ベル・カント (ハヤカワepi文庫)

  • 早川書房 (2019年10月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (528ページ) / ISBN・EAN: 9784151200984

作品紹介・あらすじ

南米のとある国で公邸占拠事件が発生。人質となった各界の要人たちと世界的オペラ歌手、ゲリラの少年少女たちの奇妙な交流を描く

感想・レビュー・書評

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  • 南米のとある小国。工場誘致のために招待された日本の大手企業「ナンセイ」の社長ホソカワの誕生日パーティが、副大統領官邸で開かれている。オペラ好きのホソカワのために、彼が大ファンであるソプラノ歌手のロクサーヌ・コスが招かれ歌うが、彼女の歌が終わった瞬間、官邸はテロリストに占拠されてしまう。テロリストたちは大統領を拉致して収監されている仲間の釈放を交換条件にするつもりだったが、肝心の大統領マスダは急遽不参加となっていたため、副大統領ルーベン、ホソカワらのほか220人の招待客や従業員が人質となる。老人、子供、女性、病人と従業員は翌日には解放されるが、人質として価値があると見なされたロクサーヌは各国大使や大臣らと共に残されることになり・・・。

    1996年に起こった在ペルー日本大使公邸占拠事件を下敷きにしているがあくまでフィクション。テロリストたちは指導者である三人の大人を除くとほとんど少年のような年齢で全員で20人ほど。重職の男性達とロクサーヌ、自ら残った神父アルゲダスら人質は最終的には40人ほどに。交渉役は偶然滞在していた赤十字のメスネルが買って出るが、テロリストの要望と政府の見解は平行線をたどり、解決しないまま、人質とテロリストの奇妙な共同生活が結果的に4か月以上続くことに。

    たまたまこのテロリストたちは残虐な組織ではなく、理性的で話がわかる…というかもはや「おひとよし」レベルで、それが事態を長引かせた反面、人質たちにとっては幸運をもたらす。テロリストも人質も、歌姫ロクサーヌに敬意をあらわし、彼女にはけして危害を加えないどころか、楽譜を取り寄せ、人質の中からピアノを弾ける人間を探し、みんなで彼女の歌を聞いてニッコニコ。さらに差し入れられる食料が未調理なため料理をする人間が必要となり、なぜか料理人として活躍するフランス大使(フランス人グルメだから彼に頼もうという発想がもう)だの、自宅をテロリストに占拠された副大統領ルーベンが掃除や洗濯を庭の草むしりなどを進んで行い有能な管理人化したり、なかなかに微笑ましい事態が発生する。

    テロ指導者はホソカワとチェスをし、ロクサーヌはテロリスト少年の一人に歌の才能を見出して弟子として指導、通訳ゲンは各国言語を通訳してまわって大忙しだが、テロリスト少年の中に実は男装で紛れ込んでいた17歳の少女カルメンにスペイン語を教え、副大統領ルーベンは小柄なテロリストの少年イシュマエルを息子のように可愛がり、オペラ好きの若き神父アルゲダスもやりがいを見出し、そして、いくつかの恋も生まれ・・・。

    テロリストと人質の間に芽生えた奇妙な連帯感。非日常も4か月も続けばもはや日常で、外の世界で何が起こっていようがこの平穏な生活が続くならもうこのままずっとここにいてもいいかのような空気が全員の中に蔓延しはじめる。ストックホルム症候群の一種のような気もするけれど、テロリストのほうが子供で人質が大人なので、ちゃんとした大人と出逢ってきちんと教育を受けさせてもらえさえすれば才能ある少年少女たちが、銃を持たされテロリストになるしかないような生活から解放されて、全員が幸せになれればいいのにと願わずにはいられない。しかしこれがテロである以上、最悪なカタストロフが訪れてしまう。

    メインになるのは社長ホソカワと通訳のゲン、歌姫ロクサーヌと少女テロリストのカルメンの4人、二組のカップルの恋愛になるのだけど、全体としては群像劇的で、どの登場人物たちもとにかく愛おしいと思わせてしまう筆力が凄い。終盤悲しすぎて、昼休みに職場のデスクでちょっと泣きそうになってしまった。とはいえ、とても豊かな物語を味わえた満足感もたっぷりある。

    余談ながら映画化の帯がついていたので(http://belcanto-movie.jp/)(公開直前の文庫化だったのでもう公開中かな)脳内キャストがちょっとそれに引っ張られたのだけど日本人キャストはまあ概ね問題ないかと。ちなみにホソカワ=渡辺謙、ゲン・ワタナベ=加瀬亮で、加瀬亮の役名のほうが渡辺謙のパロディみたいになっちゃってるのがちょっと笑える。年齢的には20代の役を40代の加瀬亮にやらせるのはどうかと思うが、もっとひどいのは30代のロクサーヌを御年58歳のジュリアン・ムーアが演じるとこ。まあ渡辺謙との年齢のつり合いは悪くないけど、歌姫として年齢的にちょっとどうかと思う…。

  • 予想外の一気読みでした。

    在ペルー日本大使公邸人質事件を彷彿とさせる人物配置。
    華やかなパーティーにゲリラが踏み込んでからは一転、まず女性を解放するまでの時間が、全体からするとほんの僅かな時なのに、ものすごく長く、密度も濃く、緊張感が漂います。

    そして、残った男性陣と、パーティーで歌唱を披露していた有名オペラ歌手ロクサーヌが人質として生活を始めます。
    彼女が解放されなかったことは幸か不幸か、音楽という美を人質、ゲリラ部隊双方に与えることに繋がるのでした。

    膠着状態が続く中で、人質とゲリラの関係に少しずつ変化が生じます。
    ただ、人質が死ぬか、ゲリラが死ぬか(捕まるか)どちらにしても、この話の持つ結末はどちらかしかないとも予想出来て……。
    正直、先に結末をチラ見してしまったのでした。

    個人的に、推しはやっぱりカルメンです。
    ゲリラ部隊の少女が、心に葛藤を抱きながら、言葉を教えて欲しいと、ようやくゲンに伝えられた所から、劇的な変化をする。
    彼女ほどの才女が、そしてゲンに「ここで暮らし続けること」を示唆した所からも、この結末を想像すらしていなかったとは思えません。
    けれど、それならカルメンやベアトリス、イシュマエルやセサルといった少年少女兵の「解放」に何の意味があったのか。

    そんなわけで、エンディングも好きではありません。そ、そこに行き着くのかい!と思わず二回読んでしまった。(カルメンがロクサーヌに擬装しているのかと思って)

    美によって感化されていく人々が、結局は法と正義の名の下に、断罪される。
    正義であるのにね。

    「自分でも理解できないのは、なぜ伴奏者に哀れみを感じるのかということだった。アルフレードの言うように、この男だけが死んだわけではない。自分の周囲では毎日のように、知人の半数が死んでいくような気がする。ただ、その連中はさまざまな方法で命を奪われ、虐殺されていて、それが彼の眠りを妨げているのだが、こちらの男はーー伴奏者はーー静かに死んでいったにすぎない。なぜか、その二つがまったく同じだとは思えない。」

  • 長かったけど、人質側と犯人側の交流が心温まって、飽きずに読めた。ラストだけが…。あと映画は個人的に…

  • ☆3.64/47
    『〈映画化原作〉南米のとある小国。日系企業社長の誕生パーティーが開かれていた副大統領邸は、突如としてゲリラに占拠された。人質になったのは、各国の要人たちと世界的オペラ歌手ロクサーヌ。状況が膠着する中、ゲリラの少年少女と人質たちの間には奇妙な絆が生まれ……極限状態での交流を描く。解説/巽孝之』(「早川書房」サイトより▽)
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000310098/


    冒頭
    『灯りが消えた瞬間、伴奏のピアニストが彼女にキスをした。あたりが真っ暗になる前に、彼女のほうを向くところだったのかもしれない。両手をあげようとしていたのかもしれない。なんらかの動きが、なんらかのしぐさがあったにちがいない。リビングにいた全員があとからそのキスを思いだすことになるのだから。といっても、みんなが現実にキスを目撃したわけではない。それは不可能だったろう。彼らを包みこんだ闇は唐突だったし、完璧だったのだから。』


    原書名:『Bel Canto』(2001年)
    著者:アン・パチェット (Ann Patchett)
    訳者:山本やよい
    出版社 ‏: ‎早川書房
    文庫 : ‎528ページ
    ISBN : ‎9784151200984

    メモ:
    ・一生のうちに読むべき100冊(Amazon.com)「100 Books to Read in a Lifetime」

  • 映画観賞後積読。1996年に起きた在ペルー日本大使公邸占拠事件を題材にしたフィクション小説。
    リマ症候の心理を覗ける一冊。

    テロ事件なので、おおよその結末はわかっていたけれど、悲しい事件。

    ただ、感じたのは、テロリスト=悪ではなく、育った環境の中での無知な世界観や、家族や仲間を思う気持ちから、反感を持ち行動を起こす。

    価値観が違うもの同士が同じ国で同じ立場で生きられないからこそ、このような事が起きるのだなあと思った。

    現在アフガニスタンでタリバンが征服してる今、私から見れば悪の組織にしか見えないが、他国から国を占拠され、色んな立場からすると一概には悪とはいえないと感じた。

  • 美しいとゆってしまっていいものかどうか。
    結末も予測できたとはいえ悲しいねー

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