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Amazon.co.jp ・本 (392ページ) / ISBN・EAN: 9784152034281
感想・レビュー・書評
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原著は1988年リリースの書。
黒人ラジオと黒人レコード、黒人プロモーターからの視点を中心に据えて、アメリカの黒人差別の社会問題も絡めながら、黒人音楽(ブラック・ミュージック)と音楽業界の変遷を、時代を追って語る。黒人視点で見たアメリカの黒人音楽環境が、私を含めて多数の日本人の想像とはかなり違って見えることは間違いない。
近現代史あるいはジャーナリスティックな視点による内容になっているので、音楽そのものに対する評論としてはあまり多くないし、主観的な印象もある。音楽やミュージシャンについてのみ興味があるのであれば、本書はあまりお勧めできないと思う。
本書で黒人音楽と言っているのは、時代を追ってたどると、いわゆる(南部やシカゴが中心となった)ブルース、リズム&ブルース(R&B)、ソウル、ファンク(ジャズにも影響が波及)、ディスコと白人のユーロディスコ、All-Or- Nothing 音楽界の黒人ポップのスーパースター(マイケル・ジャクソンやライオネル・リッチー)、ポップ化されたメロウなジャズ、さらにヒップホップ/ラップ、著者の造語レトロヌーヴォー(マイケルやプリンスやヒップホップを含めて80年代の音楽を指すらしい。私の知らない黒人ミューシャンたちも多い)である。
本書ではジャズについてはほんの少しだけ、さかもR&B絡みでないと言及されないのだが、黒人ラジオや黒人プロモーターとの関係はどうだったんだろうか。ジャズファンとしては、とても気になる。著者の視点では、スウィング・ジャズの後に出た革新的なビバップは、黒人の一般大衆からは尊大で(そうなのか?)距離のある音楽とみなされている様子で、おそらくビバップ以後のジャズ、そしてゴスペルは、大衆音楽とは独立した(規模が小さいため大手白人レーベルがあまり気にしない)マーケットになっていた(おそらく今現在も?)ので、拝金商業主義的白人経済に巻き込まれなかったのかもしれない。
ただし、ジャズについては、白人ミュージシャンもどんどん増え、R&Bやロックやファンクも取り込み、革新的なバリエーションが次々に生まれ、最近ではエスニックな音楽との融合も盛んになり、もはや黒人だけの音楽とはいえない状況といえる。たとえ商業的にはイマイチだとしても、アーティスティックな視点で見ればとても豊かな音楽状況だと考えてよく、盛況と言えるのではないか。
本書には多数の黒人ミュージシャンが登場するので、いかにも黒人らしい黒人音楽に興味のある人にとっては参考になるはず。ときどきミュージシャンを褒め過ぎと思える記述もある一方、著者の考える悪い音楽の例も少なからず辛辣な筆で紹介される(エルヴィス・プレスリーはコテンパンにやられてます)。
本書を読んで、アメリカの黒人社会(ブラック・コミュニティー)では、音楽産業および(音楽メディアとしての)ラジオ放送とラジオDJについては、白人のそれとはまったく別の経済圏を形成していたことを知って驚いた。黒人コミュニティーにはある程度の一体感があるとはと思っていたが、黒人たちが自分たちの音楽文化を白人文化と対立する形として、黒人ラジオを介して想像以上に強い意識をもって守っていたことに驚いた。
黒人音楽社会が、かなりアメリカでの主流の白人音楽社会と分断していたことは、もちろん黒人の社会問題と密接に関係があり、本書では、ブッカー・T・ワシントンの自己充足・分離主義(白人とは独立した黒人社会)対W・E・B・デュボイスの黒人の白人社会への同化主義という、黒人問題解決のための両極の方向性に照らして、音楽産業に起こった問題を読み解く。
黒人の著者は終始黒人の視点で本書を書いていて、ワシントンの自己充足主義の立場に立っているため、時代を追って、独立していたはずの黒人音楽が、黒人の中間階層の増加に伴って同化主義が優勢となり、結局は、黒人音楽が「金になる」と気づいた白人音楽産業に吸収されていき、本物の黒人音楽と黒人のための音楽産業が瀕死状態にあることに、著者は嘆く。ただし原著の発刊された1988年以後、現在の状況とは違っているかもしれない。
私個人は(浅い知識で言えば)、黒人だけで充足する社会というのは、白人優位の一つの国アメリカの中では、金が支配する自由主義経済の中で白人との関係も(もし嫌でも)必然な訳なので、人種差別もなくなりそうになく、相当実現は難しいと思うけれど。とはいえ、著者の言うように、黒人らしさを強調した音楽が育たない環境となっているのだとしたら、確かにこれは大問題だと感じる。
しかし、ヒップホップやラップは、私が思うに非常に黒人らしい音楽。このジャンルが現在も一定の市民権を得ている(ように思える)のは、本書執筆時点ではまだ様子見な感じだが、著者も喜んでいいのではないかと思う。そうは言っても、個人的には、本書の執筆後、現在の音楽業界は、やはり同化が進んだ社会になっているんじゃないだろうか。
本書に頻出するクロスオーヴァーという言葉が、本書のキーワードになっている。私も含め日本の音楽ファンは、おそらくジャズロックとフュージョンという言葉の間に生まれた音楽を指す言葉と思ってしまうと想像するが、本書では全く違って、黒人の間で生まれた真の黒人音楽と白人ポップとの両方を股にかけた活動を指している。そして、このクロスオーヴァー現象が進行していくことで、音楽界での黒人の居場所がどんどん失われていっている、と指摘する。
本書を読むと、そもそも、私(多分たいていの日本人)の知っているブルースもR&Bなどの黒人音楽も、白人経営のポップ音楽産業を通してしか知らなかったのだと思い知る。
つまり、ブルースは70年代に白人レーベルに『再発見』されて白人レーベルがレコードをリリースしたために、日本でもちょっとしたブームになって日本でもレコードがリリースされ、私もエリック・クラプトンやレッド・ツェッペリンや日本の憂歌団を経由して、はじめてブルースを知ったのだった。その頃(R&B〜ソウル時代)の日本では、「黒人音楽は日本では売れない神話」があったはず。USチャート上位に入った多少の曲はラジオでかかっていたと思うけど、比較的ポップでメロディアスな曲だった気がする。
初期のロックンロールについては、白人DJが使い始めた言葉が流行したもので、エルヴィス・プレスリーが流行した時には、黒人はそれを古い音楽とみなして(プレスリー自身も認めている)興味を持たなかったとのこと。アトランティック・レコードの創立者アーメット・アーティガンの言葉、「黒人は未来のことをより多く考える傾向を持っている。黒人ミュージシャンは古いスタイルで演奏することを嫌う。現在あるいは未来のスタイルで演奏するのが好きなんだ」は素敵だ。そして著者は『ホワイト・ニグロ』、エルヴィス・プレスリーをこき下ろしつつ、チャック・ベリーについては、「真の天才」と褒める。私は、電化ブルースやチャック・ベリー以後、白人ロックにギター・ヒーローがたくさん出ているのに、なぜか黒人にはジミ・ヘンドリックス以後リードギターのヒーローがいないように思えて(リズムギターでは尊敬すべき達人はいた)、それが不思議だったのだが、本書を読んで初めてその理由が分かった。
ジミ・ヘンドリックスについては、黒人とはいえ、黒人的なR&Bに染まっておらず、白人の「ロック」を演奏するミュージシャンとみなされ、南部の黒人たちからは無視される存在だっらしい。他の黒人ミュージシャンと違ううえに、ブリティッシュロックを強く感じさせることを感じてはいたものの、黒人たちから無視されていたことにはびっくりした。私個人は、ブルースやロックンロールの影響で生まれたビートルズの中後期やブリティッシュ・ロックは、影響を受けたとしても、元の黒人音楽とは革命的に違う音楽と感じている。その後さらにプログレッシヴ・ロックやヘヴィー・メタルやパンク・ロックなどなどを生むことになる基盤となったと思う。
私が気になったのはビージーズ。本書では、黒人作曲家やプロデューサーの支援で黒人ぽい音楽を作り、黒人ラジオも流すようになったことになっているのだが、私の中では、ノリも悪く、ファルセットのヴォーカルもどこか線が細く聴こえ、黒人音楽のコピーだとさえ感じられず、ヒップでも感動的でもないのだけれど。むしろ、ディスコ前のハーモニーを生かした牧歌的なポップ曲のほうがずっと良かった。一方のアース・ウィンド&ファイアは素晴らしいファンクネスを持っていると思う。即成ディスコのようなチャラいバカチョン繰り返しリズムではなく、ファルセットのヴォーカルは強く、メロディーも美しい。ゆえに私はディスコとは呼ばない。著者も褒めている。
著者と一緒に私も残念に思うのが、マイケル・ジャクソンの整形癖。整形前は美しかったのに。著者の残念は、プリンスのビデオでの白人重用も含めて、白人を善とする風潮が黒人の間にも出てきてしまったこと。なるほど、そうなのか。確かにそれは残念だ。
ヒップホップは筆者も理解に苦しんでいるような気がするが、私も同じ。存在は理解できるが好きにはなれないかな。でもスクラッチ(ターンテーブル)には、強力なパーカッションの一種として、一目置いている。英語では言葉の壁もあるけど、日本語ラップを初めて聴いた、(古いけど)「DA.YO.NE」には、新時代のシンボル的なものを感じたのを思い出す。それからだいぶ経って、最近は日本人の若者が真剣にヒップホップの音楽活動をしている様子で、今後もっとオリジナルな(黒人のマネでない)ヒップホップが生まれることに期待。
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