火曜クラブ (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 54)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (453ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300547

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  • ミス・マープル初登場の短編集。
    本人だけが解答を知っている未解決事件を披露して全員で真相を推理する安楽椅子探偵もの13編。内容は、ミス・マープルの自宅が舞台の前編と、長編作品でもたびたび登場することになるバントリー夫妻の自宅が舞台の後編に分かれる。

    霜月蒼氏の『アガサ・クリスティー完全攻略』によると、前編は1920年代に雑誌で発表され、好評だったことから後編が発表されたらしい。そのためだろうか、前編のミス・マープルはキャラクターが薄味で、長編を先に読んでいると「いやいや、本当のミス・マープルはもっと正義感が強くてアクティブなんだけどね」とつっこみたくなる。

    一方、後編のミス・マープルは、元警視総監のサー・ヘンリー卿に能力を認められた鋭い視点を持つ老婦人として描かれており、面目躍如といったところである。また、バントリー夫妻をはじめとした他の登場人物も、前編に比べてキャラクターに肉付けがなされており、面白さが圧倒的に増している。

    私の好きな短編は、後編に収められている『青いゼラニウム』と『二人の老嬢』。
    『青いゼラニウム』は、迷信を信じやすい悪妻ミセス・プリチャードが死を暗示する妙な手紙を受け取り、その手紙の通り亡くなってしまう。真相は現実的に解明されるが、ストーリー全体を覆うオカルトチックな雰囲気がくせになる。

    『二人の老嬢』は、一見何の特徴もない二人の典型的なイギリス人女性が海でおぼれ、一人が亡くなった後もう一人が自殺してしまう事件の真相を解く。「老嬢」といっても40そこそこで、真相も皮肉めいていて、それはないでしょう、と切ない気持ちがあとを引く。

    クリスティーファンにとっての本書のもう一つの魅力は、各短編の中に後の傑作長編へと昇華する原石のストーリーが数多く含まれていることである。長編と短編、どちらから読むのがよいのかは好みによるかもしれないが、私は先に長編を読んだ方がクリスティーの魅力を味わえるのではないかと思う。

    クリスティー作品をいろいろな意味で楽しめるおすすめ短編集。

  • 甥のレイモンドを筆頭に、前警視総監や画家など様々な人々がミス・マープルの家に集まっていた。そこで真相を知っている昔の事件を一人ずつ語り、解決を推理し合う火曜クラブができたが──。

    ミス・マープルが短編で初登場する作品。1話が30~40ページで13話収録という大ボリューム!誰かが事件を語り、皆で推理を重ね、最後にマープルがそれを編み上げる。読むほどにマープルの聡明さと底知れなさが伝わってくる。マープル自身が語る事件もあるのが面白い。マープルが真相を語る前に、過去に出会った人の例えを出す定番の流れが挟まるのがちょっと面倒に感じてしまうかな。13話もあるとさすがに、真相はよ!ってなる(笑)

    個人的には長編で語られる人間模様、心理を深く描いた作品が好きなんだなあと再確認した。短編は切れ味あって読み物として面白いけど、そこまで刺さらなかったかなあ。

    『火曜クラブ』
    缶詰めのエビを使った料理に当たって妻が亡くなったという事件。夫が泊まったホテルでは「家内が死ねば」という不吉なメッセージが見つかって──。
    みんな食中毒になっているのに、一人だけを狙って殺せるのか?夫が怪しいが、どうにも手口がわからない。そこからの思わぬ突破口になるほどと。

    『アスタルテの祠』
    アスタルテを祀った祠がある森の傍に住むリチャード。仮装舞踏会が開かれ、祠の前でアスタルテが宿ったような言葉を唱えるダイアナの前で、リチャードは刺殺された。凶器はなく、ダイアナとも距離が離れている。さらに悲劇は続き──。
    真相自体はそんな風にできる?!と思っちゃう。ミステリでは心臓を一突きってよくあるけど、達人すぎないか?!ただ、その行動を起こさせる要因に不気味さがあって引き込まれる。

    『金塊事件』
    海に沈んだと言われる金塊を引き上げる夢を抱くジョン・ニューマン。そこではつい6ヶ月前にも船が沈み、積み荷の金塊が消失した事件が起こっていて──。
    レイモンドが一杯食わされた事件。これはだいぶわかりやすい。犯人は手間暇かかってるけど(笑)

    『舗道の血痕』
    画家のジョイスがラトール村の館前で遭遇した事件。館の入口を描いていると、なぜかそこに血痕を描いてしまっていた。血痕を視認したはずが、いつの間にか忽然と消えてしまっていて──。
    これも犯人やトリックはわかりやすいかも。血痕の真相の方が本丸で、これにはゾッとした。殺人そのものを描かずに、こういう形で残忍さを浮かび上がらせるのが上手い。

    『動機 対 機会』
    財産家・クロードの遺産問題。彼は公平な遺言書を残していたが、孫娘・クリスの魂を呼ぶという霊媒にのめり込み、遺言書を書き換えてしまう。いざ遺言書が公開された時、なぜかそれは白紙になっていて──。
    動機がある者には機会がなく、機会がある者には動機がないというシチュエーションが面白い。このトリック全然知らなかったけど、今でも下手したら通用しちゃう?

    『聖ペテロの指のあと』
    デンマンと結婚したメイベル。義父は精神障害を患っており、看病が必要な状態が続いていた。結婚して10年後、デンマンが夜中に急死。毒きのこが原因かと思いきや、メイベルがヒ素を買っていた事実が浮かび上がり──。
    真相がわかると突然怖くなる話。タイトルの意味はなんだろう?という疑問が事実と繋がった時の気持ちよさと恐怖がいい。

    『青いゼラニウム』
    ジョージ・プリチャードの妻はオカルト趣味で厄介な患者だった。ある時、ザリーダという未来が視える心霊透視家なる人間が訪れ、青い花に注意しなさいという言葉を残していく。すると、部屋の花や壁紙に描かれた花が日を追うごとに青くなっていき──。
    トリックは半分くらいわかったけど、犯人はわからず。かぎ塩なるものを初めて知った。こんな気つけ薬があるとは──。くっさ!!って感じで目が覚めるのかな。それは嫌だな…。

    『二人の老嬢』
    メアリ・バートンとそのお手伝いであるエイミ・デュラント。その二人が海水浴中、エイミが溺死してしまう。目撃者の証言によると、メアリがエイミをわざと沈めたように見えたという。しかし、逆ならともかく、主人がお手伝いを殺す理由はあるのだろうか?
    これもわかりやすい事件。むしろ、事件の真相がわかった後の余韻と潮の香りが重くのしかかる。

    『四人の容疑者』
    秘密結社・黒手団を潰したローゼン博士は、その残党に命を狙われていた。村に小さな家を持って静かに暮らしていたのだが、階段から落ちて首の骨を折って亡くなってしまう。同居していた四人の誰かが犯人のはずだが、特定ができず──。
    ヘンリーは部下であるテンプルトンを疑いたくはないが、容疑者として見ないわけにはいかない。無実の証明の難しさ、大切さが身に沁みる作品。暗殺指令がどう伝わったかというトリックはゾッとした。

    『クリスマスの悲劇』
    サンダーズは絶対に妻のグラディスを殺す男だ!──マープルの直感はそう告げていた。事件を食い止めようとするも、悲劇は起きてしまう。犯人はサンダーズに違いない!そのはずが、彼には完璧なアリバイがあって──。
    これは手段といい、アリバイの使い方といい、恐るべき事件だった。被害者の善意が犯人に致命的なミスを犯させるというのがよかった。

    『毒草』
    その名も「セージ玉ねぎ事件」!サー・アンブローズ・バーシーの家に滞在していたバントリー夫人。振る舞われた晩餐に、セージと混ぜてジギタリスの葉が詰められた鴨が出された。それを食べた全員が中毒に。食べたからといって死ぬものではないはずだったが、アンブローズが後見していた少女・シルヴィアだけが亡くなった。なぜ彼女だけが死んだのか?
    毒草よりも人の方が毒になる話。狂気があるからこそ、凶器は生まれるのだから。

    『バンガロー事件』
    「これは友だちの話なんだけど」という定番すぎる前置きから話し始めたジェーン。あるバンガローに泥棒が入り、レスリー・フォークナーという若い男が捕まった。フォークナーは犯行を否認。彼が創作した戯曲を見せてほしいとジェーンから手紙をもらい、バンガローへ向かったら眠らされたというが、ジェーンは手紙を書いた覚えがなく──。
    終盤の魅せ方が絶品。マープルですら見抜けない真相の意味を知った時は驚かされた。それを踏まえての一言には思わず背筋が凍っただろうなあ。

    『溺死』
    この短篇集で唯一立ち会うことになった事件。トム・エモットの娘・ローズは川へ身投げをした。サンドフォードの子を妊娠していたが、彼には婚約者がいたのだ。元々は無口で実直な大工のジョー・エリスと交際していた。それがサンドフォードへ乗り換えたことで波乱を呼んでしまう。ローズの腕にはあざがあり、誰かに突き落とされたようだったが──。
    マープルは真相が見えたものの証拠はない。サー・ヘンリーに犯人の名を託して、捜査の中でそれを確かめようとする。もはや千里眼か?!という推理力。現在進行形の話だけあって、事件に秘められた愛憎劇が香り立つのがいい。

  • 絶賛クリスティーブームの現在、初めてのミス・マープルに挑戦です。 ポワロシリーズは大好きなものの、本書はなかなか苦戦。短編ですがそのたびに人物がたくさん出てくるので覚えるのが難しく……。 ただ、メンバーが変わった後半からはぐっと読みやすくなりました。バントリー夫人がいい味出してます。 トリックが面白かったのは「動機対機会」「青いゼラニウム」、「二人の老嬢」はすっかり騙されてしまいました。 次はミス・マープルの中編や長編を読んでみたいところ。

  • ミスマープルシリーズを初めて読んだ。当時雑誌に掲載されていた13の短編を集めたもので、単行本化されたのはシリーズ2作目になるらしい。

    火曜日にそれぞれが真相を知っている謎を問題形式で参加メンバーに話し、真相を明かしてもらうことからスタートした火曜クラブ。誰も真相を明かせない中、元々は参加者にもカウントされていなかったミスマープルが、自身の見聞きした村の出来事に照らし合わせて推理して行くのが面白かった。曰く、人間というものは皆似たり寄ったりなものだと。

    意外な真相が明かされ驚くこともあり、シリーズの他の作品も読みたくなった。

  • 短編集で1話1話集中を切らすことなく読めて読みやすかった。
    若干わかりづらい言葉の言い回しもありますが、真相のオチもおもしろくてそれぞれ一気に読めちゃいます。
    マープルさんの真相に辿り着く視点がおもしろい。
    推理力とかではなく、人間観察力と洞察力にとても優れている人なんだなって感じました。

  • ミス・マープルの甥のレイモンドを筆頭にさまざまな職業の人々が集まりそれぞれに知っている昔の事件について語り、解決を話し合うという「火曜クラブ」。ここでも最初のうちミス・マープルはただの編み物好きのおばあさんという扱いで、その印象を翻し皆の認識が変わっていく連作短編集かなと思う。古本の集英社のミス・マープルという短編集で読んだ数編があったけれど改めて読んでも面白かった。ミセス・バントリーは会合中にこっそり球根のカタログを読んでいる、や『バンガロー事件』でのジェーン・エリアの描写など人物造形が笑える。

  • アガサ・クリスティー初読み!初めて読むならと教えて頂いたのがこの『火曜クラブ』。短編集なので読みやすくテンポよく読めた。編み物をしながら事件を解決するミス・マープル!当時の雰囲気を感じながら読むのが楽しくて楽しくて。
    しかし読み始めは困ったことも。
    名前が覚えられない!ミス◯◯だったりファーストネームだったりと、1人の人間がいろんな呼び方で出てくるので、誰が誰だか大混乱!仕方なくノートに書きながら読む。無事に解決しました^_^。 もう次に読むのも買ってある!アガサ・クリスティーの世界に入れて嬉しかった!

  • 推理小説がゲームであることを宣言したような本。

  • ミス・マープルシリーズで一番面白かったんじゃなかろうか? と思う。
    ミス・マープルシリーズの一番最初の作品であると同時に、話の時系列的にも最初の話。
    短編集なので、全てにおいて短いが、しかしながら読み応えはある。

    因みに、ミス・マープルは犯罪に関わった人物を、過去に自分が見知った人物に照らし合わせ、彼らの行動を読み取ることによって事件を解決に導くのだが、これは、今でいうプロファイリングじゃなかろうか、と思うところだ。

  • 私をミステリに転ばせた一品。小学生の時にこれの児童版を読んでしまった時から私のミステリ好きははじまったのです。弁護士、牧師、元警視総監、作家、女流画家、医者・・・そうそうたるインテリが頭をそろえて解決できなかった迷宮入り事件を、編み物好きのおばあさんが鮮やかにときほぐす! このカタルシスはたまりません。大人になったらこんなばあさんになりたいと心から思いました。

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