昏き目の暗殺者 下 (ハヤカワepi文庫 ア 1-3)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200977

感想・レビュー・書評

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  • "The Blind Assassin"(昏き目の暗殺者):「インセプション」並の多重構造に驚かされる大河小説|グラノーラ夜盗虫|note
    https://note.com/kopfkino/n/nb11002d6b2a4

    昏き目の暗殺者 下 | 種類,ハヤカワepi文庫 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014314/

  • 上巻がどうしてあんなに読みにくかったのか、完読して納得。

    縦横に張り巡らせられた糸を、そして枠の中にはまった物語を、簡単に読み解けるはずはない。

    アラビアンナイトのように、カターサリット・ナーガラのように、読者が慎重に進みながら読むべき作品なのだから。

    その慎重に張り巡らされた糸を潜り、枠を外し、その奥に大事に隠された物語の真意を見つけ出した時、胸の奥にまた一つ、忘れることのできないものを得ることができるのだ。

    アイリスとローラの物語は、ここから私達、読者に手渡されたのだから。

  • 「古き冷き時間は、古き悲しみは、池の沈泥のように、層をなして積む」

    カナダの小説家マーガレット・アトウッドの2000年の作品。

    チェイス家の二人の娘、アイリスとローラ。
    物語は、名家の没落と新興のブルジョアたちの様子、大恐慌、第二次大戦とその後など、その時代の匂いを、「暗き目の暗殺者」という入れ子の小説や当時の記事を挟みながら、アイリス自身の回顧録?を軸に語られていく。

    女性の内面を抉るような、それでいて「平穏」を繕う。
    老いと皮肉と気位の高さが、積もり積もってまとわりつく。
    煩わしくもあるが、厚着して身を隠したような心地良さも、内側から透けて見える。

    久しぶりに、苦戦した。
    ただ、「エピローグ」を読んだ今、もう一度最初から挑戦すべきかも、と、思った。
    せめて、半分くらいのボリュームだったらな〜。

  • 久しぶりの再読。高齢の女性アイリスが自らの生い立ちから家族のこと結婚のこと等過去を振り返る話を軸に、妹ローラが書いた「昏き目の暗殺者」、その話の中の作中作、というように幾つもの物語が重層的に交錯する。女性に何の権利もなく父親や夫の所有物のように扱われた時代を生き抜いたアイリスの辛辣さは凄まじいが、彼女の耐えてきた恥辱、絶望を考えればそれも当然だ。心から愛する男性と出会っても、全てを捨てる勇気を持てないまま、彼女は恋人も最愛の妹も失う。作中作の結末を何とかハッピーエンドにしようとする彼女の痛ましさが印象に残る。様々な思いがこみ上げてうまく感想を綴れないが、また自分がもっと年齢を重ねてから読んでみたいと思った。

  • 20世紀、カナダ。終戦の十日後に自動車事故で死んだ妹のローラは、姉のアイリスに学習帳の束を遺していた。死後出版という形で発表されたローラ名義の小説『昏き目の暗殺者』はゴシップ好きの好奇の目にさらされ、数十年後の今に至るまでカルト的人気を誇っている。83歳になったアイリスは、ひとりで暮らすいまの生活と、ボタン工場で一財を成した祖父の代から続くチェイス家の歴史をノートに記しはじめる。アイリスの現在記録と過去回想、ローラの小説と当時の新聞記事からの断片で構成された、モザイク模様の〈姉妹〉の物語。


    最初、というか上巻まるまる一冊ぶんくらい、何が主題の小説なのか掴めず戸惑った。ローラがなぜ死んだのかという話かと思えば祖父の代に遡って話し出すし、リチャードとローラとアイリスの三角関係かと早合点すれば別の男が出てくるし、こちらの勝手な予測がことごとくスカされ、謎がどこにあるのかすらヴェールに覆われている。けれど、アイリスの文学的すぎる悪態と戦前の社交界の様相、そして作中作『昏き目の暗殺者』に惹かれて読み進めると、アイリスが書きながらにして隠そうとしてきたものたちが少しずつその恐ろしい姿を現しはじめる。
    アイリスは本当にあの時点までリチャードの悪事を知らなかったんだろうか? 下巻でのローラとのやりとりは、わざと何度もSOSを受け取り損ねているようにみえる。上巻で語学教師がローラに手を出したときのアイリスの態度が、のちのちに効いてくる。ローラに対して、そして娘のエイミーと孫のサブリナに対して、83歳のアイリスは深い罪悪感を抱いている。きつすぎる皮肉を飛ばすことでその罪悪感を茶化そうとしているが、そのような書き方を選ぶほど、彼女がいまの孤独な生活を〈罰〉だと考えていることがわかって痛ましい。
    私は一人っ子なので、こうした姉妹間の感情の機微についてはよくわからないところもあるが、〈長女の呪い〉の裏側に〈次女の呪い〉がべったりと張り付いていたことに気づく小説なんだろうなぁ。また、物語内で前面に顔を出すのはリーニーにしろウィニフレッドにしろ女性たちだが、その後ろには常に呪いをかける側の男性が隠れている。ウィニフレッドがどんなにムカつく女だろうと罪の主体はリチャードだし、ローラを殺したのは10代のアイリスをリチャードに“売った”父のノーヴァルだとも言える。
    つまり、本書はフェミニズム視点から20世紀を語り直した歴史小説でもあるだろう。モダニスト、服飾芸術、精神病棟などなど、“女性特有の問題”をめぐるおなじみのモチーフも登場する。解説では〈盲目の暗殺者〉が指すものについて「エロス、歴史、エゴ」を挙げた《ロンドン・レビュー・オブ・ブックス》を紹介し、訳者はそれに「戦争」を付け足しているが、一つさらに重要なものが抜けている。「婚姻制度」だ。〈長女・次女の呪い〉以上に、〈婚姻制度の呪い〉をテーマにした作品だと思う。
    大長編だし要素がてんこ盛りなのでいろんな切り口があるが、私には語りが魅力的な一冊だった。耽美的で露悪的な作中作『昏き目の暗殺者』におけるサキエル・ノーンの物語は山尾悠子が書くSFのようだし、老境のアイリスが吐くズキズキするような悪口は金井美恵子、大仰な詩や神話の引用によって重層的な詩情を醸し出す語りは皆川博子を思わせ、女性作家のよいところが一度に全部楽しめるようなお得さがあった。
    また、娘の視点で父性の罪を暴く意味ではアンジェラ・カーター『ワイズ・チルドレン』のよう。一つの姉妹を通して20世紀を描いた点でも類似した二作ではないか。リチャードとローラの関係、罪悪感をいだく語り手のおどけた語り口などからは、やはり『ロリータ』を連想せずにいられない。終わり際は「すごい、『異形の愛』になった!」と思った。
    アトウッドを読むのは初めて。鴻巣由季子さんの訳の美しさに感謝。

  • 交通事故で死んだ妹ローラ。姉のアイリスは過ぎし頃の姉妹と家族の歴史を回顧する。アイリスの回想。ローラが残したとされる小説『昏き目の暗殺者』。往事を伝える新聞記事。三構成で織り成す現在と過去。そこから明らかになる妹の死の謎と一族の秘密。

    老女であるアイリスの底意地の悪さ、憎まれ口と愚痴を並べた回想は、読んでいて正直うんざりした。夫の妹・ウィニフレッド(これがさらに嫌な女)とアイリスの反目と対立の様も読み進めるのが難しいほど辟易する。しかし、回想録の奥底にびっしりと巣くった孤独と寂寥に魅入られてなんとか読めた。
    謎や秘密についてはネタバレになるので省略。ただ、予想できた展開で新鮮味は感じられなかった。しかし、それは小説の見所ではないでしょう。むしろ、構成の妙を効かせて螺旋階段を駆け降りるような酩酊感と、入れ子構造の語りで迷宮世界を構築したアトウッドの小説技法の巧さを堪能できる作品だと思う。

  • 面白かった!内容は☆5。でも誤植なのか誤字なのか、??という箇所が複数あったので☆4。校正が甘いですよ、ハヤカワさん!!!

    で、感想。
    ①内容について
    システムへの隷属を指弾する姿勢は『侍女の物語』と共通のように感じた。今回は資本主義に隷属した老女の懺悔を聴いているかのよう。抗うことをしなかった者の懺悔。ローラはシステムに対して言い訳をしなかった者。アイリスは言い訳をし続けた(あるいは目を逸らし続け、被害者の立場を固持し続けた)者、ウィニフレッドはシステムに過剰適応した無知な者の、それぞれの形象か。みんなそれぞれに「昏き目(ブラインド)」だという風に読める。
    ②モチーフの引用について
    シェイクスピアとか聖書とか、わかりやすい引用の他にも、「2足す2」の喩えや、スペインの内戦など、オーウェルの『1984年』を思わせるモチーフが織り込まれているのは意図的……だよね?この作者は余計なことは書き込まない。
    ③構造について
    多次元を行ったり来たり、メタになったり、埋め込まれたりして視界が揺れる感じがたまらない。解説にもあったけど、『ドグラマグラ』とか『熱帯』(登美彦氏!!)とか。なるほど、入れ子構造の小説、意識していなかったけど、私、だいぶ好きらしい。
    ④カナダについて
    カナダの歴史が知りたくなった。『赤毛のアン』しか知らないのが恥ずかしい。

  • いろいろな感想を読んでいると、アイリスの回想が長すぎるという声が多いけれど、わたしはアイリス部分は面白くて、逆に「昏き目の暗殺者」とその作中作が冗長でちょっと飛ばし読みになってしまった。
    全体として面白かったかといわれると、うーん、だし、作中作の秘密も終盤でうっすらと察しはしたけど、それでも放り出せない魔力のようなものは感じた。『侍女の物語』は近未来(?)のディストピアだったけど、実はそんな世界はちょっと前に厳然と存在していたし、なんなら今でも地域によってはあるしということをあらためて突きつけられる。

    アイリスの己に対する回想や評価はひたすら辛辣なのだけど、描かれていない部分でよろこびを味わったこともあったんだろうか。何も知らない、リチャードとウィニフレッドのいいようにされるばかりだった少女から、最後には、悔恨を抱えながらも貫禄をそなえた女性になったわけだから。そう思わないとやってられない気も。

    それにしてもアトウッドの辛辣なまなざしってすごいよな。ちょっとアリス・マンローを読みかえしたくなった。

  • マーガレット・アトウッドだけが、男と対峙した時の女の痛みを克明に描いている。小説構造と文体にはあまり乗れないことが多いのだが、女の痛みだけをひたすら描く作品が氾濫しているこの世の中で、この「男と対峙する女」をしっかりと描く凄みは、現代作家の中でも非常に稀なものであるように思い、読むのをどうにもやめられない。世界には男と女が存在しているので、女も男との関係の中で捉えなければならない部分がある。

  • 2020/10/30購入

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著者プロフィール

マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood):1939年カナダ生まれ、トロント大学卒業。66年にデビュー作『サークル・ゲーム』(詩集)でカナダ総督文学賞受賞ののち、69年に『食べられる女』(小説)を発表。87年に『侍女の物語』でアーサー・C・クラーク賞及び再度カナダ総督文学賞、96年に『またの名をグレイス』でギラー賞、2000年に『昏き目の暗殺者』でブッカー賞及びハメット賞、19年に『誓願』で再度ブッカー賞を受賞。ほか著作・受賞歴多数。

「2022年 『青ひげの卵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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