夜中に犬に起こった奇妙な事件 (ハヤカワepi文庫)

制作 :    服部 一成  小尾 芙佐 
  • 早川書房
3.72
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本棚登録 : 248
レビュー : 31
  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200854

作品紹介・あらすじ

数学や物理では天才だが、他人とうまくつきあえないクリストファー。近所の犬を殺した犯人を探すため、勇気を出して捜査を続けるが――数多くの賞に輝き舞台化もされた物語

感想・レビュー・書評

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  •  この小説は、少年の成長物語であり、普遍的な親の子どもへの愛を描いた小説だと思います。

     さてこの作品は、作中では明言されていませんが”何らかの発達障害”を持った少年が書いた小説、という体裁の作品です。

     とにかく発達障害をもった主人公の一人称の描き方がとても丁寧です。作中では文章だけでなく時には図も織り交ぜて、彼の思考や脳内での情報処理が描かれます。これが面白い。

     近所の犬の刺殺事件を調べ始めるクリストファー。その過程で苦手な、人との対話に挑戦し証言を集め、そして理屈だけでは割り切れない、大人たちの世界に足を踏み入れざるを得なくなります。

     個人的には中盤の思わぬ展開と、物語の大きな方向転換で、自分の心が作品にグッと捕まれた気がします。もし誰かに「起承転結の転」って具体的にどういうこと?と聞かれたら、この作品の話をします(笑)

     今まで父親の庇護の元で育てられたクリストファーの、冒険と成長の物語でもあるのですが、個人的には彼の親の姿が印象的です。

     息子に障害があるが上に突き放してしまったり、あるいは過剰に守ろうとしてしまったり。クリストファーも悪くないし、親だって悪いとは言い切れない。

     どれだけ子どもを愛していても、完璧な親をずっと演じきれるわけではありません。時には疲れることもあるし、魔が差すことだってあると思います。そんな親の姿が、クリストファーの視点を通して描かれます。

     でも”完璧な親じゃない=子どもへの愛がない”というわけでは決して無いんですよね。話を読み進めるにつれて、この物語のテーマは実は、クリストファーの成長以上に、親の子どもに対する愛情ではないかとも思うようになりました。

     きっとクリストファーの親は、今後なんだかんだありながらも、それでも息子を愛するのだと思います。そして、それは子どもに障害があろうとなかろうと同じはず。だからこの小説は、一見特殊な形式で変わった家族を描いているように見えるのですが、実は普遍的な家族小説でもあると思うのです。

    『アルジャーノンに花束を』『くらやみの速さはどれくらい』の系譜にある作品だと思うのですが、また違った魅力のあるいい小説でした。小尾芙佐さんの訳も、相変わらずよかったなあ。

  • 海外ドラマ「グリー」にハマって以来、行く予定もまーったくないのにブロードウェイで今なにやってるか見てたり、トニー賞とか気にしてたりして、昨年そのトニー賞をとったってことでこの作品も気になっていて。(たしか、わがアイドル、ダレン・クリスも見にいっててブロードウェイ版で主演だったアレックス・シャープと仲よさげにしてたんじゃなかったっけ。どうでもいいが!)

    で、予想以上にすごくおもしろかった!
    発達障害のある少年が、隣家の犬が殺される事件に巻き込まれたり、ひとりでロンドンまで電車に乗っていったり、っていう、ミステリで、冒険モノで、成長物語で。わたしは途中で意外な展開に、下手なミステリなんかよりずっと驚いた。文章にユーモアがあって、少年の普段の生活ぶりなんかも楽しいし、はさまれる科学や数学の高度な話もわからないながらなんだか素敵だなーと思ったり。
    あと、少年が通ってる特別学級の先生がいい先生だってことがよくわかって、こんな先生に指導されていてよかった、とか。
    ラストで、もっと奇跡みたいな感動的なことが起きるのかな、と予想したけど、それほどでもなくて、なんだかひょうひょうとした感じで終わったのもすごくよかった。

    これ、舞台化されるといったいどんな感じなんだろうー。見てみたかった。ブロードウェイで主演だったアレックス・シャープは写真でみただけだけど、クリストファーっぽかったな、と。

  • こちらでフォローしている方の感想にひかれて読むことに。とても面白かった。わたしが知らないだけで、話題になっていたのだろうか。タイトルから軽いミステリかと思っていたが、こういうお話だったとは。

    アスペルガー症候群の少年が書いたものという形をとっている。「普通の人」による妙な意味づけや解釈抜きに、彼の精神世界が開示される点がとてもいいと思った。傍目には奇妙だったり困惑させられたりする行動の一つ一つが、彼にとっては必然性のあることなのだ。読み進むにつれ、それが胸に落ちてくる。さらに、彼を深く混乱させる大量の情報に常にさらされて平気でいるわたしたち自身、ある意味では異常なのではないかという気がだんだんしてきた。

    いや、そう言う自分だって、最初から「平気」だったわけではないはずだ。試行錯誤して大なり小なり失敗しつつ、この世界と何とか折り合ってきたわけで、彼の混乱や苦しみはまったくの他人事とは思えない。障碍者を無垢なものとして描くという類型に陥ることなく、そうした共感を呼び覚ますところがとても優れていると思う。

    だから、「アルジャーノンをしのぐ感動作」とか「少年の成長を描く」とかいう惹句は、ちょっと違うんじゃないかなあ。

  • もうほとんど足を運ぶことはなくなったけど、演劇好きである。この作品を舞台化したものがロンドン・ニューヨークで高い評価を受けていることに気づいてから気になっていたが、このたび文庫化ということで手に取った。

    タイトルのとおり、「夜中に犬に起こった奇妙な事件(原題も同じ"The Curious Incident of the Dog in the Night-time")」を解明すべく、主人公の少年・クリストファーが少しずつ踏み出す物語。コミュニケーションに難のある少年と犬をめぐる事件、クリストファーの好きな小説、周りの大人たち(特に両親)の様子が組み合わされて進行し、非常に凝った造りを感じる。ヤングアダルトのジャンルに入る小説だと甘くみていたが、読ませかたがすごく上手い。思うに、大人の推理小説ファンなら、少々無理な展開があっても、そこは「推理小説としてのお約束」と認識して読み進んでしまうものだが、大人の小説を読むようになる前、あるいは境目の年齢の読者は、そういうジャンル的な仕掛けだけでは釣れないのだろう。それはそれで非常によいことだと思う。カニグズバーグ『クローディアの秘密』などもそうだが、非常に凝った設定と意外なほどにスムーズなリーダビリティを持っているので、下手に陰惨な連続殺人やら婦女暴行でフレーバーをつけようとする大人の推理小説よりよほど良質ではないかと思う。

    物語の要素としては、主人公をめぐる人々の関係が結構リアルに、ときにはえげつないほど複雑で「おおっ」と思いながら読んだ。犬事件とクリストファーのお母さんに関する「真相」は、若干の飛び道具感もありつつ驚きの要素満載だし、「ああ、そんな状況だったらそうなるのはわからんでもない…」と大人的に納得もしてしまう。ページは確実に進んでいくのにクリストファーの周りは一筋縄ではいかず、「やっぱり元の木阿弥なのかなあ」との雰囲気を漂わせながらの進行が実にうまい。周りはどうかは知らないが、クリストファーは着実に進んでいくのだ。苦さと安心のバランスが今ふうではあるが、決してバッドバランスではなく、なかなか良い読後感も得られる。国内では2014年に舞台化されているのだが、全然話題にならなかった(ように見える)ことがとてももったいない。

    ただ、ひとつ惜しいと思うのは、表紙のセンスがいまひとつなこと…いや、あれで小説の世界はくみとれていると思うので、悪くはないんだけど…

    • niwatokoさん
      これ、よかったですよね! そうなんです、大人の読むミステリに比べて、まったくシンプルでなんの余計な味つけはなしって感じなんですけど、そのシン...
      これ、よかったですよね! そうなんです、大人の読むミステリに比べて、まったくシンプルでなんの余計な味つけはなしって感じなんですけど、そのシンプルさゆえに、かえって驚いたっていう感じで。わたしはかなり驚きましたよ、普段読むミステリのどんでんがえしなんかよりもずっと。ほんとに、ハッピーエンドとかではないんだけど読後感もよくて好きでした。
      日本での舞台化、わたしも本を読んだあとで検索して気づきました。ちょっと見てみたかったかも。元自転車キンクリート(ご存じですか?古すぎる)鈴木裕美さんの演出だったんですよね。。。
      2016/06/14
    • Pipo@ひねもす縁側さん
      すごく面白かったですね!クリストファーがあんな感じの子なので物語が一直線に進まないのか、周りの事情がややこしいから物語が進まないのかよくわか...
      すごく面白かったですね!クリストファーがあんな感じの子なので物語が一直線に進まないのか、周りの事情がややこしいから物語が進まないのかよくわからなくしてある(気がする)ところなんか、すごく上手く使ってありますね。クリストファーにとっての「謎」があまりにも大人の事情なのにも驚きましたよ、わたくしは(笑)。

      私はロンドンとニューヨークの舞台がものすごく好評だったことが気になっていて、「日本への引っ越し公演とかないのかな?」と調べて、国内公演があったことに行き着きました。V6・森田剛を主役に据えながら、どうしてそんなに地味に終わってしまったのか…そうそう、自転車キンクリートも、懐かしく思い出しました。
      2016/06/14
  • 向かいの家に住む犬が殺された。主人公は犯人を見つけ、それを本にしようと思った。
    自分て発達障害なんじゃないか、と不安になることが時々あります。その答えは分からないけど、主人公のクリストファーが自分の世界で自分のできることを懸命にやり抜きそして成長していく様を見ていると、必要なのはただ意思の力なんだなと勇気がもらえます。寂しくてしょうがないときに寄り添ってくれる本。

  • 発達障害の子の気持ちでその行動をしているのか、周りの大人たちはどう接しているのか、気持ちのすれ違いの中に愛があり温かい気持ちになった。お父さんもお母さんも完璧じゃない。彼も不完全。「許す」って言葉じゃなくて身体が受け入れられるようになることなのかなって感じた。人に薦めたい本。

  • 発達障害の少年が,夜中にお向かいの愛犬が殺されているのを発見することから生じる様々な騒動を描く.
    主人公は,気に入らないこと,想定外のことが発生するとパニックを起こすが,我々と同じ意味での感情は持ち合わせない.その一方,我々とは視点が異なるものの見方をしており,普通の人がスルーするところに固執し,それが物事の進行の障害になることもあり,また,何かのブレイクポイントになることもある.
    本書はこの少年が執筆した本という体裁となっており,したがって,上記の様な理由から,いわゆる「感情移入」は難しいのだが,この不思議なストーリーテラーのおかげで物語は紆余曲折しながら進行し,主人公は冒険を成し遂げ,また家族の「ある種の問題」は解決はしないものの,進展が生じる.
    不思議な小説だ.単なるアイディア勝負に留まらず,読者を引き込む力がある.

  • 発達障害?自閉症だろうか、そうした障害のある少年の物語。普通に生きていくだけでも、なんと苦労をしているのだろうと思う。強いこだわりや好き嫌いが激しい。また、相手のことをなかなか考えられないから、世間とも摩擦が起こる。そんな彼がロンドンまで行くくだりは、なんとも波乱万丈である。

  • 発達障害の少年・クリストファーが近所の犬を殺した犯人を探していく推理小説。と思って本書を手に取ると肩透かしを食うかもしれない。

    黄色が嫌いで犬が大好きで数学が大の得意なクリストファーの純粋さと成長は読んでいて心が洗われる感じがするけれど、本書は決してミステリー小説ではないので要注意。自分はまんまと引っ掛かってしまった。

    「アルジャーノンに花束を」が好きな人にはオススメ。

  • 発達障害の15歳の男の子が主人公。
    タイトルや序盤の展開からミステリなのかな?と思ったけど、クリストファーの成長?というか冒険?のような話だった。

    発達障害の子の周りからみれば突飛な行動も、こうやってクリストファーの内面を読んでみるとなるほどそういうことなんだなぁと彼らのことが少しだとしてもわかったような気がした。
    いろんな人がいるだろうからこういう考えの人ばかりではもちろんないんだろうけど彼らなりのちゃんとしたルールがあるんだろうなあ。

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