書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫 セ 1-1)
- 早川書房 (2017年12月6日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151200939
感想・レビュー・書評
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ニューイングランドのアリス島にあるアイランドブックスを訪れた出版社の営業担当のアメリアと、店に残された捨て子のマヤとの出会いが、妻を事故で失った店主A.J.フィクリーのスノビッシュな日常を一変させ、閉ざされていた島の人々との交流も開かれてゆく。様々な本を絆に、アメリアとの恋愛、マヤへの愛情、亡妻の姉イスメイ、警察署長ランビアーズとの親交が深まる日々に、マヤの母親の悲劇と父親、ポーの初版本の盗難の謎も織り込まれ物語が綴られる。各章の最初に記された本棚のレビューは物語の行方を暗示させるとともに、その本自体への興味を唆らせる。
「小説というものは、人生のしかるべきときに出会わなければならないということを示唆している。覚えておくのだよ、マヤ、ぼくたちが二十のときに感じたことは、四十のときに感じるものと必ずしも同じではないということをね、逆もまたしかり。このことは本においても、人生においても真実なのだ。」
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素敵な物語。
古き良き「北米文学」
紙の本で、しかも文芸作品を読むという行為が既にノスタルジックになりつつある中でこの物語は古き良き北米(アメリカ合衆国とは言ってない)文学体験を思い出させてくれる。
ポール・オースター、カポーティ、メルヴィル、フォークナー、ヘミングウェイ、ルーシー・モンゴメリ・・
本を読むのが大好きだったし、書店が好きだったし、古本屋も好きだった。
しかしいつからか読書から遠ざかり、お気に入りの書店は縮小され、或いは閉店し、気付けば電子書籍リーダーやらスマホやらで活字中毒の禁断症状を癒した事もあった。
『いまやチェーンの大型書店もいたるところで姿を消しつつある。彼の見方では、チェーンの大型書店のある世界よりもっと悪いのは、チェーンの大型書店がまったくない世界だ。』(p.287)
この物語は孤独、ひとりぼっちだった主人公たちが読書を通じて、書店を通じて、繋がりを得てゆく物語である。
このプロセスはまるでモンゴメリの『赤毛のアン』よりもむしろ『可愛いエミリー』を読んだ時の体験に似ていたかもしれない。
しかし、やがてAmazonや「電子書籍リーダー」の登場と加齢が迫ってくる。
現代は、活字を、言葉を失いつつあるのだろうか。
むしろ、我々はもう既に十分過ぎるほど言葉を失い、文芸を読むという行為を失い、豊かな感情体験をする機会を失い、共感する心もなくなりかけているのだろうか。
読書は元来孤独な行為だったが、読書をする人はより一層孤独になってゆくのではないか。
このようにも感じる事もある。
そこで、『ぼくたちはひとりぼっちではないことを知るために読むんだ。ぼくたちはひとりぼっちだから読むんだ。ぼくたちは読む、そしてぼくたちはひとりぼっちではない。』(p.327)というフィクリーの言葉が刺さる。
そして、各表題代わりの短編の名前とフィクリーの名で書かれた読書リストが、最後の最後に活きてくる。
この素晴らしくノスタルジックで素敵な物語体験は本が好きでよかった、としみじみと感じさせてくれる。
古き良き北米文学だった。
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書店を舞台にした小説を見つけると、つい手にしてしまう。本書もそのひとつ。
島にひとつしかない書店の店主フィクリーに、数々の悲劇が降りかかる。でも、悲壮感を感じないのが、本書の魅力。いい小説に出会った。 -
原題 THE STORIED LIFE OF A. J. FIKRY
本屋さんで読みたい本を探すのは、
浜辺できれいな貝殻を探すのに似ている。
気がつくと1時間くらい経ってる笑
どちらも自分一人で過ごすのが好きだけど、
フィクリーの言うように、本は、
「ひとりぼっちではないことを知るために」
読むのであれば、
ここに書いてるのもまた、そうなのかも。
「きみは、ある人物のすべてを知るための質問を知ってるね。あなたのいちばん好きな本はなんですか?」
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A・J・フィクリー アリス島唯一の本屋アイランド・ブックスの書店主
ニコル・フィクリー 事故死したA・J の妻
マヤ 小さな女の子
アメリア・エイミー・ローマン 編集者
ランビアーズ アリス島警察署長
イズメイ ニコルの姉
ダニエル・パニッシュ 作家、イズメイの夫
マリアン・ウォレス ハーバード大学の学生、アリス島で入水自殺をする
フィクリーの言葉
『ぼくたちはひとりぼっちではないことを知るために読むんだ。ぼくたちはひとりぼっちだから読むんだ。ぼくたちは読む。そしてぼくたちはひとりぼっちではない』 -
本屋大賞翻訳小説部門2016年1位。映画の古典の名作のような静かな感動を受ける小説。昔の小説の名作をも彷彿させる。最近、特に翻訳もので、難解な文章を悶絶しながら読み進めるようなものが多かったので、これは対極。とても読みやすい自然な文章だけど、気を衒うことなく、いろいろ仕掛けもあって小説の授業で模範となるような小説。抑えた文体でユーモアに富んでおり、ストーリー展開も意外性もあって面白いし、全体的になんだか暖かくて心が静かにゆさぶられる。読んでるのがすごく心地よい。善人ばかりだけど、厳しい現実と真摯に対峙している様が甘すぎることなく締まった感じがある。すごくバランスが良いのです。最近小説があまり楽しめくなってきたのだけど、久しぶりに一気読みしたほど良かったのです。お勧め。
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「好きな本はなぁに?」と自分に問いかけた。
翻訳のせいか、原文はどうかわからないが、クセのあるリズムの文章が読み進むにつれてクセになった。
いろいろな衝撃的な事件はあるものの底辺にあるのは温かさ。応援したくなる。
各章の前にあるA・J・Fがあげる短編は読んだことがないものばかり。それらを読んでいたならもっとこの本が楽しめただろう。
2016本屋大賞 翻訳部門受賞。本屋大賞に翻訳部門があることを知らなかった。 -
読み終わったあと心が温かく、けどちょっぴり寂しくなる作品。
常に温かく楽しいだけの話ではなく作中には不幸なことも結構起こるけど、文章が良い意味で軽やかだからか悲しすぎない。
かといって軽い作品なのかというとそうではなく、文中には沢山の本の知識が散りばめられてるし本を通じて人が良い方向に変わっていったり、色々な人が繋がっていくことが読んでいて嬉しかった。
存在しないはずの島の風景が目に浮かぶよう。
主人公A.Jが作中の最後の方に言った言葉は本が好きなら刺さる人が多いんじゃないかな。
本屋さんって最高!やはり街にひとつは本屋さんが必要だ。 -
やっぱり本屋さんっていいな〜
この小説を電子書籍で読んだのは読書人生最大のミス。本屋さんへ紙の本を買いに行きます。