1993年に出た単行本(横尾忠則のカバー絵が好きだった)を持っていたのだけどすでに手元にないので文庫で再読。吸血鬼+女性名というだけでゴシック耽美な吸血鬼ものを想像してしまっていたのだけど、実はほぼSFで当時は拍子抜けしたものでした。面白くないというわけではないのだけどね、なぜ自分が吸血鬼ものを好きなのか、という根っこの部分を覆されるというか。これは吸血鬼ものではなくエイリアンものだと思って読むべきだろうな。
ここに出てくる吸血鬼は、太古から地球におり(宇宙外来説もあり)大きさは人間の心臓と同じくらい、人間に限らず動物の心臓を抜き取って自分がその心臓と入れ替わることで寄生、宿り主を乗っ取ってしまいます。わりとグロテスクな生き物。オスはおらずメスのみの種族で、基本的に女性(メス)に寄生、男性に寄生すると自動的に妊娠、誕生と同時に新しい宿り先(女性二体)をみつけて、母娘おのおの寄生して増えていく仕組み。基本的に不老不死、宿り主は乗り換えてもいいし、乗り換えなくてもいい。
長編というよりは連作短編形式で、次々主人公を変えて物語は進んでいきます。以下備忘録的あらすじメモ。
「エフェメラ」時代は未来の日本。600年ほど生きている吸血鬼エフェメラは、気まぐれに衣装(※宿り主)を乗り換える奔放なタイプの吸血鬼。あるとき教会でロスマリンという同類と出会う。実は彼女はエフェメラがかつて殺そうとしたこともある妹。教会に逃げ込んできた爆弾テロリストをロスマリンが匿い、嫉妬からエフェメラはその男に寄生。そこへ突然地球の衛星ダイモンを未知の異星人が襲撃してくるが、彼らは種族の雌を迫害し雄ばかり残ってしまったため、地球人女性を狙っている。なんやかんやでエフェメラが寄生していくことで彼らは地球の女性を襲うどころではなくなってしまい…。
「コンビニエンスの霊媒師」日本を支配している大門グループの大門太郎、その後妻マナは実はキリスト誕生前から生きている吸血鬼。一方霊媒師の能力を持つ吸血鬼ウルとその娘ラミアは双子の女性に寄生するが、ラミアが寄生した女性が妊娠中だったため、吸血鬼に寄生された状態で人間の子供が誕生する。その娘リリアムに、死んだ大門太郎の魂が乗り移ってしまい…。
「トーキョー・シー・デビル」シルクという吸血鬼が、人間の女性マッドサイエンティスト、魔女と呼ばれているカジマに捕われている。カジマは吸血鬼を使った殺しを請け負っていたが、大門太郎の息子が後妻マナ暗殺を彼女に依頼する。一方で心臓が抜き取られた死体の事件について調べていた刑事・山崎と柏、そして監察医の橘ミカは、吸血鬼の存在に辿りつき…。
「愛撫(なだめ)」山崎とミカが吸血鬼の存在を明らかにしたことで、日本はパニックに陥り、吸血鬼を疑われた女性は魔女狩りのような目に合う。マナやロスマリン、そしてウル、ラミアの母娘は、ラミアの娘リリアム(大門太郎の魂が乗り移っている)の特殊な力を利用し、山崎&ミカの協力をえて、恐怖政治を敷いている大門の次男暗殺を計画し…。
「時雨(しぐれ)」大門太郎の魂が乗り移ったリリアムが支配するようになった日本。吸血鬼たちの長老であり六千年生きているマヌエラは、アメリカ大統領となる人物を育て上げ影で糸を引いている。日本の吸血鬼たちの苦境を知りついに彼女がリリアム抹殺のために動き始め…。
「夜明けの宴」リリアム(大門太郎)は愛するマナと共に死に、吸血鬼と人類は共存するようになる。はるかな異星から戻ってきたエフェメラの子孫たちも加わり、新しい時代が始まる。
全体的に、人類が宇宙に進出しているほどの未来を舞台にした壮大なSFのはずなのに、どうも刑事さんのキャラや爆弾テロのアナログさ、全体の世界観が昭和なので違和感があり、そこへ急に新種の宇宙人襲撃など突飛な展開が多いので戸惑ってしまう。大門太郎の霊魂云々の部分なんかは帝都物語的で、吸血鬼とは相性の悪そうなものがごった煮で共存していることにも違和感があり。SFとしても吸血鬼ものとしても未消化でちょっとした迷作かも。