ポアロのクリスマス 新訳版 (ハヤカワ文庫)

  • 早川書房 (2023年11月7日発売)
4.06
  • (19)
  • (37)
  • (15)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 425
感想 : 30
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 本 ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151310171

作品紹介・あらすじ

富豪の一族が久方ぶりに集った館で、偏屈な老当主が殺された。犯人は家族か使用人か。聖夜に起きた凄惨な密室殺人にポアロが挑む

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 血族を聖夜に呼び寄せた偏屈な老当主・シメオン。元から不仲だった血族に辛辣な言葉を浴びせかけた彼は、密室でその代償を払うことになった。疑心暗鬼に囚われた家族から、ポアロは真相を導き出す!

    クリスマスだし『ポアロのクリスマス』を読むぜ!という勢いで選んだら、これがとんでもない傑作だった!アガサ・クリスティーから届いた「血が大量に流れる元気で凶暴な殺人」という時代を超えたクリスマスプレゼント。密室殺人というミステリを彩るのは、金で子を支配してきた親、長きにわたる家族の不協和音、そこに放り込まれた思いも寄らぬゲストという人間ドラマたち。物質的な豊かさを与えるも、子の心理を顧みず支配する親というテーマは現代にも通じるよね。

    ポアロのクリスマスに対する洞察が面白い。クリスマスには善意の精神で振る舞い、意見が合わなかった者同士でも一時的に和解すべきだという偽善が生まれる。まったく顔を合わせていなかった家族が集結する強い緊張感と、大いに飲み食いする中での消化不良が短気を誘発させ、本来あった不和が犯罪という芽を出してしまう。クリスマスという幸せだとされるイベントの裏側を射抜いた言葉が印象深い。

    不仲な家族を呼び出しておいて、不和に薪をくべるが如く煽り散らかす当主・シメオン。跡継ぎとして尽くしてきたのに振り回される長男、犯罪歴があり放浪していた次男、政治家で倹約家ながら金に困る三男、母に対する侮辱を恨み続ける四男、誰が行動を起こしてもおかしくない!さらには、夫と義父の関係を見つめる妻たちの苦悩や選択も重なっていく。ぼくは四男・デイヴィッドの妻・ヒルダの気迫と揺るぎない姿勢が好き。あと、亡くなった長女の娘・ピラールの天衣無縫さもいいよね。子どもたちに繋がれた糸を引くシメオンの懐に飛び込み、気に入られながらも無邪気に真実を突く感じがよかった。

    終盤の推理劇も圧巻。血筋をひっくり返してぶちまけるような逆転劇の数々に唸るしかない。想像していた二段階くらい奥に真相があって、清々しいほどにやられたなあ!という気持ちにさせてくれる。読後感もよく、クリスマスのお供にぜひどうぞ!


    p.27
    「お金のことだけを問題にするなら、お義父さまはとても寛大よ。それは認めます」とリディアは言った。「でも、そのかわりに、わたしたちが奴隷のようにふるまうのを期待なさってるのよ」
    「奴隷だと?」
    「そう、奴隷。あなたはお義父さんの奴隷そのものだわ、アルフレッド。旅行プランをすでに立てていても、突然、お義父さまに行くなと言われれば、あなたは旅の手配をキャンセルして、不満を漏らすことなく家に残るの! もし、お義父さまがわたしたちを追い出そうと気まぐれを起こせば、わたしたちは出ていくことになる……わたしたちには自分の生活がないのよ──自立できていないの」

    p.49
    「わたしは、大切なのは現在だと信じてるの。過去ではなくて! 過去は去らなくてはいけないわ。過去を生かそうとすれば、きっと過去をゆがめてしまう。誇張された時間で──誤った遠近感で──それを見てしまうから」

    p.185
    「家族のなかのいい子が手に入れるものはなにか?──惨めな挫折ですよ。いいですか、みなさん、美徳ってのは割に合わないんです」

  • ひょえ〜〜〜!そんな犯人もアリなのか!と思わず声が出てしまった作品。個人的に、先日読んだミステリーも〇〇が犯人で、〇〇も疑ってかからないといけないんだな、と少々複雑な気分です……。
    それにしても。
    クリスティーには「すごく面白い」か「面白い」作品しかありませんね、ええ。

    タイトルがそのまま『ポアロのクリスマス』ということで、この時期が来るのを待ちわびていました。しかもこのタイミングで新訳版が刊行!
    そのまえがきとして、クリスティーが義兄にあてたこんな言葉がありました。
    「『もっと血が大量に流れる元気で凶暴な殺人」を読みたいと。どこからどう見ても殺人でしかありえないものを!
     そんなわけで、これはあなたに捧げる――あなたのために書いた――特別なお話です。」
    私は特別スプラッタものが好きというわけではありませんが、この不穏な出だしにはかなりワクワクしてしまいました。

    大富豪の老人とその子供たちといえば、『パディントン発4時50分』も思い出されます。その際も個性豊かな子供たちが出てきますが、今作はそれがグレードアップ。
    各々の人生、性格や考え方、他の家族との関係性が非常に丁寧に描かれています。そして彼らを支える妻たちも三者三様。だからこそ、すっかり「家族のストーリー」に惹き込まれて騙されてしまったわけですが。。
    最後もハッピーエンドで、これが雨降って地固まるということでしょうか。彼ら「家族」が、これからはもっといい関係を築いていけたらいいなと思いました。

    最後に、ミステリーにしては珍しく付箋を貼った場所をご紹介。こうした家族ならではの難しさって、万国共通なんでしょうね……。
    p134
    「で、家族が、一年じゅう離ればなれでいた家族たちが、また一同に会するわけです。そうした状況のもとでは、友よ、非常に強い緊張が生まれるということを認めなければなりません。もともと互いをよく思っていない者同士が、打ち解けているように見せなければならないというプレッシャーを自分にかけるわけですから!(略)でも、偽善は偽善です!」
    p136
    「無理してこしらえた状況は本来の反応を引き起こします」

    (おまけ)p448
    "わたしの場合は、いついかなるときとセントラル・ヒーティングだ……"

  • 2025年 1冊目

    私が塾に行っているときにお父さんがこの本を借りてくれたので読むことにしました!

    私はアガサ・クリスティーさんのポアロシリーズがとても好きなのですが、今回の本も期待以上に面白い本でした。家族だから姓が全員同じで少し誰が喋ってるかわからないところもありましたが、事情聴取をしているうちに誰が何をしたかというのが霧が晴れるようにどんどん分かっていってとても面白かったです!事件が終わった後も意外な事実が発覚してとても面白かったのでぜひ読んでみてください!

  • クリスマスというタイトルとはかけ離れた、ドロドロした物語。冒頭の所が少し長いけれどそこさえ超えてしまえばこちらのもの、続きが気になって一気読み。
    前回のマープル同様、今回も犯人は意外で全く検討もつかずまんまと騙された(笑)

  • 「クリスマスにクリスティーを」「もっと血にまみれた、思いきり凶暴な殺人を」なるほど。わたしは謎解きが主題のミステリは得意ではないと思っているし、シーズンやイベントに合わせた読書も余りしないのだけれど、それでもこの時期にこのタイトルは気になるし、真鍋博の素敵なジャケ(版は登録されてなかった…)に惹かれて読んでみることに。初アガサ。12/22〜28の1週間の物語が1日ずつの章立てになっていたので、章の日付の日にそれぞれ読んでいこうと思いつつ、気がついたら既に23日だったのでイヴイヴから殺人の起こるクリスマス・イヴにかけて読んでしまったのでした。こういうレイジーなところも謎解きミステリに向いてない気がしますね。多分。

    ポアロ登場までの100ページの時点でちょっと長くないですか、とも思ったり、時代がかった話し言葉に躓いたり、名前と設定が最初一致しなくて何度も折り返しの登場人物紹介を見直したり、やっぱり向いてないかもと思いつつ終盤まで読み進める。そして「名探偵、皆を集めてさてと言」うシーンでトリックと真犯人が暴かれると、わあ、まさかあの人が……と他の登場人物と同じタイミングで一緒に驚き、示される証拠には、たしかにそんなこと書いてあった、と納得し、あそこのミスリードずるいぞ!と思ったりした。そんなわたしは素直で良い読者なのだった。その素直さはやっぱりミステリに向いているのかもしれない。

    「クリスマスにはクリスティーをいつまでも」か。なるほど。毎年クリスマスにアガサ・クリスティーを読むというのもありかもしれない、と思ってみたけれど多分忘れちゃいますね。レイジーなので。でも今年の聖なる読書は思いのほか楽しめたので良かった。更に解説を読んではっきり気がついたポアロ=アガサのクリスマス批判の件にも素直に納得したのでした。メリー・クリスマス。

  • 清々しいほどに やられましたー!!!!



    血族を聖夜に呼び寄せた偏屈な老当主
    不仲だった兄弟に対して
    辛辣な言葉を浴びせる老当主
    金で子を支配し 長きにわたる家族の不協和音…
    そこに放り込まれた思いもよらないゲストたち…

    血族に辛辣な言葉を浴びせる老当主は
    密室でその代償をはらうことになる…



    アガサクリスティーから届いた
    血で染まる凶暴な殺人という
    時代を超えたクリスマスプレゼント…

    私もポアロのように謎解きに挑むが…
    予想外のトリックと犯人にビックリ!!



    ポアロの終盤の推理劇は圧巻でしたー!!
    ポアロの洞察がとにかくすごい!!

    王道のミステリー最高ですね

  • 訳者こそ違えど、既読の本を購入したことに気づいたのは30頁ほど進んでから。
    記憶力が悪いと推理小説を何度でも楽しめてお得だ。
    犯人も最後までほぼ分からず。やれやれ。

  • もう世界のアガサクリスティはさすがです。ずっと飽きさせない。人物が交差しながらそれぞれの人物像を浮き上がらせる。
    ポアロの存在の安心感。最後の最後は清々しくそれぞれの場所に戻っていける

  • クリスマスの前後に読むとより現実と小説がリンクして楽しめる気がする。
    「アクロイド殺し」と同様、まさか探偵と犯人が最初から一緒に事件捜査をする、ミステリーばかり読む人間にとっては「そんかの反則だ!」とつい立ち上がってしまうか、恐れ入ったと素直にまた最初から読み直すかのどちらかだと思う。警察官が犯人とは、現実を生きる身としてはあってほしくはない展開だ。事実、読み進めていく中で私は一度も警察官は疑わなかった。警察官を疑っていてはミステリーを読む度に大変な労力が必要になってしまう。
    作品中、夫人達がポワロが買ったつけ髭について話す場面があるが、個人的にはそこがとても好きだ。またポワロが人の口髭を見て手入れに何を使っているのかと聞いたところでは、ポワロも身なりを気にする普通の人間らしいところがあるのだと微笑ましく、くすりと笑ってしまった。近頃は立派な口髭をたくわえた紳士には滅多にお目にかかれないが、口髭を美しく維持するにも苦労があるのだろうかと考えたりもした。
    ピラールとスティーブンは身分を偽って出会った者同士だが、列車内での初対面で既に互いに好印象を抱いたあたり、きっとこの二人は結ばれるだろうと予感があったので、この二人が翌年のクリスマスを奇妙な縁で結ばれたリー家で、今度こそ愉しく過ごせるだろうと想像した。

  • 今回は人間の遺伝や性格、気質に焦点が当てられた作品。
    (家族のクリスマスパーティーがテーマだからね)

    登場人物が欲深く途中ちょっとしんどかったけれど、
    最後まで読み終えると綺麗で安堵です…。
    密室と聞くといくつかトリックが浮かぶと思いますが、
    今回は他の要素も合わさって当てられず、、、!

    ポアロ作品が作中でパズルに喩えられますが、これが言い得て妙で、登場する要素は不要に感じるもの含めて全てハマるべきところにハマるのだな….と。
    流石アガサ・クリスティ、天才ですね。

全30件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1890年、英国、デボン州生まれ。本名アガサ・メアリ・クラリッサ・ミラー。別名メアリ・ウェストマコット、アガサ・クリスティ・マローワン。1920年、アガサ・クリスティ名義で書いたエルキュール・ポアロ物の第一作「スタイルズ荘の怪事件」で作家デビュー。以後、長編ミステリ66冊、短編ミステリ156本、戯曲15本、ノンフィクションなど4冊、メアリ・ウェストマコット名義の普通小説6冊を上梓し、幅広い分野で長きに亘って活躍した。76年死去。

「2018年 『十人の小さなインディアン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アガサ・クリスティの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×