春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300813

感想・レビュー・書評

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  • アガサ・クリスティーの「裏名作」

    アガサ・クリスティーというと「ミスマープル 」や「名探偵ポアロ 」などの名キャラクター生み出し、「最初に読むべきミステリー」的なフェアにもいつも出てくる「そして誰もいなくなった」や「オリエント急行殺人事件」などの作者である。

    しかし、私がアガサ・クリスティーの作品の中で1番好きな作品が本作。しかもミステリーじゃない。

    この作品は「オエー系小説」と言われている(私の中で笑)
    読んでいると自分の見たくない部分が小説の登場人物と重なって見えたりして「吐きたくなる」、読後感が爽やかではなく「吐きそうな程」嫌だったり、恐ろしい感じがするけど「なんか凄い作品を読んじゃった」と思う作品を「オエー系小説」と呼んでいる。

    そしてこの作品は、ベストオブオエー。

    読後、正直何も思わない人もいるかもしれない。
    「あぁ、ただの女の人の独り言か…」と。
    けど私は非常に怖い作品だと思った。幽霊は出てこないけど、人間って怖いと感じた。しかも自分の中にもそういった怖い要素があると思ったから余計怖い。
    知らない自分を掘っていくというのは、恐ろしい事に思えてしまう作品。

    最後に何回も「吐く」というお下劣な言葉を何回も入れてしまった事を謝罪しますm(_ _)m

  • 春だし、と思ってタイトルだけで選んで読んでみたけれど、新型コロナウイルスの影響で人と距離をとっている今、ものすごく身につまされるというか、漠然とした不安が次々に襲ってくるというジョーンの心境が手に取るようにわかる。
    手持無沙汰で内省する時間があるということが、人をいかに不安に誘うかという、今全人類が向き合っている問題のようだった。
    まぁ、ジョーンは結局のところ変われる機会を得たのにそのチャンスを全く生かせず、人間はそうそう変われるものではないという悲しい一面を見せつけられたけど、反面教師にしたい人物だった。

  • この小説を読んで何も感じない者は幸福である。

    完璧な妻、そして母であることを自認するジョーンは、
    体調を崩したという末娘を見舞うため、
    嫁ぎ先のバグダッドへ赴いた帰り、
    乗り継ぎ列車に間に合わず、
    トルコのテル・アブ・ハミド駅のレストハウスに泊まる。
    天候の関係で遅れに遅れ、なかなか来ない列車を待ちながら、
    かつてない暇な時間を手に入れた彼女は
    否応なしに来し方を振り返り、
    自分が犯してきた過ちに思いを致すこととなる……。

    視野が狭く想像力が貧困で、他者の痛みに極端に鈍感な女が、
    初めて内省によって己の愚かさを自覚する話。

    主人公は私の大嫌いなタイプの女。
    読ませたい人が何人かいるけど、
    鈍いヤツにはどうせ通じないか(苦笑)。

    狭い範囲の問題にさえ、まともに向き合えない人間は、
    戦争が始まると言われても「まさか」と一笑に付すばかり――
    という描写が鋭く、恐ろしい。

    宿泊所のインド人管理者がマメでイイ奴。
    私なら、有り余る時間を、差し向かいで紅茶を飲みつつ
    身の上話を聞かせてもらって過ごすと思うけどなぁ。

  • きっかけは鴻上尚史さんのほがらか人生相談でおすすめされていて。定期的に読み返しておきたい人生の道を踏み外さないための教本。

  • 怖い怖いとよく聞くが、どう怖いのか?と気になり図書館で借りてきた。
    読後、人間は恐ろしいな、と感じた。
    夫と子どもたちのことを一番に考えて行動していると信じて疑わないジョーン。でもそれは本当に相手にとって最良だったのか?自分のものさしでばかり物事をはかって、それを相手に押し付けているだけではないか?他人をコントロールしようとすることの愚かさを改めて思い知った。旅がきっかけでそのことに気付いたけど結局は目を背け続けることを選択(万華鏡に例えるのはすごく印象的だった)したジョーンは可哀想だが、夫と子どもたちにも責任はあると思う。でも他人をコントロールすることは絶対にできないので、自分で気付いて行動するしかないんだなぁと思った。ジョーンのように自分の考え、価値観を相手に押し付けるのは、誰でも心当たりあることだと思う。気をつけていきたいなと思った。

  • 決して他人事・昔のことではないなぁ。

    主人公のジョーンは独善的で人を見下してて「嫌なやつだなぁ」と思うんだけど、じゃあ読み手である自分にそういう側面はないの?って聞かれると「いや、あるなぁ」と。
    結局改心しないのもまぁ、あるあるだよね。旅行から帰ってきて現実に戻ったら思考が現実モードになるのはよくあることで。
    ロドニーがジョーンに強く出られないのとか、今でもよくある理解ある彼くんの構図だなー。

    もっと年をとってから、もう一度読み返してみたい。

  • おっさんおばさんになってから、その哀しさや恐ろしさ、滑稽さがやっとわかる本もある。読者の年齢だけではないが、フィクションとはそういうものなのかもしれない。

  • 傑作だと思いました。なぜなら、簡単な二元論での理解を許そうとしていないように思えたからです。

    ジョーンが愚かで、ロドニーは可哀想だったのか。
    ジョーンが身勝手で、子供たちはそれに振り回され不幸にされたのか。

    もちろん、一見すると簡単な構図に落とし込める。でも、たとえば解説で栗本薫氏が述べていたように、ロドニーにはロドニーの、子供たちには子供たちの問題があるし、ジョーンを「可哀想」にしたのは周りだとも言える。

    終盤であらわれる、万華鏡のイメージのように、この本もまた、見る人の立場や経験、心情によってガラリと姿を変えるのではないかと思います。

    だからこそ、色褪せないと思う。

  • この世のあらゆる罪人に読んでほしいと思う。この物語では、自分が間違いを犯したことに気づきながら、自分に都合の良い、見たいものだけを見て、自分を正当化し、周囲が取り返しのつかない事態に至ることを止めないという、恐ろしいふうふの思考と行動が描かれる。ヒトラーのナチズムの危うさ、戦争の迫り来る足音に気づきながら、戦争は起こらないと都合よく信じ、自分達には関わりないこととでもいうように無視し続けた庶民の思考と同じである。アガサ・クリスティがロドニーを一見良い人、ジョーンの被害者のように描いているところも、確信犯的だと思う。アガサ・クリスティは、一方が悪で他方は善などという単純な二項対立で思考停止するなと我々に警告してくれる。善の中に潜む悪。愛の名の下に自己満足な押し付けをして周囲の人生を奪っていくジョーンだけでなく、ロドニーもまた、友人の妻に横恋慕しただけでなく、自分の娘が20歳も年上の権威ある人物にグルーミングされ性的搾取されても、なんとそれを真剣な恋などと言い正当化して疑わない人物なのだ。非常に恐ろしく思った。【愛】【恋】【善】を建前にして(そしてその愛、恋、善が時に真実でありながら)、取り返しのつかない罪を他者に(家族も、子どもも、他者だ)対して犯したり、取り返しのつかないことをしていると気づいても安穏と自分の平穏を守りたいために都合の悪いことを見て見ぬふりをする人が、この世には、なんと多いことだろう。この小説は、人間が他者に対して平凡なる日常において犯す取り返しのつかない悪、法律でさばけない悪を描き、いかに生きるかと警告してくれる。人間は変われる、罪を犯さず生きられる、罪を犯しても更正できる、私に罪を犯した者は謝罪し更正してくれるはず、と私はそれでも信じたい気持ちを持っていることに気付き、性善説もまた日常に巣食う毒だと苦しく思った。

  • ロマンチック・サスペンスと銘打たれているけれど、探すつもりもなかった自分を見つけてしまうサイコホラーのような、旧来の考えから脱却しようとする女性に関する考察のような、環境と思考の関係を問うスピリチュアルを扱っているような…ミステリではないし、アガサ・クリスティー名義で出版しなかったのももっともだと思うけど、恐いお話には違いない。

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