ポケットにライ麦を (ハヤカワ文庫)

  • 早川書房 (2003年11月11日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (400ページ) / ISBN・EAN: 9784151300400

感想・レビュー・書評

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  • これぞ「ザ・クリスティー!」といわんばかりの事件(笑)

    毒殺された金持ちの亭主、事件の捜査が進むごとに浮かび上がるドロドロの人間関係。金目当て、遺産目当ての殺人か、はたまた痴情のもつれか。と思っている間に、第二・第三の殺人が起こり……

    そして、殺されたメイドがかつてミス・マープルのお屋敷でも働いていたことから、マープルも自ら事件のあったお屋敷に乗り込み、推理に挑むます。

    推理としては、もうちょっとカチッと嵌めてほしかった感や、もっと展開を転がせたのではと思ったところ、
    また、証言と登場人物の行動を追っていくミステリなので、全体的に地味といったところもあったのだけど、クリスティーらしい人物描写の妙は、今回も見事でした。

    怪しい人物は徹底的に怪しいし胡散臭い。それがほぼ全編にわたって描かれます。その胡散臭さにまかれて、いつの間にか植え付けられていた先入観。

    ミス・マープルが犯人を指摘したとき、「おお、そうきたか」と思ったのですが、
    動機であったり、いかにもな行動を取っていたりと、よくよく考えるとまったく意外な人物ではないのが、自分で自分のことを不思議に感じてしまいます。
    どこで、そういう思考回路になってしまったのか……

    いつの間にか物語の雰囲気に流され、犯人候補から無意識的に遠ざけていたのだと思います。
    そのように、物語の雰囲気と人物描写で、読者の思考を騎手のごとく操り、そして生まれた隙を確実に突くのが、クリスティーの真骨頂なのだろうなあ。

    ポアロにしろ、ミス・マープルにしろ、あまり義憤に駆られるタイプの探偵というイメージはなかったのだけど、この『ポケットにライ麦を』はそれが良い意味で裏切られました。

    マープルの元に最後に届いた手紙。それは愚かといってしまえばそれまでなのだけれど、その愚かさが哀しく、そして憐憫の情を感じてしまいます。

    マープルも被害者への憐憫や、犯人への憤りを感じるあたり、やっぱり人間だったのだなあ。でも、最終的に勝利の歓びを感じて終わってるから、結局のところ探偵の血は争えないのかもしれないけれど。

  • ミス・マープルのところで働いていたことがある女中が殺された!?
    童謡を模した不気味な連続殺人。
    虫も殺さぬように見える優しげなか細い老婦人ミス・マープルは実は名探偵。
    鋭い推理で犯人を突き止めます。

  •  クリスティの長編ミステリー。マープルシリーズ。マープルが積極的に事件に乗り出す作品は珍しいが、今作では彼女が以前育てたメイドが鼻を洗濯バサミでつままれて殺害されるという事に義憤を持ち、事件が起きたフォレスキュー一族の住む屋敷に乗り込んでいく。初めに殺害された人物のポケットにはライ麦が入れられており、第二、第三の殺人と立て続けに事件が起きるが第三の事件までの異様性により、全く脈絡のない様な事件に見え、警察も手を焼いている所、マープルがマザーグースの見たてでである事を見抜き、捜査が進展していく。
     マープルは安楽椅子探偵のイメージなのだが、今回は自身の知り合いの若いお手伝いへの余りにも惨い殺人の為、彼女本人が現場に乗り出す。マープルに対していつも警察は協力的で、ニール警部もマープルと会話する中で彼女の鋭さや賢さに気がつき、ある意味で協力者となり事件の捜査に助太刀される格好だ(後からマープルの噂を聞いた様で(あれだけ事件を解いていれば当然)更に協力的になっていく)
    マープルはいちいの毒がマーマレードジャムの壺に仕掛けられていた状況からとある道筋を推測し、ニールに告げる。それまで、殺されたレックスフォレスキューが過去に起こしたとある事柄について復讐心のある人物が事件の犯人と思われていたが、実は該当者は確かに存在するが殺人とは関係なく、真犯人は別に存在する事がわかる。
     マープルが出来た事は事件の推測であり、ニールはそれらに対しての事実確認と証拠集めを約束する。
     最後、この作品の最も優れている部分だが、マープル宛の手紙が間違えた住所に送られており、更に相手が不在だった為、転送に時間がかかった手紙が到着する。実は殺されたメイドがどうして良いか分からずにマープルへ手紙を書いており、メイドを唆した男と共に撮った写真も収められている。この手紙が正しく届いていればというやるせなさや、写真に写る幼い娘の表情など、なんとも言えない描写であり、当然、後味は良くないはずなのだが、マープルの推理が正しかったと証明されるものだ。
     今作は起承転結がはっきりしており、マープルが感情豊かに活躍する。登場のシーンは少なめだが、その裏で沢山の人とおしゃべりをし、彼女なりにパズルのピースを組み立て事件の真相を組み上げている。マープルシリーズのなかでも上位に入るほど好きな作品の一つだ。
     昔のイギリスの生活イメージがわかりやすく描写されている。木曜は〇〇の日の様な地域特定のお約束や行事は知らないが、ある意味で当時の生活の様子や約束事、家族の考え方についてもとても面白い描写だ。
     物悲しい作品であるが最後ぜひ華やかな気分になってほしい言われた。

  • 物語の最後は被害者からのミスマープルへの手紙。

    この手紙で仮説が真実であったことが証明され、憐憫と憤怒で涙を流すミスマープルにやがて勝利の歓びが訪れる。”古代生物学者が、発掘された顎骨と二、三の歯の化石から、絶滅した動物の骨格を組みたてるのに成功したときの、あの喜びに似た感情であった”
    グラディスのことを心から悼んでいたのは世界で彼女だけかもしれない。
    エルキュールポワロのように、関係者全員を集めてミスマープルから犯行を種明かししてもらいたかったけど、こういう終わり方もあるのかと納得。
    ランスの奥さんのパットが痛々し過ぎて、真実を知る場面が描かれて無くて逆に良かったかも。見てられないわ。本人の性質は悪くないのに、何故か結婚という面では不幸な星の元にいる女性、、ミスマープルがだから今回もそうなのかもと思い注視するようになった、、とあり、こりやまた辛い。

    復讐のために近づいたのに相手と結婚してしまい、看護師の頃の生活に戻りたいジェニファー、相手に愛されてないことを知りつつ結婚を切望するエレイヌ、妹が亡くなり義弟が再婚した後も決して馴染まないままその家に留まり続けるミスラムズボトム(経済的に自立できないから?不思議だけど当時のイギリスでは普通?)、小心者のくせに火遊びが辞められないデュポア、夫が居ないとご機嫌に仕事に取り組む凄腕料理人のクランプ夫人。

    それぞれの人間模様が胸に残る。被害者のレックスとアディールはアガサクリスティが好きでない(興味が無い)キャラクターなのか、人間性に思い入れが持てなかった笑。いつもながらアガサ女史はこういうところが残酷。パットのことは好きだったから、故郷に戻って幸せになって欲しかったんだろう。ミスマープルにそう言わせている。

    最終的にはミスマープルの助けを必要としたもののニール警部は優秀度70%位で中途半端。私としては、警部はもっと短絡的、直情的で洞察力、推理力も無く、ミスマープルが低姿勢ながら冴えた頭脳で鼻をあかす!くらいの方が痛快で好きかな。

    ミスラムズボトムとマープル。真実を見る目を持っててお互いそれを一瞬で見抜く。ミスマープルの方が圧倒的に幸せそうだけど。
    歳を経た人の意見は聴くべきよ、とアガサ女史は言いたいのかな。

    しかしいつもながら、その相手に情があるかないかは別として、階級や身分、経済力、出自とかはっきりした「差」があるなー。さすがイギリス。ミスマープルのグラディスへの思いも憐憫とあるもんなぁ。知能が足りない、とか辛辣な表現もキツいわ。
    でもまた読んじゃうけど。

  • ポアロよりもマープルの方が人間味が強い印象をこの作品で持った。愚かで悲しいお話。
    最後までアイリーンに期待してたんだけど回収がなかったから少し残念。

  • いやあ、またまた資産家一家の資産をめぐるドロドロな家族劇。今回は殺されたその家のメイドがマープルが家事を仕込んだ少女だったことから、墳怒したマープルが真相解明に乗りこんでくる。

    殺されるのは財を成した一家の長フォテスキュー、そして二度目の若い妻、メイド。それを取り巻くのは最初の妻の長男夫婦、二男夫婦、長女とその婚約者、意味ありげなメイド、経営する会社のタイピスト、秘書。彼らは「水松(イチイ)荘」と呼ばれるお屋敷に住み、イチイの毒で親父は死ぬ。

    フォテスキューは成りあがりなので貴族の格にあこがれていたり、イチイ荘が豪壮な作りなので本来なら「イチイ館」とつけるべきなのに「荘」とつけるのがイヤミだ、またタイピストたちの描き方、ボロ家でもそこに幸せはあったなど、各階層へのするどい描写がよい。



    1953発表
    2003.11.15発売 2013.9.15第5刷 図書館

  • アガサ・クリスティーがすごいのは、読者の犯人探しの視点を完璧に捉えていることだと思う。

    この事件の中心は複雑な家族関係を抱えた豪邸水松荘。けれど冒頭は被害者の職場にあるタイピング室から始まる。結論から言うとタイピング室は事件に無関係で、冒頭以降の物語はすべて水松荘で展開される。
    だけど、だからこそ、ミステリ好きの読者はその導入部分が気になってしまうのでは。タイピング室の人間関係や描写が軽快でわかりやすいのもそれを助長する。あのタイピング室は一体? 美人秘書のミス・グローブナーは事件後なぜ辞めたのか? もしや犯人はタイピング室に… と考えてしまう。

    ミステリのトリック・種明かし自体はちょっと弱い。でも解答への道のりはちゃんと小説内に書かれているし、結局はそれ以外に答えはない。それでも読者をさりげなく惑わせるのは、アガサ・クリスティーの一筋縄ではいかないミスリードの手腕。さすがはミステリの女王!

  • 「ミス・マープル」シリーズを初読み。

    ポアロ以外を初めて読んだが
    クリスティーっぽさを感じられた。

  • 古い作品なので、読みにくさ、物足りなさはあります。 けれど人のあり方なんかは今とちっとも変わらない部分も多いもので、本作ではそんな人間関係に関する描写も多く出てきます。図書館利用がおすすめ。

  • イギリスの作家アガサ・クリスティの長篇ミステリ作品『ポケットにライ麦を(原題:A Pocket Full of Rye)』を読みました。
    アガサ・クリスティの作品は、4年半くらい前に読んだ『予告殺人』以来なので、久し振りですね。

    -----story-------------
    投資信託会社社長の毒殺事件を皮切りにフォテスキュー家で起こった三つの殺人事件。
    その中に、ミス・マープルが仕込んだ若いメイドが、洗濯バサミで鼻を挟まれた絞殺死体として発見された事件があった。
    義憤に駆られたマープルは、犯人に鉄槌を下すべく屋敷に乗りこんだ。
    マザー・グースに材を取った中期の傑作。 
    解説:大津波悦子
    -----------------------

    1953年(昭和28年)に刊行されたミス・マープルシリーズの長篇6作目となる作品……マザー・グースの童謡の歌詞どおりに殺人が起きるいわゆる「見立て殺人」をテーマにした作品です。

    ロンドンの実業家レックス・フォテスキューが何者かに毒殺された……ロンドン警視庁のニール警部が捜査の指揮を執ることになり、解剖の結果、死因はイチイの木から取れる毒性アルカロイドであるタキシンの中毒であり、レックスは朝食とともにこれを摂取していたことが判明する、、、

    また、衣服を調べた結果、彼の上着のポケットから大量のライ麦が見つかる……それは、恐るべき連続見立て殺人の端緒だった。

    レックスの妻アディールが第一容疑者となるがアディールも自宅で毒殺され、さらにフォテスキュー家の小間使いのグラディス・マーティンが洗濯ばさみで鼻をつままれた絞殺死体で発見される……グラディスを知るミス・マープルは義憤に駆られ、犯人探しに乗り出す! マザー・グースに材を取った多くの作品中で燦然と輝く中期傑作長編。

    レックスの子どもたちや、その妻、家政婦 等々、身近に怪しい人物が複数人いて、徐々にそれぞれの性格や過去が明らかになりますが、そこに東アフリカの「ブラックバード(クロツグミ)鉱山」での採掘において、レックスのビジネスパートナーだったマッケンジーが死亡した事件が絡んできて、さらに容疑者の幅が広がるという展開……ここまでが長かったですね、、、

    終盤、ミス・マープルが推理を披露し始めてからの展開は一気読み……意外な人間関係や、予想外の真相が明らかになります。

    印象的だったのはエンディングでセント・メアリ・ミードの自宅に帰ったミス・パープルに届いた手紙が披露されるシーンですね……差出人はグラディスで、彼女は自分がしたことを全て説明し、マープルの助けを求める内容、、、

    そして手紙には彼女とある人物の写真が同封されていました……思わずホロリとなったし、犯人を特定できる唯一の物的証拠でしたからねー 全体的にはまずまずの面白さ というところだったかな。


    以下、主な登場人物です。

    ジェーン・マープル
     探偵好きな独身の老婦人。

    レックス・フォテスキュー
     投資信託会社社長。

    アディール・フォテスキュー
     レックスの後妻。

    パーシヴァル(ヴァル)・フォテスキュー
     レックスの長男。

    ジェニファ・フォテスキュー
     パーシヴァルの妻。

    ランスロット(ランス)・フォテスキュー
     レックスの次男。

    パトリシア(パット)・フォテスキュー
     ランスロットの妻。 

    エレイヌ・フォテスキュー
     レックスの娘。

    エフィ・ラムズボトム
     レックスの義姉。

    アイリーン・グローブナー
     レックスの秘書。

    ヴィヴィアン・デュボア
     アディールの男友達。

    メアリー・ダブ
     フォテスキュー家の家政婦。

    クランプ
     フォテスキュー家の執事

    クランプ夫人
     クランプの妻。フォテスキュー家の料理人。

    グラディス・マーティン
     フォテスキュー家の小間使い。

    ニール
     警部

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/687189

    投資信託会社社長が毒殺された。被害者のポケットにはライ麦が入っており…。
    その後立て続けに起こる殺人事件。ミス・マープルは今回の事件がマザーグースに見立てたものだと警部に告げる。

    著者中期の名作と謳われる作品。

  • 1953年発表、ミス・マープルシリーズ第6作。義憤に燃えたマープルが自ら名探偵を自覚しながら精力的に捜査に関わっている様が面白い。シリーズ屈指の愚かすぎる犯人象もまた印象に残る傑作長編。

  • クリスティ作品に女たらしのイケメンが出てきたら犯人じゃないか?と疑う癖が付きつつあるが、正に犯人だった。パットのことは本気で好きになったんだろうなと思うと同時に、グラディスへの血も涙もない所業を思い出してやるせない。最後のマープルへの手紙のシーンが好き。ただの被害者で終わらなくて良かったと思う。

  • 155ページで主役のミス・マープルが登場したところで事件はほぼ解決です。新聞の報道から犯人がマザーグースの詩を引用していることを見抜くところがこの小説の一番おもしろい箇所であると思います。

  • ミステリの女王クリスティが創り出した名探偵ポアロに並ぶ探偵(?)マープルが登場する作品。

    ミス・マープルは、映画やドラマで何人もの女性が演じており、私自身は、ジョーン・ヒクソン演じるドラマを全て観ており「ポケットにライ麦を」も観ており内容は分かっていたはずですが(怪)既視感なく最後まで楽しく読み切りました。

    ミス・マープルの登場が中盤以降なので、ちと心配しましたがね(笑)

  • マープルにとってどんな悲劇も「さもありそうなこと」なのだけど、それでも悲しいし悔しいのだ。

  • マープルシリーズは安定しておもしろい!

  • グラディスからの最後の手紙がとても切ない。

  • 最近読んだ本の感想を書き忘れている…。2週間前とかだと思うのだけど、それだけで思い出すのに力がいる。
    アガサクリスティはミスマープルよりポアロの方が好きかも。見立て殺人もの。サクサク進んだ感がある。あっさりとしている。まったく自分のせいだと思うのだけど、推理と論理の記憶がいまいちすんなりつながらない。。ただその分か最後の一文は印象的。自分は映像的な認知が弱いのだけど、それでも浮かぶワンシーン。

  • 5

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著者プロフィール

1890年、英国、デボン州生まれ。本名アガサ・メアリ・クラリッサ・ミラー。別名メアリ・ウェストマコット、アガサ・クリスティ・マローワン。1920年、アガサ・クリスティ名義で書いたエルキュール・ポアロ物の第一作「スタイルズ荘の怪事件」で作家デビュー。以後、長編ミステリ66冊、短編ミステリ156本、戯曲15本、ノンフィクションなど4冊、メアリ・ウェストマコット名義の普通小説6冊を上梓し、幅広い分野で長きに亘って活躍した。76年死去。

「2018年 『十人の小さなインディアン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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