昨日 (Hayakawa novels)

制作 : Agota Kristof  堀 茂樹 
  • 早川書房
3.39
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本棚登録 : 202
レビュー : 28
  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152079756

作品紹介・あらすじ

本書はパリでも二カ月前に上梓されたばかりの、待望の長篇第四作。実に四年ぶりの書き下ろし小説となるが、『悪童日記』三部作とはまた違った独自のスタイルで、自らの亡命体験をもとにした「不可能な愛の物語」を描いている。

感想・レビュー・書評

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  • 詩的な文章、と単に言うだけでは言い足りない作者独特の言葉たち。
    強い情念が込もっているような、何か恐ろしい感じもして、その実直である激しさに圧倒されてしまう。
    〈書く〉ことへの並々ならぬ思いを感じた。
    私の中では、すべてが現在―という言葉が印象的。

  • 誰か、どうして私がこの人の作品がこんなに好きなのか解説して欲しい。この人の小説は、ヘタな解説したくないです。あっという間に読んでしまって、今2回目を読んでいる。ストーリーはあるけど、それ以外の部分が大事で、そこらへんを上手く味わいたい。今、ついつい感想をあれこれ書いてしまったが、文章に書くとあまりにも薄っぺらくなったので消しちゃった。アゴタ・クリストフの文章はあんなに淡々としているのに、どうしてあれだけ深く重く鮮やかなんだろうか。

  • 祖国から、家族から、時間から、夢から、書くことから引き裂かれる強烈な痛みを抉り出した物語。

    1956年、作者は21歳の頃に、夫とともに生後わずか四カ月の娘を連れて、ハンガリーからオーストリアへと逃れ、スイスはヌーシャテル市、ヴァランジャン村へ移住した。そこは、フランス語圏の土地だった。作者は母語のハンガリー語から引き裂かれた。両親やきょうだい、友人たちにさよならを言うこともできなかった。読者を獲得するため、作者はフランス語で執筆する必要に迫られた。そして1970年代から、後天的に獲得したフランス語で作品を書き始める。

    >この言語、フランス語を、私は自分で選んだのではない。たまたま、なりゆきによって、フランス語が私に課せられたのだ。私は、自分が永久に、フランス語を母語とする作家が書くようにはフランス語を書くようにはならないことを知っている。けれども、私は自分にできる最高を目指して書き続けるつもりだ。これは挑戦である。ひとりの文盲者の挑戦なのだ。

    これらの経緯を予備知識として頭に入れてから本作を読むと、より鮮烈にトビアスの内面の引き裂かれようが胸に迫ってくる。

    作者はヌーテシャルの時計工場で働いていた。なお、父親は小学校教師であり、夫は高校の歴史教師である。

    これらは主人公のトビアスと、彼の希求する女性リーヌ(カロリーヌ)に、ほぼそのまま投影されていることが分かる。トビアスとリーヌは作中ではきょうだいであったが、別の次元では同一人物でもあるのだ。
    幻想を追い求めるトビアスと、現実的に生きようとするリーヌ。ふたりは亡命先(カロリーヌにとっては、夫の赴任先)で運命的に再開し、ひととき愛を育むが、その愛は決して報われることがない。
    こうして、夢と現実は永久に引き裂かれ、祖国と異国は分かたれたままとなる。引き裂かれたものは他にもある。肉体的労働と観念的労働、日々の暮らしと書くこと……

    名前について。
    カロリーヌのことを、トビアスは自らの理想を仮託してリーヌと呼び続ける。カロリーヌは、彼がトビアスであると分かったあとも、偽名のサンドールと呼び続ける。
    互いが互いの本質を見ていないことを端的に表しているが、ここで、作者がフランス風の読み方「アゴタ・クリストフ」としての名が通っていること、つまり本来の「クリシュトーフ・アーゴタ」(ハンガリーでは姓と名の順序が日本と同じ)では呼ばれないことを思い出すと、なんとも切ない。

    文体は「悪童日記」をはじめとする双子シリーズとは異なる、詩的かつ抒情的な作風となっている。そのため、双子シリーズに感じられた抜身のナイフのような鋭さは幾分和らいでいるように感じられた。

  • 「もちろん、私は死んではいない」で笑いつつも最後のページで救われた気持ちになったのは確かです。第三の嘘を読む前に読んでしまったのですが巻末のはネタバレなのでは...と斜め読み。すぐに包丁持ち出すのはどうかと思うよトビアス。

  • なんなんだろうねえ、この
    読みやすいわけでもわかりやすいわけでもないのに、
    なんか心惹かれてしまう感じ。

  • (1999.12.27読了)(1999.10.08購入)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    村の娼婦だった母の子として生まれたトビアス。ある事件を契機に名前を変え、戦争孤児を装って国境を越えた彼は、異邦にて工場労働者となる。灰色の作業着を身につけ、来る日も来る日も単調な作業に明け暮れるトビアスのみじめな人生に残された最後の希望は、彼の夢想のなかにだけ存在する女リーヌと出会うこと…。傑作『悪童日記』三部作の著者が、みずからの亡命体験をもとに幻想と不条理を交えて綴る不可能な愛の物語。

    ☆関連図書(既読)
    「悪童日記」アゴタ・クリストフ著・堀茂樹訳、早川書房、1991.01.15
    「ふたりの証拠」アゴタ・クリストフ著・堀茂樹訳、早川書房、1991.11.15
    「第三の嘘」アゴタ・クリストフ著・堀茂樹訳、早川書房、1992.06.15

  • Hier, Agota Kristof

    亡命した若い青年のお話ですが、亡命というその特異な設定がなくても、成り立ちそうな気がした。今の日本とそんなに変わらないんじゃないか、と。

    どうしても故郷から離れたい理由のある若い青年が、故郷を出て、離れた町の工場で働き、偶然、工場で見つけた女性は幼馴染で初恋の人。

    3部作を読んだときには、自分の身近に置き換えられない凄まじさ?を感じたのですが、今回はそうでもなく。それは、読み手である私の年齢や境遇や視点が変わったから、ってだけではなさそうです。

    最後に収録されている「母語と敵語」はガツンときました。

  • 祖国を喪った人間でしか書くことの出来ない本だと思う。
    三部作とは別の物語だけれど、どこか深いところで繋がっている気がする。

    亡命して隣国で働く労働者、その暗い過去。
    父親を同じくする女をそうと知らせずに愛して失う。
    そんな彼の周りには仕事に就けず故国の妻に裏切られる男、妻の妹を愛して自殺に追い込み失踪する男、と何一つ明るく楽しいことなんて無い。

    愛していない女と結婚し、自分の本当の名前と愛して失った女の名前を子供に付けて生活する彼のその後は…作家になる夢を捨てて筆記用具を持つことを捨てて、それでも生きて日々を送るのは砂漠の中を進んでいるような気持ちにさせられる。

  • (再読)
    優しさは時として傲慢か。
    本から逃げ出したい。

  • <あらすじ>
     祖国から亡命し、時計工場で働く一人の男。彼はリーヌという女性をずっと待っていた。リーヌとは誰か? そもそも実在する人物なのか? ところがある日、いつもの通勤バスに思いがけない女性が乗ってきて彼の人生が動き出す。

    <ひとことコメント>
     もう一つの国、もう一つの言語、記憶と記録、偽りと真実。クリストフ永遠のテーマ……といったところでしょうか。巻末の来日記念講演テクスト「母語と敵語」は必読!
    原題“Hier” ※文庫有り

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著者プロフィール

1935年オーストリアとの国境に近い、ハンガリーの村に生まれる。1956年ハンガリー動乱の折、乳飲み子を抱いて夫と共に祖国を脱出、難民としてスイスに亡命する。スイスのヌーシャテル州(フランス語圏)に定住し、時計工場で働きながらフランス語を習得する。みずから持ち込んだ原稿がパリの大手出版社スイユで歓迎され、1986年『悪童日記』でデビュー。意外性のある独創的な傑作だと一躍脚光を浴び、40以上の言語に訳されて世界的大ベストセラーとなった。つづく『ふたりの証拠』『第三の嘘』で三部作を完結させる。作品は他に『昨日』、戯曲集『怪物』『伝染病』『どちらでもいい』など。2011年没。

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