五匹の子豚 (ハヤカワ文庫)

  • 早川書房 (2003年12月12日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784151300219

感想・レビュー・書評

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  • 【ポアロ】
    最高傑作と呼ばれているのも納得の作品だった。今作は「回想する殺人」で、作品ごとに手法を変えてくるアガサはやっぱりすごい。

    あらすじ
    母は無実だったのです。娘の依頼に心を動かされたポアロは、事件の再調査に着手する…

    真犯人は誰なのか?証言を聞きながら自分も一緒に推理できるのが楽しい。
    語り手が変わる度に自分の予想がどんどん変わっていく。アガサの手の平でコロコロ転がされるのがたまらない。

    ポアロはちょっとした違和感でも絶対に見過ごさない。人の心理を読むのがとても面白い。
    最後にみんなが集められた解決編では、やっぱり予想を超えてきた。
    16年前の事件から犯人は何を思い続けていたのか、最後の一言でわかる。

    今回はヘイスティングズが出てこなかった。
    ポンコツのヘイスティングズが恋しくなっている自分に驚く。
    2作連続ヘイスティングズの出てくる作品だったので、当たり前にいるものだと思っていた。いなくなって気付くヘイスティングズの面白さ。あのポンコツぶりがまた見たい(*^_^*)
    Audibleにて。

  • 小説を読んでからドラマ(ポアロ役はデビット・スーシェ)を見たので、両方について書きます。

     この子豚はマーケットへ行った
     この子豚は家にいた
     この子豚はローストビーフを食べた
     この子豚は何も持っていなかった
     この子豚はウィーウィーウィーと鳴く
    ポアロのところに、カーラ・ルマルションという若い女性がやってくる。彼女は親族に育てられていたが、21歳(成人年齢)になったとき、育ての親から実の両親の真実を教えられ、実の母親からの手紙を受け取ったのだという。
    カーラの両親は、豪快で女性好きで才能ある画家のエイミアスと、キャロラインのクレイル夫妻。16年前、キャロラインは、夫のエイミアスを毒殺した罪で終身刑を受け、翌年獄中死していた。当時まだ幼かったカーラにその記憶はなく、今回始めて知りショックを受ける。だが母キャロラインからの手紙には「自分は無実だ」ということが書かれていた。
    そこでカーラはポアロに16年前の真実を探ってほしいと依頼する。もしも本当に母が父を殺したのだと証明されることになったとしても。

    ポアロは16年前の事件関係者に話を聞いていく。弁護人、検察官、警察、そして事件当時現場にいた5人の関係者。
    5人?まるでマザーグースの童謡のようではないか。

    ●マーケットへ行った子豚は、フィリップ・ブレイク。
    エイミアスの親友で、現在は経済的に成功している。高圧的な態度で、抜け目のなさと、陽気さを持っている。
    ●家にいた子豚は、フィリップの兄のメレディス・ブレイク。
    内気な田舎紳士。昔はキャロラインに想いを寄せていた。
    趣味で植物を育てたり薬を調合したりしている。エイミアスが飲んだ毒は彼の家から盗まれたもの。
    ●ローストビーフを食べた子豚は、エルサ・ヘリアー(現エルサ・ディティシャム)。
    当時まだ19歳だったがエイミアスの愛人でモデル。美女で金持ちで欲しいものは必ず手に入れる性格。事件当時クレイル家に滞在し「エイミアスはキャロラインと離婚して私と結婚する約束を交わしているのよ」と言って空気をピリつかせていた。
    ●何も持っていなかった子豚は、キャロラインの妹、アンジェラの家庭教師セシリア・ウィリアムズ先生。
    厳格そのもので、キャロラインを敬愛している。
    ●ウィーウィーウィーと鳴く子豚は、キャロラインの異父妹アンジェラ・ウォレン。
    幼いキャロラインは赤ん坊のアンジェラに暴力を振るい失明させた。

    この五匹の子豚たちは、最初はポアロの聞き込みで、次にはポアロに送った手記で、当時を振り返る。
    つまり読者は同じ事件を5人×2回の10の目線で事件の再構築に立ち会うってこと。

    さて。小説の趣旨として、16年前の事件をそれぞれの立場の証言者たちが、同じ事件、同じ人物を語るのに全く違う証言が出ること。
    特に被告のキャサリンのことは、証言者に寄って全く違う。フィリップとエルサはボロボロに言う。「怒りを抑えられない、理性なんてまるで持たない女。若い女に負けたのに認めず夫を殺す冷酷な女」。それがウィリアムズ先生には「魅力的で誇り高い女性」となり、アンジェラには「怒りに任せて私を失明させたからこそ、怒りをはっきり口に出して行動には決して起こさないようにしていた。とても自制心が強く、私を守るためならなんでもした」となる。
    そしてクリスティの表現力はすごいなあ。エイミアスの絵の凄さが文章でわかるんですよ。女を見れば手を出しすぐに捨てて妻を苦しませる男だが、こんな絵を描くなら性格は破綻してるだろうって分かる。

    ※※※以外真相の感想なので、ネタバレ気味?※※※


    読みながら、私は事件の真相はわりとすぐに分かったんですよ。しかし真犯人はまるでわかりませんでした。だってアガサ・クリスティは人物像をしっかり書くので、この人物ならこんな行動をするよね、って納得できるんです。すると、この関係者の中に毒殺しそうな人がいないんだもん (^o^;
    これには依頼人のカーラも、終盤にポアロが「名探偵、皆を集めて」をやったときに「この中の誰かが殺人者なの?」と想像するが、「メレディスは家に入った泥棒に銃を向けてうっかり引金を引くかもしれないけど、わざと人を殺すことはないだろう。エルサは女王様として気に入らない者の処刑を部下に命じるかもしれないけど、自分で毒をいれるタイプじゃない」などと、犯人の見当がつかないとなってゆくのだが、読者としてもそれに賛成で「探偵小説としてキャロラインは無実なんだろう。しかし享楽家のエイミアスが自殺するとは思えない。でも5人のなかにちまちま毒殺しそうな人はいない。それなら間違って飲んじゃったってことにしませんか(^_^;)」の気分になりました。

    しかしさすがはアガサ・クリスティ。
    5人の証言から矛盾を見つけ、彼らが隠していること、嘘をついていること、そして自分でも忘れていたことを再構成していく。
    明らかにされた真犯人の気持ちも行動も「そういう状況なら、その人なら毒を盛るだろう」と読者にも納得のものでした。
    しかしね、エイミアスは、絵のために妻キャロラインと、結婚約束した(?)エルサを同じ家に滞在させて家中の緊迫感を「とにかく絵がいちばん大事なんだ!女どもはそれがわからないのか!」と、「芸のためなら女房も泣かす」を地で行きすぎて、その状況を証言者たちにより繰り返されるのは読者としても辛い。 このアトリエって「二人の愛人が取っ組み合いしている横で絵を描くピカソ」ですか?(^_^;)

    事件としては。ポアロは真犯人を暴いたけど、16年も前で証拠もない。裁判にも難しい。
    それでもこの場に呼ばれた人たちにとっては、止まっていた気持ちを前に進ませるものになったのでした。



    さて、デビット・スーシェのドラマのこと。
    なんといっても!キャロラインが!絞首刑になっていた!原作では「愛人を連れ込んだ夫も酷い」ということで有罪だけど情状酌量で獄中死だったのに!
    そして2時間放送のため、五人の証言はポアロの聞き込みだけで手記はなし。そのためかキャロラインへの評価の違いもそんなに現れておらず、キャロラインの強さ優しさがあまり感じられず(^_^;)

    さらにマザーグースの歌が使われなかったので「なぜ五匹の子豚」ってわからないのでは・笑

    そして原作では印象的だったエイミアスの絵が出ていなかったので、彼の凄さが分かりづらいというのもあった。原作ではエイミアスの絵から受ける衝撃と、こんな絵を描くなら性格が破綻していても仕方ないと思わせるものでした。ドラマでは、文章以上の絵画を表現できなかったんだろうなあ。

    そして原作では享楽的で派手で大柄なエイミアスとフィリップが、ドラマではスマートで優しげな俳優さんだったので、フィリップも原作で言われるような「彼が人を殺すとしたら?揉めた女性に掴みかかる姿は想像できるけど、ちまちま毒殺するとは思えない」感じがしなかった。
    そして!フィリップとキャロラインの関係が全く違う!原作では高圧的でキャロラインを敵視しているが、実はキャロラインを愛していて「可愛さ余って憎さ百倍」ってやつです。
    それがなんとドラマのフィリップはエイミアスを愛していて、彼の死にずっと傷ついているようなことに(^o^;。しかもキャロラインのほうからフィリップを誘惑しよう寝室に入ってきて、フィリップに振られてひどい言葉を投げつけるという流れ。
    ええーー、これは改悪じゃないの。原作でもキャロラインは悪い言葉もはっきりいう。しかしそれは悪い行動を起こさないため。それがドラマではフィリップの同性愛感情に対して傷つける言葉を投げつける。
    これじゃあ、エルサがキャロラインに「あんた旦那に愛されてないよ、さっさと消えれば?お・ば・さ・ん」みたいなことを言ったけど、それと同じじゃん…。ドラマ制作当時は同性愛を取り入れることが大切だとかなんとか思ったのかもしれないけど、さらに時代が経って同性愛を馬鹿にする発言はタブーになり、キャロラインがすごく弱くて嫌な人になっちゃってる(-_-;)

    良かった点。
    原作ではエルサのことは「まだ子供。自分が何をしているか分かっていない」と言われていたけれど、読者としては「分かったうえで、妻子持ちの男を奪うつもりでしょ」と感じたのですが、映像になると「若い!猪突猛進!」な感じがわかりやすくなってました。
    ドラマではエルサ役の女優さんは目がものすごく大きくて(メイクじゃなくて、本当に大きい)、その目でまっすぐに他の人を見つめて「私とエイミアスは結婚の約束をしたの」と言い切る姿、それが16年後には確かに美人で金持ちだけど厚化粧で輝きは失った様子になっているのはすごいなあ。

    そしてドラマならではの良いところは、過去場面はセピア色でエリック・サティの『グノシエンヌ第1番』を流すノスタルジックさを現しているところ。
    アンジェラやカーラには幸せだった子供時代、ブレイク兄弟にとっては愛するエイミアスとキャロラインとの辛い思い出。それがラストでは(ちょっとドラマとしての派手な演出も追加されてるんですが)、セピア色の思い出の中に、愛し合っていた家族の姿で終わります。
    ドラマ脚本によりキャロラインがそこまで魅力的でなくなってるのは残念ですが、関係者には美しい思い出を取り戻せたという切なく優しいドラマでした。

  • かなり前に111108さんに教えていただいたポアロおすすめ作品から、ようやく読む。

    これ、今まで読んだポアロ作品の中でも1、2位を争うくらい好きかも。
    読んでいて、誰も犯人には思えなかったけど、発言の裏側に潜む意味が解き明かされると、動機も含めすごく腑に落ちる。最後の一展開、今回もまんまと騙された。
    遠い夏のセピア色の思い出を振り返る回想殺人形式も好きだし、ラストの余韻も良い…。
    111108さん、教えていただきありがとうございました!

    • 111108さん
      ロッキーさん、ついに読みましたね!
      お気に召したようで嬉しいです♪よく考えたらちょっとツッコミどころもあるのですが、「セピア色の思い出を振り...
      ロッキーさん、ついに読みましたね!
      お気に召したようで嬉しいです♪よく考えたらちょっとツッコミどころもあるのですが、「セピア色の思い出を振り返る」というロッキーさんのレビュー読んだら恩田陸さん風でもあるなぁと思いました。
      2024/01/20
    • ロッキーさん
      コメントありがとうございます!!
      確かによく考えたらツッコミどころは多々ありそうです笑
      恩田陸さん味のある作品(恩田さんがクリスティーに影響...
      コメントありがとうございます!!
      確かによく考えたらツッコミどころは多々ありそうです笑
      恩田陸さん味のある作品(恩田さんがクリスティーに影響受けてるとは思いますが)が好きなのかもです。
      2024/01/21
  • ≪あらすじ≫
    カーラという若い女性がポアロのもとを訪れ、16年前に起きたある事件を調べ直してほしいと依頼する。その事件とは、カーラの母カロリンが父アミアスを毒殺したとされる殺人事件で、カロリンは有罪判決を受け投獄された。彼女は獄中で死の直前に娘のカーラにあて手紙を書いた。「自分は無実だ」と。カーラは自身の結婚を控え、母が本当に無実なのか、事件の真実を知りたいと願っているのだ。
    ポアロは、当時クレイル夫妻と親密だった5人の人物からそれぞれ事件の証言を得た。
    ①アミアスの愛人エルサ
    ②アミアスの親友フィリップ
    ③フィリップの兄で夫妻の友人メレディス
    ④カロリンの妹アンジェラ
    ⑤アンジェラの家庭教師ウィリアムズ先生。
    事件前後のクレイル夫妻の状況が5人の視点から詳細に語られる。アミアスがビールに毒を盛られて殺されたこと、夫の不倫に悩んでいたカロリンが明らかに不審な行動をとっていたことは事実だ。ただし、アミアスとカロリンの人物像や夫婦関係については、語る人間によって微妙に様子が違ってくる。さらにポアロは5人全員に事件の手記を書くよう請う。5人分の証言と手記をもとに、ポアロは、そして読者は、この事件の真犯人を見極めることができるのか。

    ≪感想メモ≫
    ●普段、ミステリを読みながら積極的に謎解きにトライする方ではなく、探偵による鮮やかな謎解きや人間ドラマを、へー!とかほー!とか眺めているだけのことが多いのだけど、この『五匹の子豚』はそうはいかない。事件関係者の証言と、さらには手記までずらりと揃えてこちらに提示されるのだ。「ただ見てないであんたも謎解きに参加しなさいよ」と言わんばかりの構成だ。
    とは言うものの、証言と記録の穴や矛盾を丹念に掬い取り真犯人を見つける頭脳は、残念ながら私にはありません(ーдー)「結局カロリン真犯人」パターンでないことを信じるなら、彼女が自分の人生と引き換えに庇うのはこの人物しかいない。しかし小説がそれですんなり終わるとも思えないので、カロリンすら知らない真実・真犯人がいるにちがいない……くらいは予想しながら読み進めるものの、あとは全員特に不審な言動はなさそうだし、疑い出すと誰も彼も怪しく見えてくる。結局、へー!とかほー!とかになってしまう。なんとなくの印象で「この人か?」と思っていた人物は見事にハズレました♪

    ●カロリンという女性は、芸術家であるアミアス以上に多面的で人の心を良くも悪くも刺激する魅力があったようで、実像がなかなか見えてこない。証言から浮かび上がるのは、むしろそれを語る証人自身の人間性であるのが面白かった。

    ●証言が積み重なるにつれ、夫妻の周囲の微妙な人間関係や場のパワーバランスの詳細が明らかになってくるが、それでも事実は大岩のように覆らない。と思いきや、ポアロが持たらす視点により事件の見え方が一気に変わる。急に奥行きができたように人間関係の見通しが良くなり、1つ1つの言動の意味合いがくるくるとひっくり返り、事件がパタパタと片付いていく。まだラストを迎える心の準備できていませんっ!と、途中でちょっと休憩を入れてしまったほどの鮮やかさ。

    ●物語としては、胃がキリキリしそうな愛憎劇がそのまま鬱々と終わってしまい、ちょっとしんどい読後感。ドタバタ騒がしいヘイスティングズがいないのが何となく寂しく、彼の存在のありがたさを実感した。

    ●真犯人の最後の言葉はあまりにも憐れで、気持ちが沈む印象的な台詞だった。だけど、台詞すら与えられなかったアンジェラの胸のうちは…?心から信じていた姉が自分のことを殺人犯だと思っていた。このことを知った彼女が気の毒でならない。
    周りからずっと軽い存在として扱われてきたカーラにも幸せになってほしい。

    ●「五匹の子豚」というインパクトある題名はマザーグースにちなんだもののようだが、これを読んでいる間「五匹の子豚とチャールストン」がずーーっと頭の片隅で流れ続けて困った。あんな明るく楽しそうな歌が、というより明るい歌であるがゆえに、かえってホラー味が……。

    • 111108さん
      ゆたこちさん

      スーシェのドラマ、NHKのBSで水曜夜9時(だと思います。地方によって違うかも)やってますよ!今日はたしか『白昼の悪魔』やり...
      ゆたこちさん

      スーシェのドラマ、NHKのBSで水曜夜9時(だと思います。地方によって違うかも)やってますよ!今日はたしか『白昼の悪魔』やります。衣装とか車とか邸宅とか、けっこう凝っていて面白いです♪結末が違うことが時々あるので、それも楽しいですよ。

      『ポアロ登場』は短編集のでしょうか?初期の頃はヘイスティングズかなりへっぽこに書かれてますね(^ ^)
      2023/05/17
    • ゆたこちさん
      111108さん

      お返事ありがとうございます(^-^)スーシェのドラマ、U-NEXTでも全シリーズ見れるのですが、字幕放送のみなので、吹替...
      111108さん

      お返事ありがとうございます(^-^)スーシェのドラマ、U-NEXTでも全シリーズ見れるのですが、字幕放送のみなので、吹替派の自分は興味はあっても後回しにしてました。見てみます!結末違いも楽しみですね(私、気付けるかな)

      はい『ポアロ登場』は短編集のです。予告なくAudibleに入っていてテンション上がりました( ノ^ω^)ノへっぽこヘイスティングズと嫌味炸裂のポアロの関係を楽しんでます♪
      2023/05/17
    • 111108さん
      ゆたこちさん

      U-NEXTで全シリーズやってるんですね!ぜひぜひご覧ください。私は字幕派なのでBSも英語で字幕にして見てます。
      スーシェポ...
      ゆたこちさん

      U-NEXTで全シリーズやってるんですね!ぜひぜひご覧ください。私は字幕派なのでBSも英語で字幕にして見てます。
      スーシェポアロがよく「ノン、ノン、ノン、ヘイスティングズ」と言うんですけど、もう読んでてもその声思い出しますよ♪
      2023/05/18
  • クリスティのポアロ物
    ひょええええっおっもしれええええ
    クリスティ完全攻略本からこれは読んでみようと思い購入した1つ

    父親が毒殺、その容疑で裁判にかけられ獄中で亡くなる母。母親は無実ですと訴える娘
    16年前の事件を再調査するポアロ
    当時の関係者の証言を集め、真相は

    冒頭からしびれる
    私が調査しあなたの母に罪がやはりあっても良いのですか?と聞く紳士ポアロ
    覚悟を決め「わたしは母の娘です。真実を望みます!」と放つ娘
    アンアリエールだ(過去へ行こう)の台詞
    かっこいい………

    そこからはさすがのクリスティ。しっかりと登場人物を描き、何ならこの中に犯人がいて欲しくないなとすら感じてしまう。証言のおかしい所をさらっていき、嘘、記憶違い、他人の証言との差異、物語としてのサービスまである
    クイズでよくあるABCDEさんの中で誰が一番最初にゴールしたでしょうのような入り乱れ

    まったく知らないタイトルだったし読むまでつまらなそうなタイトルだなと思ったが興奮しまくりだったポケットにライ麦をより更に面白かった

    これが80年以上前の作品とは恐るべし
    僕の中ではクリスティはこれがNO1でいいや

     

  • ***ネタバレしてます!***



    "「あなたには、まだまだ学ばなければならないことがたくさんあるからですよ」
    「それはなんですか?」
    「いろいろな大人らしい感情です——人に対する哀れみとか、同情とか、理解の感情です。あなたが知っているのは愛と憎しみだけなのです」(p.404)"

     クリスティー中期を代表する傑作。
     彼の女史は、『オリエント急行殺人事件』や『アクロイド殺し』で見られるような華々しいトリックでも有名だが、特に中期以降は、人物の「語り」、あるいは心理の動きに強い関心を持って作品を書いたミステリー作家だと、個人的に思っている。
     本書では、殺人事件が起こったのは16年前である。司法的な手続きはとっくに終わっていて、物的証拠はもはや手に入らないし、当時犯人として捕まった人物は獄中で亡くなってしまっている。真相に迫るには、当時の関係者たちのもとを訪ね、話を聞いて回るしかない。しかし、この「話」というのが厄介な代物で、そもそもが主観的なものである。同じ行動であっても、その人物に対して良い感情を抱いているか悪い感情を抱いているかで見方は容易に変わり得るし、流れた長い月日のために記憶が捻じ曲げられているかもしれない。ポワロは、そのような「語り」を手掛かりとして事件を再び組み立て直し、16年のあいだ埋もれていた真実を明らかにする。複数の光源から投射された光が交差して宙に図形を浮かび上がらせるように、生きた人物たちが繰り広げた、過ぎ去りし日々の秘められたドラマが眼前に立ち上がってくるのだ。

     本書の見どころは、2つあると思う。
     1つは、人物を複数の証言を通して多面的に描いた点である。16年前、夫殺しで逮捕された妻のカロリンは、ある人に言わせれば"敗北者であり意気地なし(p.73)"であり、またある人にすれば"美しい夢"、あるいは"ごくあたりまえの淑女"であって"感情の起伏のはげしい女"。この何れも、ある意味で「真実」を語っている。ただ、証言者たちの経験や価値観、そしてカロリンへの感情が違うだけなのだ。また、証言が常に「本音」を語っているとは限らないのも勿論である。例えば、ある人物を敢えて殊更に悪く評することは、そこに何か意図的なもの(ズバリ言えば、その人物への好意を隠そうとする意志)を読み取るべきであるのは、よく分かる話だろう。
     もう1つは、魅力的な真犯人の人物造形だ。自分の欲しいものを手に入れるのに誰よりも貪欲でありながら、自分の若さ・未熟さゆえに望みを遂げられず「敗北」することになる彼女の姿は、哀れを誘う。ラストシーンは実に印象的で、見事である。
    "「カロリンもアミアスも、二人いっしょに、わたしの手の届かないところに行ってしまったのです。結局、二人は死ななかったのです。死んだのはわたしでした」
    エルサは立ちあがって、ドアのところまでいってからまたいった。
    「わたしが死んだのです……」
    廊下にでると、エルサの前を、これからともに生活をはじめようとしている若い二人が通って行った。(p.406)"

  • 画家の父を毒殺した疑いで裁判にかけられ、獄中で死んだ母。大きくなった娘のもとに自らの無実を訴える母の手紙が届けられる。ポアロは母の無実を信じる娘の依頼にもとづき、過去の事件を洗い直す。

    16年前の事件である。娘には婚約者がいて、彼女の過去を知ったうえで変わらず愛してくれている。関係者はすでに新しい生活を送っており、どれだけの証拠が残っているのかもわからない。犯人は母で間違いないことが裏付けられるだけなのかもしれない。それでもなお母の無実を信じる娘のために、ポアロは捜査を開始する。

    第一部はポアロによる関係者への聴き取り、第二部は事件に関わった5人の人物の手記で構成されている。16年前のことなどもう記憶があいまいなのでは、と思うが、そこはクリスティのうまいところで、関係者それぞれに墓場まで持っていこうとした秘めた思いがあることが明らかになってくる。また、手記という形を取ることで、対面で話しているときには繕っている相手への感情が知らず知らずのうちににじみ出てくるのも面白い。

    この話のイメージはどこかセピア色である。事件直後の生々しさはなく、関係者の思いにうっすらとフィルターがかかっている。そして、もう時間は巻き戻せない、という確かな現実に、ほろ苦い感情がわきおこる。
    状況証拠が中心とはいえ、ポアロの推理に無理はなく、ミステリとしてももちろん面白い。被害者である画家の父、魅力的な女に目がなく、自分の芸術を何よりも優先する自己中心的な男の描写もリアルで存在感がある。
    再読するごとに味わいが増していく忘れがたい作品である。

  • ドラマ版では一番好きな作品です。なのでかなり楽しみで読みました。いやーでも、回想物なので本だと静かすぎてちょいちょい眠くなってしまった(^-^;。
    最後の犯人のセリフは何かグッと来たな~。殺人犯だけどなんか憐れみを感じてしまった。
    ドラマだとアミアスが色気があってひどい奴だけど引き付けられるものがあるんだけど、本だと本当にヤな奴です。

  • ラストが切ない。

    今まで読んできたポアロシリーズの中で
    私の中で1、2を争うフェイバリット作品。
    もう一つのフェイバリット「ひらいたトランプ」が
    「楽」の方でナンバー1であるのに対し、
    こちらの「五匹の子豚」は「哀」の方でナンバー1。

    ポアロが関係者を前に謎解きをする場面、
    そしてある人物と会話して別れる場面、
    ついに明かされた衝撃的な真相の残酷さ、
    そしてそれに対し述べたポアロの厳しくも優しい、
    独自の信条、哲学に従った言葉。

    構成するもの一つ一つに筆者ならではの丁寧な仕事が光り、
    この作品の素晴らしさを大いに楽しむことが出来たが、
    読み終えた後、 まるで自分の心の中に冷たい風が
    吹いているような「寂しさ」「哀しさ」を感じている。

    物語は、大変美しい娘がポアロを訪問する所から始まる。
    その女性はとんでもないことをポアロに依頼するのだ。
    16年前に起こった自分の両親の事件の真相を探ってほしい。
    本当に母親は自分を裏切って
    他の女性へと走った父を殺したのかと。
    娘の懸命な願いに、ポアロは過去の殺人の真相解明に乗り出す。
    裁判に関わった数人の関係者とやり取りした後、
    当時夫婦の周りにいた人物(=5匹の子豚)を絞り出し、
    ポアロはこの5人に直接会って事件当時の話を聞き出していく。

    やはり、嫉妬に狂った夫人が夫を殺したのか。
    それとも良心の呵責に悩んだ夫が自ら命を絶ったのか。
    それとも夫を殺した真犯人が他にもいるのか?
    そこに隠された男と女の愛の真実とは何だったのか?

    良質なミステリーとしてだけでなく、
    ドラマチックな恋愛小説としても楽しめる作品。

    ある一つの同じ出来事を見ても、それを見た人間の数だけ
    「視点」があり、時に己の都合の良いように
    解釈してしまうということ。

    世界にたった一人しかいない、無二の存在であるはずの
    人間に対しても、自分の置かれている立場や抱えている利害、
    相手との関係次第でその人物がどんな人間であるかといった
    印象の切り取り方は違うということ。

    たとえ自分にその気はなくても、
    人は無意識に真実を歪めてしまうこともあるのだということ。

    そして男と女の仲は、他人の目にどう映るか関係なく、
    所詮あくまでも当人達にしかわからないのだということ。

    著者クリスティーが沢山のメッセージを込めた作品だと思う。
    一人でも多くのファンに読んでもらいたい名作。

  • おそらく“事実”はひとつであろう
    いくつも異なる“事実”が出てくるのは、そこに“ヒト”が介在するから
    特に“過去”の出来事は自由だ
    だから、物語ができる。

    本文中でもポアロ自身が言っているように、ポアロの捜査はヒトの気持ちから組み立てて、削り落としていく。
    その上で、ポアロ以外の登場人物が魅力的であるからこそ、ポアロの自慢話にとどまることがない。
    物語は、まるで演劇をみるように楽しめる(あとがきによれば、作者本人による脚本も作られたとか)

    そしてドンデン返しも……

  • ポアロシリーズを読む度、いつもいつも展開に驚いてばかりの私も、今回ばかりは途中で「犯人が見えたな」としたり顔だったのですが、今回も見事屈服しました。
    16年前の殺人事件を、加害者の娘の依頼で紐解くポアロ。ひとつの事柄を、複数の関係者からの手記という多角的視点、しかも各々自分の思惑に沿って書いた、100%鵜呑みにはできない供述を読み比べるのが面白かったです。

  • クリスティーといえば、「そして誰もいなくなった」「オリエント急行の殺人」あたりがよく知られているところだけど、ここに傑作といっていい作品に出会えたことがとても喜ばしい。

    16年前に夫を毒殺したとして有罪判決を受け獄死した夫人の娘が、真実を知りたいとポアロに調査の依頼をすることから物語は始まる。
    ポアロは当時の弁護人や警視に会い、被害者と深く関わっていた五人の重要人物に会う。誰が見ても夫人が犯人、なのに、読み方を変えてみるだけで、これほどにまでに違う真実がみえてくるのかと脱帽。 クリスティーの最高傑作の一つと間違いなく言える。

  • 回想の殺人ということで証拠なども残っていない中証言と心理考察で当時の情景を再現するのは見事だと思う。
    被害者が加害者を描いた絵、自分の愛人が死んでいく姿を見ている娘の絵という結論が素晴らしい。

  • 傑作かも!

  • 犯人ダービーが終盤までアツい。
    外からは分からなかったが、夫妻の仲はヒビが入る余地なんて無かったようだ。犯人の所業は全く許せる気がしないが、最後の一言を読むと溜飲が下がる。難しいかもしれないが逮捕されてほしい。

  • 16年前、夫殺しの罪で終身刑を宣告され、獄中で死亡した母の無実を固く信じる娘の話に興味を覚えたポアロが、あたかも「五匹の子豚」の如き5人の関係者との会話を手がかりに過去へと遡り、真実へたどり着く。

  • 過去の事件の真相を洗い出す、今までとはまた違った推理のお話でした。
    当時の関係者たちに話を聞いたり、手記を書いてもらったりとしますが、被害者や犯人のイメージが人によって全然違うのが面白かった。動機に関しても、許せない人もいれば致し方ないと言う人もいたりして、一人の意見を鵜呑みにしてはいけないなと感じました。

  • 姉から妹への想いが切ないけど、話して確認できなかったのかなぁ。夫の愛人に同情するし、お人好しすぎてもどかしい。16年も前の証拠隠滅をポワロが断定するのも違和感。
    タイトルは童謡由来らしいけど話の内容にあっていないし好きになれない。戯曲版タイトルGo Back for Murderもパッとしない。

  • 中期の力作。
    妻が画家を殺したといわれる事件の真相は?
    遺された娘が大人になってから、ポワロに調査を依頼します。

  • 夫婦の会話の内容が真相が判明する前と後で変わるのがすごい
    もちろん謎解きにもひとひねりあるし読み応えがあった

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著者プロフィール

1890年、英国、デボン州生まれ。本名アガサ・メアリ・クラリッサ・ミラー。別名メアリ・ウェストマコット、アガサ・クリスティ・マローワン。1920年、アガサ・クリスティ名義で書いたエルキュール・ポアロ物の第一作「スタイルズ荘の怪事件」で作家デビュー。以後、長編ミステリ66冊、短編ミステリ156本、戯曲15本、ノンフィクションなど4冊、メアリ・ウェストマコット名義の普通小説6冊を上梓し、幅広い分野で長きに亘って活躍した。76年死去。

「2018年 『十人の小さなインディアン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アガサ・クリスティの作品

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