ポケットにライ麦を (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300400

作品紹介・あらすじ

投資信託会社社長の毒殺事件を皮切りにフォテスキュー家で起こった三つの殺人事件。その中に、ミス・マープルが仕込んだ若いメイドが、洗濯バサミで鼻を挟まれた絞殺死体として発見された事件があった。義憤に駆られたマープルは、犯人に鉄槌を下すべく屋敷に乗りこんだ。マザー・グースに材を取った中期の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • これぞ「ザ・クリスティー!」といわんばかりの事件(笑)

    毒殺された金持ちの亭主、事件の捜査が進むごとに浮かび上がるドロドロの人間関係。金目当て、遺産目当ての殺人か、はたまた痴情のもつれか。と思っている間に、第二・第三の殺人が起こり……

    そして、殺されたメイドがかつてミス・マープルのお屋敷でも働いていたことから、マープルも自ら事件のあったお屋敷に乗り込み、推理に挑むます。

    推理としては、もうちょっとカチッと嵌めてほしかった感や、もっと展開を転がせたのではと思ったところ、
    また、証言と登場人物の行動を追っていくミステリなので、全体的に地味といったところもあったのだけど、クリスティーらしい人物描写の妙は、今回も見事でした。

    怪しい人物は徹底的に怪しいし胡散臭い。それがほぼ全編にわたって描かれます。その胡散臭さにまかれて、いつの間にか植え付けられていた先入観。

    ミス・マープルが犯人を指摘したとき、「おお、そうきたか」と思ったのですが、
    動機であったり、いかにもな行動を取っていたりと、よくよく考えるとまったく意外な人物ではないのが、自分で自分のことを不思議に感じてしまいます。
    どこで、そういう思考回路になってしまったのか……

    いつの間にか物語の雰囲気に流され、犯人候補から無意識的に遠ざけていたのだと思います。
    そのように、物語の雰囲気と人物描写で、読者の思考を騎手のごとく操り、そして生まれた隙を確実に突くのが、クリスティーの真骨頂なのだろうなあ。

    ポアロにしろ、ミス・マープルにしろ、あまり義憤に駆られるタイプの探偵というイメージはなかったのだけど、この『ポケットにライ麦を』はそれが良い意味で裏切られました。

    マープルの元に最後に届いた手紙。それは愚かといってしまえばそれまでなのだけれど、その愚かさが哀しく、そして憐憫の情を感じてしまいます。

    マープルも被害者への憐憫や、犯人への憤りを感じるあたり、やっぱり人間だったのだなあ。でも、最終的に勝利の歓びを感じて終わってるから、結局のところ探偵の血は争えないのかもしれないけれど。

  • ミス・マープルのところで働いていたことがある女中が殺された!?
    童謡を模した不気味な連続殺人。
    虫も殺さぬように見える優しげなか細い老婦人ミス・マープルは実は名探偵。
    鋭い推理で犯人を突き止めます。

  •  クリスティの長編ミステリー。マープルシリーズ。マープルが積極的に事件に乗り出す作品は珍しいが、今作では彼女が以前育てたメイドが鼻を洗濯バサミでつままれて殺害されるという事に義憤を持ち、事件が起きたフォレスキュー一族の住む屋敷に乗り込んでいく。初めに殺害された人物のポケットにはライ麦が入れられており、第二、第三の殺人と立て続けに事件が起きるが第三の事件までの異様性により、全く脈絡のない様な事件に見え、警察も手を焼いている所、マープルがマザーグースの見たてでである事を見抜き、捜査が進展していく。
     マープルは安楽椅子探偵のイメージなのだが、今回は自身の知り合いの若いお手伝いへの余りにも惨い殺人の為、彼女本人が現場に乗り出す。マープルに対していつも警察は協力的で、ニール警部もマープルと会話する中で彼女の鋭さや賢さに気がつき、ある意味で協力者となり事件の捜査に助太刀される格好だ(後からマープルの噂を聞いた様で(あれだけ事件を解いていれば当然)更に協力的になっていく)
    マープルはいちいの毒がマーマレードジャムの壺に仕掛けられていた状況からとある道筋を推測し、ニールに告げる。それまで、殺されたレックスフォレスキューが過去に起こしたとある事柄について復讐心のある人物が事件の犯人と思われていたが、実は該当者は確かに存在するが殺人とは関係なく、真犯人は別に存在する事がわかる。
     マープルが出来た事は事件の推測であり、ニールはそれらに対しての事実確認と証拠集めを約束する。
     最後、この作品の最も優れている部分だが、マープル宛の手紙が間違えた住所に送られており、更に相手が不在だった為、転送に時間がかかった手紙が到着する。実は殺されたメイドがどうして良いか分からずにマープルへ手紙を書いており、メイドを唆した男と共に撮った写真も収められている。この手紙が正しく届いていればというやるせなさや、写真に写る幼い娘の表情など、なんとも言えない描写であり、当然、後味は良くないはずなのだが、マープルの推理が正しかったと証明されるものだ。
     今作は起承転結がはっきりしており、マープルが感情豊かに活躍する。登場のシーンは少なめだが、その裏で沢山の人とおしゃべりをし、彼女なりにパズルのピースを組み立て事件の真相を組み上げている。マープルシリーズのなかでも上位に入るほど好きな作品の一つだ。
     昔のイギリスの生活イメージがわかりやすく描写されている。木曜は〇〇の日の様な地域特定のお約束や行事は知らないが、ある意味で当時の生活の様子や約束事、家族の考え方についてもとても面白い描写だ。
     物悲しい作品であるが最後ぜひ華やかな気分になってほしい言われた。

  • 物語の最後は被害者からのミスマープルへの手紙。

    この手紙で仮説が真実であったことが証明され、憐憫と憤怒で涙を流すミスマープルにやがて勝利の歓びが訪れる。”古代生物学者が、発掘された顎骨と二、三の歯の化石から、絶滅した動物の骨格を組みたてるのに成功したときの、あの喜びに似た感情であった”
    グラディスのことを心から悼んでいたのは世界で彼女だけかもしれない。
    エルキュールポワロのように、関係者全員を集めてミスマープルから犯行を種明かししてもらいたかったけど、こういう終わり方もあるのかと納得。
    ランスの奥さんのパットが痛々し過ぎて、真実を知る場面が描かれて無くて逆に良かったかも。見てられないわ。本人の性質は悪くないのに、何故か結婚という面では不幸な星の元にいる女性、、ミスマープルがだから今回もそうなのかもと思い注視するようになった、、とあり、こりやまた辛い。

    復讐のために近づいたのに相手と結婚してしまい、看護師の頃の生活に戻りたいジェニファー、相手に愛されてないことを知りつつ結婚を切望するエレイヌ、妹が亡くなり義弟が再婚した後も決して馴染まないままその家に留まり続けるミスラムズボトム(経済的に自立できないから?不思議だけど当時のイギリスでは普通?)、小心者のくせに火遊びが辞められないデュポア、夫が居ないとご機嫌に仕事に取り組む凄腕料理人のクランプ夫人。

    それぞれの人間模様が胸に残る。被害者のレックスとアディールはアガサクリスティが好きでない(興味が無い)キャラクターなのか、人間性に思い入れが持てなかった笑。いつもながらアガサ女史はこういうところが残酷。パットのことは好きだったから、故郷に戻って幸せになって欲しかったんだろう。ミスマープルにそう言わせている。

    最終的にはミスマープルの助けを必要としたもののニール警部は優秀度70%位で中途半端。私としては、警部はもっと短絡的、直情的で洞察力、推理力も無く、ミスマープルが低姿勢ながら冴えた頭脳で鼻をあかす!くらいの方が痛快で好きかな。

    ミスラムズボトムとマープル。真実を見る目を持っててお互いそれを一瞬で見抜く。ミスマープルの方が圧倒的に幸せそうだけど。
    歳を経た人の意見は聴くべきよ、とアガサ女史は言いたいのかな。

    しかしいつもながら、その相手に情があるかないかは別として、階級や身分、経済力、出自とかはっきりした「差」があるなー。さすがイギリス。ミスマープルのグラディスへの思いも憐憫とあるもんなぁ。知能が足りない、とか辛辣な表現もキツいわ。
    でもまた読んじゃうけど。

  • ポアロよりもマープルの方が人間味が強い印象をこの作品で持った。愚かで悲しいお話。
    最後までアイリーンに期待してたんだけど回収がなかったから少し残念。

  • いやあ、またまた資産家一家の資産をめぐるドロドロな家族劇。今回は殺されたその家のメイドがマープルが家事を仕込んだ少女だったことから、墳怒したマープルが真相解明に乗りこんでくる。

    殺されるのは財を成した一家の長フォテスキュー、そして二度目の若い妻、メイド。それを取り巻くのは最初の妻の長男夫婦、二男夫婦、長女とその婚約者、意味ありげなメイド、経営する会社のタイピスト、秘書。彼らは「水松(イチイ)荘」と呼ばれるお屋敷に住み、イチイの毒で親父は死ぬ。

    フォテスキューは成りあがりなので貴族の格にあこがれていたり、イチイ荘が豪壮な作りなので本来なら「イチイ館」とつけるべきなのに「荘」とつけるのがイヤミだ、またタイピストたちの描き方、ボロ家でもそこに幸せはあったなど、各階層へのするどい描写がよい。



    1953発表
    2003.11.15発売 2013.9.15第5刷 図書館

  • アガサ・クリスティーがすごいのは、読者の犯人探しの視点を完璧に捉えていることだと思う。

    この事件の中心は複雑な家族関係を抱えた豪邸水松荘。けれど冒頭は被害者の職場にあるタイピング室から始まる。結論から言うとタイピング室は事件に無関係で、冒頭以降の物語はすべて水松荘で展開される。
    だけど、だからこそ、ミステリ好きの読者はその導入部分が気になってしまうのでは。タイピング室の人間関係や描写が軽快でわかりやすいのもそれを助長する。あのタイピング室は一体? 美人秘書のミス・グローブナーは事件後なぜ辞めたのか? もしや犯人はタイピング室に… と考えてしまう。

    ミステリのトリック・種明かし自体はちょっと弱い。でも解答への道のりはちゃんと小説内に書かれているし、結局はそれ以外に答えはない。それでも読者をさりげなく惑わせるのは、アガサ・クリスティーの一筋縄ではいかないミスリードの手腕。さすがはミステリの女王!

  • 「ミス・マープル」シリーズを初読み。

    ポアロ以外を初めて読んだが
    クリスティーっぽさを感じられた。

  • クリスティ作品に女たらしのイケメンが出てきたら犯人じゃないか?と疑う癖が付きつつあるが、正に犯人だった。パットのことは本気で好きになったんだろうなと思うと同時に、グラディスへの血も涙もない所業を思い出してやるせない。最後のマープルへの手紙のシーンが好き。ただの被害者で終わらなくて良かったと思う。

  • 155ページで主役のミス・マープルが登場したところで事件はほぼ解決です。新聞の報道から犯人がマザーグースの詩を引用していることを見抜くところがこの小説の一番おもしろい箇所であると思います。

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