春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300813

作品紹介・あらすじ

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいるあいだ恐ろしくて仕方なかった。そして最後のジョーンの選択は悲しかったのと同時に、心のどこかでやっぱりな……と思う私がいた。人は簡単に変われないんだ。

    結婚して子どもが生まれて。そうなった時、女性なら一度は夫のために良い妻、子どものために良い母親になりたいと願うのではないだろうか。でも、この「ために」というのが曲者になってくると私は思う。あなたの「ために」私はこれだけ頑張ってるのよ。あなたの「ために」こうすれば良いと思うよ。この「ために」が真綿で首を締めるように、じわじわと家族関係を蝕んでいく。相手のために頑張りたいと思っていた気持ちが、いつの間にか自分が良い妻、良い母親でいる「ために」と意味がすり替えられていることに気づかない。

    ジョーンが夫ロドニーに意見を通せば、彼は「じゃあいいよ。きみの好きにするさ」と呟く。
    「わたしたちのように幸せな家庭って、そうざらにあるものじゃないのに」と笑えば「きみは本当にそう思ってるのかい、ジョーン?」と問われる。
    子どもたちからも「お母さんって、誰のこともぜんぜんわかっちゃいないって気がするんだ」と言われる。
    それでもジョーンは自分は幸せだということを微塵も疑わない。そして自分が幸せなら当然、家族も幸せだと思っていると固く信じてるはず。

    ジョーンは、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中、汽車を待つ数日間をひとりで過ごすことになる。そこでロドニーとの夫婦関係、3人の子どもたちとの親子関係について振り返ることになるのだが、自分が夫や子どものことを何一つ知らなかったことに気づく。彼らの過去の言動の真相を知らずに過ごしてきたのは、こうあってほしいと思うようなことを信じて、真実に直面する苦しみを避ける方が、ずっと楽だったからだと思い知るのだ。
    ジョーンはロドニーを幸せにしてあげなかったと彼に謝りたいと切に願うのだが、結局ロドニーと再会した彼女は、今までのまま、あいかわらずのジョーンに戻ってしまう。彼女は聖者にはなれなかった。

    ロドニーはそんなジョーンを受け入れる。
    「プア・リトル・ジョーン」
    かわいそうな・リトル・ジョーン
    ひとりぼっちのリトル・ジョーン
    でも私はロドニーもひとりぼっちだと思う。彼の場合は自らその道を選んだといってもいいんじゃないだろうか。ジョーンの心のうちに踏み込むことが、実は怖かったんじゃないだろうか。

    ジョーンは幸せな生活に戻ったけれど、ロドニーは自ら幸せを手放した。もし、ロドニーが自分の望む幸せを手に入れたなら、ジョーンは幸せになれたのだろうか。
    私は何だか重い荷物を彼らから引き継いでしまったようだ。そんな、ずんと沈んだ気持ちになりながら読み終えたのだった。

    • nejidonさん
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      私もこの小説はしみじみと怖いのですよ。
      ホラーでもミステリーでもないのに、読んでる間も読んだ後も怖い。...
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      私もこの小説はしみじみと怖いのですよ。
      ホラーでもミステリーでもないのに、読んでる間も読んだ後も怖い。
      何で分からないの?・・でも自分はどうなの?ひとのこと、言えるの?
      そんなもやもやと黒いものが湧いてきて、付き纏う。いやぁ怖いです。
      クリスティの作品では異色ですが、名作ですよね。
      とても素敵なレビューです☆
      2020/01/30
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんばんは(*´∀`)♪

      この作品、いろんなブックガイドで紹介されているので、ずっと気になっていました。
      で、今...
      nejidonさん、こんばんは(*´∀`)♪

      この作品、いろんなブックガイドで紹介されているので、ずっと気になっていました。
      で、今回読んでみたのですけど……
      怖かった!本当に怖かったです。
      背後からヒタヒタと近づいてくる黒い影に呑み込まれそうになりました。
      まさにnejidonさんと同じような気持ちで、ジョーンのことと自分のことを思ってました。
      こんなに心を抉られるような読後感は滅多に味わえないです。
      はぁー、クリスティってすごい、そして恐ろしい作家だわ。

      コメントありがとうございました♪
      2020/01/30
  • 基本に還ろう! ということで、超久し振りのアガサ・クリスティー。
    子供の頃は良く読んでいた気がするけど、ブグログ登録は初。

    ポアロもマープルも出てこない「ノン・シリーズ」

    不思議な怖さを感じさせるお話しでした。

    夫にも子供たちにも恵まれた主人公。次女の病気見舞いに訪れたバクダッドからイギリスへ帰る途中、テル・アブ・ハミドで不慮の事故により足止めをくらうことに。
    粗末な宿泊所以外は見渡す限り砂漠しかない環境に数日置かれ、自分の人生を振り返るのだが。

    しかし、彼女は間違っていたのだろうか。
    人間万事塞翁が馬、という言葉を思い出す。

  • 48年生きてきて、これまでの人生をふと振り返る。
    優しい夫と結婚し子宝にも恵まれた。
    その子供たちもすくすく成長し、やがて親元を離れそれぞれの家庭を持った。
    それら全てが順風満帆。全てが理想通り。
    自分は勝ち組なのだと信じて疑わなかった、けれど…。

    旧友との偶然の再会から、これまでの自分の半生に疑問を持ったジョーン。
    自分の半生は、本当に勝ち組なのか。
    目の前の真実に、見て見ぬふりをしていただけではなかったか。

    自分に対する、夫や子供たちからの"真の"評価なんて、知らない方がいい。
    こんなの疑いだしたらきりがない。
    知らぬが仏、とはこのこと。
    下手なミステリよりずっとミステリアスな物語だった。

  • 生涯気付かない人もいるだろう。気付いて苦しんだ、それで十分ではないかと思った。
    確かにジョーンの気質には嫌悪を覚える。生育歴のせいがあるにしても。なぜこんなにジョーンが嫌な人に描かれているのだろう。読むのが嫌にもなったが、中盤からのジョーンの心の葛藤の描写に引き込まれた。
    目の前の真実に直面する苦しみを避け生きてきた、という点ではロドニーも同じという気がした。似たもの夫婦ではないか。
    この夫婦、家族が特別とは思えない。よくあるというか。
    家族はなんら問題を抱えているものではないか。レスリーの考えである、重荷を分かち持たせる、これが出来れば理想なのでしょうが、なかなか難しい。誰かの比重が重くなりがちだと思う。

    その選択で、平穏に過ごす、いつも通りに。覆したところで。自分を認識でき、夫、子供を理解し、表面的には同じでも、心根は変わる。初め嫌だった人が、成長したようにも見え、歳を重ね安住の地を求めたのだと。
    ロドニーは気付かないまま、かもしれない。

    過去を回想する中年女性というところは同じなので、あなたの場合はどうですか、と訴えかけられてるようで苦しかった。自分の逃げてきたものを考えてしまった。胸に深く突き刺さった。
    人生の中で足止めをくらう時間があって良かった、と思えばいいのか。

  • 先日読んだ攻略本より。主婦の回想という内容なのに読む手が止まらない。解説の栗本薫さん言うところ「苦い感動」と「哀しみにみちた慰安」の物語。クリスティの上手さを実感したがこの後味悪さよりやっぱり小気味良いミステリーですっきりしたいと思った。

  • アガサ・クリスティー読み直しキャンペーン第二弾です(いつ始まった?)

    ハヤカワ文庫のクリスティーは全部持っていたので(戯曲除く)全て読み直しとなります
    他にも角川の横溝正史、ハヤカワのディック・フランシスも全部持っていたし、カーもエラリー・クイーンもほとんど、その他にも古今東西のミステリーの蔵書(言い方!)がたぶん500冊は超えてたと思うんですよね
    結婚して家を出るとき実家に置いておいたんですがあるとき父親が突然田舎に中古住宅を買って引っ越すと言い出して(元の場所もそもそも田舎)連絡もなく全部捨てられちゃったんですよね
    しかも後で「たいへんだったんだぞ!」と怒られるっていう

    『引っ越してゴミに出され』なんちて

    さて『春にして君を離れ』です

    『ひらいたトランプ』に続いてクリスティーの王道からはちょっと外れるけど評価の高い作品を選ぶことでクリスティー通と思われたいという卑しい気持ちが煤けてますねw

    そして本作はミステリーではありません
    サスペンスですホラーです
    是非とも一度手に取ってこの恐怖に満ちた結末を体験してほしいです
    こーわっ!てなります震えます
    人は環境によって考えがころころ変わっちゃうってことなんでしょうが

    ただ自分はロドニーの方になんか自分を重ねちゃいました見ようによっては「優しさ」を隠れ蓑に延々と責任逃れをし続けた旦那様と言えます

    それにしてもクリスティーはやはり会話がいいですよね
    クリスティーは劇作家としても素晴らしい作品を残してますが、クリスティーに限らず脚本も手掛けていたり脚本家出身の作家さんて会話によって物語を進めるのが本当にうまいですよね

    クリスティー至極のサスペンスを是非!

    • 土瓶さん
      ひまわりめろんさん。なおなおさん。こんばんはー。

      って、びんこう……w?
      それはないですねー。謎のキャンペーンが功を奏したのでしょう...
      ひまわりめろんさん。なおなおさん。こんばんはー。

      って、びんこう……w?
      それはないですねー。謎のキャンペーンが功を奏したのでしょう。きっと。
      それにしても今ごろ平積みって凄いですね。
      さすがミステリーの女王!
      でも、内容は覚えてないのであまりハードルを上げられると後が怖いな。
      もしも期待外れな内容でも笑って許してくれますようお願いします。
      2022/02/25
    • なおなおさん
      土瓶さん、初めまして。
      "びんこう"の方からメッセージ、嬉しいです☆
      アガサ・クリスティの戯曲を読んでみたかったので、土瓶さんから情報をいた...
      土瓶さん、初めまして。
      "びんこう"の方からメッセージ、嬉しいです☆
      アガサ・クリスティの戯曲を読んでみたかったので、土瓶さんから情報をいただけて良かったです。
      ありがとうございました。
      「謎のキャンペーン」っていうワードも気に入りました〜(笑)

      追伸
      私も昔のハヤカワミステリ文庫の方が好きです。
      2022/02/25
    • ひまわりめろんさん
      『ねずみとり』の感想に続く…(身勝手)
      『ねずみとり』の感想に続く…(身勝手)
      2022/02/27
  • 夫にも子供にも恵まれ、何不自由なく暮らす主婦ジョーンは、娘の病気見舞いに訪れたバグダッドからロンドンに帰る途中、偶然出会った同級生ブランチのひと言をきっかけに、人生のさまざまな場面を振り返る。
    バグダッドからロンドンまでは、実質7日間の旅。
    空は雲一つなく澄み渡り、見渡す限り金茶色の砂がどこまでも続く、そんな何もない場所でたった一人、回想にふけるジョーン。
    家族の幸福は、すべて私の手柄だったと。
    久しぶりに会った友人のブランチのことでさえ、かわいそうだと思っている。これこそ上から目線…
    けど、このような気持ちは、程度の差はあれど、誰もが持っていてもおかしくはないし、こんな人、決して少なくはないと思う。
    怖いけれど、ぞわぞわするけれど、ジョーンの感情がするすると入ってきて、夢中になっている自分がいた。
    人は自分の愚かさに気づいたとしても、よほどの聖人でなければそう簡単に変えることはできないのだろうか。
    そして、エピローグを読んで、夫婦のあり方について、人間関係について、さらに考えさせられてしまった。
    この本は、雑誌のコラムで紹介されているのを見て、ずっと気になっていたのですが、取り上げられる意味がわかるような気がします。

  • 1. この本を選んだ目的 
    勝手にアガサ博士と呼んでますが、アガサクリスティーの本は過去に2冊呼んでいます。翻訳の問題なのか、時代のズレの感覚違いのせいなのか、なんとなく、言葉がぎこちなく感じることがありましたが、面白いとは思っていました。
    そんなアガサ博士の本をたまたま見つけたので手にとりました。

     
    2.あらすじ
    主人公のジョーン・スカダモアは地方弁護士の妻であり三人の母である。優しい夫といい子どもたちに恵まれ理想の家庭を築きあげたと満ち足りていた。
    しかし、娘の見舞い後のバグダッドからイギリスへ戻る途中に聖アン女学院時代の友人、ブランチ・ハガードに出会う。ブランチは学生のころ、ジョーンたちのアイドルだった。ところが今のブランチときたら、痩せこけ薄汚れな中年女に様変わりしていた。

    話し始めれば昔話に花が咲き楽しいひとときを過ごす二人だったが、変わり果てた彼女を憐れんでいた。
    その後、雨天のため、ジョーンは乗り継ぎの汽車を待つ鉄道宿泊所にて一週間近く足止めを食らう。
    読む本も、誰かに手紙を書く便箋も使い果たしてしまった。次第にジョーンはブランチとの会話からこれまでの親子関係や、夫婦の愛情について疑問を抱きはじめる。
    自分が良かれと思って接してきた行動は自分都合の選択だったのではないだろうかと…
    そこからは、勝手に思考がグルグル回っていく。


    3.感想
    こういう人いるという感想とは逆に、こんなやついるのか…と、思ってしまう。ここまできたら、かなりヤバいやつだよ…まぁ、いるんだろうな…きっと。
    ちょっと、読むのが辛かったので、星3で。

    なんか、ちょっと私には、気持ち悪さが強いかな…
    作品に入っていけなかった。


    4.登場人物  
    ジョーン・スカダモア 48歳 主婦
    ロドニー 夫

    (ジョーン子どもたち)
    トニー オレンジ園経営
    エイヴラル 株式ブローカー妻
    バーバラ 娘


    自分自身について、これまで気がつかなかったことなんてあるものかしら?
    というキーワードは、面白い。

  • あるきっかけから、最近になって初めてアガサクリスティを2作品読んだ。
    それが意外と面白かったので、他にも読んでみようと本書を図書館で借りたのだが、何故3冊目に本書を選んだのかは覚えていない。

    題名(の邦訳)は素敵だと思う。

    序盤で、すれ違う自動車に乗っている乗客達についての国籍や人数や性別が書かれているので、反対方向に行くのに、この後「事件」でどう関わることになるのだろう?などと意識した。

    しかし半分くらい読んでも「(殺人)事件」が一向に発生しないし、退屈してきた。
    なんか翻訳の言い回しも古臭いなぁと思って、途中で翻訳者について調べた。
    現在100歳でご存命の方だった。
    現在100歳の方が本書を翻訳した当時は、時代的に確かに翻訳の大家であられただろうなと納得する経歴だ。
    言い回しは(今となっては)古臭い感じはするが、読みにくい翻訳というほどではない。

    ならば、この面白くない流れは何なのだ?
    そこでまたブクログレビューを拝見。
    そうか、そうだったのか。
    これは「殺人事件」が発生しないのか…
    知らなかった。
    ある意味、これも「怖い」作品なのだということは理解したし、この時代に「毒親本」が書かれていたことに感嘆もしたが、後半は飛ばし読み。

    変わり映えのしない食事内容ではあるものの、食事やお茶を用意してくれたり、心配してくれたりする宿のインド人に対する態度も最後には良きに変化するのかと期待したが、そんなことも無かったようだ。
    ちゃんと読んでいないから、もしかしたらそういうシーン有ったのかな?

    あまりに飛ばし読みしたため、バグダッド在住の次女バーバラと夫のウィリアムの妙な態度(それは母親である主人公に来て欲しくなかった。サッサと帰ってくれと思っていたかららしいが)と、リード少佐って誰?何があった?ということはわからずじまいとなってしまったが、まっいいか。

  • 殺人事件も起きない、名探偵も現れない、アガサクリスティーの小説です。
    なんとなく表紙が気に入って読んでみました。

    主人公のジョーンは次女バーバラのお見舞いでバグダッドに行き、その帰路で女学校時代の友人に偶然出会い、落ちぶれた彼女を憐れむシーンから始まる。そこから、トルコ国境にあるテルアブハミド駅で一人、数日足止めになる。
    この砂漠の中の宿泊所でジョーンは夫のロドニー、3人のこどもたちや周りで起きた出来事を思い返して、自分自身の思いあがった振る舞いに気づき、夫ロドニーに赦しを乞い夫婦生活を一からやり直すことを心に誓います。しかし。。。

    人によってしあわせの価値観が違うということは、認識しないとね。他人を憐れんでマウント取っているからといって、逆に憐れに思われているかもしれない。

    推理小説ではない(いや、推理小説かも)、アガサクリスティーの違う魅力を感じるものでした。

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