- Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151200977
感想・レビュー・書評
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「古き冷き時間は、古き悲しみは、池の沈泥のように、層をなして積む」
カナダの小説家マーガレット・アトウッドの2000年の作品。
チェイス家の二人の娘、アイリスとローラ。
物語は、名家の没落と新興のブルジョアたちの様子、大恐慌、第二次大戦とその後など、その時代の匂いを、「暗き目の暗殺者」という入れ子の小説や当時の記事を挟みながら、アイリス自身の回顧録?を軸に語られていく。
女性の内面を抉るような、それでいて「平穏」を繕う。
老いと皮肉と気位の高さが、積もり積もってまとわりつく。
煩わしくもあるが、厚着して身を隠したような心地良さも、内側から透けて見える。
久しぶりに、苦戦した。
ただ、「エピローグ」を読んだ今、もう一度最初から挑戦すべきかも、と、思った。
せめて、半分くらいのボリュームだったらな〜。 -
交通事故で死んだ妹ローラ。姉のアイリスは過ぎし頃の姉妹と家族の歴史を回顧する。アイリスの回想。ローラが残したとされる小説『昏き目の暗殺者』。往事を伝える新聞記事。三構成で織り成す現在と過去。そこから明らかになる妹の死の謎と一族の秘密。
老女であるアイリスの底意地の悪さ、憎まれ口と愚痴を並べた回想は、読んでいて正直うんざりした。夫の妹・ウィニフレッド(これがさらに嫌な女)とアイリスの反目と対立の様も読み進めるのが難しいほど辟易する。しかし、回想録の奥底にびっしりと巣くった孤独と寂寥に魅入られてなんとか読めた。
謎や秘密についてはネタバレになるので省略。ただ、予想できた展開で新鮮味は感じられなかった。しかし、それは小説の見所ではないでしょう。むしろ、構成の妙を効かせて螺旋階段を駆け降りるような酩酊感と、入れ子構造の語りで迷宮世界を構築したアトウッドの小説技法の巧さを堪能できる作品だと思う。 -
いろいろな感想を読んでいると、アイリスの回想が長すぎるという声が多いけれど、わたしはアイリス部分は面白くて、逆に「昏き目の暗殺者」とその作中作が冗長でちょっと飛ばし読みになってしまった。
全体として面白かったかといわれると、うーん、だし、作中作の秘密も終盤でうっすらと察しはしたけど、それでも放り出せない魔力のようなものは感じた。『侍女の物語』は近未来(?)のディストピアだったけど、実はそんな世界はちょっと前に厳然と存在していたし、なんなら今でも地域によってはあるしということをあらためて突きつけられる。
アイリスの己に対する回想や評価はひたすら辛辣なのだけど、描かれていない部分でよろこびを味わったこともあったんだろうか。何も知らない、リチャードとウィニフレッドのいいようにされるばかりだった少女から、最後には、悔恨を抱えながらも貫禄をそなえた女性になったわけだから。そう思わないとやってられない気も。
それにしてもアトウッドの辛辣なまなざしってすごいよな。ちょっとアリス・マンローを読みかえしたくなった。 -
マーガレット・アトウッドだけが、男と対峙した時の女の痛みを克明に描いている。小説構造と文体にはあまり乗れないことが多いのだが、女の痛みだけをひたすら描く作品が氾濫しているこの世の中で、この「男と対峙する女」をしっかりと描く凄みは、現代作家の中でも非常に稀なものであるように思い、読むのをどうにもやめられない。世界には男と女が存在しているので、女も男との関係の中で捉えなければならない部分がある。