蠅の王〔新訳版〕 (ハヤカワepi文庫 コ 1-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200908

作品紹介・あらすじ

飛行機が墜落し、無人島にたどりついた少年たち。協力して生き抜こうとするが、次第に緊張が高まり……。不朽の名作、新訳版登場

感想・レビュー・書評

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  • 気分の良い小説ではないが、人間の本質を描いた名作。
    それを年端も行かない子供で表したことで、より生まれ持った悪の存在を際立たせてる。
    ストーリーは無人島でのサバイバルなのだが、多くの作品の元ネタになっていることが想像できる。
    訳者あとがきは絶対読むべきで、より理解度が増す興味あるものだった。

  • 戦争から疎開する子どもたちを乗せた飛行機が、無人島に不時着する。この物語は、無人島で恐れと戦いながら必死に生き延びる子どもたちの人間ドラマを描いた作品である。時代背景やサバイバル生活自体は無駄を省くがごとく削げおとされているが、人格形成の途上である少年たちが未知の世界に対してどのように慄き、そしてどのように立ち向かっていくのか、心理描写や人間模様がリアルに表現されている。子どもらしい純粋無垢な一面と、過酷な環境下で発現した残虐な側面が人間的な生き方とは何かということを読者に問いかけてくる。誰にでも挑戦できそうな設定の物語ではあるが、自分ではこのようには絶対に描けないなと無力感みたいなものも突きつけられた。さすが、ノーベル文学賞作家としての表現力に感嘆する作品であった。

    • motokoさん
      高校入学前、春休みの読書感想文の課題図書だったので読みました。読みながらものすごく怖かったことを覚えていますが、かねてからもう一度読みたいと...
      高校入学前、春休みの読書感想文の課題図書だったので読みました。読みながらものすごく怖かったことを覚えていますが、かねてからもう一度読みたいと思っている作品です。
      2022/01/31
    • ねじまき鳥さん
      確かに恐ろしいですよね
      確かに恐ろしいですよね
      2022/01/31
  • 戦時疎開する児童が乗る飛行機が南太平洋の無人島に不時着し、生き残りのその後を生々しく描いた小説です。
    煩わしい大人がいない世界に嬉しさを感じつつも、救助されることを前提とした生活を考える少年ラルフ。
    少年達は彼を隊長に選出し、物語においても中心人物となります。
    大自然の中でも民主的であろうとする彼らですが、徐々に崩壊が進んでいきます。
    人間の野蛮性が表現されているのですが、それを宿しているのが子供であることが特徴的です。
    純真無垢な子供には、純真無垢な善と悪が共存しています。
    だからこそ、大人には子供をしっかりと導く責任があるのです。
    大人の考えが及ばない世界で物語はどんどん進み、醜い暴走がいつ止まるのかハラハラとさせられました。
    後半は時間を忘れて読み耽り、まるで自分がこの島にいたかのような疲労感が残りました。
    素晴らしい一冊です。

  • 疎開する少年たちを乗せた飛行機が無人島に不時着。大人がいない島で、子どもたちだけで楽しく救助を待とうとするけれど・・・

    「集会ではいろんなことを決める。でも、決められたことは守られないんだ。飲み水は川から椰子の実の殻でくんできて、木の下に置いておくと決めた。最初の何日かはそのとおりにやった。でも、いまは木の下に水はない。椰子の実は空っぽだ。みんな川でじかに水を飲んでいる」

    最初は役割を決めて楽しく暮らしていたのに、だんだん秩序がなくなって仲間割れして死人も出て・・・まあ無人島で子どもだけで生活となると、こうなるよねきっと。という展開。
    途方に暮れるラルフとピギーとサイモンが、「大人は何でも知ってる」「暗がりを怖がらない。みんなで集まってお茶を飲みながら相談する。そしたら何もかもうまくいくんだ――」と、大人の素晴らしさを語り合っていますが、大人も完璧じゃないんだよね。。。

    まわりが遊んでいる中で、自分だけが一生懸命考えて小屋を作っていることに疑問と苛立ちを募らせるラルフ。
    狩猟隊になって初めて豚を狩る恐怖と焦りに直面するジャック。
    ふたりがお互いの不満をぶつけ合うところがすごくリアルというか、わかるなぁと思った。こうなるよね。

    〈獣〉の正体に気づきはじめたサイモンが、ラルフに「きみはちゃんと帰れる」と言う場面。何気ないような穏やかな場面なんだけど、このあとの展開を考えると泣ける・・・
    サイモンと〈蠅の王〉の対話も。
    「わたしは〈獣〉なんだ」と語る〈蠅の王〉が、「わたしがおまえたちの一部である」と言っていることから、〈獣〉は恐ろしい怪物ではなく、子どもたちの中にいるものだとわかる。人の中に潜む“野性”とか“残虐性”のことなのかな。
    (違う場面でピギーが〈獣〉なんていないとする理由について、〈獣〉がいると「いろんなことが意味を失うからさ。家とか、街の通りとか――テレビなんかも――全部無意味になっちまう」と言っているし。)
    ここでサイモンに向けて語られる〈蠅の王〉の言葉は、実はサイモン自身の言葉であるのかもしれない。そんな〈蠅の王〉の警告に逆らって、ただ愉しくやっているみんなに〈獣〉の正体を知らせようとしたサイモンは。。。
    〈蠅の王〉というか自身の予言が的中してしまう、すごく残酷な展開。

    物語最後の救助のきっかけが、序盤で山を一部燃やしてしまったことと繋がる。ああ、なるほどこうやって発見されるのか、と。
    訳者あとがきをサラッと読んで、これもなるほどと思ったのですが、この作品には「少年というのはそんなに無垢で正義感にあふれているのか?イギリス人(あるいは白人)はそんなに高潔で優秀なのか?」という思いもあるようで。
    (救助にきた将校が、「イギリスの子供なら――きみたちはみんなイギリス人だろう?――もっとうまくやれそうなものだがな」と言っている)
    いろんな読み方ができそうだな、と思いました。


    「困ったことに、隊長というのは自分の頭で考えなければならない。賢い人間でなければならない。必要なときにさっと決断しなければ、チャンスを逃してしまう。」

  • 新潮文庫版はずいぶん昔、若い頃に読んで衝撃を受けた。子供の頃愛読した『十五少年漂流記』のダークサイドバージョンのような印象だったと思う。映画(1990年版のほう)はビデオで見たのかな。その後ずいぶん経ってから『バトルロワイヤル』が流行ったときに再注目されて再読したのだったか。もはやそちらは手元にないので新訳を機会に読み直すことに。

    戦時中と思しき英国、疎開に向かう少年たちを乗せた飛行機が爆撃され墜落、生き残った少年たちは無人島に不時着する。少年たちの中では年長で判断力のあるラルフと、聖歌隊を引き連れた高圧的なジャックはリーダー役を選挙で争うが、ラルフが勝利。二人は対立しつつも一目置きあうようになる。肥っていて理屈っぽいメガネのピギー、繊細で無口なサイモンらがラルフ派。聖歌隊はジャック派。ほかに6歳前後のチビたちが数人。ノロシを絶やさず救援を待とうとする堅実なラルフと、狩猟隊を組織して野性の豚を狩ることに夢中になった攻撃的なジャックは次第に対立を深め・・・。

    結果的にこの無人島が、温暖で果物が豊富、天敵になる獰猛な野生動物などもおらず少年たちにとってとても住みやすい楽園だったことが災いした気がする。もっと寒くて食糧も乏しければ彼らは一致団結して住処と食糧を確保せざるをえず、狼のような共通の敵となる動物がいたなら仲間を守ろうとして連帯感も芽生え、くだらないことで対立、仲間内でマウンティングしている余裕などなかっただろうに。ところがこの無人島は1日中海で泳ぎ、空腹になれば果物をもいで食べ、夜は雑魚寝で大丈夫な安全地帯。大人から解放された子供たちが統率を取れないまま自由気ままにふるまい始めるのは時間の問題。

    そうして本能のままにふるまいはじめた彼らは、どんどん原始の状態に退化(順応とも言えるけれど)していってしまう。興奮すると踊りだし、歌を歌い、リズムを刻み、顔に奇妙な仮面めいたメイクをすることで別人格となる少年たちの行動は、架空の「獣」に脅かされていることも含め、宗教や儀式ってこうやって生まれたんだろうなと思わされる。文明人としての理性を葬りさった彼らの狂乱は、ついに仲間から犠牲者を出し・・・。

    ジャックはイヤな奴だし、ラルフは最後まで理性的だけれど、正論しか言わないラルフをだんだん疎ましく思うような気持ちは自分の中にも実はあって、もし自分があの無人島にいたら、やっぱりジャックといたほうが楽しいじゃんとか思ってしまうかもしれない。最初はウザキャラだったピギーが最終的には一番頼もしい味方になるあたりはジュヴナイルとして読める部分だけれど、火を起こすためにはピギーのメガネ(レンズ)が必要で、その奪い合いがさらなる混乱を生むあたり、ピギーは一種のプロメテウスだったのかもしれない。

    ピギーとサイモン以外で最後までラルフに味方するのはサムとエリックの双子だけれど、なぜ双子だけがジャックたちの一派に協調せずラルフ側についたのかと考えるのも興味深い。双子という最小単位の共同体であることで、より大きな組織に所属して安全を図る切羽詰まった必要を感じなかったのだろうかとか。

    終盤、一方的に狩られるラルフの恐怖と孤独の描写は圧倒的。無人島ならずとも、子供ならずとも、人間が形成する集団にはいつ起こってもおかしくない状況かもしれないことがさらに怖い。

  • 海に囲まれた孤島を覆う密林で、闇の深さに怯えながら
    花や果実の匂いに身じろぎする少年たち。
    彼らは教師も舎監もいない寄宿舎に放り込まれた生徒であり、
    または、まるで母の胎内から新しく――かなり暴力的に――
    生まれ出ようともがく新生児のようにも映る、が……。

    昔、ハリー・フック監督による映画を観て、
    嫌な話だなぁ……(笑)と思っていた。
    その後、夫の実家の書棚からサルベージした新潮文庫版を
    積ん読状態にしたまま、
    去年、この新訳が出ていたと知って購入、読了。

    飛行機が無人島に不時着し、
    少年たちだけで救助を待ちながら暮らすことになり、
    島の近くを通る船に気づいてもらうために
    焚き火で煙を上げるのだが、
    その件だけからでも様々な悶着が引き起こされる。
    文明の利器である「火」をコントロール出来るのが
    一人前の人間で、
    出来なければ獣と同じである……
    リーダーのラルフはそんな風に考えるけれども、
    事は思い通りに運ばない。
    物事を見たまま噛み砕いて理解するピギーと
    鋭い直感の持ち主であるサイモンは、
    賢さ故に蝿の王ベルゼブブの生贄にされたかのようで、
    憐れ。

    少年たちにこびり付いた垢や汚れは洗えば落ちるし、
    切り傷はいつか塞がるだろう、けれども、
    文明社会に復帰したところで、
    彼らは楽園のような地獄の記憶を拭えず、
    生涯苦しみ続けるに違いない。

    嫌な話だ(しかし、面白い)。

  • 序盤から不穏な空気が漂っていて、ページをめくる手がとまりませんでした・・・!どうすればこうならなかったんだろう・・・と読後もああでもないこうでもないと考えを巡らせてしまう。モヤモヤするけど読めて良かった名作です!

  • 読むきっかけは十五少年漂流記の再読だったのであらすじは理解していたが、思っていた以上に混沌とした内容であった。
    島には愉しみが少ない。狩をして成功すれば食糧が得られるが、それ以上に達成感や充実感も得られる。それらが人間に秘められた欲望を呼び覚ましてしまったのではないか。そして欲望は止まらず崩壊してしまう。人一人を追い詰めるために放った火がきっかけで救助されるのは、なんとも皮肉な結末だった。
    一度読んだだけでは人物が示唆している事などもいまいちわからなかったので、他の方の感想や解説を読んだ上で再読したい。

  • 無人島に漂着した少年たちの獣性を描くサバイバル小説。

    疎開する少年たちを乗せた飛行機が、無人島に漂着し、極限状態に置かれた彼らの争いを描いています。
    こいうった複数名での遭難ものは、協力・友情・難題を解決、というようなものしか読んだことがなかったと思うので、新鮮でした。

    英国の聖歌隊の少年や、軍人の息子など、もともとはおそらく中~上流階級でおろう子供たちが、島の暮らしでの不満や恐怖の中、人間から獣へと変わっていき、ついには殺しあうまでになってしまうというのは、怖いというよりも悲しみ・不気味の方が大きかったです。

  • ただの子供向けの冒険サバイバル物語と思ってはいけません。
    文明社会で育った人間達の、内面に潜む<獣>を著した、非常に示唆に富んだ一冊です。

    無人島に取り残された少年たちが、ルールを作って集団でサバイバルをしようとしたのに、予想通り対立していくお話。ノーベル文学賞作家ゴールディングの長編小説デビュー作。

    疎開先に向かう飛行機が墜落、少年たちは無人島にたどり着いた。年長のラルフは、聖歌隊を率いるジャックらとともに、サバイバルを試みる。誇りある英国人としてルールを作り集団生活を試みるラルフ。しかし、焚き火の管理や狩りのやり方について、次第に衝突していく。さらに、島に潜む<獣>の存在に、彼らの生活は破綻していく。

    ストーリーのポイントは、登場人物が子供だけ、ということだ。
    大人がいないということは、体力や知識のみならず、分別のある者もいないということだ。
    基本的に両家の出身の彼らは(イギリスの伝統に則り)少年といえども規律を重んじる文明人としての自覚を持っている。
    しかし、大人=ルールのいない中で、彼ら自身は自らを律していかなくてはいけない。

    さらに鍵となるのは無人島に潜む<獣>だ。
    当初、<獣>は少年たちに(直接的に)襲いかかる危険として描かれる。
    しかし、物語が進むにつれ、<獣>はより象徴的なものであることに気がつかされる。

    分別のない少年集団の中で、唯一、その正体に気がつくのがサイモンだ。
    ラルフ(文明人代表)とジャック(野蛮人代表)が権力争いを始める中、サイモンは皆が恐れているものの正体を見抜く。

    「おまえは知っていたんだな。わたしがおまえたちの一部であることを。ごく、ごく、親密な関係にあることを!何もかもうまくいかない理由であることを。ものごとがこうでしかない理由であることを」
    (p252)

    サイモンは<獣>の正体が、自分たち人間の内面であることに気がついている。恐怖、混乱、焦燥、絶望の全てが、自分や仲間が他人に向けている感情であることを知っている。理性ある人(英国人)であるはずの自分が、内側に獣が潜んでいることが、最大の恐怖だ。
    だが、そのサイモンの行く末が決したと同時に、少年集団の運命も大きく転換する。
    自らを突き動かしているものの正体に気がつかない者は、どうなってしまうのか。

    結果的に、物語は理性、というか、文明人の一人勝ちで終わる。
    特に、ラストシーンは、登場人物が皆子供であることに二重の寓意をもたせている。
    自らだろうと、社会だろうと、結局は内面の<獣>を方法を維持したものが、生き残ることができる、ということだ。
    逆にいえば、大人ですらそれを維持できなくなったとき、具体的にいえば戦時下で、人は生きていけるのだろうか、という疑問を投げかけていると言える。

    映画「美女と野獣」(Beauty and Beast)を見ながらエマ・ワトソンに見惚れるのもいいけど、骨太の「少年と獣」(Boys and Beast)なストーリーに浸るのも悪くないはず。
    文明社会でサバイバルする大人にこそ、ぜひ読んでほしい一冊。

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