に向かってギアが入る展開の仕方も好きだった。ラストはそんなに好きではないし色々粗があるとは思うが好きだな〜

  • いわゆるひとつの反戦小説。
    ただ、普通の反戦モノと違って湿っぽい雰囲気は全くなく、ほぼ全編にわたってブラックユーモアにあふれてる。
    にもかかわらず、戦争の悲惨とか矛盾をくっきりと浮かび上がらせてるのは見事だと思う。
    案外、これくらい吹っ切れた書き方をした方が、かえって人間には伝わりやすいのかもしれない。
    ちなみにタイトルの『キャッチ=22』は、どうしようもない状況、とか、どん詰まり、みたいな意味のスラングになっているらしい(Wkipedia曰く)。

  • 「第二次世界大戦末期、中部イタリアのピアノーサ島にあるアメリカ空軍基地に所属するヨッサリアン大尉の願いはただ一つ、生きのびることだ。仮病を使って入院したり、狂気を装って戦闘任務の遂行不能を訴えたり、なんとかして出撃を免れようとする。しかしそのたびに巧妙な仕組みをもつ恐るべき軍規、キャッチ=22に阻まれるのだった。」

    という裏表紙にある「あらすじ」がなければ、一体何を読まされているのかわけがわからなくなるところだった。といってもこれはあくまで設定のガイドライン。各エピソードの時系列もバラバラだし、さまざまなタイプの奇人変人が次々登場してスラップスティック風ドタバタ喜劇を繰り広げ続けるさまは、さながら「ショートコント『戦争』」といった趣き。

    ドタバタ喜劇風なので一見凄惨さはないけれど、戦争に愚かさに対してこれ以上の風刺はないだろう。上巻の時点ではまだ奇人変人博覧会で物語らしき展開は見られないけれど、下巻ではいったいどうなるのか楽しみ。

  • これは、映画化ではなくドラマ化があっている小説である、気がする。

    前半すこし進んだところから、明記するとT・S・エリオットが出てきた箇所から、あれ?と感づき始め、シャイスコプフあたりにはもう著者が執拗に繰りなすギャグ要素に抱腹絶倒、とはいかないまでも、また言ってるよ面白~と心の中愉快になるなどし、メイジャーメイジャーメイジャーにいたって突然こみ上げるおかしみのせいで電車の中で読めなくなった。

    そういえば、MY IDEAL BOOKSHELFという本で、この本をfavoriteとしている人が二人いた。それを発見して、いっそうテンションがあがった。

    そのはずだったのだけれど、14章あたりで失速し、読めなくなってしまった。

    また今度、つづきを読もう。

  • ジョン・C・ボーグルさんの推薦。

  • 『BEEF』

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