ハーレーダビッドソン伝説

  • 早川書房 (2001年1月26日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784152083302

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  • この本は、工業製品メーカーとしては例外的なビジネスを営む不思議な会社、ハーレーダビッドソンの姿を、アメリカのバイカー文化、そして企業としてのハーレーの来歴から描いている。

    そこで描かれるのはカルチャーと体験のおまけとして乗り物を売るという、商品は古いが売り方はモダンなビジネス、メーカーそっちのけで狂乱のモーターサイクル文化を作り上げたバイク乗りとメディア、そして、復活が可能になるまで財務や経営を切り盛りし、会社をしぶとく延命させたハーレーの経営陣だ。

    さて、著者は、ハーレーをハーレーたらしめているのは、1947年にメディアでモーターサイクル。ギャング(暴走族)の乱行が取り上げられたことに始まる、としている。
    この報道を皮切りにメディアによって、”バイク乗りのアウトロー”というキャラクターが作り出され、アウトロー物の映画、ヒッピー物の映画が作られた。
    主流派からはぐれ、素朴な機械を愛し欲望に正直な男、と自己を定義するモーターサイクル・ギャングの構成員は保守的で排他的なプアホワイトでありながら、メディアとは協力関係にあり、いつしか、メディアではアウトローなキャラクターとバイクが密接に結びつけられるようになる。

    一方、企業としてのハーレーダビッドソンは、ベルトコンベヤーから無限に湧き出てくる自動車を誰もが利用する国で生まれた。
    よその国なら自動車が普及するまでバイクでモーターリゼーションの黎明期に稼いで、自動車メーカーなり何なりの重工業メーカーに成り上がるのがバイクメーカーの”あがり”なのだけれど(ホンダ、スバル、三菱重工、トーハツとかイセキetc…)アメリカは安価な自動車が急速に普及してしまったのでその方法は使えない。
    そこで、ハーレーはレジャー用のビッグバイクを中心に、軍用の用途やら、オート三輪やらスクーターやらでちょこちょこと稼いで規模を拡大していった。こうしてハーレーが全米一のバイクメーカーとなるまでの成長がまず描かれる。
    ハーレーは本格的な技術革新に手を付けず、70年代に入るとより高性能な日本製バイクの輸出攻勢によって追い詰められ、息も絶え絶えになった。
    死にそうでも土俵際で踏みとどまった理由として、一時的にコングロマリットに膝を屈し傘下に入った(その際、企業内統治に失敗して一時的に品質が低下し、ハーレーマニア向けの本では恥ずべき暗黒時代とくくられることも多いこの時代、大企業のファイナンスと設備投資がハーレーを生き延びさせたと説明している。バイクメーカー時代のホンダを藤沢武夫の金策が救い、本田宗一郎の大胆な設備投資が飛躍をもたらしたように、華々しいバイクメーカーといえど、最後の生き死には企業としてやるべきことをきちんとやれているかで決まる気がする。)
    ハーレー・ダビッドソンは、創業者一族の一人が、モーターサイクル・ギャングの文化にまじめに向き合うことで転機と再生のチャンスを得る。
    その一人とは、モーターサイクル・ギャングの集会会場の名前を組み込んだ、黒くてワルっぽいモデル「スタージェス」すら発売してみせたウィリー・G・ダビッドソン。
    彼の商法は当たった。
    ハーレーとモーターサイクル・ギャング文化のタッグは、金持ちを引き寄せたのだ。

    ハーレーという企業によって紹介された、モーターサイクル・ギャングが培ってきたアウトローの文化は、エスタブリッシュメントに受けた。
    構造が古い分バイクの生み出す衝撃、振動…を身近に感じられるハーレーのバイク、そしてたまの休みに何よりも万事が単純で、男っぽさが遠慮なく賞賛されるモーターサイクル・ギャングのカルチャーに、現代の都市生活者にとって、とても刺激的な体験だったのだ。
    新しいタイプのハーレー乗りは、こんなそのものズバリのあだ名で呼ばれた。Rich Urban Biker、略してRUB。
    僕は、これを変だとは思わない。人によってはアウトローのコスプレだという人も居るかもしれないけど、たまに花火大会の時に日本人が浴衣を着るようなもんで、普段と違う格好をして気分を変えてみたいっていう気持ちは変なものではないはずだ。

    ハーレーは、巧みな攻めと守りで現代の成功を手に入れた。
    バイク乗り全体の中ではあくまで少数派であり、”ワンパーセンター”という自他ともに認めるあだ名も有ったモーターサイクル・ギャングの文化を良き市民に売るという奇襲の一手。
    時代の趨勢にあわせて製品を変えなかったこと、同業他社が全滅する中で上手に立ち回り、とにかく企業そのものを存続させた粘り強い守り。

    ハーレーにまたがるバイク乗りにとって、バイクはその全てでは無いのだ。
    バイクに乗って走るという単純な行為だけでは完結しない。独特の文化を受け継ぐハーレー乗りであること。そこに意味があるのだ。
    僕はもう、酷暑のサービスエリアで汗を流しながらキックスタートで始動させるハーレー乗りを不思議に思わない。
    彼はハーレーという文化を楽しんでいるのだ。

    訳者は「女王陛下のユリシーズ号」の人。ちょっと特徴のある文体の翻訳です。

    図書館蔵書

  • なぜ人がハーレーに惹かれるのかよくわかる。こういう無骨でまっすぐなカッコよさも大切。

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