忘れられた巨人 (ハヤカワepi文庫)

制作 : 土屋 政雄 
  • 早川書房
3.77
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本棚登録 : 993
レビュー : 127
  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200915

感想・レビュー・書評

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  • 再読。
    好きだなぁ…好きだなぁ…。
    シビアなテーマももちろんだけど、ディティールの隅々までがたまらなく好みで、いつまででも読んでいたい。
    読み終えた後でもずっと考え続けているので、「いつまででも読んでいたい」は叶っているのかも。
    また読む。

  • 「では、真実とは何だろう。
    これが小説に価値がある理由だ。」
    (カズオイシグロ)
    Eテレ| 2017年 ノーベル文学賞受賞決定!
    『 カズオ・イシグロ 文学白熱教室 』アンコール放送
    10月8日放送 午後11時00分〜午後11時55分 放送 より

    私は子供のころから「本を読むのをやめなさい」と親や学校の先生に注意されるほど、読書が好きだったのに、ここ数年は、ビジネス系の本ばかり。

    小説を読むのは苦痛で、出来ないことになっていた。
    それがこの怒濤の変化の年末年始に、買ったもののひとつが「忘れられた巨人」。

    早く先を知りたいけど読むのがもったいない感じ。久しぶりのこの感覚に何か甦るような嬉しさを感じる。

    一章づつ大切に読んでいて、
    ある日、目黒線を途中に挟む東横線特急乗り換えの途中で、次の一節を目にしてその暗喩に涙ぐんだ。

    「そちの罪がどんなものか、おれにはわからん。だが、ブレヌス卿を信じる。
    卿はおまえの排除を望んでおられる」

    「わしはアーサー王の騎士であって、ブレヌス卿の歩兵ではない。
     ただの噂や血の違いだけを理由に、異国の人間に武器を向けるようなことはせん。」

    まさにいま私達はどちらの立場にもなり得る帰路にいて、もうすぐくる世界の変化のとき、
    自らを信じて判断し、行動する勇気を、持てるのだろうか。もうすぐ確実にくるそのときに。

    創られた物語だからこそ、
    伝えることにできるメッセージがあった。

  • ファンタジーだが、読んでいると現代の民族間の諍い、過去を忘れないまま赦すことができるのか、忘れないと赦すことはできないのか、民族間の諍い、争った過去は癒され乗り越えることが可能なのか、など、まさに現代にも通じる内容。
    ファンタジーとして考えるとドラゴンは悪、アーサー王(とその部下たち)は正義、記憶を失わされることは悪の所業で記憶を取り戻すのが目的というのが基本の王道だ。でも本当にそうだろうかと作中で何度も考えさせられる。失った記憶が苦痛を伴う辛い記憶かもしれない時、取り戻すことを選択できるだろうか。
    さらに、その記憶が民族の犯した過ちで、その記憶が無くされることで現在の平和があるのだとしたら?それでも取り戻すのが正しいのか?記憶を解き放ったら復讐の殺戮が始まる可能性が高いとしたら?これは、作品内に描かれたサクソン、ブリテン人同士の争い、歴史を思い起こさせつつ、現代の民族紛争、宗教や文化の違いによる争い、歴史の捏造や社会的隠ぺい、歴史修正主義などにも考えが広がる話だ。
    当初の読後感想としては無理ではないか、憎しみの連鎖はその記憶が伝えられる間は断ち切れないのではと悲観的な見解だった。しかし読書会の参加者の話を伺って、新しい期待も生まれてきた。「覚えていなければ赦すこともできない」という意見が印象的だった。
    加えて、この話を読むにあたって、背景の文化、アーサー王伝説について知っていると、より深く理解できそう。知らないで読んだのが悔しい、ぜひ読んで知りたい。

  •  息子に会うために旅に出た老夫婦。
     途中、戦士と少年と一緒になる。

     アーサー王亡き後のブリテンが舞台ってことで、ファンタジーっぽいです。
     が、ひょいと現代視線がはいるので、なんかネットで動画見てて、たまに言葉ぐぐってみたりしてる感じになる。
     ファンタジー要素は、老夫婦の在り方が大きいのだろう。
     とにかく仲睦まじい。夫は妻のことを「お姫様」って呼ぶんだよ。お互いをいたわって、気遣ってっていうのがすごい。
     もっとも、タイトルの意味がはっきりしたところで、ガクゼンとするのだけど。

     で、何かよくわからないけど、色々なことをどんどん忘れていっている気がする、っていうのが全体にあって、それゆえにすべてが曖昧模糊なのだ。
     旅は、戦士と少年に出会ったことで、大きく動き始める。
     そして、国の歴史というか、今まで何があったかをそれぞれの立場で語る人がいて…。

     色々な意味でふり幅が広い作品だと思った。
     一貫して、人物たちを冷静に見ている作者が感じられるので、軸はぶれなかったけどね。
     でも、相当な勢いで振り回している。

     旅の終わりに…。

     正義も悪も、幸せも不幸せも、表裏一体であり、個々の価値観とか思想とかで変わる。
     確実なものは何もない。
     そのことをどう捕らえるのか、ということを問い続けている作品だと思った。
     うーーん。
     切ない。

  • これまで読んだ最良の本の一冊は『ゲド戦記』だ、と思っているわりには「ファンタジー文学は苦手」と公言している。とはいえ『ホビットの冒険』も『ライオンと魔女』も「わあ、すごい!」と読んではいる(続刊には行けないのだけど)。
    本作も分野でいえばファンタジーなのだろうか。「記憶」がテーマの作家と言われるイシグロだが、本作はもう、そのテーマがどまんなかである。
    どこまでも仲睦まじい老夫婦、しかしなぜだか村の人たちからは疎まれている。それがなぜなのか自分たちも思い出せないし、村人すらも思い出せない。どうやらみんななんらかの健忘症にかかっており、記憶がどんどん薄れていく…。なんせ、行方知れずになった子を村をあげて捜索したというのに、その子がひょっこり戻ってきたときにはみんな行方不明だったこともさっぱり忘れているんだから。
    この健忘症はどうやら村にかかる霧のせいだとわかった老夫婦は、息子の待つ村へと旅立つ途中にその謎の解明にもあたろうとする…。
    記憶、記憶と簡単にいえど、これは世代にわたる記憶ですらある。記憶をなくせばこそ、過去のことも水に流しいまという日を平和に生きられるのではないか。とはいえ、過去に犯した罪と同時に、昔の悲しみも喜びも忘れ去っていいものなのか。
    本書を読んで、まっさきに思い出したのはユーゴスラビアの内戦であったが、まさにこの内戦がイシグロがこの作品を著すきっかけとなったのだそうだ。
    6~7世紀、本作の英国では、まだ鬼も妖精も竜も跋扈する時代だったようで、人も動物的な感覚をだいぶ備えている。
    ところが、やはり人は人、記憶をいつまでも、もしかしたら先祖のものまでも、抱えて生きていくのは動物とは違う。
    はたしてどちらが幸せか。

  • ハッピーエンド希望!!二人で島で暮らせるのかハラハラする。
    忘れるって大事だなと思った。大切な思い出すら、苦しませるものになったりする。
    こういうファンタジーものは大好きで、一気に読みました。
    そしてアーサー王の本を買いました。好きだなあ。
    主人公夫妻の幸せを願ってやまないです。

  • ノーベル賞作家カズオ・イシグロ作品。
    伝説の英雄アーサー王に始まる古代イングランドを舞台としたファンタジー・アドベンチャー。主人公の老夫婦がことごとく記憶を失くすがそこには意外な理由があった。
    思わず引き込まれる傑作です。

  • 覚えてた方がいいのか、忘れていた方がいいのか? 

    この作品もまた現在の幸せと記憶との関係を問うている。今回は何かの原因で記憶がすぐ無くなってしまうアーサー王亡き後すぐのイギリスの村々が舞台で、鬼や龍や霧というファンタジーの要素をからませた。

    昔の記憶を思い出せない老夫婦や、戦士、少年などの今の心の持ちように、いい思い出、悪い思い出、都合の悪い思い出、その記憶があった方がいいのか、忘れたままの方がいいのか、そのための舞台設定だ。それぞれの独白は哲学的だ。

    主人公は老夫婦で、遠くの村に住む息子に会いに行く所から始まる。なにしろ記憶をすぐ忘れてしまう村なので、なぜ息子が離れているのかよく分からない。が、旅を続けるうちに、原因の龍が退治され最後は記憶が戻ってくる。するととても仲の良い老夫婦に見えた二人が実は過去にはそうでなかった時期もあり、息子の失踪の原因も明かされる。夫は「二人で分かち合ってきた年月の積み重ね」で自分の頑なな心が変化したと言う。途中と最後に出てくる、船頭によって渡る、心の通じ合った夫婦が渡れる島が出てくるが、なにか三途の川みたいだった。

    途中に出会う若い戦士、少年、アーサー王の甥だという老兵士は、元からいたブリトン人、やってきたサクソン人だが、サクソン人の戦士は永久にブリトン人への憎悪を忘れないと言う。

    老夫婦、兵士、夫婦の問題、民族の問題と舞台設定はイギリス古代ながら、現代にも通じる舞台劇のようだった。

  • アーサー王時代のイギリスを舞台にした、記憶を巡る物語。信頼できない語り手、に少し近いけれど、設定上の仕掛けによって話の全容が隠されており、主人公と読み手が一緒になってそれを解き明かしていくややミステリ的な体験。霧に包まれたおぼろな記憶を、おぼろな記憶としてただおぼろげに描写できるのは文学ならではの技術だなと思う。

    そして埋葬されていた記憶を掘り起こすことは時に非常な痛みを伴い、場合によっては愛すべき人との今の幸せな関係が取り返しのつかぬ壊れ方をするかもしれないという恐怖も伴い、ただそれでも真実を求め向き合うか否か、という一種の愛の試練の物語でもあった。


    で、その構図は、主人公夫婦というミクロな関係だけでなく、後半になって明らかになるマクロな状況にも相似的に仕込まれていて、なんつー技巧的なストーリー設計だ・・と読み終わって唸った。カズオ・イシグロは本当にすごい。未読のはあと短編集と「私たちが孤児だった頃」か。遅読の自分に対し寡作な人である意味助かった。

  • 中世のイギリスを舞台とした物語。一組の老夫婦が自分の息子が住む町に向かう旅。そしてその中世のイギリスは記憶があいまいになる魔法がかかっている。
    この物語を読んで感じたことは、人は「忘れられる」という素晴らしい能力を持っているということと、「忘れたくない」という気持ちを常に持っている。そしてその二つが常にせめぎあっている。
    いろいろと考えさせられる物語だった。

著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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