ねじれた家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 早川書房
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感想 : 86
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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151300875

感想・レビュー・書評

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  • 「アガサ・クリスティー読み直しキャンペーン」の第4弾です

    お久しぶりになってしまいました
    この後も「ディック・フランシス感謝祭」とか「江戸川乱歩ワールドツアー」とか「ヤマザキ春のパンまつり」とかいろいろ控えてるんですが
    読みたい本が次から次へと出てくるんでどうしても再読は後回しになりがちです
    でもやっぱり読み直して良かったなぁと思わせるクリスティーの名作中の名作『ねじれた家』です

    この作品はクリスティーの晩年の名作なんですが、クリスティーらしいどことなくユーモアのある軽快な会話の妙で物語が進みつつ、全く新しいミステリーの形になっていて、まだ新しいアイディアが出てくるのか!という驚き
    誰もがわかる安心安定なクリスティー節と初めての世界観の提示という完全に矛盾することをサラッとやってのけてるところはもう驚天動地です
    さすがミステリーの女王!

    次あたりはさすがにクリスティー王道のオリエント急行あたりを読みたいけどいつになるやらw

  • 大富豪と後妻、子孫が住む「ねじれた家」で起こる殺人事件。ポアロやマープルのようなお馴染みの名探偵でなく孫娘の婚約者が事件に挑む。相変わらず人間描写の上手いクリスティ。面白かったが誰も信用できないパターンは読んでいて不安になった。

  •  クリスティ作品は再読が多いのだが、今作は初めて読む作品だったのだ。クリスティにもその種類のミステリーがあったのかと驚愕、新しい発見だ。余り今作をクリスティのベストにランクしているものを見た事が無いが、少なからず現時点では僕のクリスティ10選に入れたい程、強く衝撃を受けた作品だ。
     「ねじれた家」という土台がありながら、そのイメージに合った世界観、環境観下でありながら、実は家族愛に満ちたレオニダス一族の物語で、クリスティ作品では金持ちは嫌な印象を与える事が多いが今作のアリスタイドは読み進めるととても好印象な人物である。しかし、その「家族愛」こそねじれの原因であり、家族一人一人が個性と歪みを持っており作品自体を「ねじれた」イメージにする一環を担っている。
     物語のスタートは戦時下のイギリス。若い二人の男女、チャールズとソフィアは気が合い、結婚を考えるが、チャールズは二年感東洋での任務がある。彼はソフィアに二年後ロンドンでまだ自分達の気持ちが変わらなければプロポーズしたいと伝え、彼女も了承。その時初めて彼女が大金持ちの孫娘である事を知る。
     二年後、任務を終えイギリスに戻り、ソフィアと再会するが、その際に彼女の祖父アリスタイドが亡くなった事を知る。ソフィアは結婚自体反対ではないが、祖父の死に疑念があり、それが解決しなければ家族が原因で暗いモノを引きずるかも知れないため、真相の解明を望む。チャールズの父親は警視総監であり、警察の捜査とともにソフィア達の暮らす通称「ねじれた家」を訪問する。
     あからさまな探偵役が乏しい為、一体真相はどうなのかが終盤まで明かされない。ソフィアの妹が探偵役の片鱗を見せるが、中々チャールズに伝わらない。ソフィアの家族達は何かを感じている様でありながらそれも読者には明らかにされないもどかしさもあり、不穏な空気感漂う世界観が続いていく。
     今作の真相について、有名作家の作品には必ずある種類の真相であり、ある意味でフーダニットの王道になるが、当時はまだ少なかった手法だろう(ネタバレになるので作品名は挙げないが、クイーンのシリーズが挙げられる)。ミステリー好きなら読みながら犯人を推測するが、一番衝撃的なのはという事で二名程怪しんでいたがそれでも充分に驚いた。
     また、結末についても慈愛に満ちたものであり、登場人物のイメージがガラリとかわる。結末も先程挙げたクイーンの作品と同じプロットなのだが、こちらの方が印象が強い。完成度が非常に高く、作中でクリスティ特有の伏線や匂わせがあるにも関わらず気持ち良く騙される。
     チャールズ、ソフィアもそうだが、エディス、ジョセフィンと活躍する人物が多い。特にジョセフィンは12歳で有りながら一部探偵役を担いチャールズは振り回される様がワトソンの様だ。
     非常に面白く、是非おすすめしたい作品。実は読み易く余りクリスティを読んだ事がなくても勧めたい。

  • ねじれた家に住む心のねじれた老人が毒殺された。ひねくれた家族と巨額の財産を遺して。疑いの目は若い後妻と家庭教師に向く。殺された祖父を慕う愛情深い家族に見えたが、少しずつそのねじれが顔を見せ始める──。

    一つ前に読んだ『パディントン発4時50分』のクラッケンソープ家は当主がドケチで兄弟仲も険悪だったけど、当主・アリスタイドが太っ腹なレオニデス家は平和──ってことはなかった!愛情があるからこそもつれ合う人間関係もある。まさに対照的。鋭い人間心理の洞察がミステリに活きる。

    主人公・チャールズの父であり、警視庁副総監でもあるヘイワードの助言がまた濃密。アガサ・クリスティー作品全体に通じる人間哲学を語っている。犯人は犯罪を犯した孤独から多弁になる。だからこそ対話から真実を引き出すのだ。対話で紡いだ糸のねじれがほどけた時の哀愁がすごい。積み木でできた家が崩れてしまったような空虚感の余韻がたまらない。

    アガサ・クリスティーの作品はいろいろ読んできたけど、名探偵不在のノンシリーズの方が好みかも。『春にして君を離れ』『終りなき夜に生れつく』『ゼロ時間へ』も大好き。名探偵がいない分、語りが多くなっているからだろうか。
    最後に印象深い文章を引用して終わります。副総監の言葉はもっと引用したいけど、長文すぎるので買って読んでください(笑)

    p.47
    「ほんとに、あたしたちって、なにも知らないんだわ。そうじゃない? つまり、人間て他人をひどく意外に思わせることができるということなの。この人はこうだと思いこんでいる、と、それがとんでもない間違いだという場合が、ときたまあるわ。」

    p.164
    「彼自身は正直な人間なんですが、悪い人間を信用したのが間違いのもとだったのです。そのためいつも大事な時にまちがってしまったのですね」

    p.180
    「おまえはいいことを考えている。殺人犯人を身近に感じることが大切だよ。離れて見ていては駄目だ」

    p.182,183
    「犯罪者には、一種のみえというものが必ずある。十中八、九まで、その動機には虚栄心が働いているんだ。罪を犯したあとでも、捕まるのが恐いくせに、空威張りしたり自慢したり、自分は捕まるようなばかではないとたかをくくっていたりするのだ。それからもう一つ。犯人はお喋りということだ」
    「お喋り?」
    「そうだ。反抗を犯したあとは、ひどく孤独な気分に襲われるものだ。それに、やったことをだれかに話したいのだが、そういうわけにはいかない。だからなおさら話したくてたまらなくなる。その結果、事件を他人事として、人と議論したり、意見を交換したりするようになる。」

    p.225
    「そうなの。うちの家族はあんまり仲がよすぎていけないのよ。あんまりお互いに愛しあいすぎるの。家族によっては、お互いが敵ででもあるかのように憎みあっていることがあるわ。それもあまりいいとは言えないけど、うちの家族みたいに愛情がもつれあったような形で暮らしているのはもっとよくないと、あたし、思うの。
     と言うのはね、家族みんながちいさな“ねじれた家”の中に、一緒にごたごた住んでいるということなのよ。“ねじれた”と言ったのは悪い意味じゃなくって、ひとりひとりではまっすぐに立っていられないという意味なの。それぞれが、ちょっと曲がったり絡みあったりしてるということよ」

  • みんながみんな怪しすぎる。そして、家族なのにお互いを怪しんで陰口を言ってみたり、上っ面だけの褒め言葉を言ってみたり。途中少し飽きてしまったけど、なんとか後半2/3あたりまでたどり着いてからは一気読み。
    この人特に怪しい!と思っていたら、全く違った。戻ってパラパラ再読してみたらところどころヒントがあるじゃないか!!最後の結末はあらあらビックリ。
    しかし…訳がもう少し自然だと読みやすい。なんだか不自然な訳がちらほらでわかりづらいところもあった。。

  • アガサ・クリスティはたくさん読んだが、まだこんな傑作があったとは。
    人間模様を読んでるだけでも面白く、最後に唸らされる、いかにもクリスティという作品。
    ポアロでもミスマープルでもないが、先入観なく読むことをおすすめします。

  • きっと犯人はソフィアだろうという偏見を抱きながら読んでいたので、真相が判明して大分呆然としてしまった。登場人物はどいつもこいつも癇に障るタイプではあったけれど、だからといって『ねじれた家』に住んでいたせいでねじれた人間になり、こんな惨事が起きたのだ、と考えるのはさすがに可哀想に思えて困った。そうやってひどい動揺を与えてくるところまで含めて、なかなか恐い話だったと思う。

  • アガサ・クリスティー作品としては珍しく、探偵役が居ないといえる作品。代わりに、人間模様が非常に繊細に描かれており、それを読んでいて非常に楽しめる。
    本巻のポイントは、遺産関係などのいつもの動機をいつも通り使わないことでミスリードを導いているところだろうか。
    正直、最後の展開は予想通りで個人的には意外性は少なかったのだが、展開の持ってゆきかたには素晴らしいものがあると感じた。

  • ノンシリーズ物。すごく面白かった!!犯人に驚いたけど、読み返すと至る所に伏線が張られていた事に気がつく!!

  • ねじれた家に住む邪悪。

    婚約者ソフィアの祖父が殺された。副総監を父に持つチャールズは、彼女との結婚のために事件解決に挑む。亡くなった老人の若い後妻が犯人か、それとも息子たちか。家族内での疑いの目。何かを知っているそぶりを見せる子ども。明らかになった犯人は——。

    クリスティーらしくキャラクターが立っていて、そのセリフを楽しむだけでもぐいぐいと読ませる。正義感というよりは、ソフィアとの結婚のためというべきかもしれないチャールズの関わり方が、警察でないだけ家族から様々な証言を引き出す。明らかに怪しい若い後妻にチャールズが同情し、ソフィアに憤慨されるのも様式美。

    真相は、ある意味では読者の死角をついたもの。ひねくれたミステリ愛好家なら犯人がわかって読めるのかもしれない。犯行は誰に可能だったのか、誰にでも可能だった。また、一般的な犯罪者の性格を分析したチャールズの父のセリフもきっちりと犯人を指し示している。やられた、というのが快感で、しかしじっとりと怖さも感じる。

    解説にもあるように、初クリスティーにはお勧めしないが、クリスティーを読み進めてきた人にはぜひお勧めする。

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