浮世の画家〔新版〕 ((ハヤカワepi文庫))

制作 : 小野 正嗣  飛田 茂雄 
  • 早川書房
3.32
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本棚登録 : 82
レビュー : 14
  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200953

作品紹介・あらすじ

戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名をなした画家の小野は、終戦を迎えたとたん周囲から疎んじられ……。ノーベル賞作家の出世作

感想・レビュー・書評

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  •  著者作品は3冊目、かな?
     前に読んだ『私を離さないで』『遠い山なみの光』と比べると、圧倒的に後者のテイストに近い。舞台が日本、戦後という背景も似ている。

     でも、内容、というかテーマは『私を~』に近いのかもしれない。
     キーワードは“記憶”か。

     主人公である画家の“わたし”が現在進行形のように物語を語っていくが、実は当時を振り返っているということが分かる。戦後という“価値観のパラダイムの変化”の時代は『遠い山なみの光』的であり、その中で漂う人を記憶の中で描くのは『私を離さないで』的だ。会話の応酬のあと、こうした表現が多く見られる。

    「あの日、三宅二郎はほんとうにそういうことばを使ったのであろうか。」
    「その朝わたしが正確にそう言ったと断言するわけにはいかない」

     日常的情景を思い描いた後にも、

    「その晩の記憶に限って妙に不明瞭なところがある」

     “記憶”という単語はそう何度も使わないが、明らかにこの物語は過去のものだ。しかも、曖昧な。つまり、過去は、歴史は、“今のわたし”の記憶によってのみ形づくられる。家族や友人関係、その立ち居振る舞いも全て。なんなら、自分自身も。

     『私を離さないで』を読んでいるので、こうした“わたし”のひとり語りが、最終的にはどこにも落ち着かないのは予想がついた。ふわふわと空気の中に漂うように、記憶の断片である、画家の人生が語られていく。“浮世”(floating world)というタイトルが活きる。

     “わたし”は師匠であるモリに別れを告げる。

    「先生、ぼくの良心は、ぼくがいつまでも<浮世の画家>でいることを許さないのです」

     しかし、これも“わたし”の中の都合の良い記憶に過ぎない。人の人生なんて、そんなものだ。それを受けとめて、このあとも漂い続けていくのだ。
     それが運命だ、それが人というものだ。なんてことない戦後の日本の小さな町での日常を描いて、そんな普遍的テーマを浮かび上がらせるあたり、さすがだ。

  • 再読
    カズオイシグロの一人称で語られる第二作目の長編小説。謎解きのよう。
    主人公は忘れることと記憶することの間で生きている。
    人間の記憶というのは矛盾してるものなのだなー。

  • 浮世絵の画家の新版
    老画廊は過去を回想しながら、自からが貫いて来た信念と新しい価値観の狭間に揺れる。
    1986年にウイットレッド賞を受賞

  • 戦前から戦後にかけて、主人公の意識の変化や、心情の揺れが丁寧に描かれていて、とても興味深かった。
    時代に翻弄される人々の様子もリアルに描かれていて、激動の時代に想いを馳せる事が出来た。

  • 2回目。いつも素晴らしい小説をありがとう。

    初めて日の名残りを読んだ時はたまげたけど、テーマほんとうにそっくり。
    日の名残りの方が華やかさと鮮やかな色彩感があって好きだけど、地味で淡々としていて暗いこちらも良い小説。
    主人公のやるせなさや辛さも、周囲の気まずさや不満も、どちらも手に取るようにわかるから、読んでて少ししんどくなる部分すらあった。


    今主人公を責める周りの人たち、すなわち二人の娘や素一や三宅家の人たちは、戦争中は何を考えてどう行動してたの?
    主人公が先陣切ってやったことが戦後的価値観に照らし合わせれば良くない行いだとしても、当時彼ら周囲の人たちはそれを支持して尊敬したんじゃないの?
    戦後「民衆は騙されてたんだ!」とかいう民衆の無責任さ、そう言いたくなるのわかるけど、でも一歩立ち止まって考えてみなよ!!!
    と言いたくなる。
    彼らのも、小野とは違う方向からの自己正当化の一つよね。
    小野の苦悩や考えれば考えるほどねじれてしまう建前と本心、自己正当化って側から見てるとなんて痛々しいの。自分でも痛々しい自覚あって必死に隠してるんだろうな、彼は。

  • 集中力が続かなかったからか、あんまりおもしろくなかった。
    なんかみんな奥歯にものを挟んだような物言いばかりで、
    ちょっとうんざり。
    率直に物言う孫はうるさいし。
    うーん、これは私には合わなかった。残念。

    戦時中の善が戦後には悪となる。
    人をつくるのは状況なのかしら。
    あとから考えるといかにも醜いことがその時は正しいと信じていたり、楽しいと思っていたりする。
    そーゆー自分がいたことは確か。
    人はいつでも善良であることは不可能だと思う。

    ドラマは良かったらしい。観ればよかったかな。

  • まもなく実写化!
    カズオ・イシグロ氏『浮世の画家』
    BS8Kで24日、NHK総合で30日から放送開始。
    日曜美術館、ドラマ試写会ともに好評でした!

  • ある一人の男の意識の流れ。この作品に漂う静けさ。ドラマを見たせいもあり、主人公の小野は、渡辺謙さんだった。

  • ドラマで見たからイメージ湧くが

  • 淡々と過去の記憶を辿りながらの一人語り。
    そのせいで前後のつながりが分かりにくくなっている部分がある。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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