春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

制作 : 中村 妙子 
  • 早川書房
4.04
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本棚登録 : 1962
レビュー : 305
  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300813

作品紹介・あらすじ

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルがとても素敵、というところから読み始めるととんでもないことになる。
    ある意味殺人事件より恐ろしいクリスティの名著。
    本当は自分が一番可愛い、独善的な主人公に嫌気がさしつつも、どこか他人事に思えないのも恐い。ここに描かれる、気づかないことの悲劇と幸福というのも、結構日常的に転がっている問題のように思う。

  • この小説を読んで何も感じない者は幸福である。

    完璧な妻、そして母であることを自認するジョーンは、
    体調を崩したという末娘を見舞うため、
    嫁ぎ先のバグダッドへ赴いた帰り、
    乗り継ぎ列車に間に合わず、
    トルコのテル・アブ・ハミド駅のレストハウスに泊まる。
    天候の関係で遅れに遅れ、なかなか来ない列車を待ちながら、
    かつてない暇な時間を手に入れた彼女は
    否応なしに来し方を振り返り、
    自分が犯してきた過ちに思いを致すこととなる……。

    視野が狭く想像力が貧困で、他者の痛みに極端に鈍感な女が、
    初めて内省によって己の愚かさを自覚する話。

    主人公は私の大嫌いなタイプの女。
    読ませたい人が何人かいるけど、
    鈍いヤツにはどうせ通じないか(苦笑)。

    狭い範囲の問題にさえ、まともに向き合えない人間は、
    戦争が始まると言われても「まさか」と一笑に付すばかり――
    という描写が鋭く、恐ろしい。

    宿泊所のインド人管理者がマメでイイ奴。
    私なら、有り余る時間を、差し向かいで紅茶を飲みつつ
    身の上話を聞かせてもらって過ごすと思うけどなぁ。

  • 大学生の頃初めて読んで…衝撃でした。
    自分の中にもジョーンの要素があると感じ、
    それだけに、彼女のようには絶対なりたくないと思った。
    本当におそろしいです。
    ちなみに、これを読んでから、人に実年齢より若く見られたいと、
    全く思わなくなりました。
    (ジョーンは、実際よりずっと若く見えるのです。
    自分の人生で背負うべきものを背負ってこなかったから…?)

    一度読んだら忘れられない物語です。

  • どこがロマンチック・サスペンスなのかさっぱり分からない;
    レビューを見ても、「悲しい」「怖い」という意見が大半。
    自分読んだ感想としては悲しくはあったが、怖いというよりも、怒りの方が強かった気がする。
    あとがきは、自分の言いたいことを書いてくれた。でも他にも言いたいのは、この主人公は自分の本当の姿に気づいたとき、誰のせいにもしなかったこと。
    夫の場合は常に妻のせいにして、本人が気づかないと思って子供の目の前で当てつけみたいに話すは、最後も上から目線がうざくて本当に最低最悪。
    矯正させなかったのも、主人公と比較された場合の、まわりの人間からの同情や仲間意識をひきたかったからではないのか?
    現実にいたらこの主人公を煙たく思い、夫の方に同情するだろうが、この本を読み、悲痛な叫びを聞いたら、つい主人公寄りになってしまう。
    「怖い」という意見がされたラストだが、これも仕方がないのではないかな、と思ってしまう。
    場所が場所だし。これが非日常的な場所で再会したらまた違った展開になったかもしれないが。
    ただ、変わらないで終わってしまったのは、主人公が逃げたせいだが、作中で「分かっていたが、分かりたくなかった」
    と書いてあることから、ただの鈍感ではなく、臭い物に蓋的な、自己防衛機能に近いのかなと思った。
    だから、もし似たようなことが起こってまた同じように自己認識した時には、今度こそ変わって欲しいと願う。
    それにしても夫以外の家族も最低だった。たしかにはた迷惑な人間だが、ここまで軽蔑して嫌う程ではないと思う。
    綺麗なタイトルからは、想像もつかないほど重い内容。読むのには少し気力がいる。

  • 人の死なないサスペンス。ジョーンは家族から遠く離れた場所で一人、物思いにふける。回想の中で、彼女は今まで目を伏せてきた真実に気づき始める。

    この展開がめちゃくちゃ面白い。


    主人公のジョーンが鼻持ちならない奴で。同級生をかわいそうとこき下ろし自分は良妻賢母と信じて疑わない態度にかわいそう、と思ってしまう。
    でも、そんなふうに感じる私自信が、この人の気質(自己満足)を持っているようで、ゾッとする。

    それこそがアガサクリスティの狙いなのかもしれない。読者の中にいるジョーンを暴きたてることが…。

    怖い!

    大竹しのぶさんとか、少し若いけど松たか子さんとかで、舞台にしてくれないかなぁ。

  • 殺人ミステリーのアガサ・クリスティが、心理的小説を書いていた。
    身勝手な夫人が主人公で、旅先でのアクシデントにより、考える時間が余るほどあり、人生を振り返る話である。生きていく上では真面目な夫人だが、周りからはどのように思われているのか、良かれと思ってやっている行動が本当に良いことなのか、子供や夫とのコミュニケーションを振り返りながら見つめていく。自己中心的に考えそうになるとき、思い出したい一冊である。

  • なんというか…序盤から普段蓋をして生きている部分を針でチクチクを刺されているような気分。ジョーンを笑い飛ばせる人になりたかったと思いつつも、胸に針で刺すような痛みを感じる私は確実にジョーン側の人間であるわけで。

    結局ジョーン然りロドニー然り、すべての人間は己の見たいもののみを見て、その世界でしか生きることができないのかもしれない。それを中から見るか、外から見るかの違いしかなくて、どちらに幸不幸があるのかがわからないのが人生、なんですかね。

    …そんなことを読み終わって小一時間ほどぼーっと考えました。そんなところもジョーン側の人間である証しのようでさらに哀しくなるけれど、とりあえず読んでおいて良かったわ今のうちに。

  • アガサ・クリスティ作品で、名探偵が出てこないのにこれは傑作だ、と聞いて読了。確かにこれは面白かった。
    「自分自身についてこれまで気が付かなかったことなんてあるものかしら?」
    恐らく誰もが無意識にこう思い込んでいる。主人公ジョーンは、旅行中足止めをくらい、この問いに嫌でも向き合うことになる。そして、1人で勝手に恐ろしいことを考え始める。読者は、どこからどこまでが事実なのか思い込みなのか分からない、妄想の類をずっと読まされることになる。これが面白い。探偵が出てこなくても、立派なサスペンスになる。

  • なんと心理的ヘビーな...( ゚Д゚)!教訓が詰まった本だ。『悪気がない方がタチが悪い』『言われるうちが花』などという言葉が、次から次へと浮かんできた。主人公は妻として母として完璧に采配を振るってきた、と自信満々の中年女性。旅の途中、砂漠の宿泊所で足止めをくらい、そこで自分の人生に思いを馳せる...という物語。ただそれだけの話なのに、心理描写は完璧にサスペンス。特にラストにかけての展開はさすがのクリスティ!最終的には哀れみの気持ちが...。この本、若い頃読んでも面白くなかっただろう。今こそわかる面白さだ。

  • 司書の同僚から、「怖い」「後味が悪い」とコメントがあり、逆に気になっていました。
    理想の家庭を築き、自分では「良き妻・良き母」であると自信を持っていた主人公。
    旅行中のアクシデントで足止めを食っている間に、暇な時間を持て余し、自身の半生を振り返り始めたことで、自分のこれまでの行いが家族に受け容れられてこなかったのではないか、という不安に気づきます。
    「良き妻」としてふるまっていたことが、夫の枷になっていたのではないか、「良き母」として子どもに接していたつもりだったことが子どもにとっては苦痛でしかなかったのではないか。

    結婚している人、子どもがいる人、大人にとってはまさに「
    恐怖」を味わうことになる1冊だと思います。

    作品としては面白い作品ですし、アガサ・クリスティーの文章力には感銘を受けますが、やはり読後感は悪く、あまり人にはお勧めできない(ネタとしてはいいかもしれませんが)本だと思います。

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