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本 ・本 (152ページ) / ISBN・EAN: 9784152080547
感想・レビュー・書評
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目次
1 魔法の喪失と回復
2 自己との対決
3 仮面と自己
4 知恵
5 知恵と悪
6 自己超越
7 超越と神
8 超越と内的自己
9 無垢の解放
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1 魔法の喪失と回復:幸運と樵
<年老いた勤勉なきこりが、もうからないといって、かんしゃくを起こし、仕事を辞めた。
しかし、ラバが勝手に金銀を運び、彼ら夫婦は金持ちとなった。>
若かりし頃の蓄積(労働=ラバ)が思わぬ形となって戻ってきた。だがそれには「かんしゃくを起こす」と「なにもしない」ことに耐える必要があった。成功した引退譚と取れる。
2 自己との対決:舌切り雀
老女は貧困と年齢のために自らにいら立っている。しかし、それを認めず他人に投影し当り散らしている。「投影」は「心の中の悪魔」であるが、青年期は脆い自尊心を守るために必要であるが、老年期はそうはいかない。それを受け入れ、「過ちを認め」た老女は改心する。
3 仮面と自己:魔法の手拭い
<親切で若い嫁を美しく、嫉妬深い老女を醜くする魔法の手拭い。これにより老女は改心する>
外観をふき取り、魂そのものをあらわにする「手ぬぐい」。これが象徴するのは「外観=ペルソナ」を脱ぎ去ること、そして自身の邪悪さと対決することである。
4 知恵:老錬金術師
<錬金術に凝って、家を傾かせている婿に、義父が「バナナについたわずかな銀の粉を集めると君の実験は成功する」と助言する。じつはそれはウソなのだが、それを聞いた婿はバナナ畑を必死に耕し、結果家には金貨がたくさんたまる。>
現れるのは?老人の実際的な知恵 ?青年は化学(物質)、老人は人間の心理を考える、という価値観の変化である。
5 知恵と悪:賢い商人
<金持ちのユダヤ人親子が、航海の途中、自分たちの宝石のために、航海士たちに命を狙われていることを知る。が、彼らの前でけんかを演じて見せ、その途中で宝石を海にすべて投げ込み、彼らは助かった。>
他人の「悪」を知り、自身の強欲を克服することで助かった。知恵とは自己対決と自己把握から生まれる。
6 自己超越:魔法の森
<蛇娘に騙された息子を許すことで、老母とその息子が救われる>
蛇娘に溺れる、息子の”恍惚”:若いころの”夢と理想”の魔力の象徴。それを知りながらも、自分の欲望を超えて、他人をいつくしむ自己犠牲が自己超越を生み(生殖性とここでは表現される)、それがなければ老年期の心理発達は難しい。「私は欲する(欲望)」から「私はすべきだ(成熟)」へ。
7 超越と神:老母の悲しみ
<若いころに息子を失い、最近では夫も友人も失った老女。だが、ある日教会で絞首刑にあった犯罪者の幻視を見る。どこからか「あれがお前の息子の将来の姿だった」と声が。彼女は喪失が恩寵であったことを知り、ほどなくして亡くなる。>
年長者は個人を超え、人間社会と神を結び付ける存在。
孔子も50歳から「天の声」に耳を傾けられる、とする。それは物質の充足の後にのみ、それを手放せるからである。
8 超越と内的自己:海の龍王
<ある日、ある漁師が、大きな魚を釣り上げたが、まるで人間のようなそれに同情し、逃がす。それは龍王の息子でそのお礼に、コメや財宝を出す升をもらう。一度はよこしまな女にとられるが、犬猫が協力して取り返す>
最初に「同情」して魚を助けることで、普段のIdentityを離れて、自分の新たな潜在能力に気づく。それを超個人的発達という。助けたのが「子供」というのも内的子供が大事だというサイン。
青年期の理想は「自己発見」だが、老年期の理想は「自己超越」を助け「人類の歴史、宇宙における人類の位置」をめざす。それによりふたたび富がもたらされる。
9 無垢の解放:こぶとり爺さん
<踊りが好きで、やさしいが顔にこぶのあるおじいさんが、鬼の前で無心に踊ることによりこぶをとってもらう。隣人が真似をするが、作為的であったのでかえってこぶが増えた。>
こぶ:大人の醜悪さ
恐ろしい鬼の前で踊ることで、彼が警戒と分別を捨て去ったことを意味する。
彼には判断力を伴った無垢、技術のある自発性、が発現し「解放された無垢」を表す。
このパラドキシカルな状態が彼に「(こぶのない)自然な状態」をもたらした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
青年期を乗り越え大人になることはなかなか大変なことですが、長い大人の時期を過ごし切ることも易しいことではありません。大人への入り口に立った時、その先を見つめてみることは役に立つでしょう。人は時々、振り返ったり先を見つめたりしてみることが大事なのだと思います。本書は童話の分析をもとに書かれています。それぞれの人がそれぞれの時期に、自分に引き写して読めるような道しるべになると思います。 「大人のための心理童話上下」もお薦めです。
教育学部 H.I
アラン・B.チネンの作品





