ポケットにライ麦を〔新訳版〕 (クリスティー文庫) (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 40)
- 早川書房 (2020年8月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784151310409
作品紹介・あらすじ
会社社長の毒殺事件を皮切りに名家で起きた三つの殺人事件。かつて仕込んだメイドを殺されたミス・マープルの正義の鉄槌が下る!
感想・レビュー・書評
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悪辣な老社長とその金目当ての若い後妻、勘当された息子、謎めいた家政婦などいかにもな登場人物達の中で起きる連続殺人。ミス・マープルは突如現場に乗り込み、頭の切れるニール警部と共に見事事件を解決。必殺仕事人のようなマープルに惚れ惚れ。
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ミス・マープルシリーズの初読みです。
ある社長の毒殺事件が起きて、担当のニール警部が関係者に丁寧に尋問していき、全体的な構図が見えてくるが、未だ決定的なものは無い。
この物語で彼女が登場するのは中盤からで、やっと現れたという感じでした。
真面目に捜査してきたニール警部でしたが、最後はミス・マープルに美味しいところを持ってかれたみたい。ちなみに、ニール警部はよくある間抜けの刑事ではありません。彼の名誉のために。
もうひとり、フォーテスキュー家の家政婦のメアリ・ダブのキャラがいいのと、裏の顔が分かるなどいいスパイスになっていた。
普通の?老婦人が謎解きするこのシリーズも面白い。またひとつ楽しみが増えた。
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久しぶりの一気読み!冒頭超絶美人っぽいミス・グローヴナーを登場させておいて映像的に話に入り込ませるとすぐさま事件発生。そこから安定感あるニール警部が話を進めていく。最初の事件の余韻も冷めやらぬなか、次の事件が…このスリリングな展開は数あるクリスティ作品の中でもかなり秀逸な出来だと思う。
ミス・マープルはかなり活動的。昔探偵大図鑑的なところで紹介されていたミス・マープルはロッキングチェアで編み物編みながら噂話から推理する、という感じだったと思うが、実際に読んでみると全く違いとても活動的でおしゃべり。実際のキャラの方がずっと魅力的。
クリスティ作品の名作に劣らず、登場人物それぞれもまた魅力的。メアリ・ダブはこの人を主人公にしても面白い作品が出来そう。パトリシアはその悲劇的な運命を含めて儚い美しさが。
ちょっと横溝正史的な雰囲気もありつつ、犯人だけでなくエンディングのエピソードもこれまた映像的。本を読んだのに映画を見たような感覚にされる素敵な作品でした。 -
昨日読んだマープルシリーズが懐かしくも面白くて、また、マープルさん。
306ページのうち、何と彼女が現れるのは139ページ。世間知らずの老婦人のていで、事件現場の屋敷の使用人や遺族から巧みに話しを聞き出す。彼女は素人なのであくまで警部に捜査を任せないといけないが、どの作品も色々な警部が見事に彼女とバディを組んで解決に至るのが楽しい。 -
ミスマープルのカッコよさもさることながら、物語に出てくる人物ー特に女性ーの心情をうまく見せた物凄い作品だった。
推理を披露し終えたあと、ミスマープルに届いた手紙とその手紙を読むミスマープルの描写はかなり印象的。今でも多くの作品で見られる、異性との求愛競争に負ける人間の虚しい人生に虚しく感じられる。 -
会社社長の毒殺。遺体のポケットにはライ麦が。連続殺人はマザー・グースの唄に見立てて行われていく。死後に洗濯ばさみで鼻をつままれたメイド、彼女を知るミス・マープルは復讐の女神として屋敷に現れる!
ぼくにとって初のミス・マープルシリーズ。海外文学でありながら、さらさらと読める文章が心地いい。ニール警部とマープルが捜査していき、屋敷に渦巻く人間関係の闇を事実で照らしていく。メイドの仇を討つために単身乗り込むマープルに痺れる。怒りを胸に秘めながらも柔軟に対話するところもすごい。
屋敷にいる誰もが何かを抱えている。こういう人間描写が抜群に上手い。見立て殺人をした理由。殺人の動機。明らかになった事実は息が詰まるほど苦しい。特にラストシーン。泣かせにくるだけではなく、あの演出で浮き彫りになる犯人の冷酷さへの怒りとのコントラスト。その切れ味の良さが印象深い。
人を殺すだけでなく、人の心を殺す嘘。その怖ろしさ。言葉の裏側に潜む悪意に鳥肌が立った。最後に好きな言葉を引用して終わります。キレッキレなおばあちゃんコンビがいい味を出してた。
「喜怒哀楽の感情が悪いとは言わないよ」ミス・ラムズボトムは言った。「わたしだって人並みにそういう感情は持っている。だけど、邪悪な心だけは許せない。邪悪な心は叩きつぶす必要がある」
「わたしはかならず最悪の事態を想定します。悲しいことに、たいていそれが現実となるのです」