すばらしい新世界〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房
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本棚登録 : 831
レビュー : 67
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200861

作品紹介・あらすじ

最終戦争終結後、暴力が排除された安定至上主義世界が形成された……。『一九八四年』と並ぶディストピア小説の古典にして『ハーモニー』の原点

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、ジョージ・オーウェルの『1984年』と並び称されるディストピア小説の傑作。
    『1984年』が完全な監視社会による管理体制型ディストピアだとすれば、本書『素晴らしき新世界』で描かれる社会は、人間から根本的な「自由」という概念を奪い、誰もが与えられた『幸福』を享受するユートピア型のディストピアである。

    本書のあらすじであるが、西暦2049年に最終戦争が勃発し、その戦争が終結した後、生き残った人間は世界から暴力をなくすため、安定至上主義の世界を作り上げた。
    人間は受精卵の段階から培養ビンの中で『製造』され、階級ごとに体格も知能も決定される。人間は『製造』されて60歳ぐらいで死ぬまで、老いることはなく若いままで過ごす。『製造』された人間は、睡眠時教育で自らの「階級」と「環境」に全く疑問を持たないように教え込まれ、人々はその生活に完全に満足している。不快な気分になったときは、「ソーマ」と呼ばれる薬で「楽しい気分」になり、人々は常に安定した精神状態である。人間は『製造』されるので、家族はなく、結婚は否定され、その代わりにフリーセックスが推奨され、人々は常に一緒に過ごして孤独を感じることはない。
    誰もが幸せに感じる世界。まさに楽園であり「素晴らしい世界」なのである。
    そこへ未開社会から来たジョンが引き起こす騒動により、この世界の矛盾点が明らかにされていく・・・というものだ。

    本書の舞台は、フォード紀元632年(西暦2540年)の世界。
    まずもってなによりも本書が約90年前である1932年(昭和7年)に発表されたということが驚愕すべき事実だ。1932年といえばまだ第二次世界大戦も始まっておらず、世界恐慌まっただなかという暗黒の時代である。ちなみに日本でいえば海軍の若手将校らが犬養首相を暗殺した5.15事件が起こった年でもある。

    そのような時代に書かれたこのSF小説であるが、この小説に出てくる未来の道具や技術が、まさにあと数年で実用化されるようなものばかりなのは驚きだ。
    いくつか例に挙げてみよう。
    本書の中で主要な交通手段となっている乗り物はヘリタクシー(ヘリコプタータクシー)だ。この世界では空中を飛ぶ車のような乗り物が世界中を飛び回っている。
    これはもう現代の言葉で言えば「人が乗れるドローン」だろう。ちなみにヘリコプターが実用化されたのは1950年代になってからであり、まだ飛行機が実用化されたばかりの時代にドローンが飛び交う未来を予想していたハクスリーの想像力はすさまじい。

    続いて、人間の『製造』である。
    この時代の人間は、両親の生殖行為によって生まれることはない。
    人間はあらかじめ定められた将来の職業のために、その職場での適応性のみを優先した人間が遺伝子操作によって知能や体形まで制御され試験管のなかで作り出されるのだ。
    例えば、工場で単純労働をする人間は、それに対してのみ必要とされる最低限の知能と体形だけを有した人間が作られる。この技術はまさに現在のクローン技術と遺伝子操作技術を駆使したいわゆる「デザイナーズベイビー」だろう。

    さらに、この社会の人間たちが娯楽として楽しむのは、その感触すら楽しむことができる「フィーリー」と呼ばれる感覚映画だ。
    今でいえば4DXとヴァーチャルリアリティを合体させた映画のようなものだろうか。

    そして、劇中で彼らが常用する「ソーマ」と呼ばれる気分を高揚させる薬は、今でいえば『覚せい剤』や『MDMA』などのような『ドラッグ』だ。

    ざっと挙げただけだが、これらの技術はもうすでに実用化されているか、もうすぐ技術的に可能なものばかりだ。
    人が乗れるドローンは2040年代にはもう実用化されているだろうから、ハクスリーが設定したこの時代(西暦2540年)よりも、技術の面だけでいえば今の社会はハクスリーが想像していたよりも500年以上早く達成できるということになる。

    技術的な面もさることながら、本書で描かれるのは人間の心のありようだ。
    物質的に恵まれており、不安を感じることもない。だれもが自分の任務・仕事に誇りを持ち、幸せを感じている。

    まさにこれこそが人間が目指す『理想の社会』なのではないだろうか…。
    しかし、何かが間違っている。
    でも、どこが間違っているのかはわからない。

    この『素晴らしき新世界』で描かれる社会は、夭逝の天才SF作家・伊藤計劃の描いた『ハーモニー』で最終的に到達した世界や『コンビニ人間』芥川賞を受賞した村田沙耶香が描いたセックスがなくなり子供がみな人工授精で生まれる世界を描いた『消滅世界』の世界をさらに進化させた社会と言って良いだろう。そして生まれながらに『シビュラシステム』と呼ばれるシステムにより人間の能力が数値化され、その適性により職業や配偶者をも、予めあてがってもらえるという社会を描いた傑作アニメ『PSYCHO-PASS』的な社会であるとも言えるかもしれない。

    人間はどこへ向かうのだろうか。
    ハクスリーが描いた世界は実現することは可能だろう。
    『誰もが幸せになる社会』その響きは非常に甘美ではあるが、そこに本当の幸せはあるのだろうか……。

  • ディストピア小説と言えば?でまず出てくる、オーウェルの『1984年』と並ぶ名著。やっとこさ読みました。
    500年ほど先のロンドンで、物語は始まります。人間は5つの社会階級に分けられ、受精卵の段階から区別され、現状に疑問を抱かないよう条件付けされ…、一義的には幸せなはずの世界を舞台にストーリーが展開していきます。

    まず何よりも驚くのは、解説でも他のレビューでも言い尽くされていますが、本著が1930年代の刊行で、にもかかわらず全く色褪せない未来描写になっていること。
    強いて言うなら、既にこの2020年代において、この世界よりもっと機械化が進んでいるし、労働者の交通手段がモノレールってのは「あぁ、昔の未来だなぁ」と思いますが、労働者の存在は舞台装置としての必要性に基づくものなので、そう思うとあまりツッコミどころはありません。

    ストーリー展開については、イギリスっぽいなぁというのがまず思ったことです(笑)
    皮肉っぽいと言うか、人間のダメな側面が出ていると言うか。(ときに悪趣味な)ブラックユーモアに溢れた細かな設定、演出は「こう来たか!」と苦笑させられるものばかり(刊行後100年近く経っている作品だと思うと、苦笑できることすら凄いですが)
    著者としては、1930年頃の工業化や大量生産という世の中の流れに対して、このまま進んでいくとこうなるぞ、という警鐘を鳴らしたかったのでしょうか。

    さて、それから90年ほど立った今。
    自分は自分として考えていられているだろうか、安易な結論や見せかけの幸せに飛び付いていないだろうか、手間を惜しまず親密で丁寧な人間関係を築けているだろうか。
    自らディストピアに飛び込むことがないよう、本を読み続けて、考え続けたいものです。

  • 世界文学史の多くに載っているこの『すばらしい新世界』、ずっと昔から書名は知っていたものの、高校生当時本書はどこでも手に入らず、図書館でも見つけられなかった。
    とうとう文庫化され、たくさんの日本人に接しやすい状況になったわけだが、読んでみて愕然とするほど、面白かった。1932年の小説で、当然古臭いのだろうと予想していたのに、古びた感じはまったくなく、つい最近書かれたと言われたら騙されてしまいそうなほど清新である。現在の日本の読者がこれを読んでも「ふつうに面白い」ことは間違いない。
    全ての出産は体外受精に制限され、初めから人間は5つの階級に分類されており、生まれてすぐに人為的に成長を抑制されるなどし、睡眠学習によって特定の倫理を洗脳的に植えつけられる。
    いわゆる管理社会の極限で、SF的でもあるのだが、細部が非常によく書けている。
    このディストピアはきっと全体主義の思想に基づいて組み立てられているのだろうが、あからさまにソ連をモデルに書いたジョージ・オーウェルとは違って、こちらはかなり諧謔に満ちている。人間を条件反射的にしつけようとするスタイルは、当時台頭してきていたのだろう、パブロフや生理学的心理学の姿勢を参考にして書かれているようだ。
    面白いことにこの管理社会による人間の「しつけ」は相当うまく行っていて、みんなが「幸せ」であるようなのだ。
    ちょっと前衛的な書き方もあったりして、このオルダス・ハクスリー、生半可な小説かじゃないぞと思われるのだが、ほかの著書は全く知らない。
    とてもよくできた小説だが、最後の方の顛末は、個人的にはあまり好きになれなかった。ジョンがあまりにもシェイクスピアばかり引用するのがうざいし、ラスト部分のプロットも、こうでない方がいいような気がした。
    しかしそこはたまたま個人的にそう感じただけかもしれない。全体としては、実によく書けた、すばらしい小説です。

  • ディストピア小説はわりと好きで、古典作品の合間にときどき眺めたりするのですが、先日レビューした、ザミャーチン『われら』から、ちょっとしたマイブームになっているこの頃。またオルダス・ハクスリー(1894年~1963年)の本作は、ジョージ・オーウェル『1984年』ともよく比較される作品なので、わくわくしながら読んでみました。

    ***
    ときは2540年。人間はすべて工場で計画生産され、瓶詰にされて出荷されます。受精卵の段階で5つの階級に分けられ、薬物等の様々な条件付けと睡眠学習によって、階級に即した完璧な人間が製造されます。創造性や個性といった多様性を排し、画一的・安定的世界が構築され、戦争、暴力、自殺、貧困といった悩ましい問題は解消され、人々は平和に暮らしています。

    いや~らくえん、楽園♪ 笑いや明るさが充満して陰惨さはまるでありません、楽天気分であっというまに読み終えました。監視社会、フリーセックス、壁の外の野人的世界の存在といった設定は、ザミャーチン『われら』の影響をもろにうけている感じがしますが、発想の転換にはいささかびっくりしました。というのも、ディストピア小説は、人間の魂や生命の内奥から漏れ出す(いくばくかの自由)意志が存在していることを前提に、それが何らかのシステムで抑圧され、あるいは瓦解、喪失していく世界を描いているものだと(勝手に)思っていて、そこでは本が読者に問いかけます……いったい人間とはなんなのだ? 
    ところがところが、遺伝子操作や薬物による人造人間もどきの楽園では、家畜化された人間という生物にそもそも意志や個性などない……こりゃまるで場外乱闘のようで、いささかずるい気がしないでもない(笑)。

    もっとも善意(逆説)解釈すれば、ハクスリーは作品中で科学・芸術vs幸福・安定という図式のもと、あらゆる変化は安定を脅かすもので、最大限の注意を払って鎖に繋ぎ、口輪をはめておく必要があるようなので、なるほど欧州中を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、野放図な機械化や兵器開発を含めた科学技術の礼賛に、ほとほとうんざりしたのかもしれません。

    また現代の先進科学ではすでにクローン生命の誕生を可能にしていて、生命倫理の観点から人間への適用は押しとどめられているのですが、それも500年後はどうなっているかわかりません。そういう意味ではタイトルどおり、あぁ~素晴らしい新世界。1930年代にそのような発想をみたというのはすごい、破れかぶれ、翻ってみればそれくらい人間性や多様性が失われつつあった度し難い世界だったのかしらん!?

    本作では芸術の代表としてシェイクスピア作品が山のように引用されていて、けっこう笑えます。ちなみにタイトルは『テンペスト』より。呪術師プロスペローの娘ミランダのセリフから、
    “O brave new world!”
    ――人間って、なんて美しいのかしら。
    ああ、素晴らしい新世界――

  • オルダス・ハクスリー著『すばらしい新世界[新訳版]』はすべてのディストピア小説の源流。鴻巣友季子が解説! | P+D MAGAZINE
    https://pdmagazine.jp/today-book/book-review-233/

    早川書房のPR
    世界戦争の終結後、暴力を排除し、安定を最大のモットーとした世界が形成された。人間は受精卵の段階から選別され、5つの階級に分けられて徹底的に区別されていた。孤独な青年バーナードは、出かけた野人保護区で恐るべきものに出会う。『一九八四年』と並ぶディストピア小説の古典にして『ハーモニー』の原点
    http://www.hayakawa-online.co.jp/shop/shopdetail.html?brandcode=000000013442&search=%A5%AA%A5%EB%A5%C0%A5%B9%A1%A6%A5%CF%A5%AF%A5%B9%A5%EA%A1%BC&sort=

  • 最後は意地でなんとか読み終えた。この小説のようなことが現実に起こったら、ぞっとする。気味が悪いと感じる世界なのに、そこで生きる人たちが幸せなのも、また恐怖を煽るよね。ジョンが途中から、名前ではなくて野蛮人としか呼ばれなくなって悲しくなった。
    よくこんな設定が考えられるものだ。読み終わって知ったけど、これだいぶ昔の小説なんだね、そんなこと微塵も感じなかった。

  • タイトルや表紙から冷たくてシニカル、後味の悪い小説かと思ったが…。1932年に書かれたとは思えない程現代にリンクしかねないお話。冒頭が好きならすんなり読めそう。

  • 流石の大森望氏訳。読みやすくてユーモラスで最初はついていけるか不安だった設定にもすぐに笑えるようになります。
    ディストピア小説として名高いけど、ひょっとしてこれ、ユートピアなんちゃう?

  • 飛び抜けすぎてて適当な感想が出てこない

  • 面白いと勧められて読んだけどダメだった。途中で挫折。でも古くささは感じられなかった。

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