春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
4.06
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本棚登録 : 4385
感想 : 515
  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300813

作品紹介・あらすじ

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいるあいだ恐ろしくて仕方なかった。そして最後のジョーンの選択は悲しかったのと同時に、心のどこかでやっぱりな……と思う私がいた。人は簡単に変われないんだ。

    結婚して子どもが生まれて。そうなった時、女性なら一度は夫のために良い妻、子どものために良い母親になりたいと願うのではないだろうか。でも、この「ために」というのが曲者になってくると私は思う。あなたの「ために」私はこれだけ頑張ってるのよ。あなたの「ために」こうすれば良いと思うよ。この「ために」が真綿で首を締めるように、じわじわと家族関係を蝕んでいく。相手のために頑張りたいと思っていた気持ちが、いつの間にか自分が良い妻、良い母親でいる「ために」と意味がすり替えられていることに気づかない。

    ジョーンが夫ロドニーに意見を通せば、彼は「じゃあいいよ。きみの好きにするさ」と呟く。
    「わたしたちのように幸せな家庭って、そうざらにあるものじゃないのに」と笑えば「きみは本当にそう思ってるのかい、ジョーン?」と問われる。
    子どもたちからも「お母さんって、誰のこともぜんぜんわかっちゃいないって気がするんだ」と言われる。
    それでもジョーンは自分は幸せだということを微塵も疑わない。そして自分が幸せなら当然、家族も幸せだと思っていると固く信じてるはず。

    ジョーンは、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中、汽車を待つ数日間をひとりで過ごすことになる。そこでロドニーとの夫婦関係、3人の子どもたちとの親子関係について振り返ることになるのだが、自分が夫や子どものことを何一つ知らなかったことに気づく。彼らの過去の言動の真相を知らずに過ごしてきたのは、こうあってほしいと思うようなことを信じて、真実に直面する苦しみを避ける方が、ずっと楽だったからだと思い知るのだ。
    ジョーンはロドニーを幸せにしてあげなかったと彼に謝りたいと切に願うのだが、結局ロドニーと再会した彼女は、今までのまま、あいかわらずのジョーンに戻ってしまう。彼女は聖者にはなれなかった。

    ロドニーはそんなジョーンを受け入れる。
    「プア・リトル・ジョーン」
    かわいそうな・リトル・ジョーン
    ひとりぼっちのリトル・ジョーン
    でも私はロドニーもひとりぼっちだと思う。彼の場合は自らその道を選んだといってもいいんじゃないだろうか。ジョーンの心のうちに踏み込むことが、実は怖かったんじゃないだろうか。

    ジョーンは幸せな生活に戻ったけれど、ロドニーは自ら幸せを手放した。もし、ロドニーが自分の望む幸せを手に入れたなら、ジョーンは幸せになれたのだろうか。
    私は何だか重い荷物を彼らから引き継いでしまったようだ。そんな、ずんと沈んだ気持ちになりながら読み終えたのだった。

    • nejidonさん
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      私もこの小説はしみじみと怖いのですよ。
      ホラーでもミステリーでもないのに、読んでる間も読んだ後も怖い。...
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      私もこの小説はしみじみと怖いのですよ。
      ホラーでもミステリーでもないのに、読んでる間も読んだ後も怖い。
      何で分からないの?・・でも自分はどうなの?ひとのこと、言えるの?
      そんなもやもやと黒いものが湧いてきて、付き纏う。いやぁ怖いです。
      クリスティの作品では異色ですが、名作ですよね。
      とても素敵なレビューです☆
      2020/01/30
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんばんは(*´∀`)♪

      この作品、いろんなブックガイドで紹介されているので、ずっと気になっていました。
      で、今...
      nejidonさん、こんばんは(*´∀`)♪

      この作品、いろんなブックガイドで紹介されているので、ずっと気になっていました。
      で、今回読んでみたのですけど……
      怖かった!本当に怖かったです。
      背後からヒタヒタと近づいてくる黒い影に呑み込まれそうになりました。
      まさにnejidonさんと同じような気持ちで、ジョーンのことと自分のことを思ってました。
      こんなに心を抉られるような読後感は滅多に味わえないです。
      はぁー、クリスティってすごい、そして恐ろしい作家だわ。

      コメントありがとうございました♪
      2020/01/30
  • 先日読んだ攻略本より。主婦の回想という内容なのに読む手が止まらない。解説の栗本薫さん言うところ「苦い感動」と「哀しみにみちた慰安」の物語。クリスティの上手さを実感したがこの後味悪さよりやっぱり小気味良いミステリーですっきりしたいと思った。

  • 生涯気付かない人もいるだろう。気付いて苦しんだ、それで十分ではないかと思った。
    確かにジョーンの気質には嫌悪を覚える。生育歴のせいがあるにしても。なぜこんなにジョーンが嫌な人に描かれているのだろう。読むのが嫌にもなったが、中盤からのジョーンの心の葛藤の描写に引き込まれた。
    目の前の真実に直面する苦しみを避け生きてきた、という点ではロドニーも同じという気がした。似たもの夫婦ではないか。
    この夫婦、家族が特別とは思えない。よくあるというか。
    家族はなんら問題を抱えているものではないか。レスリーの考えである、重荷を分かち持たせる、これが出来れば理想なのでしょうが、なかなか難しい。誰かの比重が重くなりがちだと思う。

    その選択で、平穏に過ごす、いつも通りに。覆したところで。自分を認識でき、夫、子供を理解し、表面的には同じでも、心根は変わる。初め嫌だった人が、成長したようにも見え、歳を重ね安住の地を求めたのだと。
    ロドニーは気付かないまま、かもしれない。

    過去を回想する中年女性というところは同じなので、あなたの場合はどうですか、と訴えかけられてるようで苦しかった。自分の逃げてきたものを考えてしまった。胸に深く突き刺さった。
    人生の中で足止めをくらう時間があって良かった、と思えばいいのか。

  • アガサ・クリスティー読み直しキャンペーン第二弾です(いつ始まった?)

    ハヤカワ文庫のクリスティーは全部持っていたので(戯曲除く)全て読み直しとなります
    他にも角川の横溝正史、ハヤカワのディック・フランシスも全部持っていたし、カーもエラリー・クイーンもほとんど、その他にも古今東西のミステリーの蔵書(言い方!)がたぶん500冊は超えてたと思うんですよね
    結婚して家を出るとき実家に置いておいたんですがあるとき父親が突然田舎に中古住宅を買って引っ越すと言い出して(元の場所もそもそも田舎)連絡もなく全部捨てられちゃったんですよね
    しかも後で「たいへんだったんだぞ!」と怒られるっていう

    『引っ越してゴミに出され』なんちて

    さて『春にして君を離れ』です

    『ひらいたトランプ』に続いてクリスティーの王道からはちょっと外れるけど評価の高い作品を選ぶことでクリスティー通と思われたいという卑しい気持ちが煤けてますねw

    そして本作はミステリーではありません
    サスペンスですホラーです
    是非とも一度手に取ってこの恐怖に満ちた結末を体験してほしいです
    こーわっ!てなります震えます
    人は環境によって考えがころころ変わっちゃうってことなんでしょうが

    ただ自分はロドニーの方になんか自分を重ねちゃいました見ようによっては「優しさ」を隠れ蓑に延々と責任逃れをし続けた旦那様と言えます

    それにしてもクリスティーはやはり会話がいいですよね
    クリスティーは劇作家としても素晴らしい作品を残してますが、クリスティーに限らず脚本も手掛けていたり脚本家出身の作家さんて会話によって物語を進めるのが本当にうまいですよね

    クリスティー至極のサスペンスを是非!

    • 土瓶さん
      ひまわりめろんさん。なおなおさん。こんばんはー。

      って、びんこう……w?
      それはないですねー。謎のキャンペーンが功を奏したのでしょう...
      ひまわりめろんさん。なおなおさん。こんばんはー。

      って、びんこう……w?
      それはないですねー。謎のキャンペーンが功を奏したのでしょう。きっと。
      それにしても今ごろ平積みって凄いですね。
      さすがミステリーの女王!
      でも、内容は覚えてないのであまりハードルを上げられると後が怖いな。
      もしも期待外れな内容でも笑って許してくれますようお願いします。
      2022/02/25
    • なおなおさん
      土瓶さん、初めまして。
      "びんこう"の方からメッセージ、嬉しいです☆
      アガサ・クリスティの戯曲を読んでみたかったので、土瓶さんから情報をいた...
      土瓶さん、初めまして。
      "びんこう"の方からメッセージ、嬉しいです☆
      アガサ・クリスティの戯曲を読んでみたかったので、土瓶さんから情報をいただけて良かったです。
      ありがとうございました。
      「謎のキャンペーン」っていうワードも気に入りました〜(笑)

      追伸
      私も昔のハヤカワミステリ文庫の方が好きです。
      2022/02/25
    • ひまわりめろんさん
      『ねずみとり』の感想に続く…(身勝手)
      『ねずみとり』の感想に続く…(身勝手)
      2022/02/27
  • 夫にも子供にも恵まれ、何不自由なく暮らす主婦ジョーンは、娘の病気見舞いに訪れたバグダッドからロンドンに帰る途中、偶然出会った同級生ブランチのひと言をきっかけに、人生のさまざまな場面を振り返る。
    バグダッドからロンドンまでは、実質7日間の旅。
    空は雲一つなく澄み渡り、見渡す限り金茶色の砂がどこまでも続く、そんな何もない場所でたった一人、回想にふけるジョーン。
    家族の幸福は、すべて私の手柄だったと。
    久しぶりに会った友人のブランチのことでさえ、かわいそうだと思っている。これこそ上から目線…
    けど、このような気持ちは、程度の差はあれど、誰もが持っていてもおかしくはないし、こんな人、決して少なくはないと思う。
    怖いけれど、ぞわぞわするけれど、ジョーンの感情がするすると入ってきて、夢中になっている自分がいた。
    人は自分の愚かさに気づいたとしても、よほどの聖人でなければそう簡単に変えることはできないのだろうか。
    そして、エピローグを読んで、夫婦のあり方について、人間関係について、さらに考えさせられてしまった。
    この本は、雑誌のコラムで紹介されているのを見て、ずっと気になっていたのですが、取り上げられる意味がわかるような気がします。

  • アガサ・クリスティの小説。この小説はミステリーじゃない枠ですが、ミステリーだと感じるところも。
    私にとって読み終わっていちばんミステリーだったのはロドニーの気持ち。

    いろんな違う環境、立場隔たりのある人々のなかで、ジョーンは娘の家族を見舞う旅で祈り(祈っちゃったから神さまが叶えちゃって)回心にたどりつく。

    この物語の下敷きには、シェイクスピアのソネット(14行詩)がある?この物語を暗唱したり読んで育ったふたりの言動や想いに影響を与えているんじゃないかって、ソネットをゲットしてみてやっぱりそう思います。小説を読み終わってもなんだかモヤモヤしてて、ソネットも読んでみてやっとこの小説が終わった感がある。
    この小説は、ソネットへのオマージュという風にも思えるし、その影響力への風刺という風にも思える。ソネットをもっとしっかり読むとまた違う感想があるかも。

    小説のなかの「シェイクスピアも人の子」っていう言葉がとても好き。

    結婚は契約で連帯の意図の証明という言葉も。

    それから、ジョーンの両親のお話あたりから「母のようになれば子どもは苦しむと思ったんじゃないか」と考えが変わって、ジョーンに対する私の気持ちの大切な転換点だった。

    ジョーンの女学院のギルビー先生の言葉も好き。的確な考察を贈られているからといって素直にキャッチできたら苦労はしなくて、わかっていながら逆らってしまう自分もいる。ちょっとジョーンに同情も。

    それから、誰かが一緒に歩いているような気がするけど誰もいないっていうシーンを読んで、足跡がひとつしかない、でもそれはキリストがあなたを背負って歩いていたからだっていうお話を思い出して、次の展開がわかった気がする。

    ブランチの、あなたへの借金ふみたおして気になんかするもんですか、に「ブランチ・ハガードなるほど感」が増した。そらあかん。
    最後に憧れのオリエント急行がでてきてドキドキ。出会うサーシャを最初はスパイかと思った。心情を的確にキャッチ、主人公が吐露すると彼女のイギリスをdisりはじめるから。でも、理由はその章を読んでしまうまでわからない。知ると納得することで、背景や理由も知らずに言葉の行方を決めるのは危険なことだと最後までこのお話は伝えていた。

    最後のロドニーの言葉は、ジョーンへの憐憫にとれる言葉で終えている。その彼女が回心という大きな恵みを受けたことを気付かないという真実はこの物語の肝?

    ジョーンは誰の決断も尊重しない。彼女の価値観だけが彼女のものさし。それにジョーン以外の誰もが気付いていることがなによりの救い。回心は彼女にしかできないから。補いあって保たれているこの家族に、結婚は契約という言葉がとても響く。

  • 世の中って多くのことが理不尽だし不公平だし、自分ではコントロール出来ないことばかりだから、思考を停止させて自分にとって都合の良いように世の中を解釈し続ければ手っ取り早く幸せな気分を味わえる。だけどそれはいつまでも整合性の取れるものではなく、いつの間にか常に他人と比較して見下すことでしか自分の幸せを認識できなくなり、その他人が自分と比べて不幸に違いないと自分に思い込ませるようになる。(というかジョーンの場合無意識レベルで思い込んでるんだろう…)
    現実逃避を重ねれば重ねるほど周りの大切な人のことは疎か自分のことさえ理解できず誰からも愛されない人生を送ることになるんだなぁと思った。自分の人生の空虚さにさえも目を向けずに死ぬことができたらそれはそれで幸せなのかもしれないけれど。

  • 1. この本を選んだ目的 
    勝手にアガサ博士と呼んでますが、アガサクリスティーの本は過去に2冊呼んでいます。翻訳の問題なのか、時代のズレの感覚違いのせいなのか、なんとなく、言葉がぎこちなく感じることがありましたが、面白いとは思っていました。
    そんなアガサ博士の本をたまたま見つけたので手にとりました。

     
    2.あらすじ
    主人公のジョーン・スカダモアは地方弁護士の妻であり三人の母である。優しい夫といい子どもたちに恵まれ理想の家庭を築きあげたと満ち足りていた。
    しかし、娘の見舞い後のバグダッドからイギリスへ戻る途中に聖アン女学院時代の友人、ブランチ・ハガードに出会う。ブランチは学生のころ、ジョーンたちのアイドルだった。ところが今のブランチときたら、痩せこけ薄汚れな中年女に様変わりしていた。

    話し始めれば昔話に花が咲き楽しいひとときを過ごす二人だったが、変わり果てた彼女を憐れんでいた。
    その後、雨天のため、ジョーンは乗り継ぎの汽車を待つ鉄道宿泊所にて一週間近く足止めを食らう。
    読む本も、誰かに手紙を書く便箋も使い果たしてしまった。次第にジョーンはブランチとの会話からこれまでの親子関係や、夫婦の愛情について疑問を抱きはじめる。
    自分が良かれと思って接してきた行動は自分都合の選択だったのではないだろうかと…
    そこからは、勝手に思考がグルグル回っていく。


    3.感想
    こういう人いるという感想とは逆に、こんなやついるのか…と、思ってしまう。ここまできたら、かなりヤバいやつだよ…まぁ、いるんだろうな…きっと。
    ちょっと、読むのが辛かったので、星3で。

    なんか、ちょっと私には、気持ち悪さが強いかな…
    作品に入っていけなかった。


    4.登場人物  
    ジョーン・スカダモア 48歳 主婦
    ロドニー 夫

    (ジョーン子どもたち)
    トニー オレンジ園経営
    エイヴラル 株式ブローカー妻
    バーバラ 娘


    自分自身について、これまで気がつかなかったことなんてあるものかしら?
    というキーワードは、面白い。

  • これほど読後感が重く自分の身の振り方を内省させる小説もなかなかなく、読んでいて苦しかった。ジョーンの自己中心的な様子はこれは小説だから自分とは関係ない、と逃げられないように描写しているのがクリスティーの作家としての能力の高さの現れだと思う。
    ジョーンが過去を自覚しても結局変わることができなかったというのがなによりもつらいが、それができていたらこの作品はここまで心に残るものにはならなかっただろう。ジョーン自身は悪意があったわけではないというのが余計にやるせない。
    自分の事ばかり考えずに、他の人のことを考えなさいというギルビー校長の言葉はこれだけ切り取るとありふれたものに見えるかもしれないが、この言葉が出て来るまでにそれを実践しなかったジョーンの描写を積み重ねることで説得力があるものになっている。
    しばらくは忘れることができそうにない作品だった。

  • 数ページ読んで引き込まれた。怖く哀しい小説。主人公に身を置き変えてというよりも身につまされる思い。解説の栗本薫氏の言葉通り「苦い感動」「哀しみにみちた慰安」。私は果たして幸せなのだろうか。

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