春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

制作 : 中村 妙子 
  • 早川書房
4.04
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本棚登録 : 2061
レビュー : 313
  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300813

作品紹介・あらすじ

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • アガサ・クリスティの小説。この小説はミステリーじゃない枠ですが、ミステリーだと感じるところも。
    私にとって読み終わっていちばんミステリーだったのはロドニーの気持ち。

    いろんな違う環境、立場隔たりのある人々のなかで、ジョーンは娘の家族を見舞う旅で祈り(祈っちゃったから神さまが叶えちゃって)回心にたどりつく。

    この物語の下敷きには、シェイクスピアのソネット(14行詩)がある?この物語を暗唱したり読んで育ったふたりの言動や想いに影響を与えているんじゃないかって、ソネットをゲットしてみてやっぱりそう思います。小説を読み終わってもなんだかモヤモヤしてて、ソネットも読んでみてやっとこの小説が終わった感がある。
    この小説は、ソネットへのオマージュという風にも思えるし、その影響力への風刺という風にも思える。ソネットをもっとしっかり読むとまた違う感想があるかも。

    小説のなかの「シェイクスピアも人の子」っていう言葉がとても好き。

    結婚は契約で連帯の意図の証明という言葉も。

    それから、ジョーンの両親のお話あたりから「母のようになれば子どもは苦しむと思ったんじゃないか」と考えが変わって、ジョーンに対する私の気持ちの大切な転換点だった。

    ジョーンの女学院のギルビー先生の言葉も好き。的確な考察を贈られているからといって素直にキャッチできたら苦労はしなくて、わかっていながら逆らってしまう自分もいる。ちょっとジョーンに同情も。

    それから、誰かが一緒に歩いているような気がするけど誰もいないっていうシーンを読んで、足跡がひとつしかない、でもそれはキリストがあなたを背負って歩いていたからだっていうお話を思い出して、次の展開がわかった気がする。

    ブランチの、あなたへの借金ふみたおして気になんかするもんですか、に「ブランチ・ハガードなるほど感」が増した。そらあかん。
    最後に憧れのオリエント急行がでてきてドキドキ。出会うサーシャを最初はスパイかと思った。心情を的確にキャッチ、主人公が吐露すると彼女のイギリスをdisりはじめるから。でも、理由はその章を読んでしまうまでわからない。知ると納得することで、背景や理由も知らずに言葉の行方を決めるのは危険なことだと最後までこのお話は伝えていた。

    最後のロドニーの言葉は、ジョーンへの憐憫にとれる言葉で終えている。その彼女が回心という大きな恵みを受けたことを気付かないという真実はこの物語の肝?

    ジョーンは誰の決断も尊重しない。彼女の価値観だけが彼女のものさし。それにジョーン以外の誰もが気付いていることがなによりの救い。回心は彼女にしかできないから。補いあって保たれているこの家族に、結婚は契約という言葉がとても響く。

  • タイトルがとても素敵、というところから読み始めるととんでもないことになる。
    ある意味殺人事件より恐ろしいクリスティの名著。
    本当は自分が一番可愛い、独善的な主人公に嫌気がさしつつも、どこか他人事に思えないのも恐い。ここに描かれる、気づかないことの悲劇と幸福というのも、結構日常的に転がっている問題のように思う。

  • この小説を読んで何も感じない者は幸福である。

    完璧な妻、そして母であることを自認するジョーンは、
    体調を崩したという末娘を見舞うため、
    嫁ぎ先のバグダッドへ赴いた帰り、
    乗り継ぎ列車に間に合わず、
    トルコのテル・アブ・ハミド駅のレストハウスに泊まる。
    天候の関係で遅れに遅れ、なかなか来ない列車を待ちながら、
    かつてない暇な時間を手に入れた彼女は
    否応なしに来し方を振り返り、
    自分が犯してきた過ちに思いを致すこととなる……。

    視野が狭く想像力が貧困で、他者の痛みに極端に鈍感な女が、
    初めて内省によって己の愚かさを自覚する話。

    主人公は私の大嫌いなタイプの女。
    読ませたい人が何人かいるけど、
    鈍いヤツにはどうせ通じないか(苦笑)。

    狭い範囲の問題にさえ、まともに向き合えない人間は、
    戦争が始まると言われても「まさか」と一笑に付すばかり――
    という描写が鋭く、恐ろしい。

    宿泊所のインド人管理者がマメでイイ奴。
    私なら、有り余る時間を、差し向かいで紅茶を飲みつつ
    身の上話を聞かせてもらって過ごすと思うけどなぁ。

  • 大学生の頃初めて読んで…衝撃でした。
    自分の中にもジョーンの要素があると感じ、
    それだけに、彼女のようには絶対なりたくないと思った。
    本当におそろしいです。
    ちなみに、これを読んでから、人に実年齢より若く見られたいと、
    全く思わなくなりました。
    (ジョーンは、実際よりずっと若く見えるのです。
    自分の人生で背負うべきものを背負ってこなかったから…?)

    一度読んだら忘れられない物語です。

  • どこがロマンチック・サスペンスなのかさっぱり分からない;
    レビューを見ても、「悲しい」「怖い」という意見が大半。
    自分読んだ感想としては悲しくはあったが、怖いというよりも、怒りの方が強かった気がする。
    あとがきは、自分の言いたいことを書いてくれた。でも他にも言いたいのは、この主人公は自分の本当の姿に気づいたとき、誰のせいにもしなかったこと。
    夫の場合は常に妻のせいにして、本人が気づかないと思って子供の目の前で当てつけみたいに話すは、最後も上から目線がうざくて本当に最低最悪。
    矯正させなかったのも、主人公と比較された場合の、まわりの人間からの同情や仲間意識をひきたかったからではないのか?
    現実にいたらこの主人公を煙たく思い、夫の方に同情するだろうが、この本を読み、悲痛な叫びを聞いたら、つい主人公寄りになってしまう。
    「怖い」という意見がされたラストだが、これも仕方がないのではないかな、と思ってしまう。
    場所が場所だし。これが非日常的な場所で再会したらまた違った展開になったかもしれないが。
    ただ、変わらないで終わってしまったのは、主人公が逃げたせいだが、作中で「分かっていたが、分かりたくなかった」
    と書いてあることから、ただの鈍感ではなく、臭い物に蓋的な、自己防衛機能に近いのかなと思った。
    だから、もし似たようなことが起こってまた同じように自己認識した時には、今度こそ変わって欲しいと願う。
    それにしても夫以外の家族も最低だった。たしかにはた迷惑な人間だが、ここまで軽蔑して嫌う程ではないと思う。
    綺麗なタイトルからは、想像もつかないほど重い内容。読むのには少し気力がいる。

  • 人の死なないサスペンス。ジョーンは家族から遠く離れた場所で一人、物思いにふける。回想の中で、彼女は今まで目を伏せてきた真実に気づき始める。

    この展開がめちゃくちゃ面白い。


    主人公のジョーンが鼻持ちならない奴で。同級生をかわいそうとこき下ろし自分は良妻賢母と信じて疑わない態度にかわいそう、と思ってしまう。
    でも、そんなふうに感じる私自信が、この人の気質(自己満足)を持っているようで、ゾッとする。

    それこそがアガサクリスティの狙いなのかもしれない。読者の中にいるジョーンを暴きたてることが…。

    怖い!

    大竹しのぶさんとか、少し若いけど松たか子さんとかで、舞台にしてくれないかなぁ。

  • 殺人ミステリーのアガサ・クリスティが、心理的小説を書いていた。
    身勝手な夫人が主人公で、旅先でのアクシデントにより、考える時間が余るほどあり、人生を振り返る話である。生きていく上では真面目な夫人だが、周りからはどのように思われているのか、良かれと思ってやっている行動が本当に良いことなのか、子供や夫とのコミュニケーションを振り返りながら見つめていく。自己中心的に考えそうになるとき、思い出したい一冊である。

  • なんというか…序盤から普段蓋をして生きている部分を針でチクチクを刺されているような気分。ジョーンを笑い飛ばせる人になりたかったと思いつつも、胸に針で刺すような痛みを感じる私は確実にジョーン側の人間であるわけで。

    結局ジョーン然りロドニー然り、すべての人間は己の見たいもののみを見て、その世界でしか生きることができないのかもしれない。それを中から見るか、外から見るかの違いしかなくて、どちらに幸不幸があるのかがわからないのが人生、なんですかね。

    …そんなことを読み終わって小一時間ほどぼーっと考えました。そんなところもジョーン側の人間である証しのようでさらに哀しくなるけれど、とりあえず読んでおいて良かったわ今のうちに。

  • アガサクリスティーのミステリーが好きで、ミステリーではないこの作品はあまり期待せずに読んだが、ページをめくる手が止まらなかった。
    どんどん回収されていく伏線にどんどんあかされていく他人から見た自分。最後の最後で「あーそうなったかー」と思わせるストーリー。さすがミステリーの女王と唸る一冊。

  • 「ミステリーの女王」が書いた、殺人などの事件が一切起こらない物語であり、ミステリーとは言えないが、心理サスペンスのような趣きを持っている。
    末娘の急病の見舞いのためにバグダードを訪問した母親ジェーン・スカダモアが、その帰路に列車が通行止めとなり、何もない砂漠の宿泊所に数日間の滞在を強いられ、家族や友人らとの過去の出来事や関係について、回想するだけの話。
    弁護士の夫を持ち、3人の子供を育て上げ、良妻賢母としての自負を持っていた主人公が、何日も何日も自分のことや他者との関わりについて考えることで、その自信を失っていき、見たくないものを見ようとしなかったことを知り、本当の自分の姿に気づき、心理的に追い詰められていく過程の描写には鬼気迫るものを感じた。
    社会的には一応立派で成功していると見なされている人物の内面に潜む危機、闇の部分を見事に浮かび上がらせている。
    主人公が旅から戻ると、砂漠の中で考え、感じたことを幻と感じてしまうというラストも、皮肉で風刺が効いていて、作者らしい。

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