春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

制作 : 中村 妙子 
  • 早川書房
4.06
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  • (17)
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本棚登録 : 2412
レビュー : 363
  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300813

作品紹介・あらすじ

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • 読んでいるあいだ恐ろしくて仕方なかった。そして最後のジョーンの選択は悲しかったのと同時に、心のどこかでやっぱりな……と思う私がいた。人は簡単に変われないんだ。

    結婚して子どもが生まれて。そうなった時、女性なら一度は夫のために良い妻、子どものために良い母親になりたいと願うのではないだろうか。でも、この「ために」というのが曲者になってくると私は思う。あなたの「ために」私はこれだけ頑張ってるのよ。あなたの「ために」こうすれば良いと思うよ。この「ために」が真綿で首を締めるように、じわじわと家族関係を蝕んでいく。相手のために頑張りたいと思っていた気持ちが、いつの間にか自分が良い妻、良い母親でいる「ために」と意味がすり替えられていることに気づかない。

    ジョーンが夫ロドニーに意見を通せば、彼は「じゃあいいよ。きみの好きにするさ」と呟く。
    「わたしたちのように幸せな家庭って、そうざらにあるものじゃないのに」と笑えば「きみは本当にそう思ってるのかい、ジョーン?」と問われる。
    子どもたちからも「お母さんって、誰のこともぜんぜんわかっちゃいないって気がするんだ」と言われる。
    それでもジョーンは自分は幸せだということを微塵も疑わない。そして自分が幸せなら当然、家族も幸せだと思っていると固く信じてるはず。

    ジョーンは、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中、汽車を待つ数日間をひとりで過ごすことになる。そこでロドニーとの夫婦関係、3人の子どもたちとの親子関係について振り返ることになるのだが、自分が夫や子どものことを何一つ知らなかったことに気づく。彼らの過去の言動の真相を知らずに過ごしてきたのは、こうあってほしいと思うようなことを信じて、真実に直面する苦しみを避ける方が、ずっと楽だったからだと思い知るのだ。
    ジョーンはロドニーを幸せにしてあげなかったと彼に謝りたいと切に願うのだが、結局ロドニーと再会した彼女は、今までのまま、あいかわらずのジョーンに戻ってしまう。彼女は聖者にはなれなかった。

    ロドニーはそんなジョーンを受け入れる。
    「プア・リトル・ジョーン」
    かわいそうな・リトル・ジョーン
    ひとりぼっちのリトル・ジョーン
    でも私はロドニーもひとりぼっちだと思う。彼の場合は自らその道を選んだといってもいいんじゃないだろうか。ジョーンの心のうちに踏み込むことが、実は怖かったんじゃないだろうか。

    ジョーンは幸せな生活に戻ったけれど、ロドニーは自ら幸せを手放した。もし、ロドニーが自分の望む幸せを手に入れたなら、ジョーンは幸せになれたのだろうか。
    私は何だか重い荷物を彼らから引き継いでしまったようだ。そんな、ずんと沈んだ気持ちになりながら読み終えたのだった。

    • nejidonさん
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      私もこの小説はしみじみと怖いのですよ。
      ホラーでもミステリーでもないのに、読んでる間も読んだ後も怖い。...
      地球っこさん、こんばんは(^^♪
      私もこの小説はしみじみと怖いのですよ。
      ホラーでもミステリーでもないのに、読んでる間も読んだ後も怖い。
      何で分からないの?・・でも自分はどうなの?ひとのこと、言えるの?
      そんなもやもやと黒いものが湧いてきて、付き纏う。いやぁ怖いです。
      クリスティの作品では異色ですが、名作ですよね。
      とても素敵なレビューです☆
      2020/01/30
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんばんは(*´∀`)♪

      この作品、いろんなブックガイドで紹介されているので、ずっと気になっていました。
      で、今...
      nejidonさん、こんばんは(*´∀`)♪

      この作品、いろんなブックガイドで紹介されているので、ずっと気になっていました。
      で、今回読んでみたのですけど……
      怖かった!本当に怖かったです。
      背後からヒタヒタと近づいてくる黒い影に呑み込まれそうになりました。
      まさにnejidonさんと同じような気持ちで、ジョーンのことと自分のことを思ってました。
      こんなに心を抉られるような読後感は滅多に味わえないです。
      はぁー、クリスティってすごい、そして恐ろしい作家だわ。

      コメントありがとうございました♪
      2020/01/30
  • アガサ・クリスティの小説。この小説はミステリーじゃない枠ですが、ミステリーだと感じるところも。
    私にとって読み終わっていちばんミステリーだったのはロドニーの気持ち。

    いろんな違う環境、立場隔たりのある人々のなかで、ジョーンは娘の家族を見舞う旅で祈り(祈っちゃったから神さまが叶えちゃって)回心にたどりつく。

    この物語の下敷きには、シェイクスピアのソネット(14行詩)がある?この物語を暗唱したり読んで育ったふたりの言動や想いに影響を与えているんじゃないかって、ソネットをゲットしてみてやっぱりそう思います。小説を読み終わってもなんだかモヤモヤしてて、ソネットも読んでみてやっとこの小説が終わった感がある。
    この小説は、ソネットへのオマージュという風にも思えるし、その影響力への風刺という風にも思える。ソネットをもっとしっかり読むとまた違う感想があるかも。

    小説のなかの「シェイクスピアも人の子」っていう言葉がとても好き。

    結婚は契約で連帯の意図の証明という言葉も。

    それから、ジョーンの両親のお話あたりから「母のようになれば子どもは苦しむと思ったんじゃないか」と考えが変わって、ジョーンに対する私の気持ちの大切な転換点だった。

    ジョーンの女学院のギルビー先生の言葉も好き。的確な考察を贈られているからといって素直にキャッチできたら苦労はしなくて、わかっていながら逆らってしまう自分もいる。ちょっとジョーンに同情も。

    それから、誰かが一緒に歩いているような気がするけど誰もいないっていうシーンを読んで、足跡がひとつしかない、でもそれはキリストがあなたを背負って歩いていたからだっていうお話を思い出して、次の展開がわかった気がする。

    ブランチの、あなたへの借金ふみたおして気になんかするもんですか、に「ブランチ・ハガードなるほど感」が増した。そらあかん。
    最後に憧れのオリエント急行がでてきてドキドキ。出会うサーシャを最初はスパイかと思った。心情を的確にキャッチ、主人公が吐露すると彼女のイギリスをdisりはじめるから。でも、理由はその章を読んでしまうまでわからない。知ると納得することで、背景や理由も知らずに言葉の行方を決めるのは危険なことだと最後までこのお話は伝えていた。

    最後のロドニーの言葉は、ジョーンへの憐憫にとれる言葉で終えている。その彼女が回心という大きな恵みを受けたことを気付かないという真実はこの物語の肝?

    ジョーンは誰の決断も尊重しない。彼女の価値観だけが彼女のものさし。それにジョーン以外の誰もが気付いていることがなによりの救い。回心は彼女にしかできないから。補いあって保たれているこの家族に、結婚は契約という言葉がとても響く。

  • 初アガサ・クリスティー。出張の機内で読んだのですが、今どき個人用モニターもついていない国際線で4時間ばかりを過ごしたので、本著の主人公と同じような乾いた気持ちになりました(笑
    本著のストーリーの中ではまったく人は死なないんですが、読み進むにつれてこうもゾクッとする本はなかなか無いと思いました。サスペンスですね。そしてどうしても自分は大丈夫か?と考えてしまうという。。

    第二次世界大戦前のザ・大英帝国な中での話にもかかわらず、まぁ現代日本でも全く同じような困りごとは変わらず残っていて、人間って本当に難しいものなんだなぁと感じました。ジェーンはじめ、出てくる人みんな、こういう人近くにいるよ!って人ばっか。
    そういう意味では、本著の存在ってのは読書家みなを強制的に省みさせる効果があると言うか、未来永劫にわたってクリスティーの作ったひっかき傷は人間社会に残っていくんじゃないかと思います。読後感のいやーな感じがあればあるほど、実際の世の中が良くなると・・・良いなぁ。

  • ラストシーンがとても悲しい本だった。
    自分自身ジョーンと似通った部分があったのでジョーンの気持ちや心情はよく理解できたのだが、だからこそラストシーンはとても悲しかった。

    アガサクリスティーは推理小説作家というイメージが強かったので、ミステリー以外の小説があることに驚いたのだが、この本は心理描写がとても繊細でクリスティーは作家としての才能もすごくある人だと感じた。

  • タイトルがとても素敵、というところから読み始めるととんでもないことになる。
    ある意味殺人事件より恐ろしいクリスティの名著。
    本当は自分が一番可愛い、独善的な主人公に嫌気がさしつつも、どこか他人事に思えないのも恐い。ここに描かれる、気づかないことの悲劇と幸福というのも、結構日常的に転がっている問題のように思う。

  • この小説を読んで何も感じない者は幸福である。

    完璧な妻、そして母であることを自認するジョーンは、
    体調を崩したという末娘を見舞うため、
    嫁ぎ先のバグダッドへ赴いた帰り、
    乗り継ぎ列車に間に合わず、
    トルコのテル・アブ・ハミド駅のレストハウスに泊まる。
    天候の関係で遅れに遅れ、なかなか来ない列車を待ちながら、
    かつてない暇な時間を手に入れた彼女は
    否応なしに来し方を振り返り、
    自分が犯してきた過ちに思いを致すこととなる……。

    視野が狭く想像力が貧困で、他者の痛みに極端に鈍感な女が、
    初めて内省によって己の愚かさを自覚する話。

    主人公は私の大嫌いなタイプの女。
    読ませたい人が何人かいるけど、
    鈍いヤツにはどうせ通じないか(苦笑)。

    狭い範囲の問題にさえ、まともに向き合えない人間は、
    戦争が始まると言われても「まさか」と一笑に付すばかり――
    という描写が鋭く、恐ろしい。

    宿泊所のインド人管理者がマメでイイ奴。
    私なら、有り余る時間を、差し向かいで紅茶を飲みつつ
    身の上話を聞かせてもらって過ごすと思うけどなぁ。

  • 大学生の頃初めて読んで…衝撃でした。
    自分の中にもジョーンの要素があると感じ、
    それだけに、彼女のようには絶対なりたくないと思った。
    本当におそろしいです。
    ちなみに、これを読んでから、人に実年齢より若く見られたいと、
    全く思わなくなりました。
    (ジョーンは、実際よりずっと若く見えるのです。
    自分の人生で背負うべきものを背負ってこなかったから…?)

    一度読んだら忘れられない物語です。

  • どこがロマンチック・サスペンスなのかさっぱり分からない;
    レビューを見ても、「悲しい」「怖い」という意見が大半。
    自分読んだ感想としては悲しくはあったが、怖いというよりも、怒りの方が強かった気がする。
    あとがきは、自分の言いたいことを書いてくれた。でも他にも言いたいのは、この主人公は自分の本当の姿に気づいたとき、誰のせいにもしなかったこと。
    夫の場合は常に妻のせいにして、本人が気づかないと思って子供の目の前で当てつけみたいに話すは、最後も上から目線がうざくて本当に最低最悪。
    矯正させなかったのも、主人公と比較された場合の、まわりの人間からの同情や仲間意識をひきたかったからではないのか?
    現実にいたらこの主人公を煙たく思い、夫の方に同情するだろうが、この本を読み、悲痛な叫びを聞いたら、つい主人公寄りになってしまう。
    「怖い」という意見がされたラストだが、これも仕方がないのではないかな、と思ってしまう。
    場所が場所だし。これが非日常的な場所で再会したらまた違った展開になったかもしれないが。
    ただ、変わらないで終わってしまったのは、主人公が逃げたせいだが、作中で「分かっていたが、分かりたくなかった」
    と書いてあることから、ただの鈍感ではなく、臭い物に蓋的な、自己防衛機能に近いのかなと思った。
    だから、もし似たようなことが起こってまた同じように自己認識した時には、今度こそ変わって欲しいと願う。
    それにしても夫以外の家族も最低だった。たしかにはた迷惑な人間だが、ここまで軽蔑して嫌う程ではないと思う。
    綺麗なタイトルからは、想像もつかないほど重い内容。読むのには少し気力がいる。

  • 人の死なないサスペンス。ジョーンは家族から遠く離れた場所で一人、物思いにふける。回想の中で、彼女は今まで目を伏せてきた真実に気づき始める。

    この展開がめちゃくちゃ面白い。


    主人公のジョーンが鼻持ちならない奴で。同級生をかわいそうとこき下ろし自分は良妻賢母と信じて疑わない態度にかわいそう、と思ってしまう。
    でも、そんなふうに感じる私自信が、この人の気質(自己満足)を持っているようで、ゾッとする。

    それこそがアガサクリスティの狙いなのかもしれない。読者の中にいるジョーンを暴きたてることが…。

    怖い!

    大竹しのぶさんとか、少し若いけど松たか子さんとかで、舞台にしてくれないかなぁ。

  •  バクダッドに住む娘の病気見舞いからの帰り道、ジョーンは昔の友人と再会する。ジョーンは友人の境遇を憐み自分の現在の幸せをかみしめ、宿泊所に泊まるが翌日になっても列車は来ずジョーンは何もない宿泊所に足止めされることになる。

     解説で栗本薫さんがこの本のことを「悲しい本ではなく哀しい本であり、そして怖ろしい本」と評されていますが、まさにその言葉通りの本です。

     足止めを食らったジョーンは暇をつぶせるものも何もない宿泊所で、自身のこれまでの人生を振り返ります。
    心理描写と回想の描写がとても上手いです。自分もどうしようもなく暇なとき、特に子供の頃は様々な空想で遊んだ思い出がありますが、空想ってやっているうちにとんでもないところまで考えが行ってしまう時があると思います。

     そのように、一度考え始めると際限なく広がり続ける想像や空想といったものがとても上手く書き込まれていました。

     そしてその想像、空想が行きつく先、そしてジェーンが下した結論の哀しさ、気づいてしまった時の恐ろしさと本当にクリスティーは人間心理をつくのが上手いと思います。

     エピローグもとても印象的。キリリと冷たい肌触りの刃を肌になぞられたような冷たさと、ある意味での救いのなさがこれ以上ないくらい表現されていたと思います。
     最後に読者とジェーンを突き落す構成と筆の巧さは
    ミステリ作家クリスティーの面目躍如といった感じ。それと心理描写の巧さが合わされば、読者である自分には抵抗のすべはなかったですね…。

     誰にでも身に覚えのありそうな罪の話だけに、エピローグも含め本当に哀しく恐ろしい小説だったと思います。

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