怪物: アゴタ・クリストフ戯曲集

  • 早川書房
3.53
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本棚登録 : 152
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152078629

作品紹介・あらすじ

アゴタ・クリストフは『悪童日記』で衝撃的なデビューを飾る前に戯曲を書いていたが、このたび九篇の戯曲原稿を入手、本書はそのうち五篇を収録した日本語版オリジナル戯曲集である。

感想・レビュー・書評

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  • 1. エレベーターの鍵 (La Clé de l'ascenseur)

    王子様を待ち続けて老い果てたお姫様の御伽話から始まり、似たように森の住まいで夫の帰りを待つ女が描かれる。

    待つ間、森で他の男から求愛を受け、そのことを帰ってきた夫に話すと、君のためだとエレベーターの鍵を取り上げられてしまう。
    日々部屋で待つうちに足が弱くなり、夫の友人の医者が診るも状態は悪化。やがて精神が病み、視力も失われ......

    「この上、私から何を取り上げることができるっていうの?私の命を狙っているのね?私には命しか残っていないもの」

    近付く医者からメスを奪い、錯乱の内に夫を殺してしまう。

    「欲しければ私の命を奪えばいいわ、でも、自分の声だけは渡さないわよ!絶対に!」

    2. 贖い (L'Expiation)

    第一幕で何故盲人は、暴行される老人の血が見えたと言うのか。
    何故盲人は危篤の妻に会おうとしないのか......

    彼は聾者の火吹き男との出会う。吝嗇な老婆の宿で生活をはじめ、やがて聾者は自らの重い過去を語る。そして盲人も......

    夫婦で拷問を生業とし、その行為を悔いて自らの眼を潰した男の物語

    3. 道路 (La Route)

    ある道路建設者の悪夢の走馬灯

    遠い未来のある時代、地球は完全にコンクリートで覆われ、どこもかしこも道路となっている。
    人々は道路で生まれ、一生歩き続ける。車はない。土も太陽も「伝説」でしかない。
    道路に出口はあるのか。何故方向というものがあるのか。何故歩くのか......
    常識的な存在感覚に揺さぶりをかける一作。

    4. 怪物 (Le Monstre)

    仮面を付けた原始人の部族が住む村に現れた怪物。
    武器は効かず、動けないが甘く幸福を与える匂いで人を誘い、食って巨大化する怪物。
    やがて匂いの誘惑に負け、怪物を受け入れ始める村人たち。
    誘惑に負けたものは餌になる前に殺せという村長の策に従った少年は、家族を、恋人を、仲間を射り、最後に一人になることで勝利を掴む......少年が?それとも怪物が?......

    偶像崇拝、背反する幸福と正義、様々な問いかけを含んだ幻想的で不条理な寓話

    5. ジョンとジョー (John et Joe)

    二転三転しながら始まりに戻ってくる軽快な会話劇

    二人の男は貧乏だが友人同士。
    飲みの際、一人が金がないため、もう一人に持っていた宝クジを取られてしまう。
    翌日、その宝クジが当選。分け前を巡って悶着あり、クジの持ち主の機転により他方は逮捕される。
    しかし結局、当選金を保釈金にあてて解放し、またいつものテーブルで二人安酒を楽しむのであった。

  • [要旨]
    アゴタ・クリストフは『悪童日記』で衝撃的なデビューを飾る前に戯曲を書いていたが、このたび九篇の戯曲原稿を入手、本書はそのうち五篇を収録した日本語版オリジナル戯曲集である。
    [目録情報]
    <日本語版オリジナル戯曲集>残酷なお伽話、恐るべき告発、文明論・エコロジー的SF、不条理な寓話、軽妙な笑劇──『悪童日記』の作者が贈る多彩でパワフルな五作品。(演劇・映画図書総目録より)

  • 「エレベーターの鍵」が一番好き。

  • これ好き。

    不気味で素敵な戯曲集。
    人間の残酷さと不条理さと滑稽さ。
    そして強靭さ。

  • <収録作品>
    「エレベーターの鍵」 La Clé de l'ascenseur (1977)
    「贖い」 L'Expiation (1982)
    「道路」 La Route (1976)
    「怪物」 Le Monstre (1974)
    「ジョンとジョー」 John et Joe (1972)

    <ひとことコメント>
     日本語版オリジナル戯曲集です。A・クリストフの戯曲をまとめてたっぷり読める贅沢な一冊。これをフランスから発掘してきたのも堀茂樹氏なのです。

  • 戯曲はちょっと苦手意識があったのだけど、言葉数が少ない会話の掛け合いのテンポが良くて、とても楽しめた。
    小説で感じた魅力や完成度が、ちゃんと戯曲にも存在してて、失礼だけど安心した。
    愛によって全てを奪われていくお姫様、怪物に飲み込まれていく村、ひたすら歩き続けるコンクリート道路の世界、盲目のハーモニカ吹きの話、など。

  • なんとなく……ざらり、といつまでも残る。

  • (2006.05.28読了)(購入日不明)
    「悪童日記」を読んだのは、1999年です。何がきっかけで読んだのか覚えていません。かなり衝撃を受けて、「ふたりの証拠」「第三の嘘」も引き続き読みました。
    戯曲集の「怪物」「伝染病」もその頃(2000年)集めたのですが、積読になっていました。今年、「文盲」という新刊が出たということなので、この機会に読むことにしました。
    1972年から1982年までに書かれたもので、「悪童日記」より前の作品です。日本版以外は出版されていないようです。
    「怪物」には、5つの作品が収められています。「エレベーターの鍵」「贖い」「道路」「怪物」「ジョンとジョー」です。内容の紹介は、訳者があとがきに述べていますので、興味のある方は、そちらをお読み下さい。
    コミカルなものもありますが、かなり衝撃的だったり、社会風刺的なもの、色々です。

    ●「エレベーターの鍵」
    20ページほどの作品です。
    ある夫婦の話です。妻は、自宅を一歩も出ることなく夫の帰りを待っています。外へ出るには、エレベーターを使わないといけないのですが、エレベーターには鍵がついており、エレベーターの鍵は夫が持っています。だから外へ出ることもできない代わりに、夫以外の人が外から尋ねてくることもできないのです。
    妻が一人で、近くの森に出かけたとき、「森の番人」から花束をもらったのですが、その時恐怖を覚えたという話を夫にしたら、夫が、危ないから一人で出かけたりしないようにと鍵を取り上げてしまったのです。
    部屋で過ごすようになると脚が弱って、痺れたりして、苦痛に思うようになりました。そのことを夫に訴えると、夫の中学時代からの友人、医者のクロードに相談して、手術をしてくれました。足の神経を切って、痺れを感じなくしてくれたのです。妻は、歩けなくなったので、夫は、車椅子をプレゼントしてくれました。
    しばらくすると、耳鳴りがするようになりました。今度もまたクロードが、手術で、耳を聞こえないようにしてくれました。
    耳は聞こえなくなりましたが、夫の言う事は、唇の動き読み取ることでできるようになりました。
    夫の帰りを待ちながら町の明かりを見ていると、町へ出て行きたくなったりするので、クロードは、目の神経を切って、町の明かりで悩まないで済むようにしてくれた。
    歩けず、聞こえず、見えない状態の自分が憎く、唸っていると、また夫は、クロードを連れてきた。今度は、声が出ないようにされるのか?
    妻は、メスを握り、夫のジャックを刺し殺した。
    ●「怪物」
    架空世界の未開原住民の話です。
    村の大きな罠にとてつもなく大きな獣が掛かった。
    罠に掛かったのは、この近辺にはこれまで一度も現われたことのない動物です。とてつもなく大きくて、他のどんな動物からも想像することのできないようなやつです。ひどく嫌な臭いを発散しています。
    槍で刺しても、毒矢を放っても、大きな石を投げつけても大きな獣は生きています。
    時が経つに連れ、大概の人は、獣の発する悪臭にも、喘ぐような息の音も気にしなくなります。ただ一人、ノブだけは冷静です。相変わらず悪臭はするし、息の音も気になります。それに、怪物は成長し、絶え間なく大きくなり、近くに人間がいれば人間も喰ってしまうし、子どもを押しつぶしてしまったりします。
    でも大概の人は、悪いのは怪物ではなく人間が不注意なせいだといいます。
    怪物を弁護するのは、怪物の背中に生える花々の香りのためらしい。あの花々の匂いを嗅ぐと、ある不思議な幸福感、未知の至福感が味わえる。
    ノブだけは、花々の香りを嗅いだりしなかった。長老と相談すると、怪物が大きくなるのは人間を食べるためなので、人間を近づけないようにすれば良いということだった。
    ノブは、怪物の香りに惹かれてくる人々を射殺し、怪物はどんどんやせて行った。怪物が消滅した時、残っていたのは長老とノブだけだった。
    ☆関連図書
    「悪童日記」アゴタ・クリストフ著・堀茂樹訳、早川書房、1991.01.15
    「ふたりの証拠」アゴタ・クリストフ著・堀茂樹訳、早川書房、1991.11.15
    「第三の嘘」アゴタ・クリストフ著・堀茂樹訳、早川書房、1992.06.15
    「昨日」アゴタ・クリストフ著・堀茂樹訳、早川書房、1995.11.30
    「ハンガリー事件と日本」小島亮著、中公新書、1987.07.25
    「ハンガリー狂騒曲」家田裕子著、講談社現代新書、1991.10.20
    「数学放浪記」ピーター・フランクル著、晶文社、1992.03.20

    著者 アゴタ・クリストフ
    1935年 ハンガリー生まれ
    1956年 ハンガリー動乱の折に西側に亡命、スイスのヌーシャテル市に在住
    1986年 「悪童日記」(フランス語)をパリのスイユ社から刊行
    1991年 「悪童日記」日本語訳刊行

    (「MARC」データベースより)amazon
    残酷なお伽話、恐るべき告発、文明論・エコロジー的SF、不条理な寓話、軽妙な笑劇-「悪童日記」の作者が贈る、多彩でパワフルな5つの戯曲集。「悪童日記」を発表する前に書いた9篇の戯曲中の5篇。

  • (2010/01/20購入)(2010/02/18読了)

    表題作「怪物」が良かった。
    寓話的な作品。

  • 『悪童日記』のアゴタ・クリストフによる戯曲集1冊目。
    実は「戯曲集」とか「脚本集」って読んでも頭に入らなくて、この本もそうだったらどうしよう‥と内心ドキドキしてたんですが。
    それは杞憂でした。よかったよかった。
    訳者のおかげかもしれませんが、小説を読むように楽しむことができました。

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著者プロフィール

1935年オーストリアとの国境に近い、ハンガリーの村に生まれる。1956年ハンガリー動乱の折、乳飲み子を抱いて夫と共に祖国を脱出、難民としてスイスに亡命する。スイスのヌーシャテル州(フランス語圏)に定住し、時計工場で働きながらフランス語を習得する。みずから持ち込んだ原稿がパリの大手出版社スイユで歓迎され、1986年『悪童日記』でデビュー。意外性のある独創的な傑作だと一躍脚光を浴び、40以上の言語に訳されて世界的大ベストセラーとなった。つづく『ふたりの証拠』『第三の嘘』で三部作を完結させる。作品は他に『昨日』、戯曲集『怪物』『伝染病』『どちらでもいい』など。2011年没。

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