鏡は横にひび割れて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (451ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300424

作品紹介・あらすじ

穏やかなセント・メアリ・ミードの村にも、都会化の波が押し寄せてきた。新興住宅が作られ、新しい住人がやってくる。まもなくアメリカの女優がいわくつきの家に引っ越してきた。彼女の家で盛大なパーティが開かれるが、その最中、招待客が変死を遂げた。呪われた事件に永遠不滅の老婦人探偵ミス・マープルが挑む。

感想・レビュー・書評

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  • エリザベス・テーラーの映画で知っていたが改めて読んで面白かった。ミス・マープルをお婆さん扱いする看護師に憤慨したり、メイドのチェリーと意気投合したり、クラドック主任警部に頼りにされたりと事件そのものはもちろん周辺の話も楽しめた。
    ※津村記久子さんの『ウエストウイング』でネタバレあり。

  • ミス・マープルシリーズ初読み。
    人気が長年に渡って続いていることがよく分かる。上品で物静かな老婦人探偵。その反面、人一倍好奇心旺盛で、持ち前の直感力と観察力で数々の難事件を解決していく。特に女性ウケしそう。

    今回は何かと世間を賑わすアメリカの女優が、夫と共にイギリスの片田舎の村へ引っ越してきたことから始まるミステリー。

    読み進める内に、真犯人の目星は割と早めについた。
    けれど犯行に至る動機が全く分からず、最後の最後まで真犯人の確信が持てなかった。
    ミス・マープルによって最後に明かされた動機。その動機に最初は衝撃を受けたけれど、真犯人の深層心理にはとても共感。もし私が真犯人の立場だったなら同じことをしていたのかもしれない、と。
    そして最初の被害者に対しては憤りを感じずにいられない。犯行自体は許されることではないけれど、真犯人には同情しかない。

    先日最終回を迎えた大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。このラストを脚本家・三谷幸喜氏がアガサ・クリスティーの作品を参考にした、とありネット上で本作がその作品では、とあったので読了。
    確かに北条政子のラストシーンの心情は、今回の真犯人の心情と似ている。あと、先日読了した『カーテン』のラストもちょっと似ている気がするので、2作品を合わせた感じになるのかな。

  • セント・メアリ・ミード村にあるヴィクトリア朝の屋敷、ゴシントン・ホールが売りに出され、ハリウッドの映画女優マリーナ・グレッグとプロデューサーである夫のものとなった。内装を一新した建物が野戦病院協会の催しに合わせて公開され、村の人たちはこぞって屋敷に押し寄せる。ところが、パーティの真最中にマリーナと会話していた協会理事のバドコック夫人が毒殺されてしまう。さらに、マリーナが夫人と話しているときにどこかを見つめ凍り付いた表情になったのを何人かの客が目撃していた。
    バドコック夫人は果たして誰に、なぜ殺されたのか、そしてマリーナの表情のわけは。
    ミス・マープルは、村の人たちや関係者の話から事件の真相を推理する。

    ミス・マープルが長年住んできたセント・メアリ・ミード村にも都会化の波がやってくる。個人商店はスーパーになり、農場の跡地は新興住宅街へと開発されて新しい住民でいっぱいだ。当のミス・マープルは、甥のレイモンドが手配した付添人に低能の年寄り扱いされてイライラがとまらない。
    本書執筆時のクリスティーの年齢は72歳。このエピソードにはクリスティー自身の実体験が反映されているのかもしれない。
    ただ、一見愚痴っぽく見えるこのエピソードが実はちゃんと物語の伏線になっているところがクリスティーのすごいところだ。

    時代が移り変わり、昔からの住民は年を取った。かつてはミス・マープルの友人、バントリー夫妻の邸宅で『書斎の死体』の舞台にもなったゴシントン・ホールも、今や「疲れはてたヴィクトリア朝時代の邸宅」である。しかし、人の心はそう簡単には変わらない。クリスティーは、古いものと新しいものをあえて対比させることで、人が持つ普遍的で生々しい感情を際立たせているように思える。

    本書のもう一つの注目ポイントは、なんといってもマリーナ・グレッグが見せる表情である。タイトルにもなっている「鏡は横にひび割れぬ…」はテニスンの詩の一節で、その解釈が物語の謎を解く重要なキーワードにもなるのだが、本書においてこの表情の意味はそれだけにとどまらず、まるで一片の絵画のようなシーンが物語全体を詩的な美しさへと昇華させている。

    実は、私が最初にこの話を知ったのは日本でドラマ化された時で、そのドラマが中途半端な内容だったので、本書にあまりいいイメージをもっていなかった。
    今回再読して、改めて本書の魅力を知ることができたような気がする。

  •  冒頭の映像的なシーンで事件発生もその後は落ち着いた感じで展開し終盤になって色々と動きが…ミス・マープルがすっかりおばあちゃん扱いになってるが、ミス・マープルを実際に読むまで思っていた「安楽椅子探偵」のイメージにはこの方が近いかとも思う。

     有名女優が近所に引っ越してきてそこから起こる騒動は、何だか現実味のない設定ではあるがドラマとしてはとても面白かった。色々とスッキリしない部分も残ってはいるが、まぁ隅々まで整合性を求めなければ読後感も中々にスッキリする。後は何を言ってもネタバレになりそうなので黙っとこ。

     個人的には前作『パディントン発〜』登場のルーシーの活躍する話しも見たかったなとも。

  • かつてクリスティのミステリーに夢中になった頃があり、その中でも一番好きだったのが比較的晩年に書かれたこの作品。主人公ミス・マープルの人間観察や推理が冴えているのは勿論のこと、ミス・マープルの目を通して、彼女の住む村の周辺や世相が変わっていく様子が語られるところがなんともいえず興味深い。また、ミス・マープルのお世話をするチェリーは近くの新興住宅地から通い、電化製品を使いこなす様がとても魅力的に描かれているのも、使用人にあまり感情移入しない他のクリスティ作品とは違い、新鮮に感じる。実際、クリスティ自身が変化を受け入れようと自身を投影して書いた作品ではないだろうかとさえ感じる。

    本作品はまた、エリザベス・テイラーが出演した『クリスタル殺人事件』(邦題)という映画にもなっているし、何度かテレビドラマ化もされている。しかし何と言っても、BBC制作のジョーン・ヒクソンがマープルを演じた作品は、原作のイメージを壊さず、素晴らしい。  

    クリスティのほぼ全作品を読み終え、繰り返しテレビドラマを見るにつけ、未だにこれが一番好きなのに変わりない。

  • ミス・マープルもの。

    喉かな田舎だったセント・メアリ・ミード村も、新興住宅地ができる等、徐々に変わりつつある中、かの『書斎の死体』(同著者、マープルもの)事件の舞台となった邸・ゴシントンホールに、映画女優が引っ越してきます。
    そこで開かれたパーティーに出席していた女性が変死を遂げてしまいます。一見、殺される理由のなさそうな女性の死を巡って、憶測は二転三転としていき・・。
    ミス・マープルは、お年を召している事もあり、出歩くことを周りから止められている状態ですが(好奇心で結局出歩いても、転んでしまう始末)、友人のバントリー夫人(元・ゴシントンホールの持ち主)や、クラドック警部などから聞く情報をもとに、驚きの真相にたどりついてしまうのですから、マープルさんの安楽椅子探偵っぷりはさすがです。
    今回は、映画女優・マリーナが一瞬見せた“凍り付いた表情(タイトルもこれに関連しています)”がミソなのですが、いやはや、全く自覚も無く人を傷つけてしまったり不幸にしてしまう事ってあるのですね・・。怖いものです。

  • セント・メアリ・ミードの村も都会化が進み、新しい住民たちが移り住んできた。アメリカの女優・マリーナはいわくつきの家を改装。その家で盛大なパーティを開いたが、招待客が変死!その謎に老婦人探偵ミス・マープルが挑む。

    「人間の性質についての多少の知識を持っているというだけのことよ──それも、こういう小さな村に一生暮らしてきたせいで、そうなっただけのことだわ」
    マープルのセリフに痺れる!家からなかなか動けない老体となっても、頭脳のキレは衰えなし!人々からもたらされる情報だけで人間心理の編み目を解きほぐす推理に圧倒された。

    「それはともかくとして、あなたはパセリが夏の日にバターの中に沈みこむ深さからでも推理できるひとだ。」
    この主治医のセリフも粋だよね。マープルは多面的で深い人間心理を、現場にいた人々の目と記憶を通して多角的に組み立てていく。会話劇を支配する臨場感と心の波音に唸らされる。衆人環視の下でいかに毒殺したのか?そもそも狙っていたのは被害者か、それともマリーナだったのか?トリックもさることながら、やはり動機で魅せてくれるからこそ物語の余韻に深く沈みこめる。心の機微、ままならなさをこの時代からこれほどまでに丁寧に描いていたということがすごすぎる。

    p.103
    「ほんとうは自己中心的な態度から生じることなの。だけどそれは利己主義ともちがうのよ」と彼女はつけ加えた。「どんなに親切で、利己心をはなれていて、思いやりさえ持っていても、アリスン・ワイルドのような人間は自分のしていることがほんとうはわかっていないのよ。だから、自分の身にどういうことが起きるおそれがあるかも、悟れないというわけなの」

    p.134
    「でもね、あの妻は──そうねえ、思いやりのあるひとだったとは思えないわ。親切なことは親切だったけど、思いやりは、なかったわ。だんなさまをかわいがり、病気のときにはゆきとどいた看病をし、食事の世話もしたろうし、家政のきりもりもうまかったろうとは思うけれど、あのひとは──そうねえ、亭主が何を考え、何を感じているか、知りもしなかったろうと思うわ。それでは、男にとっては淋しい生活になるものよ」

    p.220
    「子供というものは敏感なものなのよ」とミス・マープルは自分でうなずきながら言った。「まわりの者たちが想像もつかないほどいろんなことを感じるものだわ。傷つけられた気持ち、はねつけられたという感じ、のけ者にされているという感じ。そうした傷ついた心は、いろんな恩恵を与えてもらったからといって、なおるものではないわ。教育も代償にはならないわ。いい生活をしてもらったり、収入を保証されたり、知的職業にたずさわらせてもらったり、したとしてもねえ。いつまでも胸の中でうずいているものなのよ」

  • 鎌倉殿の13人のラストシーンが、恐らくこの作品から影響を受けていると話を聞いて購入。

    ミスマープルは全く知らなかったけれど、とてもキュートなお婆さまで大好きになった。
    事件の本筋だけでなく、ミスマープルの日常が描かれているのが女性作家感あるなと思った。
    主人公はマープルだけど、現場には赴かないしあちこちから聞こえてくる噂話を聞いたり、自分で聞いてきたりして謎を解くのが面白いし、マープル以外の視点の話が多いのが面白かった。

    ラストは、私が鎌倉殿で最高に響いた要素がありまくっていて大興奮。
    愛と死が本当にいい。
    解決シーンはほんの数ページで、一気に全てが解ける感じが気持ちよかった。そして誰もいなくなったといい、アガサクリスティーってそういう感じ?というかミステリーは大概そうなのかも。
    そしてその数ページで、動機が痛いほど分かるのも良かった。

    後の解説で、今作はクリスティー作品の中で1番ではないけど、特に女性に推される作品とあって、確かにな、と思った。

    マープルや友人との、話に無駄が多くて長いところが、とても可愛らしいし女性たちのコミュニケーションという感じで文が多いのに読みやすかった。
    ミスマープルのファンになったので、次は代表作とされる予告殺人を読もうと思う。

  • クリスティーの中では1番読むのに苦労したかも。(人が多過ぎて把握に苦戦しました…)
    ただホワイダニットとしてここまで繋がるとあああー!って嬉しくなりました!

  • 偶然見かけた感想で「面白かったけど、動機が弱い」というのを見て、なんかめちゃくちゃ腹がたった。

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